風のアモール ~祈りの巫女と二人の男~

葉月奈津・男

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(R18)ファタール用改稿版

第29話 すれ違い

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 シレーネがくぐった扉とは反対側——左の扉から部屋を出たアモールは、石造りの通路をひたすら歩き続けていた。

 通路はまっすぐに伸び、先がまったく見えない。

「・・・行き止まりだったら、笑えねぇな」

 そんな不安も、すぐに杞憂に終わった。
 三十分ほど歩いたところで、通路は右へと緩やかにカーブし始めたのだ。

 さらに二十分後、右手に短い通路と上へ続く階段が現れる。

 どうやら、あの部屋は左右どちらに進んでも、最終的には同じ場所にたどり着く構造だったらしい。

「チッ・・・それなら、シレーネに『動くな』なんて言わなきゃよかったな」

 悔やんでも仕方がない。
 アモールは再び歩き出す。
 あと五十分も歩けば、シレーネのもとに戻れる——

 そう思った矢先だった。

 五分も経たないうちに、彼女と『再会』することになる。
 最悪の形で。

 シレーネは、二体の怪物と一緒だった。

 それは、巨大なミミズのような化け物。
 青黒い体躯、長さは五十メートル、胴回りは三メートル。
 どう見ても、自然に生まれた生物ではない。

 一体がシレーネを背に乗せ、もう一体が前に出て、まるで護衛のように進んでいた。

 アモールが剣を抜こうとした、その瞬間——前にいたミミズが突進し、彼を高々と跳ね飛ばした。

 激しい衝撃が全身を貫く。

 宙を舞いながらも、アモールの視線はシレーネを捉えていた。

 青ざめた顔。
 一瞬、死を覚悟する。

 だが—— 彼女の胸が、かすかに上下しているのが見えた。

 その瞳が、ほんの一瞬だけ彼を見た気がした。
 助けを求めるでもなく、ただ、何かを託すように。

 生きている。

 なら、やるべきことは一つ。
 目の前の怪物を斬り倒し、彼女を取り戻すだけだ。

 空中で剣を抜き、着地の勢いをそのままに振り向きざま斬り払う。
 刃が、怪物の肉に食い込んだ。

 だが、それはシレーネを乗せた個体ではなかった。

 彼女を乗せたミミズは、アモールを無視して突き進み、すでに姿を消していた。

「シレーネっ・・・! クソッ!!」

 追っても無駄だと、狩人の本能が告げていた。
 怒りがこみ上げる。
 彼女を奪った怪物に、そして——目の前で何もできなかった自分自身に。

 その怒りは、残ったもう一体のミミズへと向けられた。


  ◇

 数分後——そこにあったのは、巨大な肉の塊だけだった。

「・・・こんなんじゃ、気晴らしにもならねぇ」

 苛立ちを抑えきれず、アモールは剣を肉塊に突き立てた。

 カチンッ!

「・・・ん?」

 金属同士がぶつかる、硬質な音。

 肉をかき分けていくと、中から現れたのは——銀細工の装身具の破片だった。

 腕輪、首飾り、宝石。
 どれも腐食し、色褪せ、歪んでいた。

 だが——

 ひとつだけ、異彩を放つものがあった。

 細く緻密な鎖に、大きな碧色の宝石がついた額冠。
 それだけは、まるで新品のように輝いていた。

 アモールの視線が、宝石に吸い寄せられる。

 深く、澄んだ空のような青。
 見つめていると、空の彼方へと吸い込まれていくような感覚に陥る。

 そして——その宝石の奥に、ぼんやりと『何か』が映り始めた。
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