風のアモール ~祈りの巫女と二人の男~

葉月奈津・男

文字の大きさ
37 / 84
(R18)ファタール用改稿版

第37話 蘇る神話

しおりを挟む
 

『隠されている』——それはつまり、女神スラインローゼ自身が、何かを封じている可能性がある。

 それが男神ゼナの暴走と関係しているなら、その暴走を止めると誓ったアモールが、避けて通るわけにはいかなかった。

 たとえ、それが女神の心の奥に踏み込むことになったとしても——

「あっ、ここだわ! この壁が開くのよ!」

 メモリーが指さしたのは、周囲と何も変わらない石壁だった。

「・・・本当だろうな?」

 露骨に疑いの目を向けるアモールの前で、メモリーは壁の一部を押し込む。

 すると、離れた場所の石がせり出してくる。
 しかも、一つではなく、幅一メートルほどにわたって次々と。

 その動きが止まったとき——そこには、奥へと続く隠し通路が現れていた。

「・・・やるじゃないか」

 アモールは小さく息を吐き、剣の柄に手を添えながら、通路の奥を見つめた。

 その先に、何が待っているのか——まだ誰にも、わからなかった。



「スラインローゼの《記憶》。私が覚えてる限りでは、この先に部屋があって・・・その天井に、上へ続く抜け穴があるはずよ」

 人ひとり通るのがやっとの細道を先導しながら、メモリーがそう言った。
 今度ばかりは彼女の言葉に偽りはなく、通路の先には重厚な石の扉と、奥行きのある部屋があった。

 アモールが扉を開け、中を見渡す。
 特に変わった様子のない、静かな石の部屋——

 だが、メモリーが一歩足を踏み入れた瞬間、空気が一変した。

 彼女の手に握られていた《記憶》の宝珠が光を放ち、それに呼応するように、室内の空気が揺らぎ始める。

 そして——空間に、ぼんやりとした映像が浮かび上がった。

     
 それは、一組の男女の姿。
 そのうちの女性は、まさにスラインローゼの『理性』と同じ姿だった。

「・・・やっぱり、ここで何かあったんだ。それも、ゼナの暴走に関わる、重要な何かが」

 アモールは、目の前の現象を自分なりに解釈しようとする。
 だが、理解する必要はなかった。

 なぜなら、女神の《記憶》は、言葉よりも確かに、『その時』を再現してみせたのだから。

 空間が揺れ、視界が滲む。
 気づけば、彼らはその場に立ち会っているような錯覚に包まれていた。
 ——空気の温度さえ、変わった気がした。

 ◆

「スラインローゼ、おまえ、本気で人間のもとへ行くつもりか? 神族としての誇りを、忘れたのか?」

 最初に口を開いたのは男——おそらく、ゼナ。

「神族の誇りなど、何の役に立ちましょうか。

 その誇りのために、私たちは子を持つことすら許されない。
 このままでは、神族は緩やかな滅びの道を歩むだけです。

 命あるものが命を繋ぐのは、創造神が与えた権利であり、義務。
 それを実行しようとする私を、なぜ止めるのですか?」

「だが、その相手に人間を選ぶとは・・・神の血を汚すつもりか!」

 怒りをあらわにするゼナ。
 それに真っ直ぐ向き合うスラインローゼ。
 どちらも、一歩も引く気はなかった。

 長い沈黙のあと—— ゼナが背を向け、吐き捨てるように言った。

「・・・勝手にしろ。だが、この聖域を出たら最後、二度と戻れるとは思うな」

 その背中を、スラインローゼは唇を噛みしめながら見送る。

「・・・バカ」

 その呟きが、誰に向けられたものかはわからなかった。

 彼女は静かに両手を上げ、瞳を閉じる。
 額冠の宝珠が光を放ち、次の瞬間——その姿は、白い鳥へと変わった。

「ホーッ・・・!」

 高く澄んだ鳴き声とともに、光に包まれた鳥は空間から消えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

哲子67歳★恋して焦げて乱れ咲き♪

obbligato
恋愛
67歳、二次元大好き独身女子のぶっとんだ恋愛劇。 ※哲子は至って真面目に恋愛しています。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

あなたのためなら

天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。 その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。 アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。 しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。 理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。 全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

そんな彼女の望みは一つ

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢がそのまま攻略対象である許嫁と結婚させられたら?ってお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...