デスらば! ~かわいい死神少女が言い寄ってくるけど、OKしたらオレ、即死亡らしい~

夏のスイカ太郎

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エピソード2 きもだめしの夜に彼女は

7、夢の影響

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 上履きに履き替え廊下を走ったこずえは、教室には向かわなかった。

 そのまま突っ走り、女子更衣室に飛び込む。

 朝の女子更衣室には生徒の姿がなかった。シンと静まり返っている。

 ロッカーに背中を預けると、大きく何度も深呼吸をした。

「ああっ、もう! アタシってばどーしちゃったのよ! いくらあんな夢を見たからって、見たからって」

 困惑をこれもかってくらいに込め、こずえは叫ぶ。

「桔平なんかに、ときめいてるなんて!?」

 昨晩見た夢をこずえは思い浮かべる。
 それは、旧サークル棟でいくら思い出そうとしても蘇らなかった部分。

 桔平と共に学校に潜入し、最後の目的地である音楽室の扉を開いた直後から始まった夢だった。

 ★

 音楽室に入った途端、ひんやりとした空気を肌で感じる。

 真夏の校舎、これまでが蒸し暑かっただけに不思議だった。

「ねえ、何かここ寒くない?」

 こずえが呟く。

「こずえもか。オレもそう思ってたんだ」

 桔平がブルルって身震いした。

「音楽室にクーラーなんてなかったよな?」

 考えても答えは出ない。

「ま、いいわ。とにかく写真を撮っちゃお」

「ああ」

 懐中電灯で足元を照らしながら桔平は少し前進する。それから光の帯を前へと向けた。

 照らし出されたのは一台のグランドピアノだった。これまで使っていたピアノが壊れてしまったとかで、先週新しく搬入されたものだ。新しくとは言っても、音楽の先生の話によると中古のピアノらしい。

 でも、黒い光沢を放つそれは新品同然だった。

 桔平はポケットから取り出した使い捨てカメラのフラッシュボタンをカチャカチャと連打した。本当はただ押しているだけでいいのだけど、ついつい連打してしまう。その方が早い気がしたのだ。

「ねえ、桔平。まだなの」

 桔平のすぐ後ろにやって来たこずえが急かすように言う。

「待ってろって。もうちょっとだから」

 桔平の言葉どおり、まもなくしてフラッシュ可能を知らせるランプが点灯する。

「よし、撮るぞ」

 カメラをピアノに向け、桔平はボタンを押した。バシュンという音と共にフラッシュがたかれる。

 そして二人は見てしまった。

 一瞬ほとばしる光の中、グランドピアノの鍵盤の前に座る人影をだ。

 赤いドレスのような服を着た、髪の長い女性だった。

「ききき、桔平! 今の!?」

 こずえが上ずった声を上げる。

「!?」

 確認をするために懐中電灯の光を向ける。だけどそこには何もない。

「見間違い…だよね? だよね!?」

 泣きそうな顔でこずえが桔平に尋ねる。

「ああ、そうだよ。見間違いに違ってる」

 自分に言い聞かせるように桔平は言う。

「さ、さあ帰ろう。もうこれでコンプリートしたんだから」

 ピアノに背中を向け、音楽室の出入り口へと向かおうとする二人。

 その背後で、無数の鍵盤が一度に叩かれる不協和音が響き渡った。

 音の衝撃に二人は体をビクンとさせた。前進が硬直し身動きが取れなくなってしまう。

『これから、わたしの演奏会が始まるの』

 粘っこい声が響く。

『まさか、帰るなんて言わないわよね。最後まで聞いていってくれるのよね。ねえ? ねえ? ねえ?』

「うわあああああああ!!!」

「きゃあああああああ!!!」

 桔平とこずえは同時に悲鳴を上げると走り出した。音楽室を飛び出し廊下を走る。

『待って! 待ってよ! ねえ、待ちなさい!!!』

 声が追いかけてくる。

 転げ落ちそうな勢いで二人は怪談を駆け下りた。

二人とも足は速い方だし『階段早駆け下り競争』なんかをしていたこともあるからあっと言う間に一階に到着する。

もうここまで来てしまえば、どの窓からも逃げ出すことができる。だけど入ってきた図工室はすぐそこだし引き戸は開いたままだ。窓の鍵だって開いているし、そこから外に出るのが一番早いだろう。

 二人は図工室に飛び込もうとする…が…。

『待ちなさいって言ってるのよ!!!』

 ヒステリックな声が響くのと同時に、開いていた図工室の引き戸がピシャリと音を立てしまった。

「くそっ!」

 桔平が力を込めるも、ビクともしない。

『逃がさないわよ』

 天井の蛍光灯が二、三度瞬きをしてから点灯した。

 そして、一人の女性が廊下を歩いてこちらにやって来る。

 音楽室で目撃したあの女性だということはすぐに分かった。長い髪の毛、ドレスのように華やかな服。

 だけど、一つだけ勘違いしていたことがあった。

 ドレスは赤ではなく、純白だった。赤だと思ったのは、べっとりとした血がドレスの半分以上を染め上げていたからだった。

 女性がこの世の存在でないことは、うっすらとぼやけた輪郭からも明らかだった。

 お化け、幽霊、悪霊、そういった類のものに間違いない。

 恐怖で全身をガチガチに強張らせている二人に、女性は猫なで声で言う。

『逃げるなんて、困った子ね。わたし子供向けの楽しい曲だってたくさん弾けるのに』

 そうだわと、女性は呟いた。

『あなた達を、わたしと同じところに連れてってあげればいいのよ。暗くて静かなあの世界へ。あそこなら誰にも邪魔をされずずっとわたしの演奏を聴くことが できれば。そう、永遠にね』

 女性の言っている世界というのが、『死後の世界』ということは簡単に想像がついた。

『さあ、一緒に行きましょう』

 女性がゆっくりと歩み寄ってくる。

 怖くて怖くてたまらなくて、こずえが桔平の腕を強く握った。

「桔平、どうしよ。このままじゃアタシ達、アタシ達あの世に連れてかれちゃうよ」

 泣きそうな声でこずえが言う。
 そんなこずえを横目で見てから、桔平は強く瞳を閉じた。ゴクリと唾を飲み込むと、堂々と言い放つ。

「だったら、だったらオレだけを連れて行けよ!」

『えっ!?』

「オレが、オレがずっとあんたのピアノを聴くよ! だから、こずえだけは帰してやってくれよ!」

「ちょっ、桔平。何言ってるのよ!」

 慌てるこずえに、桔平は告げる。

「いいんだよ、これで。この探検をしようって言い出したのはオレなんだし、オレが責任を取らなくっちゃ。それに、それに」

 桔平は大きく息を吸い込むと、力強く叫んだ。

「こずえは女の子だから! オレが守らなくちゃいけないんだ!!!」

「桔平…」

『素適な申し出だけれども、駄目よ。観客は多ければ多いほどいいんだから』

 女性がぐふぐふと笑う。

『だから、二人とも連れていくわ!!!』
 女性が二人に襲いかかろうとしたその時だった。背後から女性の体が斜めに切り裂かれる。

『イヤアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 断末魔の悲鳴を上げ、女性の姿が消えうせる。その中から現れたピンク色の玉のようなものが音もなく上昇していった。

消えた女性の後ろには黒い服を着た長身の男が立っていた。フードをかぶり顔は見えない。

 その手に握られているのは巨大な鎌だった。

「まいったな、目撃者か」

 男がため息をつく。

「わたしが一緒で良かったでしょ?」

 現れたのは、同じような黒い格好をした女性だ。長身でグラマラスな大人の女性だ。

「相手はかなり活発な死拒魂だし、人間に目撃される可能性も大きかったわ。何も理由なく私が派遣されてきてたわけじゃないのよ」

「ああ、そうみたいだな」

 男が肩を竦める。

「それじゃあ、収拾課のお手並み拝見と行こうかな」

「ええ、任せておいて」

 黒い服の女性が、桔平とこずえの前へとやって来た。

 にこやかに語りかける。

「二人とも怖かったでしょう?」

「お、お姉さん達は?」

 こずえがかすれた声で尋ねる。

「あ、わたし達? そうね、どうせ封じてしまうんだから教えてあげてもいいわね」

 そう前置きをしてから、黒い服の女性は言った。

「わたし達は、死神よ。とは言っても、あなた達の魂を奪おうなんて思っていないから安心してね。死拒魂って言うちょっと困った魂がいて、それを追いかけていたの。さっきあなた達を襲っていたアレよ。音楽室のピアノにとり憑いてたのよ。でももう大丈夫、あそこにいる死神のお兄さんが鎌でやっつけちゃったから」

「やっつけたの?」

 桔平が確かめるように尋ねる。

「ええ、間違いないわ。だから安心して」

「そう…か」

 そう呟いた直後、桔平は崩れるようにその場にしゃがみこみぐったりとする。

「よっぽど怖かったのね。でも、女の子を守るために勇敢に立ち向かったんだからエラいわ」

 死神の女性が目を細める。

「さてと、それじゃ始めましょうか」

 桔平の前にしゃがむと、黒い服の女性はほっそりとした手を伸ばした。桔平の額に手を当てる。

「き、桔平に何するの!?」

 警戒するようにこずえに、死神の女性は言った。

「怖いお化けに追いかけられたことを思い出して夜トイレに行けなくなったら大変でしょ。だからそのことを思い出せないようにするの」

 死神の女性が何やら呪文のようなものを唱え始める。やがてそれも終了した。

「さ、次はあなたの番よ」 

こずえの額に指が当てられる。

「アタシ、全部忘れちゃうんだね」

「厳密に言えば忘れるとは違うのだけど、まあそんなところよ」

 死神の女性は、少し困ったような顔で言った。

「このままでいいなんて言わないでね。こうしないとお姉さんが怒られちゃうから」

「ううん、そんなこと言わないけど」

「ありがとう、それじゃ瞳を閉じて。大丈夫よ、痛くも何ともないから」

 言われるがままにこずえは瞳を閉じた。呪文が聞こえてくる。心地よくさえ感じた。

(全部、忘れちゃうんだな)

 こんなにすごい体験をしたのに誰にも自慢できないのは少し残念に感じる。だけど、死神の女性の言うとおり、思い出してトイレに行けなくなるのも嫌だった。

 正直、そうなる可能性があるぐらい怖い体験だった。

 だけど、忘れてしまいたくないものもあった。

『こずえは女の子だから! オレが守らなくちゃいけないんだ!!!』

 桔平の言葉が蘇る。

 あまりに活発で勇ましすぎて、普段あまり女の子として扱われることのないこずえ。

 だからこそ、桔平のこの言葉は彼女にとって衝撃的だった。

(桔平のクセに生意気言って!)

 という反発心もないわけではないが、それとは別の感情が湧き上がっている。

 嬉しいような、恥ずかしいような、何とも言えない気持ちだった。

(桔平が格好良かったことは、覚えていたい…な)

 薄れ行く意識の中、こずえはそんなことを思ったのだった。

 ★

 夢を思い出していたせいだろう。またこずえは顔がポッポと熱くなるのを感じた。

「あああっ、もう! だからアタシってば何考えてるのよ!」


 こずえが声を荒げた。
「あんなのはただの夢! 本当にあったことじゃない! そんなものに流されて桔平のこと好きになるなんてどうかしてるわ! 不自然よ! 異常よ!」

 更衣室でわめき立てる。

「あいつはただの幼馴染! ただそれだけなんだから!」

 自分自身に言い聞かせるかのように、こずえはそう宣言したのだった。


 特待死者 今市桔平の死の執行期限まで
残り38週。
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