風のアモール ~祈りの巫女と二人の男~

葉月奈津・男

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(R18)ファタール用改稿版

第38話 分離する女神

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 数瞬の静寂——


「キャッ!」「あっ!」「うっ!」

 カランッ。

 室内に、三つの声と一つの音が響く。
 そこに現れたのは、三人の女性の姿と、一つの額冠。

 いや、正確には——三つの人格と、女神の記憶の核だった。

「ケケケケケッ・・・さすがは女神様。わたくしごときの魔力では、完全な封印は無理だったようですなぁ」

 しゃがれた声とともに、床から現れたのは一人の小柄な男。


「「「ダルトン!」」」

 三人の人格が、異口同音に叫ぶ。

『貴様、何をした!!』

 怒声の三重奏が、男に叩きつけられる。

「ククク・・・なぁに、大したことではありませんよ。わたくしの夢の実現のために、スラインローゼ様にもご協力いただこうと考えましてね。

 しばらく姿を消していただこうと、記憶の封印を試みたのです。

 ですが、さすがは神の一族。 わたくしの術では、完全な封印はできませんでした。

 肉体と精神を分離するのが、精一杯だったというわけです」

 楽しげに語るその顔には、冷たい光が宿っていた。

「ですが、ご安心ください。皆さんも、すぐに封印して差し上げますからね」

「・・・世迷いごとを!」
 三人の声が重なった瞬間、
 空気が震えた。
 まるで、この場の『真実』そのものが揺らいだように。

 先に動いたのは——《力》だった。

 他の人格が戸惑う中、怒りに満ちた魔力が一気にダルトンへと放たれる。
 精神体だからこそ、全身全霊を込めたその一撃は、空間を震わせるほどの威力だった。

「・・・すばらしい。すばらしい力ですよ。これが、もうすぐわたくしのものになる。わくわくしますね。フフフフフ・・・」

 ダルトンは、迫り来る魔力を見て笑った。
 それは、勝利を確信した者の顔だった。

 その笑みには、世界を壊してでも手に入れたい何かが、確かに宿っていた。

「ほい、これで一つ封じましたよ」

 懐から短い錫杖を取り出し、高々と掲げる。

 その瞬間——《力》の魔力は錫杖の宝玉へと吸い込まれ、続いて《力》そのものも、光の渦に飲み込まれてしまった。

「キャハハハハ! おバカさんですね。女神に喧嘩を売るのに、何の準備もせずに来るわけないでしょう? 

 策は重ねて弄するものなのです。

 さて、次はどちらを封じてあげましょうか?

「ヒッヒッヒッ」

 《力》を失った今、残るは《心》と《記憶》。
 だが、彼女たちに打つ手はなかった。

 その時——ズガッ! ガガガガ……!

 大地を揺るがす衝撃が、部屋全体に響き渡る。

「ヒョッヒョッヒョッ・・・順調です。

 完璧に、わたくしの思うがままに進んでおりますよ。

 ・・・あなた方も、この衝撃の意味を知りたいでしょう?

 見せて差し上げますよ、最期のはなむけにねぇ」

 ダルトンは水晶球を宙に放り投げる。
 球は空中で静止し、内部に映像が浮かび上がった。

『ゼナ!』

 《心》と《記憶》が叫ぶ。
 一目で、何が起ころうとしているのかを悟った。

 映し出されたゼナは、いつもの整った姿ではなかった。
 衣は裂け、全身から青白い炎が立ち上っている。

 それは魔法力——精神世界の力が、物質界の空気に触れて発光している状態だった。

 通常、魔法力が空気を電離させるほど強くなることはない。
 それは世界そのものを消滅させかねない、禁忌の領域。

 神族といえども、本能的に避けるはずの力。
 だが、ゼナは——その境界を越えていた。

 神であることを忘れた神——その姿は、畏怖ではなく、恐怖そのものだった。

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