36 / 84
(R18)ファタール用改稿版
第36話 記憶の残り
しおりを挟む「……あっ、そういえば、スラインローゼの《記憶》が……」
話題を変えるように、アモールは宝珠へ視線を向けた。
「魔獣は、私の人格と一緒に女神の《記憶》まで破壊しようとしていたんです。
そのために、私の意識の外側を壊して、囚われていた少女たちの感覚を流れ込ませた。
その結果として……私の中で、女神としての記憶と、人間としての本能が分離してしまったのです」
彼女はそう言いながら、まだ火照りの残る身体をアモールに寄せた。
その瞳には、どこか寂しげな光が宿っている。
「……今の私は、女神の《記憶》から分かれた“残り”なんです。肉体の記憶、未練……そういうものが形になって残ってしまった」
でも、残り物にも意味がある。
誰かに触れて、誰かを導くくらいのことはできるはずだから。
視線が、アモールに絡みつくように向けられた。
「……そうか。じゃあ、君の名前は?」
「メモリーって呼んで。……記憶の残りだから」
「メモリー……悪いけど、俺、急いでるんだ。シレーネを助けなきゃならない。案内してくれるって言ってたよな?」
「うん、隠し通路があるの。私が案内する。……た・だ・し」
語尾にスタッカートが入った瞬間、アモールは嫌な予感を覚えた。
「キスして。……まだしてくれてないでしょ?」
「……」
複雑な思いが込み上げる。
だが、彼女の瞳は真摯で、どこか切ない。
アモールは静かに彼女の手を取り——そっと唇を重ねた。
それは、感謝と祈りのようなキスだった。
唇が触れた瞬間、時間が止まったようだった。
風も、光も、すべてが静かに見守っている。
メモリーは目を閉じたまま、微かに笑った。
その笑みは、過去の痛みをそっと手放すようだった。
誰かに触れて、ようやく自分を許せたのかもしれない。
意識が完全に戻るまで、アモールは支え続けた。
「・・・これでいいかい?」
「うん、ありがと」
メモリーは微笑みながら立ち上がり、手には女神スラインローゼの《記憶》の宝珠を握っていた。
「しっかり案内してくれよ。これで道に迷ったりしたら・・・生殺しにするからな」
さっきまでの神秘的な雰囲気はどこへやら、町娘のような軽い口調になったメモリーに、アモールは少し戸惑いながらも、そっと外套を彼女の肩にかけてやる。
「わかってるって、こっちよ!」
妙に明るい返事に、一抹の不安を覚えながら、アモールは後に続いた。
——そして、その不安は数分で現実になる。
「あ、あれ? あんまり使ったことない通路だから・・・」
「だから?」
「迷っちゃったみたい、あはははは」
仏頂面で睨むアモールの視線を、笑ってごまかすメモリー。
「あのな、『あはははは』じゃないだろ。なんとかしろよ」
「しょうがないでしょ。今の私は女神の《記憶》とは別物なんだから、曖昧にもなるわよ」
「・・・他の場所を探したほうがいいんじゃないのか?」
はじめから期待していなかっただけに、アモールの諦めは早かった。
「う~ん。でも、なんか変なのよ。この辺りに来ると、記憶がぼやけるの。まるで、そこだけ抜け落ちてるっていうか・・・隠されてるっていうか」
まるで、誰かが意図的に記憶の一部を塗りつぶしたような、そんな感覚だった。
0
あなたにおすすめの小説
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
あなたのためなら
天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。
その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。
アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。
しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。
理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。
全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる