自警団を辞めて義賊になったら、元相棒の美少女に追いかけられる羽目になった

齋歳 うたかた

文字の大きさ
23 / 27

第23話 どうしようもなく愛おしくて

しおりを挟む
 氷結の義賊と思われる死体が発見されてから約一年が経ち、冬の寒さを乗り越えた桜がその蕾を開く季節になる。

 曇り一つなく、満月が輝く夜。皆が寝静まった時刻に、町の屋根を駆ける一つの影があった。その影は、自警団の本部の屋根に降り立つと息を整える。

「ふぅ……」

 その影の正体は、死体が発見されたはずのリアムだった。彼は義賊の仮面を被っておらず、義賊の時に着ていた服ではない黒を主調とした服を身につけていた。

「誰も……いないな」

 自警団の本部内から人の気配を感じなかったリアムは、安心して中に入る。

(自警団は夜の警備の人数を減らしたか……)

 一応、警戒しながら、リアムは団長室へと足を運ぶ。なるべく足音を立てないように。

(まぁ、義賊が死んだとなれば、減らして当たり前か)

 なぜ死んだはずの彼が生きているのか。

(襲ってきた傭兵から逃げるために、死体の一つに俺の仮面と服を着せただけだが……まさか自警団にそれを発見されるなんてな)

 そう、桜美川の下流で発見された死体は、リアムを襲った男たちの一人だった。あの時、ベルナルドと戦い、すでにボロボロだったリアムは、傭兵たちに勝てないことを理解していた。だからこそ、奴らの死体の一つに、氷結の義賊の身に付けているもの全てをつけ、真偽が分からないように顔を炎魔法で焼いて、自らが死んだと偽造したのだ。
 暗い夜だったこともあり、傭兵たちはそれが偽物だと気づくこともなく、リアムの期待通りにその場から去っていったのだった。

 その時に氷結の義賊の仮面や服を失ったため、今のリアムは別の服を着ている。団長室に無事侵入できたリアムは、その服の中から書類を取り出した。
 氷結の義賊が死んだとなったことは、リアムにとって都合の良いことだった。自警団の見回りに追われることは無くなり、侵入する屋敷の警備は薄くなったのだから。
 そのおかげで、リアムは一年の時間を費やし、遂にゴーインの証拠を手に入れたのだった。人攫いとの契約書、人攫いから奴隷を買い取ったことを証明する書類など、挙げればキリがないほどの大量の証拠を見つけ出した。これだけの証拠があれば、もはやゴーインは言い逃れできないだろう。

「これで、よし……」

 団長室の机に書類を置き、リアムはその場から離れる。
 誰にも見つかることなく本部を出たリアムは、全てが終わったと気持ちが楽になった。

(あとは、団長たちがなんとかしてくれるだろ……)

 団長たちにそう期待を抱いたリアムの頭の中で、ユズハの顔が浮かんだ。同時に彼女との約束も思い出す。
 彼女に会いたい。彼女の顔を見たい。だけどーー

「ごめん、ユズハ。約束、守れそうにない……」

 彼女に会う資格が自分にはない。
 この一年で真剣に考えてリアムが出した結論はそれだった。
 彼女の笑顔を見たい。その気持ちに変わりはない。だけど、こんなにも自分勝手に義賊行為を続けて、全てが終わったら都合よく彼女に会いに行くなど、リアムにはできない。

 自分にできるのは、遠くから彼女を見守ることだけだとリアムは、その本部から出て行こうとする。しかし、不意にその視界に桜の花びらが舞った。
 リアムは思わず動きを止めた。
 夜風に運ばれてきたのだろう。花びらは月明かりの下、リアムをまるで誘うかのようにひらひらと舞っていた。

「……」

 リアムは思わずその花びらが来る場所へと足を向けた。その方向は自警団の寮がある場所で。
 一本の立派な桜がある自警団の寮の庭に辿り着く。

「っ……!」

 その桜の下で、舞い落ちてくる花びらを眺めている少女が、一人で立っていた。
 その少女は、リアムの想い人で。
 自警団の制服を見に纏い、こちらに後ろ姿を向けているユズハ。
 体の傷は治癒魔法で治っているように見えるが、どこか彼女の身体は細く感じられた。麻痺薬の後遺症がまだ残っていて、満足に動けないのだろう。そのせいで、身体は衰え、彼女の元々細かった身体は、病的にまで痩せ細っているように見えた。
 なのに、彼女はこんな夜遅くまで起き、自警団の制服を着ている。見回りでもしてきたのだろうか。
 彼女の後ろ姿は、桜の下で誰かを待っているような、そんな印象を抱かせる。
 リアムにも分かっている。こんな時間まで彼女が見回りをした理由も、彼女の待ち人が誰なのかも。
 彼女は必死に探している、会おうとしてくれている。必ず会えるとただ信じて。


 そんな彼女がどうしようもなく愛おしく思えてきて。
 もう会う資格とか考える余裕もなく、リアムはただ彼女と話したいと、そこに向かおうと足を動かした時ーー








 ぐさりと己の身体を何かが貫いた。

「え……?」

 リアムが自分の身体を見れば、己の腹から血で濡れた短剣が出ていた。
 血はどんどん服を赤く染め、寮の床へと滴る。その部分がとにかく熱くて、そして、とても痛くて。リアムはそこでようやく、己が背後から刺されたことに気づく。

「よう……久しぶりだなぁ、義賊野郎」

 耳元でそう囁かれ、リアムがどうにかして背後に目を向ける。
 そこにいたのは、片腕と片目を失い、包帯を全身に巻いているイゾーだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...