風のアモール ~祈りの巫女と二人の男~

葉月奈津・男

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(R18)ファタール用改稿版

第39話 封印

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『そんな・・・ゼナともあろう者が、魔に憑かれるなんて・・・』

 魔に憑かれる——それは、密閉された空間、魔力増幅器、そして強い感情の爆発が重なったときに起こる現象。

 怒り、哀しみ、憎しみ——負の感情が魔気を引き寄せ、神族にさえ影響を与える。

『ダルトン・・・あなたほどの臆病者が、世界の破滅など望むはずがない。狙いは、ゼナの《力》ね!』

「ご名答。さて、事態をご理解いただけたようですし・・・そろそろ眠っていただきましょうか。永遠にね」

 ダルトンは両腕を《心》と《記憶》へ向けて突き出す。
 球状に凝縮された魔法力が飛び出し、二人を包み込む。

「・・・ダ、ダメ・・・ゼナ・・・止めなきゃ・・・ゼナを・・・!」

 苦痛に身悶えながら、《心》は呟く。
 その思いだけが、彼女のすべてだった。

 だが、女神の《力》を間接的に手にしたダルトンの魔力には抗えず、彼女の姿は徐々に希薄になっていく。

「あなた方には、別の《器》をご用意しております。わたくしの術が完成するまで、果てることのない悦楽の日々をお楽しみください」

 《心》は、離れた場所に用意された《器》へと吸い寄せられていく。
 意識が薄れていく中、ゼナを止めたいという思いだけが、異常に高まっていく。

 その思いは、極限状態で分離を起こし——《理性》と《感情》に分かれた。

 分離した《理性》は、ダルトンの力から逃れるため、そばにあった額冠へと乗り移った。

 そして——《記憶》の記憶は、そこで途切れた。
 胸の奥に残ったのは、焼きつくような後悔と、誰かを守れなかった痛みだけだった。

       ◇

 その痛みだけが、今を形作っている。
 そう思えるほどに、鮮やかな記憶だった。

「……」

 《記憶》の映像が消えたあと、部屋には長い沈黙が落ちた。
 アモールの中で組み立てかけていた希望の糸が、音もなく霧散していく。
 ゼナを正気に戻す方法も、シレーネを救う手段も、すべてが意味を失った。

「……これでいくと、俺はゼナだけじゃなく、ダルトンや女神スラインローゼまで相手にしなきゃなんねぇってことか」
 ゼナの暴走を誘発し、シレーネをさらったのはダルトン。

 ゼナを止めるには、女神スラインローゼの覚醒が必要。

 だが、その《力》はダルトンの手にある。

 つまり、ダルトンと戦うしかない。
 そして、彼が操る《力》も敵に回る。

 ただの狩人に過ぎないアモールには、
 あまりにも荷が重い話だった。
 しかも——

 ゼナの暴走が限界に達する前に、シレーネが《器》として完全に取り込まれる前に、すべてを終わらせなければならない。
 時間さえも、敵だった。

「奇跡でも起きない限り、勝ち目はねぇな……」
 部屋の空気が重くなり、音が消えた。

 希望の糸が、静かに切れた音がした気がした。
 ——それでも。

 胸の奥で、
 消えかけた火が、かすかに燻っていた。
 シレーネの名を思い浮かべた瞬間、その火は、わずかに形を取り戻す。

(……諦めるのは、まだ早ぇだろ)

 声にならない声が、
 アモールの内側で静かに響いた。

 弱気になったその瞬間——最も見たくなかった光景が、目の前に現れた。

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