82 / 84
通常版
第21話 それぞれの明日へ ③エピローグ~シレーネとメモリー~
しおりを挟むエピローグ 未来のシナリオ 3
丘の上から見える海は、蒼く穏やかに広がっていた。
氷の道も、氷山も、もうどこにもない。
波の音は優しく、まるで世界が深呼吸しているようだった。
「マリーナ!」 「シレーネ!!」
海岸から聞こえる二つの声。
姿を現したのは、マリーナの父と、シレーネの幼馴染み・ボルガン。
驚きと喜びが入り混じった声を上げ、二人の少女はそれぞれの大切な人のもとへ駆けていく。
アモール、サラサ、メモリーは、遠慮がちにその後を追うだけだった。
マリーナは父の胸に飛び込み、涙と笑顔を交えながら再会を喜ぶ。
海賊退治の賞金で、母の夢だった酒場を開くという父の言葉に、マリーナは驚きながらも、嬉しそうに頷いた。
「てめぇの親父様を見縊るんじゃねぇ」
照れ隠しのグリグリ攻撃に、マリーナは痛がりながらも笑っていた。
少し離れた場所では、シレーネがボルガンにしがみついて泣いていた。
アモールに泣きついたときとは違う、心から許せる人への涙。
ボルガンは黙って仁王立ちのまま、シレーネを受け止めていた。
「もう、いい加減に泣きやめよ。涙の中で溺れる気か?」
十分ほど経ってから、ようやく声をかける。
「・・・ごめん。もう泣かないから・・・あたしってば悪い子だね」
袖で涙を拭きながら、幼い頃のような笑顔を見せるシレーネ。
「鎖にでも繋いで、側に置いておかないといけないな。危なっかしすぎるんだから、おまえは・・・」
「・・・大丈夫よ。もう離れたりしないから。ずっと・・・」
「ずっと・・・?」
「えぇ。ず~っと、よ」
「じ、じゃあ・・・けっ、結婚してくれるのか?」
真っ赤になって問いかけるボルガンに、シレーネは無言で頷いた。
朝焼けの光の中、二人のシルエットが重なり合う。
「見せつけてくれるよな・・・俺も独身主義返上して、彼女でもつくろうかな」
アモールがポツリとつぶやく。
「じゃあ、わたしが立候補!!」
メモリーが手を上げて宣言する。
「・・・本気にするぞ」
「してくれていいわよ。だって、わたし他に行くとこないんだもの」
その瞳は、珍しく真剣だった。
「なるほどな・・・マリーナ、こいつを下働きとしてでも使ってやってくれ」
「それはかまわないけど・・・」
「良かった。じゃ、こいつ預けるから、こきつかってやってくれ。メモリーもいいな?」
「え~? なんで? 一緒に暮らしてくれないの?」
「バカ、勘違いするな。今の俺には家も財産もない。だから、それまで待ってろって言うんだよ。いつか、迎えに行くから」
「ほんとう?」
「ああ。だけど、俺って奴はタコみたいなもんで、一度あがっちまうとなかなか下りれない。だから、糸の端はしっかり持っててくれよ。どんなに長くなってもさ」
「はい」
シレーネとボルガンは村に戻ったらすぐに式を挙げ、マリーナに対抗して宿屋を始める予定だという。
あの様子だと、かかあ天下になるな——それが一同の共通見解だった。
彼らはマリーナの父の船に乗り、最後の航海へと出た。
新たな街での暮らしを目指して。
カリスの港に寄港したとき、街は数千人の人々で埋め尽くされていた。
天候の急激な変化で、世界が変わったことが明白だったからだ。
北の大陸から熱い雪雲が晴れ、日差しの下で白く輝いている。
人々は、新しい時代の幕開けを祝おうとしていた。
その中には、シレーネの村の長老や村人たちの姿もあり、シレーネとボルガンはあっという間に人の波に呑み込まれていった。
その様子を、アモール、サラサ、メモリー、マリーナは 港を離れる船の上から静かに見つめていた。
メモリーは、風に髪をなびかせながら自分に向けて呟いた。
『記憶は過去にある。でも、わたしは未来を待ってる』
神話の時代を、唯一身に宿す。
本来存在しない『人間』の、それは灯だった。
騒ぎに巻き込まれたくなかったというのもあるが、彼らには、勇者と呼ばれるべきはシレーネだけだと思えた。
彼女がいなければ、誰も冒険に加わることなく、すべてが終わっていたに違いない。
いつか必ず、逢いに来ることを心に誓って——アモールたちは、カリスの港町を後にした。
さよならの一言さえ、告げることなく。
「行っちまったな。ほんとに良かったのか? さよならも言わないまま別れて」
群衆を抜け、街を出たボルガンとシレーネは、海辺に立って水平線に沈む夕陽を見つめていた。
「いいの。あの人は風だったのよ。あたしの中を通り過ぎていくだけの。だから、さよならは言わない。季節が巡れば、いつかまた逢えるでしょうから」
「風・・・か?」
「そうよ。だって、彼の名はアモール。風と恋の神」
——そう、ある神話では、恋の神をアモールと呼ぶのだ。
0
あなたにおすすめの小説
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
あなたのためなら
天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。
その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。
アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。
しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。
理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。
全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる