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(R18)ファタール用改稿版
第40話 操られる力
しおりを挟む「キーヒッヒッヒッ・・・奇跡など起こりはしませんよ」
黒づくめの小柄な男が、長いマントを引きずりながら現れる。
その傍らには、一人の少女が立っていた。
白磁のような肌、幼さを残した顔。
だが、瞳には光がなく、身体には力がなかった。
まるで糸の切れたマリオネット。
それが——女神スラインローゼの《感情》だった。
「・・・!! あれは、まさかっ!」
彼女の左手には、短い錫杖。
それは、ダルトンが《力》を封じた道具だった。
「貴様、何しに来た!!」
アモールの怒声を、ダルトンは軽く受け流す。
「ゼナの暴走は、もうすぐ限界。わたくしの魔術も、八割方完成しております。
つきましては、最終段階に入るまで、あなた方にはここで遊んでいただこうかと。
もちろん、この娘を殺していただいても構いませんよ。
ただし、女神スラインローゼの覚醒は不可能になりますがね。クックックッ」
含み笑いを残し、ダルトンは音もなく姿を消した。
「メモリー、下がってろ。邪魔だ」
ダルトンが消えた途端、少女の瞳に生気が戻る。
だが、その表情は——敵意に満ちていた。
アモールはメモリーを手で押し退けながら、剣を抜く。
「で、でも・・・殺してしまったら・・・」
「わかってる。だから離れてろ。俺は、誰かをかばいながら戦えるほど器用じゃねぇんだよ」
この時、アモールには何の策もなかった。
覚醒の方法も不明。
封印され、操られた《感情》をどうすればいいのか——
それでも、立ち止まるわけにはいかなかった。
アモールは剣を構えながら、目の前の少女を見据えた。
白い肌。
幼い顔立ち。
だが、その瞳に宿るのは——
純粋な敵意だけ。
(……これが、女神の《感情》かよ)
皮肉にも、
最も人間らしい部分が、
いま最も危険な存在になっている。
メモリーが震える声で言う。
「アモール……あの子は、悪くないの。封印されて、操られて……ただ、それだけで……」
「わかってるよ」
アモールは短く答えた。
だが、その声には迷いが滲んでいた。
(殺せば終わり。でも、殺したら……スラインローゼは覚醒しねぇ)
(じゃあ、どうすりゃいい)
答えはない。
時間もない。
ゼナの暴走も、シレーネの危機も、すべてが刻一刻と迫っている。
それでも——
アモールは一歩、前へ出た。
「……立ち止まってる暇なんて、ねぇんだよ」
その一歩は、絶望の底から踏み出した、
唯一の前進だった。
「ゼナ・・・暴走・・・止める・・・邪魔・・・奴・・・殺す」
娘が途切れ途切れに呟く。
どうやら、彼女の思考は封印される直前で止まってしまっているようだった。
「殺す!!」
叫びと同時に、娘は錫杖を振り下ろす。
その動きは鈍く、格闘の心得があるとは思えない。
だが——
「クッ!」
赤い炎のような魔力が錫杖から放たれ、アモールの肩口を切り裂いた。
紙一重でかわしたつもりだったが、炎は物をすり抜け、肉体だけを傷つける。
服は無傷。
だが、内側から染み出す血が、傷の深さを物語っていた。
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