風のアモール ~祈りの巫女と二人の男~

葉月奈津・男

文字の大きさ
35 / 84
(R18)ファタール用改稿版

第35話 接触する体

しおりを挟む
 

「……体の熱が……暴れて……」

 かすれた声。
 額には汗が滲み、呼吸は乱れ、
 胸の奥で何かが暴走しているのがわかる。

(このままじゃ、意識が壊れる)

 アモールは迷わなかった。
 彼女の両肩を掴み、ぐっと抱き寄せる。

「落ち着け……俺ので。耐えろ」

 彼の胸元に押しつけられた彼女の身体が、びくりと震えた。
 アモールの体温は高い。
 その熱が、彼女の暴走する『記憶の熱』を焼き尽くし、ゆっくりと均していく。
 激しい熱を、アモールの激しさが鎮めていく。

「……あ……あぁ……」

 彼女の呼吸が、少しずつ整っていく。
 アモールは片手を彼女の背に当て、もう片方の手で彼女の額をそっと押さえた。

「戻ってこい。『記憶』。お前がいなきゃ、シレーネを助けられない」
 その言葉が届いたのか、彼女の瞳に、ようやく焦点が戻り始めた。

「…………わたし……戻れ……ます……」
 胸元で、弱々しい声が震えた。
 アモールは強く頷く。

「戻れ。お前の役目を果たせ」
 その瞬間、彼女の身体から暴れていた熱がすっと引き、静かな光が彼女の瞳に宿った。
 《記憶》が——覚醒した。

「……ありがとう。あなたの言葉と熱が、私を引き戻してくれました」
 彼女は静かに微笑み、力が抜けたように床へ座り込んだ。
 その手には、小さな緑色の宝珠が握られている。

「これが……《記憶》の意識か」
 アモールは宝珠を受け取り、懐へしまった。
 スラインローゼ覚醒の第二段階。
 確かに完了したはずだった。
 だが、目の前の女性の苦しみは終わっていない。

「……」
 彼女の瞳は虚空をさまよい、微かに震えていた。

 苦痛とも陶酔ともつかない表情。
 まるで、誰かの記憶と感情が流れ込んでいるようだった。

 指先が、無意識にアモールの腕を探る。
 助けを求めるようでもあり、
 自分の存在を確かめるようでもある。

(……女神としての記憶と、人としての本能がぶつかっている)

 アモールはそう直感した。
 女神の記憶には対処できない。
 だが、人としての不安や混乱なら、彼にはわずかでも経験がある。
 アモールは彼女の肩に手を添え、
 呼吸を合わせるようにゆっくりと声をかけた。

「大丈夫だ。ここにいる。戻ってこい」
 その声に反応するように、
 彼女を包んでいた緑の光が揺らぎ、やがて下腹部へと集まり始める。
 空気が震えた。

 遠くで誰かが息を呑んだような気配。
 光は一点に凝縮し、ひときわ強く輝いたかと思うと宝珠の形をとり、彼女の足元に転がった。
 室内は静まり返り、彼女の荒い呼吸だけが響いていた。
 アモールはそっと彼女の背に手を添え、彼女のそばに静かに座った。

「……ごめんなさい。全部覚えてます。私が……誘ったんです」
「いや、俺も……あんたが普通じゃないってわかってて、止めなかった。謝る必要なんてないさ」
 気まずい空気が、二人の間に流れる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

哲子67歳★恋して焦げて乱れ咲き♪

obbligato
恋愛
67歳、二次元大好き独身女子のぶっとんだ恋愛劇。 ※哲子は至って真面目に恋愛しています。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

あなたのためなら

天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。 その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。 アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。 しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。 理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。 全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

そんな彼女の望みは一つ

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢がそのまま攻略対象である許嫁と結婚させられたら?ってお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...