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(R18)ファタール用改稿版
第23話 遺跡
しおりを挟む「・・・女はいないんだね」
意外にも冷静だったのは、マルコだった。
幼い頃から、北の大陸へ渡る冒険者を見送り、その多くが帰ってこないことを知っていた。
この旅に対する覚悟は、三人の中で一番できていたのだ。
「こんなところに突っ立ってたら、あたいらまで氷づけになっちゃうよ。先に進もう」
声は明るかった。
でも、握りしめた拳は、わずかに震えていた。
その声がなければ、三人は本当に凍りついていたかもしれない。
アモールとシレーネは、光に吸い寄せられる虫のように、マルコの声に導かれて歩き出す。
螺旋の坂を上り切ったとき——彼らの目に飛び込んできたのは、床一面に散らばる武器の残骸だった。
剣、杖、戦斧——どれも、砕けたように壊れていた。
折れた、ではない。
まるで、何かに叩き潰されたような壊れ方だった。
「・・・なんなの? これ」
シレーネが、足元に注意しながら問いかける。
その答えは、すぐに見つかった。
彼らの行く手を遮るもの——厚さ三メートルにも及ぶ、半透明の氷の壁。
その向こうには、ぼんやりと石造りの街が見えていた。
まるで時が止まった――凍り付いたかのような静けさが漂っている。
「これが・・・母さんの言ってた遺跡だ。やっぱり、母さんは正しかったんだ!」
マルコの声が、氷の壁に吸い込まれるように響いた。
その静けさは、まるで街そのものが、彼女の言葉に耳を傾けているかのようだった。
壁の中心部には、比較的薄い部分があり、そこが一メートルほど削り取られていた。
床に散らばる武器の残骸は、ここまでたどり着いた冒険者たちが、壁の向こうへ行こうとして果たせなかった証だった。
「・・・さてと。じゃあ、事前情報の恩恵にあずかるとしようか。マルコ、ツルハシ」
アモールが手を差し出す。
三人の目の前には、氷の壁。
その向こうには、誰も踏み入れたことのない遺跡が、静かに待っていた。
四十分後。
氷の壁には人が出入りするには十分すぎるほどの穴が開いていた。
厚さ一メートルとはいえ、所詮は氷。
岩盤を砕くために作られたツルハシの前では、時間の問題だった。
壁の内側は、意外にも清浄な空気に満ちていた。
数千年もの間、閉ざされていたはずなのに、淀みは感じられない。
だが、廃墟であることは間違いなかった。
建物は崩れ、倒れ、まともな形を保っているのは、街の反対側に寄り添うように立つ石造りの塔だけだった。
「迷うまでもないな。サクサク行こう」
三人は、瓦礫の街を横切り、塔の前に立つ。
扉はすでに朽ち果て、原形を留めていなかった。
「マルコ、シレーネでもいい。何か布切れ、持ってないか? このままじゃ、埃で息が詰まりそうだ」
塔の中に足を踏み入れたアモールが、顔だけ振り返って言う。
足元には、数センチの埃が積もっていた。
「包帯ならあるけど・・・口を覆うようなものはないなぁ」
マルコが申し訳なさそうに首を振る。
「ハンカチなら二枚あるわ。大きめだからマスク代わりになるはず」
シレーネが一枚をアモールに渡し、自分も口元を覆う。
マルコはマフラーで代用した。
準備が整い、三人は塔の中へと進む。
舞い上がる埃に目を細めながら、まっすぐ奥へと進んでいく。
中は広い空間だった。
奥には、上階へと続く崩れかけた階段がある。
他に道はなさそうだった。
三人は、慎重に階段を上っていく。
氷原の寒気は届かず、代わりに湿ったカビ臭い空気が漂っていた。
その中に、微かな異臭が混じる。
——何かがいる。
生きているとは言い難い。
けれど、確かに『何か』が、この空間に存在していた。
階段を上りきると、そこは一つの部屋だった。
光源は不明だが、部屋全体がうっすらと光っている。
そして——その光に照らされていたのは、氷原で戦ったあの怪物だった。
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