自警団を辞めて義賊になったら、元相棒の美少女に追いかけられる羽目になった

齋歳 うたかた

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第24話 果たされるもの

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 リアムは魔法で抵抗しようとするが、なぜか魔法が使えない。

「抵抗しても無駄だぜ。この短剣にはたっぷりと麻痺薬を塗っているからな」

 狂気に満ちた目をしたイゾーは、短剣をぐりぐりとリアムにさらに差し込む。

「ぐっ……!」
「てめぇだけはこの手で殺してやりたいと思ってた、義賊野郎……!」

 身体から力が抜けていき、リアムは倒れまいと脚に力を込める。

「てめぇのせいで、俺はっ、ゴーインのクソ野郎に……!」

 自分の身体が急激に冷えていく感覚がする。まるで、すぐそこまで死が迫り来ているようで。

「はは……そ、うか、俺に二回も負けて、クビにでもな、ったか……?」

 イゾーが短剣を握る手に力を入れてきて、激痛が増していく。

(ああ……ここで俺は死ぬのか……)

 イゾーへの恐怖心などリアムにはなかった。迫り来る死への恐怖心さえ。

「よく……俺が、ここに来るって分かった、な……」
「死体が発見されたって言われてもな、てめぇがそう易々と死ぬとは思えなかった。生きてりゃ、てめぇは証拠を自警団の本部に持ってくるはず。本部を見張っていれば、必ず会えると思っていたぜ」

 我ながら単純に動いてしまったらしい。自警団本部に証拠を持ってくるなど、義賊の正体が分かっていれば簡単に想像できる行動だ。そこを狙われるのは当然だった。

「くそ……」

 そんな簡単なミスで、ユズハと会うのを邪魔された。目の前にいるというのに、彼女に話しかけることができない。桜を眺めている彼女は、こちらに背を向けている。

「てめぇを殺して、証拠も燃やしちまえば、俺は元の地位に戻れる……!」

 イゾーが己の欲望を漏らした。
 それをくだらないと心の底から思ったリアムに、イゾーは耳元で囁いてくる。

「てめぇを殺したら、あの女も殺してやるよ」
「っ!」
「ただ殺すだけじゃねぇ。気が済むまであの女をぶん殴って、犯して、そして許しを求めた瞬間に殺してやるよぉ……!」

 その瞬間、リアムの中で怒りの感情が爆ぜた。
 麻痺薬で魔法が使えないはずなのに、リアムの周りから氷の棘が形成される。イゾーはリアムから短剣を抜いて、後ろに飛ぶことでそれを避けた。

「やっぱ、妹と同じように魔法が使えるか……」
「お前だけはっ、ここで刺し違えても殺す……!」
「たとえ魔法が使えてもよ、身体は動かねぇだろ」
「ぐぁっ!?」

 イゾーがリアムに向けて短剣を投げた。麻痺して身体が動かないリアムは、それを避けられず、肩に短剣が刺さる。

「おらよっ!」

 続けて投じられた短剣が、リアムの右太腿に刺さった。そのせいで、リアムは脆く崩れ去るように倒れる。

 気を抜けば、一瞬で意識を失ってしまう。気を失わないように己を奮い立たせるが、リアムはもう立ち上がることができない。
 イゾーが懐から新たに短剣を取り出した。

「死ね、義賊野郎」

 それをリアムの頭に目掛けて、イゾーは投じた。
 真っ直ぐ己に向かってくる短剣。リアムは思わず目を閉じた。

 そして、その短剣はリアムの頭にーー

「させませんよ」

 届かなかった。
 金属のぶつかる音が生まれ、短剣は軌道を変えてあらぬ方向へと落ちた。
 目を開けたリアムの目の前にいたのは、ずっと彼が会いたいと望んでいた者。

「こんな夜中に騒げば、流石に気付きますよ」
「ユズ、ハ……」

 リアムがその名を呼ぶ。
 折れている愛刀を握るユズハが、それに応えるように微笑みかける。

「やっと会えましたね、リアム」

 両親の仇が目の前にいるというのに、ユズハが穏やかな笑みをかけてくれた。それを見ただけで、リアムはどこか救われたような気がした。

「邪魔しやがって、クソ女。麻痺薬の後遺症でろくに身体が動かねぇくせに」

 イゾーが新たな短剣を取り出し、ユズハを睨む。ユズハがゆっくりとイゾーの方へ目を向ける。
 ユズハのイゾーに対する復讐心を思えば、ユズハはイゾーを見ただけで限りなく怒るはず。だが、そんなリアムの予想は外れ、ユズハは己に言い聞かすように悲しげに言葉を吐いた。

「皮肉、ですね……」
「あ?」
「復讐を望んでいた時は、あんなに復讐できなかったというのに」

 ユズハは折れた愛刀を構える。それは、復讐に燃えているからではなく、ただ大切な人を守るために。そう背中が語っているような気がした。

「復讐よりも大事なものに気づいた途端、復讐が成就されるなんて……」

 この一年会わなかっただけで、彼女がどれほど進んできたか。それを感じ取ることができる言葉だった。

「俺を殺した気になってんじゃねぇ! 殺されるのはてめぇの方だっ! 後遺症で動けねぇ奴が一人で何ができる!」

 イゾーが血走った目でユズハに叫ぶ。
 それに対して

「一人じゃないだろうが……」

 答えたのは、血を流して倒れているリアムだった。
 このまま全てをユズハに託すということもできる。だけど、それで本当に良いのかとリアムは自分に問いかけた。
 良いわけがない、とリアムは心で叫ぶ。
 ユズハのために、今、自分ができること。それはーー

「っ!」

 急激に気温が低くなり、その変化の異常さにイゾーが驚きを抱けば、一瞬で地面は白く染まった。そして、周りに氷の桜が形成され始める。
 今のリアムにできること。
 それは、ユズハの復讐への協力だった。

『俺も力を貸すよ』
『……え?』
『俺もお前の復讐に協力する』

 一番最初にした二人の約束。それを守ることができなくて苦しんでいたが、遂に果たす時が来た、とリアムは己の魔力を最大限に使い、心象風景の具現化を行う。
 いくつもの氷桜が形成され、氷の花びらが散り始める。それらは触れるイゾーの体温を奪っていく。

「っ!」

 ユズハの折れている刀を補完するように氷が刀先を形成し、ユズハが息を飲んだ。鏡面のような氷と玉銅の混じった刀が、月に照らされて輝く。
 氷の桜吹雪がその場を支配する。

「やっぱり、貴方は約束を守る人でしたね……」

 血を流し、いつでも気を失っておかしくないはずなのに、最後の力を振り絞って背中を押してくれたリアム。同じように約束を忘れていなかったユズハは、リアムの想いを感じて言葉を漏らした。そして、刀を振るうべき相手にその眼差しを向ける。

「俺の邪魔ばかりしやがって……! てめぇらのせいでな、俺はっ、俺はぁぁ!!」
「その言葉を、貴方が言う資格はない」
「死ねぇぇぇ!!」
「哀れですね、自業自得にも気づけないなんて……」

 怒りの感情を爆発させ、ユズハへと駆けるイゾー。
 それに対し、ユズハが息を深く吐く。
 白い息が現れて、すぐに消えた刹那。

「……」

 閃光の如くユズハが刀を振るった。
 桜吹雪が舞い上がる。

 世界が白くなったと思えば、人が倒れる音が響いた。

 桜吹雪が収まれば、そこに立っていたのは、刀を鞘に収めるユズハ。その近くに、もはや動く気配がない死体が一つ横たわる。


 副団長の復讐は、元相棒の協力を得て果たされることとなった。
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