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第一話
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冒険家は馬鹿な生き物だ。
この平和な時代で、自分の命をわざわざ危険に晒しているのだから。
凶悪な魔物が巣食う遺跡に行くなんて、正気の沙汰じゃない。
一攫千金を狙いたいのなら、遺跡ではなくカジノに行った方が絶対にいい。カジノじゃ負けることはあっても死ぬことはない。
死ねば終わり。そんな当たり前のことが分かっていて、冒険家は遺跡に潜るのだ。
「こうなるのは分かっていただろ……」
冒険家の遺体を前にして、俺はそう言わなければ気が済まなかった。
遺体は既に白骨化が進んでおり、死んでから長い期間経っていることが分かる。
俺は十字を切って、その遺体から認識プレートを取った。冒険ギルドから配られている金属プレートのものだ。これをギルドに届けることで、遺族にこの者の死が知らされ、ギルドから少しの手当が与えられる。
やるべきことはやった。俺は遺跡のさらに奥へと足を向けた。
ここは誰も最奥まで辿り着いたことがない遺跡の一つ、その名もベガ遺跡。
ベガ遺跡、アルタイル遺跡、デネブ遺跡。
その三つの遺跡は三大遺跡と呼ばれ、人の命を簡単に奪う魔物、罠が大量に存在し、今まで多くの冒険家が挑み、そして命を散らしていった。三大遺跡を進めば、今みたいに冒険家の遺体と出会うのは珍しいことじゃない。
本当に、冒険家は馬鹿な生き物だ。
命を賭けてまでやるべきことなら、遺跡に潜るのではなく他にあるだろうに。
そんなことを思って、思わず笑ってしまった。
盛大なブーメランだったから。
ああ、分かってる。
そんなことは分かってるさ。
冒険家を罵倒しておきながら遺跡に挑んでいる俺は、それ以上に馬鹿だということぐらい。
「やっと帰ってこれた……」
すれ違う人が驚いたような顔で見てくるほどの大量の荷物を背負って、俺は村に帰ってきた。
村に入れば、硫黄の匂いがする。この村は世界的に有名な温泉町であり、三代遺跡が作る三角形の中心部に位置している。
この村に帰ってくるのは何日振りだろう。
一週間くらいか。その間ずっと、遺跡の中で過ごした。正直もうヘトヘトだ。温泉で疲れを癒してから家に早く帰りたい。
ただその前にやらないといけないことがある。
遺跡で手に入れた物の換金を冒険ギルドでしなければ。
手持ちの金じゃ、温泉に入ることもできない。
「ん、なんだ、この騒ぎ?」
冒険ギルドに向かっていたら、大勢の人たちがある場所へと急いでいるのに気がついた。確か、この先は大きな広場があるだけだ。
「アレル、ラッキーなタイミングで帰ってきたじゃねぇか!」
冒険家の知り合いが大声で笑いながら、近づいてきた。こんな真昼間だというのに、ひどく酒臭い。
「なんで皆、広場に向かっているんだ?」
「お前も来いよ! 言葉で説明するよりも見たほうが早いぜ!」
「いや、俺は帰ってきたばっかで、っておい!」
「いいからいいから、一緒に行こうぜ!」
遺跡探索で疲れているから、なるべく寄り道をしたくなかったのに、酔っ払いに腕を掴まれ、無知やり広場に連れてこられた。
広場は大量の人で溢れかえっていた。町中の人全員が集まっていると言っても過言じゃない。一体、これから何が始まるのか。
「来たっ!!」
叫んだ人が指した方向を見れば、遠くから一人の少女が来ていた。その少女は一振りの剣を腰に下げて歩いている。
少女の姿に気づいた途端、広場の人たちが叫び始める。
「勇者様ぁぁぁ!!」
「リーナ様ぁぁぁ!!」
その叫び声でやっと理解できた。
こんなに人が集まっているのは、魔王を倒した勇者を見たかったからだったのか。
遺跡に一週間も篭っていたせいで、俺は勇者がこの村に来ることを知らなかった。
「おー、あれが噂の女勇者様か……魔王を一撃で倒したとは思えないほど華奢だな」
横にいる酔っ払いが、広場に着いた彼女を見ながら呟く。
彼女は健気に人々の歓声に手を振って応えていた。
「可愛らしいねぇ。王族から結婚を申し込まれたのも納得だ。断ったらしいけど」
「……」
「ん、なんだ、その目は?」
「いや、お前って本当に噂好きだよな」
「へっ、昼間から酒飲んでりゃ噂の一つや二つは聞けるもんよ」
「威張るようなことじゃないだろ」
「うるせぇ、っておい、もう帰るのか? せっかく女勇者様をこんな近くで見れるのによ」
「遺跡から帰って来たばかりで疲れてんだ。ギルドで換金してから温泉で疲れを癒すさ」
酔っ払い野郎が俺を変な奴と言いたげな目で見てきたが、俺は荷物を背負い直して、ギルドへまっすぐ歩いた。
「はぁ……」
愛しの我が家に帰って来て、さっそく俺はため息をついた。
ポケットに手を突っ込み、中のすべての物を取り出す。
銅貨三枚だけ。それが今の俺の全財産だ。温泉の代金を支払って残った、ギルドで遺物を売って得られた金である。
これじゃ、三日間分の飯代にしかならない。
「はぁ……」
もう一度、ため息をついてしまった。
苦労して遺跡を探索して、その結果がこれなのは辛すぎる。
ギルドで売らなかった、遺跡で獲得したものを嫌になって放り投げた。元々置いてあった遺物とぶつかって、がしゃんと音が生まれた。
「……寝よ」
片付ける気にもなれず、今はただ寝たかった。
一週間ぶりの我がベッドである。久しぶりに心地良く寝れそうだ。
散在している遺物を踏まないように気をつけながら、寝室の前に辿り着く。
俺が寝室に入ろうとドアを開けたら
「はぁ……アレル……んっ…………あぁ、アレルぅ……!」
女勇者と呼ばれるリーナが、俺のベッドの上で悶えていた。
この平和な時代で、自分の命をわざわざ危険に晒しているのだから。
凶悪な魔物が巣食う遺跡に行くなんて、正気の沙汰じゃない。
一攫千金を狙いたいのなら、遺跡ではなくカジノに行った方が絶対にいい。カジノじゃ負けることはあっても死ぬことはない。
死ねば終わり。そんな当たり前のことが分かっていて、冒険家は遺跡に潜るのだ。
「こうなるのは分かっていただろ……」
冒険家の遺体を前にして、俺はそう言わなければ気が済まなかった。
遺体は既に白骨化が進んでおり、死んでから長い期間経っていることが分かる。
俺は十字を切って、その遺体から認識プレートを取った。冒険ギルドから配られている金属プレートのものだ。これをギルドに届けることで、遺族にこの者の死が知らされ、ギルドから少しの手当が与えられる。
やるべきことはやった。俺は遺跡のさらに奥へと足を向けた。
ここは誰も最奥まで辿り着いたことがない遺跡の一つ、その名もベガ遺跡。
ベガ遺跡、アルタイル遺跡、デネブ遺跡。
その三つの遺跡は三大遺跡と呼ばれ、人の命を簡単に奪う魔物、罠が大量に存在し、今まで多くの冒険家が挑み、そして命を散らしていった。三大遺跡を進めば、今みたいに冒険家の遺体と出会うのは珍しいことじゃない。
本当に、冒険家は馬鹿な生き物だ。
命を賭けてまでやるべきことなら、遺跡に潜るのではなく他にあるだろうに。
そんなことを思って、思わず笑ってしまった。
盛大なブーメランだったから。
ああ、分かってる。
そんなことは分かってるさ。
冒険家を罵倒しておきながら遺跡に挑んでいる俺は、それ以上に馬鹿だということぐらい。
「やっと帰ってこれた……」
すれ違う人が驚いたような顔で見てくるほどの大量の荷物を背負って、俺は村に帰ってきた。
村に入れば、硫黄の匂いがする。この村は世界的に有名な温泉町であり、三代遺跡が作る三角形の中心部に位置している。
この村に帰ってくるのは何日振りだろう。
一週間くらいか。その間ずっと、遺跡の中で過ごした。正直もうヘトヘトだ。温泉で疲れを癒してから家に早く帰りたい。
ただその前にやらないといけないことがある。
遺跡で手に入れた物の換金を冒険ギルドでしなければ。
手持ちの金じゃ、温泉に入ることもできない。
「ん、なんだ、この騒ぎ?」
冒険ギルドに向かっていたら、大勢の人たちがある場所へと急いでいるのに気がついた。確か、この先は大きな広場があるだけだ。
「アレル、ラッキーなタイミングで帰ってきたじゃねぇか!」
冒険家の知り合いが大声で笑いながら、近づいてきた。こんな真昼間だというのに、ひどく酒臭い。
「なんで皆、広場に向かっているんだ?」
「お前も来いよ! 言葉で説明するよりも見たほうが早いぜ!」
「いや、俺は帰ってきたばっかで、っておい!」
「いいからいいから、一緒に行こうぜ!」
遺跡探索で疲れているから、なるべく寄り道をしたくなかったのに、酔っ払いに腕を掴まれ、無知やり広場に連れてこられた。
広場は大量の人で溢れかえっていた。町中の人全員が集まっていると言っても過言じゃない。一体、これから何が始まるのか。
「来たっ!!」
叫んだ人が指した方向を見れば、遠くから一人の少女が来ていた。その少女は一振りの剣を腰に下げて歩いている。
少女の姿に気づいた途端、広場の人たちが叫び始める。
「勇者様ぁぁぁ!!」
「リーナ様ぁぁぁ!!」
その叫び声でやっと理解できた。
こんなに人が集まっているのは、魔王を倒した勇者を見たかったからだったのか。
遺跡に一週間も篭っていたせいで、俺は勇者がこの村に来ることを知らなかった。
「おー、あれが噂の女勇者様か……魔王を一撃で倒したとは思えないほど華奢だな」
横にいる酔っ払いが、広場に着いた彼女を見ながら呟く。
彼女は健気に人々の歓声に手を振って応えていた。
「可愛らしいねぇ。王族から結婚を申し込まれたのも納得だ。断ったらしいけど」
「……」
「ん、なんだ、その目は?」
「いや、お前って本当に噂好きだよな」
「へっ、昼間から酒飲んでりゃ噂の一つや二つは聞けるもんよ」
「威張るようなことじゃないだろ」
「うるせぇ、っておい、もう帰るのか? せっかく女勇者様をこんな近くで見れるのによ」
「遺跡から帰って来たばかりで疲れてんだ。ギルドで換金してから温泉で疲れを癒すさ」
酔っ払い野郎が俺を変な奴と言いたげな目で見てきたが、俺は荷物を背負い直して、ギルドへまっすぐ歩いた。
「はぁ……」
愛しの我が家に帰って来て、さっそく俺はため息をついた。
ポケットに手を突っ込み、中のすべての物を取り出す。
銅貨三枚だけ。それが今の俺の全財産だ。温泉の代金を支払って残った、ギルドで遺物を売って得られた金である。
これじゃ、三日間分の飯代にしかならない。
「はぁ……」
もう一度、ため息をついてしまった。
苦労して遺跡を探索して、その結果がこれなのは辛すぎる。
ギルドで売らなかった、遺跡で獲得したものを嫌になって放り投げた。元々置いてあった遺物とぶつかって、がしゃんと音が生まれた。
「……寝よ」
片付ける気にもなれず、今はただ寝たかった。
一週間ぶりの我がベッドである。久しぶりに心地良く寝れそうだ。
散在している遺物を踏まないように気をつけながら、寝室の前に辿り着く。
俺が寝室に入ろうとドアを開けたら
「はぁ……アレル……んっ…………あぁ、アレルぅ……!」
女勇者と呼ばれるリーナが、俺のベッドの上で悶えていた。
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