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10、雨宮さんの謝罪と彼女の秘密
しおりを挟む言われたとおり全身についた砂を払ってから、僕達は少し引き返す。
元々僕が座っていた流木に、天宮さんは座った。少し離れた場所に僕も腰を下ろす。
天宮さんが口を開く。
「高倉君のスペ☆ギフは。あなたの瞳を直接見た女性に作用するというものでしょ?」
今更もう隠す必要もない。僕は素直に頷いた。
「なら、私に通用するはずがないのよ。だって、私はあなたの瞳を直接見ていないのだから」
「そんなはずはないよ。メイド喫茶で目が合ったし、それにさっきだって」
「目が合ったからって見えているとは限らないわ」
軽くため息をつき、天宮さんは語り出した。
「私のこの瞳はね、生まれた時からずっと何も見えていないの。さらに言えばこの耳も同じ。私は生まれつき視覚と聴覚に障害があるのよ」
衝撃の告白だった。僕はあまりのことの言葉を失う。だけど、少し考えると天宮さんの言っていることが随分とおかしなことだって気付く。
「でも、僕とこうやって会話してるよね。僕の声を聞いて、僕の姿を認識してるんだよね。一体どうやって?」
「豆子の視覚と聴覚を借りているからよ。それが、私のスペ☆ギフだから」
天宮さんは肩の豆子の頭を撫でた。
「この豆子の小さな目で私は物を見ている。小さな耳で音を聞いている。そうすることで、普通の人と変わらない日常生活を送れているの」
そういうことだったのかと僕は理解した。
学校でも外でもバイト先でも、常に豆子を肩に乗せていたのも頷ける。天宮さんは豆子がいなけれは、見ることも聞くことも出来ないのだから。きっとそれはもう周知の事実なのだろう。
教室での会話で智歌さん達が口ごもったのは、障害が関わっているからだ。確かに、他人の口からは説明しづらいものがる。
それにしても、肩に乗ったフェレットの目で物を見ながら生活するのは大変じゃないかと思った。
見上げれば自分の顔すら見えてしまうのだ。想像しただけでも違和感が拭えない。
「よく普通に生活できるねって思ってる?」
僕の心を見透かしたのか、天宮さんはは少しだけ笑って言う。
「高倉君とは逆で、私は人よりも早くスペ☆ギフが覚醒したの。それもかなり早くに。確か小学校三年の時よ。だから、動物の視覚や聴覚を借りて生活しているのにすっかり慣れっこって訳なの」
ただねと、天宮さんは付け加える。
「私自身の目線には苦労しているの。注意はしてるんだけど、実際に見てるものとは違う方向に向けてたりすることもあるから。いわゆる、やぶ睨みって状態ね。だからそれを誤魔化すためにこの伊達眼鏡をかけているの」
一通りの説明を終えてから、天宮さんは急に真面目な顔になる。
「遅くなってしまったけど、ちゃんと謝らせて。高倉君、本当にごめんなさい」
深々と僕に頭を下げる。
「えっ、何が?」
「ずっと、あなたを誤解していたことよ」
天宮さんは申し訳なさそうな顔で話を続けた。
「管理委員である私は、三浦先生からあなたのスペ☆ギフがどんなものかを聞いていたの。三浦先生は大丈夫だって言っていたけど内容が内容だったから心配になって、インターネットで調べてみたのよ」
「あれ? でも、スペ☆ギフ覚醒者のことはネットニュースにだって流れないんじゃ?」
「ええ、そうよ。でも、ゴシップ記事のサイトになら普通に載るの。もちろん、本名や場所のことなんかはぼかしてだけどね。そして、あなたのことについて書かれた記事を私は見つけたの。その記事によると……」
何故か言いづらそうに、天宮さんはもごもごと口ごもった。
それでも、いつまでもそうしていられないと思ったのだろう。軽く深呼吸をしてから記事の内容を口にする。
「あなたはそのスペ☆ギフを使って学校中の女子を虜にしていたんだって。自分を王様と呼ばせて、学校をハーレムにしてたんだって。さらに気に入った女子には、メイド服を着せて自分専属のメイドにしてありとあらゆる辱めを」
「ななな!?」
そのあまりもの内容に、聞いている僕の方が恥ずかしくなってしまう。もちろんそんなことはしていない。しているはずがない。
「ぼ、僕はそんなことしてないよ!」
「ええ、そうね。でも、私はすっかりその内容を信じてしまったのよ。だから、あなたを軽蔑していたし冷たく当たった。少しは疑問もあったのよ。果たしてそんなことをした覚醒者がセンター送りにならずにスペ☆ギフ学園に来られるのかって。でも、特能対策庁の女性職員を虜にして言うことを聞かせたんんじゃないかとか、余計な想像をしてしまったの。本当、どうかしていたわ私」
心底後悔している様子で、天宮さんがうなだれる。
不可解だった天宮さんの僕に対する態度、その真相が明らかとなる。
同時に、
《望む学園生活は送らせない》
《王様になろうと思うな》
《また自分専属のメイドでも調達しに来たの?》
と言う、意味不明の言葉の数々の意味も理解した。王様と言うのは、ハーレムの王様のことだったのだ。思っていた以上にスケールが大きかった。
「不快な思いをさせてしまったわ。本当にごめんなさい、高倉君」
天宮さんがもう一度僕に謝る。僕は何だか恐縮してしまう。
「い、いいんだって。僕のスペ☆ギフを知ったら誰だって不安になって当然だし。嘘だらけのゴシップ記事が悪いんだよ」
実際、それは僕の本心だった。天宮さんのことを少しも怒ってはいなかった。むしろ眼鏡を届けてくれたことで感謝しているぐらいだった。
僕は顔を綻ばせ言う。
「誤解が解けて本当に良かったよ。でも、どうして急に?」
「お店で私を目を合わせた時、あなたはごめんなさいって言ったでしょ? おかしいなって思ったのはその時が最初。でも、誤解を払拭できた一番の理由は、あなたが聞かせてくれた話よ」
「えっ、僕が話を?」
僕は『はてっ?』と思った。砂浜で天宮さんと会ってから、僕は大して話をしていない。どちらかと言えばずっと利き手に回っていたはずだ。
困惑する僕に、天宮さんはクスリと笑い言う。
「聞かせてくれたでしょ? スペ☆ギフなんて欲しくなかった。普通の高校生活を送りたかった。きっと自分はセンター送りにされるって話を」
「ええっ!?」
僕は驚きの声を上げる。何故ならそれは、僕が天宮さんのフェレット、豆子に語った内容だからだ。
「私のスペ☆ギフに関して説明不足だったみたい。こうやって肩に乗せて目と耳を借りるだけの能力じゃないの。スペ☆ギフネームは、『小動物憑依』。本来は動物の体を乗っ取る能力なの」
「ちょっと待って。それじゃあの時の豆子は?」
「そう、私自身だったのよ」
天宮さんが茶目っ気のある表情を見せる。だけど僕は何だか恥ずかしい気持ちだった。
「何か僕、情けない愚痴をたくさん言っちゃったね」
「気にしないで。おかげで、高倉君の本心が聞けたんだから。あなたがどんな人なのかもよく分かったし。昨日はあんな感じで言えなかったから、今改めて言うわ」
コホンと咳払いをすると、天宮さんは歯切れのいい声で言う。
「S学園島へようこそ。スペ☆ギフ学園へようこそ。そして、2年C組へようこそ」
僕は嬉しかった。
「随分暗くなってきたわ。そろそろ喫茶店に戻りましょ。智歌と智樹君の二人が意味が分からないまま待ってるでしょうし」
「うん」
僕は立ち上がり、天宮さんと一緒に歩き出す。
砂浜から林の中へ。その先の歩道を目指す最中、天宮さんがふと呟いた。
「高倉君は、スペ☆ギフなんてなければ良かったって言ったでしょ? でも、私はそうは思わない。だって、私はスペ☆ギフのおかげでこうやって世界を見て、聞くことができるからから。例えそれが期間限定だったとしてもね」
期間限定。その言葉が意味することは想像するまでもない。
スペ☆ギフは永遠のものではない。いずれ上がりの日は訪れる。もちろん、天宮さんにだって。
(そうなったら、天宮さんは……)
僕は、それ以上深く考えるのを止めた。
それは、あまりにも悲しすぎる現実なのだから。
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