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(R18)ファタール用改稿版
第37話 蘇る神話
しおりを挟む『隠されている』——それはつまり、女神スラインローゼ自身が、何かを封じている可能性がある。
それが男神ゼナの暴走と関係しているなら、その暴走を止めると誓ったアモールが、避けて通るわけにはいかなかった。
たとえ、それが女神の心の奥に踏み込むことになったとしても——
「あっ、ここだわ! この壁が開くのよ!」
メモリーが指さしたのは、周囲と何も変わらない石壁だった。
「・・・本当だろうな?」
露骨に疑いの目を向けるアモールの前で、メモリーは壁の一部を押し込む。
すると、離れた場所の石がせり出してくる。
しかも、一つではなく、幅一メートルほどにわたって次々と。
その動きが止まったとき——そこには、奥へと続く隠し通路が現れていた。
「・・・やるじゃないか」
アモールは小さく息を吐き、剣の柄に手を添えながら、通路の奥を見つめた。
その先に、何が待っているのか——まだ誰にも、わからなかった。
「スラインローゼの《記憶》。私が覚えてる限りでは、この先に部屋があって・・・その天井に、上へ続く抜け穴があるはずよ」
人ひとり通るのがやっとの細道を先導しながら、メモリーがそう言った。
今度ばかりは彼女の言葉に偽りはなく、通路の先には重厚な石の扉と、奥行きのある部屋があった。
アモールが扉を開け、中を見渡す。
特に変わった様子のない、静かな石の部屋——
だが、メモリーが一歩足を踏み入れた瞬間、空気が一変した。
彼女の手に握られていた《記憶》の宝珠が光を放ち、それに呼応するように、室内の空気が揺らぎ始める。
そして——空間に、ぼんやりとした映像が浮かび上がった。
それは、一組の男女の姿。
そのうちの女性は、まさにスラインローゼの『理性』と同じ姿だった。
「・・・やっぱり、ここで何かあったんだ。それも、ゼナの暴走に関わる、重要な何かが」
アモールは、目の前の現象を自分なりに解釈しようとする。
だが、理解する必要はなかった。
なぜなら、女神の《記憶》は、言葉よりも確かに、『その時』を再現してみせたのだから。
空間が揺れ、視界が滲む。
気づけば、彼らはその場に立ち会っているような錯覚に包まれていた。
——空気の温度さえ、変わった気がした。
◆
「スラインローゼ、おまえ、本気で人間のもとへ行くつもりか? 神族としての誇りを、忘れたのか?」
最初に口を開いたのは男——おそらく、ゼナ。
「神族の誇りなど、何の役に立ちましょうか。
その誇りのために、私たちは子を持つことすら許されない。
このままでは、神族は緩やかな滅びの道を歩むだけです。
命あるものが命を繋ぐのは、創造神が与えた権利であり、義務。
それを実行しようとする私を、なぜ止めるのですか?」
「だが、その相手に人間を選ぶとは・・・神の血を汚すつもりか!」
怒りをあらわにするゼナ。
それに真っ直ぐ向き合うスラインローゼ。
どちらも、一歩も引く気はなかった。
長い沈黙のあと—— ゼナが背を向け、吐き捨てるように言った。
「・・・勝手にしろ。だが、この聖域を出たら最後、二度と戻れるとは思うな」
その背中を、スラインローゼは唇を噛みしめながら見送る。
「・・・バカ」
その呟きが、誰に向けられたものかはわからなかった。
彼女は静かに両手を上げ、瞳を閉じる。
額冠の宝珠が光を放ち、次の瞬間——その姿は、白い鳥へと変わった。
「ホーッ・・・!」
高く澄んだ鳴き声とともに、光に包まれた鳥は空間から消えた。
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