風のアモール ~祈りの巫女と二人の男~

葉月奈津・男

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(R18)ファタール用改稿版

第54話 役割を終えた男

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 スラインローゼの復活、ゼナの暴走の停止、ダルトンの封印。
 すべての使命を果たした達成感を胸に、アモールとサラサはシレーネたちのもとへ戻ってきた。
 つらい報告を届けるために。

 そんなこととは知らず、シレーネとメモリーは歓声を上げて二人を迎えた。
 アモールは、ゼナとスラインローゼの関係、異界への旅立ち、そして別れた後の出来事をすべて話した。

「……そう、わかったわ。なんとなくだけど、そんな予感がしてた」
 泣き出すかと思いきや、シレーネは静かに頷いた。
 強がりかもしれない。

 でも、泣き続けるよりずっと強い。
 メモリーは何も言わず、ただ微笑んでいた。
 その微笑みに、シレーネの胸の奥が揺れていることを、ただ一人察していた。

 一通り話しが終わったことを見計らい、口を開いたのはボルガンだった。

「……あなたが、アモールさんですね。シレーネを……助けてくれて、ありがとう」
 その声は低く、落ち着いていた。
 敵意はない。

 ただ、アモールに向けられたシレーネの視線と、ほほえみに気づいていた。
 普通の微笑みではない。
 だから、胸の奥に沈んだ影が、わずかに揺れているのがわかった。
 ボルガンの指先がわずかに強張る。

 アモールは肩をすくめた。

「助けたってほどじゃねぇよ。勝手に巻き込まれて、勝手に戦っただけだ」
「それでも……あなたがいなければ、シレーネは——」
「確かにな」
 軽く肩をすくめてみせる。

「あのまま放置してたら、『北の大陸』に来る前に死んでただろうよ」
 脅しではない。
 純然たる事実だ。

「それだけではなく――」
「言うな。わかっている。会った時から危うい女だとは思ってた」
「——そう、ですか。さすがですね」
『巫女』とはわからなくても、世の中とズレている価値観から『異常さ』は滲む。

「俺の役割は終わりだ。あんたが来てくれて、あいつは救われたんだろ?」
 ボルガンの目がわずかに揺れた。
 その瞬間、シレーネの胸がチクリと痛む。

(……アモール……わたし……まだ…………)

 ボルガンの腕の中で泣いたばかりなのに、
 アモールの声を聞くと、胸の奥の『火』——想い——がかすかに揺れる。
 そして、その揺れは“追いたくなる衝動”へと変わっていく。

(……どうして……どうしてそんなふうに突き放すの……? わたし……あなたに、まだ……)

 アモールが距離を置けば置くほど、
 その背中を追いかけたくなる。
 その揺れを、メモリーは横目でそっと見ていた。

(……シレーネ……あんた、まだ……)

 アモールは続けた。

「俺は……『引っ張る』ことと『焼く』ことしかできねぇ。でも、あんたは……あいつを『待ってやれて』、ちゃんと『温めてやれる』んだろ?」
 ボルガンは息を呑んだ。
 シレーネも同じだった。
 アモールの言葉は、優しさでも嫉妬でもなく、ただの『事実』として響いた。

「……はい。そのつもりです」
 ボルガンは静かに頷いた。
 だが、その瞳の奥には、アモールへの警戒と、シレーネの揺れを見抜いた痛みが混ざっていた。
 アモールは鼻を鳴らし、どこか満足げに笑った。

「なら、いい。あいつを頼むよ。俺は……もう、戦いは十分だ」
 その言葉に、シレーネの胸がまた痛む。

 二人の男の間で、『自分』がやりとりされている。
 しかも、アモールはなんだか素っ気ない。

(……アモール……どうしてそんな顔で……そんなふうに言うの……
 わたし……まだ……)

 ボルガンは深く頭を下げた。

「……必ず、守ります」
 アモールは手をひらひらと振り、照れ隠しのように視線をそらした。

「守るのはいいけどよ……泣かせたら、俺が殴るからな」
 ボルガンは苦笑し、シレーネは顔を真っ赤にした。
 メモリーはその様子を見て、静かに息を吐いた。

(……あぁ、これは……まだ終わってないな)

 纏いなおした微笑みは、どこか寂しげだった。

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