風のアモール ~祈りの巫女と二人の男~

葉月奈津・男

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(R18)ファタール用改稿版

第35話 接触する体

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「……体の熱が……暴れて……」

 かすれた声。
 額には汗が滲み、呼吸は乱れ、
 胸の奥で何かが暴走しているのがわかる。

(このままじゃ、意識が壊れる)

 アモールは迷わなかった。
 彼女の両肩を掴み、ぐっと抱き寄せる。

「落ち着け……俺ので。耐えろ」

 彼の胸元に押しつけられた彼女の身体が、びくりと震えた。
 アモールの体温は高い。
 その熱が、彼女の暴走する『記憶の熱』を焼き尽くし、ゆっくりと均していく。
 激しい熱を、アモールの激しさが鎮めていく。

「……あ……あぁ……」

 彼女の呼吸が、少しずつ整っていく。
 アモールは片手を彼女の背に当て、もう片方の手で彼女の額をそっと押さえた。

「戻ってこい。『記憶』。お前がいなきゃ、シレーネを助けられない」
 その言葉が届いたのか、彼女の瞳に、ようやく焦点が戻り始めた。

「…………わたし……戻れ……ます……」
 胸元で、弱々しい声が震えた。
 アモールは強く頷く。

「戻れ。お前の役目を果たせ」
 その瞬間、彼女の身体から暴れていた熱がすっと引き、静かな光が彼女の瞳に宿った。
 《記憶》が——覚醒した。

「……ありがとう。あなたの言葉と熱が、私を引き戻してくれました」
 彼女は静かに微笑み、力が抜けたように床へ座り込んだ。
 その手には、小さな緑色の宝珠が握られている。

「これが……《記憶》の意識か」
 アモールは宝珠を受け取り、懐へしまった。
 スラインローゼ覚醒の第二段階。
 確かに完了したはずだった。
 だが、目の前の女性の苦しみは終わっていない。

「……」
 彼女の瞳は虚空をさまよい、微かに震えていた。

 苦痛とも陶酔ともつかない表情。
 まるで、誰かの記憶と感情が流れ込んでいるようだった。

 指先が、無意識にアモールの腕を探る。
 助けを求めるようでもあり、
 自分の存在を確かめるようでもある。

(……女神としての記憶と、人としての本能がぶつかっている)

 アモールはそう直感した。
 女神の記憶には対処できない。
 だが、人としての不安や混乱なら、彼にはわずかでも経験がある。
 アモールは彼女の肩に手を添え、
 呼吸を合わせるようにゆっくりと声をかけた。

「大丈夫だ。ここにいる。戻ってこい」
 その声に反応するように、
 彼女を包んでいた緑の光が揺らぎ、やがて下腹部へと集まり始める。
 空気が震えた。

 遠くで誰かが息を呑んだような気配。
 光は一点に凝縮し、ひときわ強く輝いたかと思うと宝珠の形をとり、彼女の足元に転がった。
 室内は静まり返り、彼女の荒い呼吸だけが響いていた。
 アモールはそっと彼女の背に手を添え、彼女のそばに静かに座った。

「……ごめんなさい。全部覚えてます。私が……誘ったんです」
「いや、俺も……あんたが普通じゃないってわかってて、止めなかった。謝る必要なんてないさ」
 気まずい空気が、二人の間に流れる。
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