風のアモール ~祈りの巫女と二人の男~

葉月奈津・男

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(R18)ファタール用改稿版

第43話 それは『嫉妬』

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 どうしても、アモールと『女』たちの距離が引っ掛かった。
 シレーネの胸の奥が、じん、と熱くなった。

(……あの人……誰? アモールと……どうしてあんな近くに……)

 理由なんてわからない。
 ただ、胸の奥が痛い。
 息が少しだけ苦しい。

「……アモール……」
 名前を呼んだ瞬間、胸の奥の『火』が、かすかに揺らめいた。

(……あたし……何を……)

 わからない。
 だけど、わかることもある。

 自分でい続けること——それは、この胸の奥で燃える『火』を消さないこと。
 強くて、熱くて、理由なんてわからないのに、どうしようもなく疼くこの感情。

(……なんで、こんなに……苦しいの)

 アモールの姿を思い浮かべるたび、胸の奥の火が、またひとつ跳ね上がる。
 それが『嫉妬』という名前の感情だなんて、シレーネはまだ知らない。
 ただ、その火を灯し続けることこそが、自分であり続けるということだと、心のどこかで理解していた。

 アモールと出会ってからの、胸の奥で揺れ続けていた『火』を、シレーネはひとつひとつ拾い上げるように思い返した。

 山小屋で、距離が近すぎて息が苦しくなったあの瞬間。

 甘いなんて言葉じゃ足りない、触れた途端に全身が熱くなった口づけ。

 港町で、越えそうで越えられなかった壁。

 踏み出せずに震えていた足。
 それでも、離れたくなかった気持ち。

 全部、全部、胸の奥に押し込んでいたはずなのに——
 思い出すたび、火が、揺れた。

(……なんで、こんなに……)

 理由なんてわからない。
 ただ、アモールの姿を思い浮かべるだけで、胸の奥が熱くて、苦しくて、
 どうしようもなく疼いた。

 それは、恐怖でも怒りでもない。
 もっと違う、もっと強い——『自分でありたい』という願いそのもの。

「……アモール」

 名前を呼んだ瞬間、胸の奥の火が、まるで息を吹き返したように燃え上がった。
 火を吐くような熱。
 それは、誰かのために燃える火じゃない。

『アモールを想う自分』を守るための火。
 シレーネは気づかない。

 これが嫉妬だなんて。
 これが恋だなんて。

 ただ、この火だけは消したくなかった。
 自分であり続けるために。
 アモールの名を呼ぶたび、その火は強く、強く、燃え上がった。

 胸の奥で揺れていた火が、アモールの名を思い浮かべた瞬間、一気に跳ね上がった。

(……アモール……)

 思い出す。
 山小屋での距離。
 触れた瞬間に全身が熱くなった口づけ。

 港町で、越えられなかった壁の前で震えていた自分。
 それでも、離れたくなかった気持ち。

 全部、胸の奥に押し込んでいたはずなのに——思い返すたび、火が強く、強く揺れた。

(……アモールは……)

 胸の奥が、焼けるように熱くなる。

(……アモールは……“私の”……)

 その瞬間だった。

 ——バチンッ!!

 鎖が赤熱し、金属が悲鳴を上げるように軋んだ。

「なっ……!?」
 ダルトンが目を見開く。
 シレーネの身体から、見たこともない光が溢れ出していた。

 炎ではない。
 光でもない。
 そのどちらでもあり、どちらでもない——『心の火』そのもの。

 胸の奥から溢れた火は、鎖を内側から焼き切り、床に落ちた金属がジュッと音を立てて冷えていく。
 シレーネは気づいていない。
 ただ、胸の奥の火に従って名前を呼んだ。

「……アモール……!」

 その声は、祈りでも、叫びでもない。
『独占欲』と『想い』が混ざった、彼女自身の意志そのもの。
 次の瞬間——

 ——ドンッ!!
 火が弾け、シレーネの胸から飛び出した。
 光の矢のように、迷いなく、一直線に。
 向かう先はただひとつ。

 アモール。

   ◇

 アモールは膝をつきかけていた。
 肩から流れる血が、床にぽたぽたと落ちる。

(……ここまでか……)

 そう思った瞬間——熱が、胸に飛び込んできた。

「……っ!? なんだ……これ……!」
 胸の奥が燃える。

 だが痛くない。
 むしろ、失いかけていた力が一気に満ちていく。

 足に力が戻る。
 視界が鮮明になる。
 握った剣が、まるで呼吸を始めたように熱を帯びる。

(……シレーネ……?)

 呼ばれた気がした。
 確かに、彼女の声が胸の奥で響いた。

 ——アモール。

 その声は、火のように熱く、涙のように優しかった。
 アモールは立ち上がる。

 胸に飛び込んだ熱の中に、かすかに震えるような『想い』が混ざっていた。
 それが何かはわからない。
 ただ、シレーネの心が触れた気がした。

「……まだだ。まだやれる」
 胸の奥で燃える火が、彼を再び戦場へ押し戻した。

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