風のアモール ~祈りの巫女と二人の男~

葉月奈津・男

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(R18)ファタール用改稿版

第60話 ~あいつはどうした?~

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 かつて名を馳せた老魔術師・ダルトンは、生物の能力を強化する魔術に長けていたが、それ以外には何の芸も持たないと自嘲する人物だった。

 だがその言葉とは裏腹に、彼の研究は常軌を逸しており、服だけを溶かして食べる怪物を創り出すなど、倫理を踏み越えた実験を繰り返していた。

 彼の目的は「不死」と「支配」。

 命を弄び、恐怖を操ることで他者を屈服させようとするその姿勢は、冷酷でありながらどこか滑稽でもあった。

 シレーネを怪物に襲わせ、アモールを挑発するなど、卑劣な手段を用いて優位に立とうとするが、最終的にはアモールの機転と仲間たちの力によって敗北する。

 しかし、彼は死ななかった。

 怨念と執念が融合し、霧そのものとなったダルトンは「毒霧」として再び現れる。

 物理攻撃も通じず、魔法でしか消滅できない存在となった彼は、封印によって動きを止められることになる。

 封印の中で彼が得たものは、支配ではなく孤独。

 誰にも届かない笑い声、誰にも聞かれない叫び。

 世界にただ一人残された彼は、永遠に反響する氷の中で、自らの罰と向き合い続ける。

 そして――――。



 パンッ! ピキッ! バキン!!

 かつて厚く凍りついていた氷に、徐々にヒビが入り始める。
 そして、血のように濁った霧が、割れ目から這い出してきた。


『ふ、ふふふふふ・・・ふっかぁ~つ』


 氷の裂け目から現れた奇妙な物体は、異常な音を立てながら、ふわふわと漂い始める。

 その姿は、どこからどう見ても壊れていた。
 動いている仕組みも、形も、すべてが異常だった。

 巨大な太陽が、そのまがまがしい姿を照らす。
 光度は落ちているが、輻射熱は凄まじく、夜でも摂氏四十度、昼には七十度を超える灼熱の大地。
 風は吹かず、空気は重く沈んでいた。

 かつて氷世雪と呼ばれた寒波の発生地は、今では命を拒む炎の世界となっていた。

 だが、その物体は気づかない。

 かつて世界を支配しようとした老魔術師——ダルトン。
 不死に執着し、命以外のすべてを捨てた愚か者の成れの果て。

 彼の存在を知る者は、もう誰もいない。
 少なくとも、この地上には。


『わたくしが復活した以上、この世界はすべて、草木の一本に至るまで、わたくしのものとなるのです。わたくしが、世界を支配する』


 それこそが、彼の望みだった。
 そのために、不死の身体を求めたのだから。

 そして今——彼の野望は、ある意味で完全に叶えられた。

 この世界には、彼しかいない。
 彼以外に、欲する者も、意志を持つ者も、動く者もいない。


『わたくしこそ、世界の王。未来永劫、不滅の王なのだ。 ふふ・・・ふははははははははははははは―――――――――』


 笑い声は、誰にも届かない。
 誰にも聞かれない。
 誰にも、止められない。


 ——それは、支配ではなく、孤独だった。

 そしてその孤独こそが、彼に与えられた、唯一の罰・・・または救いだった。

 どちらなのか・・・彼にも答えはわからないだろう。


 彼の世界は、彼だけのもの。  
 誰の物語にも、もう交わらない。
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