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監視対象だから
しおりを挟む階段を駆け上がり、倉之助は最上階である五階へと到着する。廊下を進んですぐの生徒会室の前へと立った。
「失礼します!」
コンコンコンと小刻みなノックを響かせてから、倉之助は引き戸を開け中へと足を踏み入れる。
生徒会室には、咲だけでなく他の生徒会のメンバーも集まっていた。鬼、人、それぞれの生徒が入り混じっている。
ランチミーティングでもしていた様子で、皆で長机を囲んでいた。
「あ、高梨君。わざわざ来てくれたのね」
咲が嬉しそうに立ち上がる。
「丁度良かったわ。皆に紹介するわね。彼が新副会長の高梨倉之助君よ」
「ああ、どこかで見たことがあると思ったら昨日の朝の」
「よろしく。仲良くやろうね」
「男メンバーが増えるのか。嬉しいな」
暖かく倉之助を迎えてくれる。
「でも、会長。副会長はもういらないって言ってたのに一体どういう心境の変化なんですか?」
「よっぽどやり手を見つけたってことですか? ちょっと楽しみだわ」
好き勝手言ってくれている。
「さ、高梨君。席にどうぞ」
咲に促されるも、倉之助はその場に立ったままだった。
「む、無理です」
掠れた声を搾り出す。
「ぼ、僕、これまで図書委員の副委員長ぐらいしかやったことがありません。それも小学生の時です。高校の副会長なんて絶対無理です。だから、だから…」
辞退を宣言しようとする倉之助に、咲がそっと歩み寄る。
「少し、外で話をしましょ」
生徒会室を後にする。スタスタと歩いていく咲の後ろを倉之助は黙って着いていく。
廊下を少し歩き、上へと続く狭く薄暗い階段を上る。その先にあったのは重そうな鉄の扉。この先は校舎の屋上となっている。
基本的に生徒の屋上へと立ち入りは禁止されている。ただし、生徒会だけは別だ。咲はポケットから鍵束を取り出すと扉の鍵を開く。
二人は屋上へと出た。
簡素で殺風景な屋上だ。春の柔らかな日差しが降り注いでいる。
「ここなら誰にも聞かれる心配はないわ」
少し屋上を進んでから、咲はクルリと向き直った。
「悪いけど、高梨君には副会長を引き受けてもらわないと困るのよ。すぐ近くにいてくれないと、私が監視できないから」
「えっ、監視?」
キョトンとする倉之助に、咲は説明をする。
「高梨君、貴方は私の最大の秘密を知ってしまった。それは赤沢家のスキャンダルでもあるわ。もしこれがうちの分家筋に知られたら最後、連中はこれを理由にして本家であるうちを追い落とそうとするはずよ。そんなことになったら、この街の市政にも影響が出かねない。大騒ぎになるわ。貴方が知ってしまった秘密は、それぐらい重大なものなのよ」
思った以上のスケールの大きさだった。
「貴方は確かに秘密を守ってくれると言ったわ。でも、果たしてその言葉を信じていいものかどうか私は悩んでいるの。ただのその場しのぎだったのかもしれないしね」
「だから…監視ですか?」
「ええ、そうよ」
咲が頷く。
「貴方が信用に足る人物かどうか、私は見極める必要があるのよ」
昨日、咲に『秘密を守る』と誓ったのは、決してその場しのぎ等ではない。正真正銘の本心だった。
それを疑われているのだから、少し腹立たしいような寂しいような、そんな気持ちになってしまう。
「でも、だからって副会長だなんて」
「あら、副会長の席は都合がいいのよ。貴方と私が自然と一緒にいられるし。楽に監視が出来るわ。貴方が信用に足る人物だって分かった時点で解放してあげる。それまでの辛抱よ」
咲がニッコリ微笑み言う。
「そういうわけだから、引き受けてくれるわよね?」
「…………」
倉之助は返事をしなかった。監視されるために副会長になれだなんて言われ、簡単に納得出来るはずがない。
これならまだ、『高梨君には秘められたリーダーシップがあるような気がするの。それを生徒会で発揮してみない?』と言われた方がはるかにマシだった。(まあ、言われたところで倉之助は全力否定していただろうが)
倉之助がしばらく黙っていると、咲が口を開いた。
「貴方がこの話を了解してくれないと、少し困ったことになってしまうのよ」
「困ったこと?」
「ええ」
咲はふうとため息をつき続ける。
「さすがの私も、家族に相談をするしかなくなるわ。私が人だと言うことは赤沢本家の絶対の秘密。それを知ってしまった貴方を、家長であるおばあ様が放っておいてくれるとは思えないの」
歯切れ悪く、咲は続ける。
「おばあ様は、純血の鬼の家系でもある赤沢家に相当な誇りとプライドを持っているわ。それを脅かすような存在を決して許しはしない。それに、まだまだ古い考えを持った鬼だから、人間を下に見ている部分があるのよ。分かりやすく言えば、人間相手なら多少の無茶はしてもいいって思っているような」
猛烈に不安をかき立てられる。
「高梨君から秘密が洩れるのを阻止するために、何らかの行動を取るはずだわ。さすがに命を奪うまではいかないと思うけれど、鬼の家に伝わる秘薬で高梨君の記憶を全部奪ってしまったり。病院を動かして高梨君を伝染病患者に仕立て上げて隔離したり。無実の罪を着せて高梨君を収監させてしまうなんてことも考えられるわ」
そんな馬鹿な! と、笑い飛ばすことは出来なかった。歴史のある鬼の家系には、不可思議な薬の製法が伝わっているという話は倉之助も聞いたことがあった。
それに、この街の偉い人の大体が赤沢家の親戚筋だと言う話も昨日、耕一に聞いたばかりだった。本家の家長ともなれば、警察や病院を動かすことは容易いのだろう。
「そんな…」
倉之助は青ざめる。
「私も、高梨君をそんな目には合わせたくないの。だから、引き受けてちょうだい」
熱心な瞳で懇願される。
当然、倉之助は頷くしかなかった。
「わ、分かりました」
「ああ、良かったわ」
これまでの深刻さが嘘のような笑顔で咲が喜びの声を漏らす。
「じゃあ、生徒会室に戻りましょ。改めてみんなを紹介するから」
歩き出す咲に、倉之助は大人しく従うしかなかったのだった。
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