風のアモール ~祈りの巫女と二人の男~

葉月奈津・男

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(R18)ファタール用改稿版

第41話 交叉する想い

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「こいつぁ・・・ちーとヤバイかな?」

 ヤバイどころではなかった。
 この魔力は剣で受けることができない。
 完全に足さばきだけで避け続けるしかない。

 それは、肉体にも精神にも、極限の負担を強いる戦い方だった。

「……こりゃ、駄目かな……」
 視界が揺れる。
 肩から流れる血が、足元にぽたぽたと落ちていく。

 熱いのに、どこか遠い。
 痛みが現実感を失い始めていた。
 娘は錫杖を構え直し、感情の欠片もない瞳でこちらを見ている。

(……殺す。それしか考えてねぇ顔だ)

 封印される直前の思考が、そのまま固定されてしまったのだろう。
 ゼナを止めるために、邪魔を排除する——
 その一点だけが、彼女のすべてになっている。

「……ったく、どいつもこいつも……」
 アモールは苦笑した。
 笑う余裕なんてないのに、
 笑わずにはいられなかった。

(俺が倒れたら、誰が守る?)

 胸の奥に、ひとりの少女の顔が浮かぶ。
 泣きそうな顔で、それでも必死に立っていた少女。
 逃げながらも、助けを求めるでもなく、ただ『生きよう』としていた少女。

 ——シレーネ。

(あいつが……待ってるんだよ)

 足が勝手に前へ出た。
 身体は悲鳴を上げているのに、
 心だけが、まだ折れていなかった。

「……まだだ。倒れるのは、全部終わってからだ」
 アモールは剣を握り直し、血で滑る柄を強く握りしめた。

 娘の瞳が、赤く揺らめく。
 次の瞬間、錫杖が再び振り下ろされる——。

 ◇シレーネ視点◇

『シレーネ・・・シレーネ。起きなさい、シレーネ』

 頭の中に、聞き覚えのある声が響く。

「ん・・・う~ん・・・」

 心地よい眠りを妨げられ、不機嫌そうに目を開けるシレーネ。
 腕を伸ばそうとしたが——肩より上に上がらない。

 ガシャッ、ガシャッ。

 重い金属音と、異様な感覚。
 寝ぼけ眼で腕を見たシレーネは、思わず叫んだ。

「なによ! これ!!」

 腕には、重そうな手枷。
 鎖は石の台に埋め込まれていて、ちょっとやそっとでは外れそうにない。

 鎖の長さは二十センチほど。
 窮屈すぎず、自由すぎず——精神を逆撫でする絶妙な制限。

「なんで、こんな・・・」

『ことに?』と続けようとして、言葉が止まる。
 気を失う前の記憶が、よみがえってきた。

 アモールやマルコと引き離され、巨大な青いミミズに襲われたこと——
 ボルガンとの再会は、意識的に無視をした。

「・・・アモール」

 彼と再会したのも、気を失って目覚めたときだった。
 その記憶が、逆に目を覚まさせてくれた。

 一分も経たずに、シレーネは冷静さを取り戻していた。

「ここ・・・どこなのかしら?」

 辺りを見渡す。
 そして——見覚えのある人物の姿が目に入った。

 それは、彼女がこの地へ渡るきっかけをくれた女性。
『北へ』と告げた、あの声の主。

「・・・!!」

 声をかけようとした瞬間、シレーネは絶句する。



「・・・氷の柩」

 思わず、そんな言葉が口をついて出た。

 まるで死者の美しさを永遠に閉じ込めたような、透明な氷の中の女性。
 だが、シレーネは首を振る。
 この人は死んでなんかいない。
 そう信じたかった。

 ——だって、さっき確かに《声》が聞こえた。

『シレーネ・・・』

 再び、頭の中に響く声。
 凍ったままの女性の表情は変わらない。
 それでも、声は確かに届いていた。

 不思議と、シレーネはその声を自然に受け入れていた。
 まるで、ずっと前から知っていたような感覚で。

『シレーネ、我が娘よ』

「・・・え?」

 意味はわかっていた。
 でも、すぐには受け止めきれなかった。

『戸惑っているようですね。無理もありません。あなたが物心つく前に姿を消した母が、こんな姿で現れるなんて・・・でも、信じて。あなたを捨てたわけではないのです』

 氷の中にいるはずなのに、彼女の声には温もりがあった。
 胸の奥が、じんわりと熱くなる。

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