39 / 65
(R18)ファタール用改稿版
第39話 封印
しおりを挟む『そんな・・・ゼナともあろう者が、魔に憑かれるなんて・・・』
魔に憑かれる——それは、密閉された空間、魔力増幅器、そして強い感情の爆発が重なったときに起こる現象。
怒り、哀しみ、憎しみ——負の感情が魔気を引き寄せ、神族にさえ影響を与える。
『ダルトン・・・あなたほどの臆病者が、世界の破滅など望むはずがない。狙いは、ゼナの《力》ね!』
「ご名答。さて、事態をご理解いただけたようですし・・・そろそろ眠っていただきましょうか。永遠にね」
ダルトンは両腕を《心》と《記憶》へ向けて突き出す。
球状に凝縮された魔法力が飛び出し、二人を包み込む。
「・・・ダ、ダメ・・・ゼナ・・・止めなきゃ・・・ゼナを・・・!」
苦痛に身悶えながら、《心》は呟く。
その思いだけが、彼女のすべてだった。
だが、女神の《力》を間接的に手にしたダルトンの魔力には抗えず、彼女の姿は徐々に希薄になっていく。
「あなた方には、別の《器》をご用意しております。わたくしの術が完成するまで、果てることのない悦楽の日々をお楽しみください」
《心》は、離れた場所に用意された《器》へと吸い寄せられていく。
意識が薄れていく中、ゼナを止めたいという思いだけが、異常に高まっていく。
その思いは、極限状態で分離を起こし——《理性》と《感情》に分かれた。
分離した《理性》は、ダルトンの力から逃れるため、そばにあった額冠へと乗り移った。
そして——《記憶》の記憶は、そこで途切れた。
胸の奥に残ったのは、焼きつくような後悔と、誰かを守れなかった痛みだけだった。
◇
その痛みだけが、今を形作っている。
そう思えるほどに、鮮やかな記憶だった。
「……」
《記憶》の映像が消えたあと、部屋には長い沈黙が落ちた。
アモールの中で組み立てかけていた希望の糸が、音もなく霧散していく。
ゼナを正気に戻す方法も、シレーネを救う手段も、すべてが意味を失った。
「……これでいくと、俺はゼナだけじゃなく、ダルトンや女神スラインローゼまで相手にしなきゃなんねぇってことか」
ゼナの暴走を誘発し、シレーネをさらったのはダルトン。
ゼナを止めるには、女神スラインローゼの覚醒が必要。
だが、その《力》はダルトンの手にある。
つまり、ダルトンと戦うしかない。
そして、彼が操る《力》も敵に回る。
ただの狩人に過ぎないアモールには、
あまりにも荷が重い話だった。
しかも——
ゼナの暴走が限界に達する前に、シレーネが《器》として完全に取り込まれる前に、すべてを終わらせなければならない。
時間さえも、敵だった。
「奇跡でも起きない限り、勝ち目はねぇな……」
部屋の空気が重くなり、音が消えた。
希望の糸が、静かに切れた音がした気がした。
——それでも。
胸の奥で、
消えかけた火が、かすかに燻っていた。
シレーネの名を思い浮かべた瞬間、その火は、わずかに形を取り戻す。
(……諦めるのは、まだ早ぇだろ)
声にならない声が、
アモールの内側で静かに響いた。
弱気になったその瞬間——最も見たくなかった光景が、目の前に現れた。
0
あなたにおすすめの小説
商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~
葉月奈津・男
恋愛
「あなたとの婚約、破棄させていただきます!」
王立学院の舞踏会。
全校生徒が見守る中、商家の三男カロスタークは、貴族令嬢セザールから一方的に婚約破棄を突きつけられる。
努力も誠意も、すべて「退屈だった」の一言で切り捨てられ、彼女は王子様気取りの子爵家の三男と新たな婚約を宣言する。
だが、カロスタークは折れなかった。
「商人の子せがれにだって、意地はあるんだ!」
怒りと屈辱を胸に、彼は商人としての才覚を武器に、静かなる反撃を開始する。
舞踏会の翌日、元婚約者の実家に突如として訪れる債権者たち。
差し押さえ、債権買収、そして“後ろ盾”の意味を思い知らせる逆襲劇が幕を開ける!
これは、貴族社会の常識を覆す、ひとりの青年の成り上がりの物語。
誇りを踏みにじられた男が、金と知恵で世界を変える――!
恋い焦がれて
さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。
最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。
必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。
だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。
そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。
さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。
※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です
※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません)
※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。
https://twitter.com/SATORYO_HOME
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
皇宮女官小蘭(シャオラン)は溺愛され過ぎて頭を抱えているようです!?
akechi
恋愛
建国して三百年の歴史がある陽蘭(ヤンラン)国。
今年16歳になる小蘭(シャオラン)はとある目的の為、皇宮の女官になる事を決めた。
家族に置き手紙を残して、いざ魑魅魍魎の世界へ足を踏み入れた。
だが、この小蘭という少女には信じられない秘密が隠されていた!?
〖完結〗終着駅のパッセージ
苺迷音
恋愛
分厚い眼鏡と、ひっつめた髪を毛糸帽で覆う女性・カレン。
彼女はとある想いを胸に北へ向かう蒸気機関車に乗っていた。
王都から離れてゆく車窓を眺めながら、カレンは振り返る。
夫と婚姻してから三年という長い時間。
その間に夫が帰宅したのは数えるほどだった。
※ご覧いただけましたらとても嬉しいです。よろしくお願いいたします。
私、これからいきます。
蓮ヶ崎 漣
恋愛
24歳のOL・栗山莉恵は、恋人に騙され、心も人生もどん底に突き落とされていた。
すべてを終わらせようとした夜、高層ビルの屋上で出会ったのは、不思議な青年・結城大虎。
「死んだら後悔する」
そう言って彼は、莉恵の手を強く掴んだ。
それが、止まっていた彼女の人生が再び動き出すきっかけだった。
年下の彼との出会いが、傷ついた心を少しずつ癒していく――
絶望の先で“生きる選択”と“恋”を見つける、大人の再生ラブストーリー。
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
マチ恋 ―君に捧げるLove song― 一夜の相手はスーパースター。誰にも言えない秘密の恋。【完結】
remo
恋愛
あなたにとっては遊びでも、私にとっては、…奇跡の夜だった。
地味で平凡で取り柄のない私に起きた一夜のキセキ。
水村ゆい、23歳、シングルマザー。
誰にも言えないけど、愛息子の父親は、
今人気絶頂バンドのボーカルなんです。
初めての恋。奇跡の恋。離れ離れの恋。不倫の恋。一途な恋。最後の恋。
待っている…
人生で、一度だけの恋。
【完結】ありがとうございました‼︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる