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7、保険の姫島愛先生
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いくらスペ☆ギフの覚醒者達が生徒だからと言っても、特別な授業が行われるわけではない。基本的には普通の高校と同じだ。
数学、英語、古典、世界史といった授業が進んでいき、昼休みの時間となる。
待っていたとばかしに、智樹と智歌さんが僕の席へとやって来た。
「貴之、飯食いに行こーぜ」
「貴之クン、ご飯♪ ご飯♪」
外見はちっとも似ていないこの二人だけど、実は強烈な共通点があった。
とにかく面倒見がいい。人の世話を焼くのが楽しくて仕方ない性格のようだ。
「スペ☆ギフ学園の昼飯って言ったら、やっぱり購買のカニマヨコッペパンだぜ」
「智樹、何言ってんのよ。スペ☆ギフ学園のお昼って言ったら、学食のジャンボコロッケメンチカツエビフライカレーでしょ!?」
「あんな揚げ物だらけのカレー、貴之にはつらいって」
「カニマヨコッペパンなんておやつよおやつ。指から火を出した貴之クンには足らないわ」
二人がそんなやり取りをしている時だった。校内放送が流れる。
『2年C組。高倉貴之君。至急、保健室に来てください。繰り返します。2年C組 高倉貴之君。至急、保健室に来てください』
言うまでもなく僕だった。
(えっ、どうして僕が保健室に?)
戸惑う僕に、智樹と智歌さんが同情するような視線を向ける。
「貴之も運がねーな。転校初日に愛ちゃんに指名されるなんて」
「気の毒にねー」
「愛ちゃんって誰?」
僕が尋ねると、二人は苦笑しながら答える。
「愛ちゃんってのは、スペ☆ギフ学園に常駐してる校医の先生な」
「腕はかなりいいらしいんだけど、すごく困った趣味をしてるのよね。きっと貴之クンを呼んだのだって趣味のためよ」
「悪いこた言わねーから、ちょっくら顔を出してこい。放置されればされるほど愛ちゃんって燃え上がるタイプだから」
「そーそー、アタシもそれをお勧めするわ。あっ、保健室は一階。職員室の近くだから」
二人にそんなアドバイスを受け、僕は教室を出た。エレベーターは混んでいたから階段を使って一階まで下りる。
保健室はすぐに見つかった。『MEDICAL ROOM』と書かれたプレートが貼られている。
「失礼します」
僕は保健室の中に足を踏み入れる。保健室特有の消毒の匂いがした。奥の事務机のところに一人の少女の姿があった。
椅子を回転させ少女がこちらを見る。
「あっ、来ましたね」
手招きされ、僕は少女へと近寄った。
小柄な少女だった。そのせいで白衣がまるでコートのように見えた。
なかなか可愛らしい顔立ち。髪の毛は短めのツインテールにまとめている。
きっと、中等部の生徒だろう。
(保健委員かな?)
促されるまま、僕は椅子に腰をかける。
「良かったあ。てっきり来てくれないかと思ったから。あ、何か食べる? お菓子たくさんあるよ。チョコにキャンディーにマシュマロにクッキーにビスケットに他にも」
机の引き出しを開け中からお菓子の入った袋を取り出そうとする少女に、僕は尋ねた。
「あの、保険の先生は?」
それまで上機嫌だった少女が、憤慨したように頬を膨らめる。
「わたしが保険医の先生さんです! ほら、ちゃんとここに書いてあるでしょ?」
少女が胸の身分証を指差す。そこには、
『スペ☆ギフ学園保険医 姫島愛』
と書かれていた。写っている写真は紛れもなく少女のものだ。
「本当に!?」
普通に驚く僕を、少女はジトってした目で見る。
「高倉君。今、こんな若い保険医の先生なんてありえないって思ったでしょう? 私、これでも二十を過ぎてます。ただちょっと小柄ってだけで、立派な大人の女性なんです。それなのに」
姫島先生の目に涙がこんもりと浮かび上がった。今にも泣き出してしまいそうだ。
(このままじゃ、転校早々に保険の先生を泣かした男として有名になってしまう!?)
僕は慌てて口を開く。
「す、すみません。少し驚いてしまっただけです。よく見れば先生は大人でした。もう、雰囲気が大人そのものです」
自分でもさすがに無茶苦茶なフォローだなと呆れたが、
「あ、気付きましたか? いや、わたしも前々からそうじゃないかって思ってたんです。わたしの大人の魅力に気付くなんて、高倉クン、さすがですね」
姫島先生は大いに喜んでくれた。
僕は別に、魅力とまでは言っていない。でも、せっかくの喜びに水を差してまた泣き出しそうになると困るから黙っておく。
「それで、僕に何の用事ですか?」
「お友達から何か聞いていませんか?」
逆に質問されてしまう。
「えっと、先生の趣味がどうのこうのって」
「趣味はひどいですね。せめて研究って言ってくれないと」
心外とばかしに唇を尖らせてから、姫島先生は言った。
「わたしは、変わったスペ☆ギフの研究をしているんです」
「……」
少し嫌な予感がした。
「保険医であるわたしは、すべての生徒の情報を見ることができます。変わったスペ☆ギフを持つ生徒がいたら、保健室に呼んで話を聞いたり、そのスペ☆ギフを実際に使って見せてもらったりしているんです」
嫌な予感が膨れ上がった。
「先生、とっても嬉しいんです。だって、高倉君みたいな強力なスペ☆ギフの覚醒者がこの学園に来てくれたんですから」
姫島先生は白衣のポケットからタブレット端末を取り出しそれ見ながら語る。
「高倉貴之。16歳。感情操作型の強力なスペ☆ギフの覚醒者。特能対策庁が認定したスペ☆ギフ危険レベルは10段階中の9。本来ならセンターに送られているレベルです。それでもこの学園島への島流しで済んだのは、心理鑑定でブレることのない良識と強い倫理観が認められたから」
姫島先生はタブレットを机の上に置くと、僕を見つめる。
そして、とんでもないことを口にした。
「じゃあ、早速高倉君のスペ☆ギフを発動してもらいましょうか?」
「な、何言ってるんですか!? そんなことできるはずないじゃないですか!?」
僕は血相を変えて叫ぶ。
「僕のスペ☆ギフでどんなことになるのか、先生だって知っているんですよね!? だったら」
「大丈夫です。先生ちゃんと準備をしてますから。問題はありません」
姫島先生が頷く。その顔は自信に溢れている。
僕は少しだけ冷静になった。
(そっか、さすがに何の準備もなしにあんなことは言わないか)
ひょっとしたら僕と同じ方法かもしれない。それなら僕のスペ☆ギフにも耐えられる。ただ、見たところ姫島先生にそれはない。
僕は尋ねてみることにする。
「準備って、どんなですか?」
「心の準備です!」
それが、姫島先生の答えだった。
ついでに言えば、準備はそれだけだった。
「わたし、これでも意思は固い方なんです。えいやって気合いを入れていれば、耐えられるんじゃないかなって思います」
冗談じゃなかった。意思でどうにかなるレベルだったら、あの惨事は起こっていない。
「無理です! 駄目です! 意思でどうにかなるレベルじゃないんです!」
僕は必死に訴えるけど、姫島先生は納得してくれなかった。さらにとんでもないことを言い出す。
「耐えられなかったら、それはそれでいいんです。高倉君のスペ☆ギフがそれだけ強力だってことが身をもって証明できますから。あ、その後についても心配しないでください。先生はもう大人の女性ですから、そういった展開もありです。それも含めての心の準備をしてるんです」
姫島先生が僕の顔に手を伸ばしてくる。
その手を逃れ、僕は慌ただしく立ち上がる。
「僕は、僕は準備できてませんから!」
上ずった声でそう叫ぶと、僕はその場から逃げ出す。
「先生、諦めませんから!」
保健室を飛び出す際、そんな姫島先生の声が聞こえた。
★
一階の廊下を全力で走り、階段の下までやって来る。幸い姫島先生は追いかけてはきていない。今日のところは諦めてくれたようだ。
「あ、危なかった」
僕は足を止め、大きく息を吐き出す。
まさか転校初日からあんなデストラップがしかけられているなんて思いもよらなかった。
(もしあの時、一歩反応が遅れて姫島先生の手を逃れることができなかったら…)
背筋にじっとりと汗をかく。喉がカラカラに乾き、息苦しくなった。
僕は強く首を動かし想像を振り払う。
(とにかく、姫島先生にはこれから注意しなくちゃな)
自分自身にそう言い聞かせてから、教室に戻ろうとする。
そこで、丁度階段を下りてきた人物と鉢合わせした。
天宮さんだ。相変わらず肩にフェレットを乗せている。確か名前は豆子だった。
「あっ」
昨日、少しだけ案内をしてもらったとは言え彼女とは決して仲は良くない。何故か嫌われているようだ。
どう声をかけていいか分からず、かと言って無言ですれ違うのもどうかと思い、僕は悩む。
そんな僕に、天宮さんから声をかけてきた。
「あなたの様子を見にきたのだけど、どうやら大丈夫だったようね」
天宮さんの言葉に僕は驚く。
「心配してきてくれたんだ」
冷たいようでいて、実は優しい人なのでは? そう思う僕だったけど、
「冗談は止めて。どうして私があなたなんかを心配しなくてはならないの?」
ピシャリと言い放たれてしまう。
「私が心配したのは姫島先生の方よ。まあ、あなたも流石にそこまで愚かではないようだけど。でも、忘れないで。あなたの好きにはさせないから」
天宮さんが僕を睨む。肩に乗る豆子までもが僕に敵意の視線を送っているように感じる。
「王様になれるなんて思わないで!」
それだけ言うと、天宮さんはクルリと向き直り階段を上っていく。
残された僕は、ただただポカンとすることしかできない。
昨日聞いた、
『あなたの望む高校生活なんて絶対に送らせないから!!!』
という言葉も謎だったが、今日の、
『王様になれるなんて思わないで!』
はもっともっと意味不明だった。
僕は王様になろうなんて思ったこともなかった。王様ゲームの王様にだって興味はない。
「どういう意味なんだろ?」
僕は困惑気味に呟いた。
数学、英語、古典、世界史といった授業が進んでいき、昼休みの時間となる。
待っていたとばかしに、智樹と智歌さんが僕の席へとやって来た。
「貴之、飯食いに行こーぜ」
「貴之クン、ご飯♪ ご飯♪」
外見はちっとも似ていないこの二人だけど、実は強烈な共通点があった。
とにかく面倒見がいい。人の世話を焼くのが楽しくて仕方ない性格のようだ。
「スペ☆ギフ学園の昼飯って言ったら、やっぱり購買のカニマヨコッペパンだぜ」
「智樹、何言ってんのよ。スペ☆ギフ学園のお昼って言ったら、学食のジャンボコロッケメンチカツエビフライカレーでしょ!?」
「あんな揚げ物だらけのカレー、貴之にはつらいって」
「カニマヨコッペパンなんておやつよおやつ。指から火を出した貴之クンには足らないわ」
二人がそんなやり取りをしている時だった。校内放送が流れる。
『2年C組。高倉貴之君。至急、保健室に来てください。繰り返します。2年C組 高倉貴之君。至急、保健室に来てください』
言うまでもなく僕だった。
(えっ、どうして僕が保健室に?)
戸惑う僕に、智樹と智歌さんが同情するような視線を向ける。
「貴之も運がねーな。転校初日に愛ちゃんに指名されるなんて」
「気の毒にねー」
「愛ちゃんって誰?」
僕が尋ねると、二人は苦笑しながら答える。
「愛ちゃんってのは、スペ☆ギフ学園に常駐してる校医の先生な」
「腕はかなりいいらしいんだけど、すごく困った趣味をしてるのよね。きっと貴之クンを呼んだのだって趣味のためよ」
「悪いこた言わねーから、ちょっくら顔を出してこい。放置されればされるほど愛ちゃんって燃え上がるタイプだから」
「そーそー、アタシもそれをお勧めするわ。あっ、保健室は一階。職員室の近くだから」
二人にそんなアドバイスを受け、僕は教室を出た。エレベーターは混んでいたから階段を使って一階まで下りる。
保健室はすぐに見つかった。『MEDICAL ROOM』と書かれたプレートが貼られている。
「失礼します」
僕は保健室の中に足を踏み入れる。保健室特有の消毒の匂いがした。奥の事務机のところに一人の少女の姿があった。
椅子を回転させ少女がこちらを見る。
「あっ、来ましたね」
手招きされ、僕は少女へと近寄った。
小柄な少女だった。そのせいで白衣がまるでコートのように見えた。
なかなか可愛らしい顔立ち。髪の毛は短めのツインテールにまとめている。
きっと、中等部の生徒だろう。
(保健委員かな?)
促されるまま、僕は椅子に腰をかける。
「良かったあ。てっきり来てくれないかと思ったから。あ、何か食べる? お菓子たくさんあるよ。チョコにキャンディーにマシュマロにクッキーにビスケットに他にも」
机の引き出しを開け中からお菓子の入った袋を取り出そうとする少女に、僕は尋ねた。
「あの、保険の先生は?」
それまで上機嫌だった少女が、憤慨したように頬を膨らめる。
「わたしが保険医の先生さんです! ほら、ちゃんとここに書いてあるでしょ?」
少女が胸の身分証を指差す。そこには、
『スペ☆ギフ学園保険医 姫島愛』
と書かれていた。写っている写真は紛れもなく少女のものだ。
「本当に!?」
普通に驚く僕を、少女はジトってした目で見る。
「高倉君。今、こんな若い保険医の先生なんてありえないって思ったでしょう? 私、これでも二十を過ぎてます。ただちょっと小柄ってだけで、立派な大人の女性なんです。それなのに」
姫島先生の目に涙がこんもりと浮かび上がった。今にも泣き出してしまいそうだ。
(このままじゃ、転校早々に保険の先生を泣かした男として有名になってしまう!?)
僕は慌てて口を開く。
「す、すみません。少し驚いてしまっただけです。よく見れば先生は大人でした。もう、雰囲気が大人そのものです」
自分でもさすがに無茶苦茶なフォローだなと呆れたが、
「あ、気付きましたか? いや、わたしも前々からそうじゃないかって思ってたんです。わたしの大人の魅力に気付くなんて、高倉クン、さすがですね」
姫島先生は大いに喜んでくれた。
僕は別に、魅力とまでは言っていない。でも、せっかくの喜びに水を差してまた泣き出しそうになると困るから黙っておく。
「それで、僕に何の用事ですか?」
「お友達から何か聞いていませんか?」
逆に質問されてしまう。
「えっと、先生の趣味がどうのこうのって」
「趣味はひどいですね。せめて研究って言ってくれないと」
心外とばかしに唇を尖らせてから、姫島先生は言った。
「わたしは、変わったスペ☆ギフの研究をしているんです」
「……」
少し嫌な予感がした。
「保険医であるわたしは、すべての生徒の情報を見ることができます。変わったスペ☆ギフを持つ生徒がいたら、保健室に呼んで話を聞いたり、そのスペ☆ギフを実際に使って見せてもらったりしているんです」
嫌な予感が膨れ上がった。
「先生、とっても嬉しいんです。だって、高倉君みたいな強力なスペ☆ギフの覚醒者がこの学園に来てくれたんですから」
姫島先生は白衣のポケットからタブレット端末を取り出しそれ見ながら語る。
「高倉貴之。16歳。感情操作型の強力なスペ☆ギフの覚醒者。特能対策庁が認定したスペ☆ギフ危険レベルは10段階中の9。本来ならセンターに送られているレベルです。それでもこの学園島への島流しで済んだのは、心理鑑定でブレることのない良識と強い倫理観が認められたから」
姫島先生はタブレットを机の上に置くと、僕を見つめる。
そして、とんでもないことを口にした。
「じゃあ、早速高倉君のスペ☆ギフを発動してもらいましょうか?」
「な、何言ってるんですか!? そんなことできるはずないじゃないですか!?」
僕は血相を変えて叫ぶ。
「僕のスペ☆ギフでどんなことになるのか、先生だって知っているんですよね!? だったら」
「大丈夫です。先生ちゃんと準備をしてますから。問題はありません」
姫島先生が頷く。その顔は自信に溢れている。
僕は少しだけ冷静になった。
(そっか、さすがに何の準備もなしにあんなことは言わないか)
ひょっとしたら僕と同じ方法かもしれない。それなら僕のスペ☆ギフにも耐えられる。ただ、見たところ姫島先生にそれはない。
僕は尋ねてみることにする。
「準備って、どんなですか?」
「心の準備です!」
それが、姫島先生の答えだった。
ついでに言えば、準備はそれだけだった。
「わたし、これでも意思は固い方なんです。えいやって気合いを入れていれば、耐えられるんじゃないかなって思います」
冗談じゃなかった。意思でどうにかなるレベルだったら、あの惨事は起こっていない。
「無理です! 駄目です! 意思でどうにかなるレベルじゃないんです!」
僕は必死に訴えるけど、姫島先生は納得してくれなかった。さらにとんでもないことを言い出す。
「耐えられなかったら、それはそれでいいんです。高倉君のスペ☆ギフがそれだけ強力だってことが身をもって証明できますから。あ、その後についても心配しないでください。先生はもう大人の女性ですから、そういった展開もありです。それも含めての心の準備をしてるんです」
姫島先生が僕の顔に手を伸ばしてくる。
その手を逃れ、僕は慌ただしく立ち上がる。
「僕は、僕は準備できてませんから!」
上ずった声でそう叫ぶと、僕はその場から逃げ出す。
「先生、諦めませんから!」
保健室を飛び出す際、そんな姫島先生の声が聞こえた。
★
一階の廊下を全力で走り、階段の下までやって来る。幸い姫島先生は追いかけてはきていない。今日のところは諦めてくれたようだ。
「あ、危なかった」
僕は足を止め、大きく息を吐き出す。
まさか転校初日からあんなデストラップがしかけられているなんて思いもよらなかった。
(もしあの時、一歩反応が遅れて姫島先生の手を逃れることができなかったら…)
背筋にじっとりと汗をかく。喉がカラカラに乾き、息苦しくなった。
僕は強く首を動かし想像を振り払う。
(とにかく、姫島先生にはこれから注意しなくちゃな)
自分自身にそう言い聞かせてから、教室に戻ろうとする。
そこで、丁度階段を下りてきた人物と鉢合わせした。
天宮さんだ。相変わらず肩にフェレットを乗せている。確か名前は豆子だった。
「あっ」
昨日、少しだけ案内をしてもらったとは言え彼女とは決して仲は良くない。何故か嫌われているようだ。
どう声をかけていいか分からず、かと言って無言ですれ違うのもどうかと思い、僕は悩む。
そんな僕に、天宮さんから声をかけてきた。
「あなたの様子を見にきたのだけど、どうやら大丈夫だったようね」
天宮さんの言葉に僕は驚く。
「心配してきてくれたんだ」
冷たいようでいて、実は優しい人なのでは? そう思う僕だったけど、
「冗談は止めて。どうして私があなたなんかを心配しなくてはならないの?」
ピシャリと言い放たれてしまう。
「私が心配したのは姫島先生の方よ。まあ、あなたも流石にそこまで愚かではないようだけど。でも、忘れないで。あなたの好きにはさせないから」
天宮さんが僕を睨む。肩に乗る豆子までもが僕に敵意の視線を送っているように感じる。
「王様になれるなんて思わないで!」
それだけ言うと、天宮さんはクルリと向き直り階段を上っていく。
残された僕は、ただただポカンとすることしかできない。
昨日聞いた、
『あなたの望む高校生活なんて絶対に送らせないから!!!』
という言葉も謎だったが、今日の、
『王様になれるなんて思わないで!』
はもっともっと意味不明だった。
僕は王様になろうなんて思ったこともなかった。王様ゲームの王様にだって興味はない。
「どういう意味なんだろ?」
僕は困惑気味に呟いた。
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