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第25話 心が満ちて
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「リアムっ!」
ユズハはそんな死体に目もくれず、倒れて血を流しているリアムにすぐに近づいて抱える。リアムの身体に触れれば、信じられないほど冷たく感じられた。
「リアムっ、リアムっ!」
ユズハは何度も呼びかける。リアムは目を薄く開け、意識があるのかどうかも分からない。出血多量で、麻痺薬も効いており、さらには大量の魔力を使い果たしている。意識がある方がおかしい状態だ。
「やっと、約束を、果たせ、た……」
それでも、ユズハとイゾーの決着を見届けようと、リアムは意識を保っていた。
その命は燃え尽きかけている。それを証明するかの如く、氷桜たちが消えていく。
リアムの命が流れ出ているような気がして、ユズハはリアムの出血場所を手で押さえる。
「まだですっ、まだ約束は残ってますっ! 一緒に桜を見に行きましょう!」
「……ごめん、な……その約束は、まも、れそうに、ない……」
「嫌ですっ!」
涙を零しながら、駄々をこねる子供のようにユズハは叫ぶ。
「やっと、再会できたのにっ! こんな……こんなことって……」
だんだん声が小さくなっていくユズハに、こればかりはしょうがないと言うかのようにリアムは弱々しく頬を撫でる。リアムの冷え切った手の温度を頬で感じ、ユズハはいっそう涙を流してしまう。
「なぁ、ユズハ……最後に、一つだけ……我儘、言っても……いいか?」
「ぅ……?」
リアムの手に優しく己の手を添えたユズハは、声にもならない返事をした。
本音を言えば、最後の願いなんて聞きたくない。でも、もし本当に最後の願いなら叶えてあげたい。相反する二つの想いを抱えながら、ユズハは近くにいるのにどこか遠くへ行ってしまいそうなリアムを見つめる。
意識が遠くなっていく感覚がしながらも、リアムは己の望みを口にする。
「お前の、笑顔を……見たい……」
桜の下で笑うユズハ。その光景を見るためだけにリアムは戦ってきた。たとえ桜が無くとも、死ぬ前にせめてユズハの笑顔を見たい。そう願うのだった。
「無理、ですよ……こんな時に笑顔なんて……」
「頼む……笑ってくれ……お前の笑顔を、見るためだから……俺は、ここまで頑張れた」
「なんでっ、私の笑顔なんかのために、命を懸けているんですか!」
「お前のことが、好きだから、だ……」
「っ!」
お互いに気持ちは気づいていて。気づいていたはずなのに、お互いに言えなくて。
お互いに言いたくて言われたかった言葉を、リアムが今、死際になって口にした。
「こんな時に、卑怯ですよ……」
ユズハの言う通り、無責任なのかもしれない。残される側にとって、この言葉は重荷になるだけかもしれない。それでも、後悔を残して死にたくはないから。伝え忘れていたことなんて抱えて死にたくないから。だから、自分の大切な想いを告げた。
だからだろうか、迫り来る死を前にして、リアムの心には後悔など無い。だが、一つだけ強いて挙げるとするのならばーー
「頼む、ユズハ……好きな人の笑顔を、最期に見たいんだ……」
ただ、それだけだった。
「っ……!」
最期なんて言わないで、とユズハには言えなかった。残された時間は限りなく少ない。これ以上駄々をこねて、時間を不意にしてしまったら、おそらく一生後悔するだろうから。
「…………私も……」
リアムが自分に告げてくれた言葉に、それに込められた想いに対して、自分はきちんと答えないといけない。だって、たとえ今ここで死に別れるとしても、好きだと言われて、とても嬉しかったから。
こんな気持ちになれたことをリアムにも知って欲しくて、そのためには、返事が笑顔でないと伝わらないから。だからーー
「私も好きです、リアム……」
たとえ涙が止まらなくても、今できる精一杯の笑みで応える。それが、リアムの望みを叶える結果になると信じて。
涙を零しながらも、悲しさを感じさせないユズハの笑顔。そして、消滅していく氷桜の花びらが舞い散る光景を見て、リアムは追い求めていた光景はこれだったと心が満ちていく。
(ああ……もう、満足だ……)
リアムは微笑むように、ユズハの腕の中でゆっくりと目蓋を閉じたのだった。
ユズハはそんな死体に目もくれず、倒れて血を流しているリアムにすぐに近づいて抱える。リアムの身体に触れれば、信じられないほど冷たく感じられた。
「リアムっ、リアムっ!」
ユズハは何度も呼びかける。リアムは目を薄く開け、意識があるのかどうかも分からない。出血多量で、麻痺薬も効いており、さらには大量の魔力を使い果たしている。意識がある方がおかしい状態だ。
「やっと、約束を、果たせ、た……」
それでも、ユズハとイゾーの決着を見届けようと、リアムは意識を保っていた。
その命は燃え尽きかけている。それを証明するかの如く、氷桜たちが消えていく。
リアムの命が流れ出ているような気がして、ユズハはリアムの出血場所を手で押さえる。
「まだですっ、まだ約束は残ってますっ! 一緒に桜を見に行きましょう!」
「……ごめん、な……その約束は、まも、れそうに、ない……」
「嫌ですっ!」
涙を零しながら、駄々をこねる子供のようにユズハは叫ぶ。
「やっと、再会できたのにっ! こんな……こんなことって……」
だんだん声が小さくなっていくユズハに、こればかりはしょうがないと言うかのようにリアムは弱々しく頬を撫でる。リアムの冷え切った手の温度を頬で感じ、ユズハはいっそう涙を流してしまう。
「なぁ、ユズハ……最後に、一つだけ……我儘、言っても……いいか?」
「ぅ……?」
リアムの手に優しく己の手を添えたユズハは、声にもならない返事をした。
本音を言えば、最後の願いなんて聞きたくない。でも、もし本当に最後の願いなら叶えてあげたい。相反する二つの想いを抱えながら、ユズハは近くにいるのにどこか遠くへ行ってしまいそうなリアムを見つめる。
意識が遠くなっていく感覚がしながらも、リアムは己の望みを口にする。
「お前の、笑顔を……見たい……」
桜の下で笑うユズハ。その光景を見るためだけにリアムは戦ってきた。たとえ桜が無くとも、死ぬ前にせめてユズハの笑顔を見たい。そう願うのだった。
「無理、ですよ……こんな時に笑顔なんて……」
「頼む……笑ってくれ……お前の笑顔を、見るためだから……俺は、ここまで頑張れた」
「なんでっ、私の笑顔なんかのために、命を懸けているんですか!」
「お前のことが、好きだから、だ……」
「っ!」
お互いに気持ちは気づいていて。気づいていたはずなのに、お互いに言えなくて。
お互いに言いたくて言われたかった言葉を、リアムが今、死際になって口にした。
「こんな時に、卑怯ですよ……」
ユズハの言う通り、無責任なのかもしれない。残される側にとって、この言葉は重荷になるだけかもしれない。それでも、後悔を残して死にたくはないから。伝え忘れていたことなんて抱えて死にたくないから。だから、自分の大切な想いを告げた。
だからだろうか、迫り来る死を前にして、リアムの心には後悔など無い。だが、一つだけ強いて挙げるとするのならばーー
「頼む、ユズハ……好きな人の笑顔を、最期に見たいんだ……」
ただ、それだけだった。
「っ……!」
最期なんて言わないで、とユズハには言えなかった。残された時間は限りなく少ない。これ以上駄々をこねて、時間を不意にしてしまったら、おそらく一生後悔するだろうから。
「…………私も……」
リアムが自分に告げてくれた言葉に、それに込められた想いに対して、自分はきちんと答えないといけない。だって、たとえ今ここで死に別れるとしても、好きだと言われて、とても嬉しかったから。
こんな気持ちになれたことをリアムにも知って欲しくて、そのためには、返事が笑顔でないと伝わらないから。だからーー
「私も好きです、リアム……」
たとえ涙が止まらなくても、今できる精一杯の笑みで応える。それが、リアムの望みを叶える結果になると信じて。
涙を零しながらも、悲しさを感じさせないユズハの笑顔。そして、消滅していく氷桜の花びらが舞い散る光景を見て、リアムは追い求めていた光景はこれだったと心が満ちていく。
(ああ……もう、満足だ……)
リアムは微笑むように、ユズハの腕の中でゆっくりと目蓋を閉じたのだった。
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