紀尾井坂ノスタルジック

涼寺みすゞ

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芳町 ②

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 内務省というのは、初代内務卿の大久保利通から始まり、木戸孝允、伊藤博文、山縣有朋など錚々たる顔触れが揃う。からと呼び名が変わっても、長州薩摩出身が占めていた。
 殆どの行政を扱い、警察までも支配下に置く為、官庁の中の官庁と呼ばれる場所なのだから、大臣が大物なのは当然だ。
 そして、目の前でボケッと魚を突っついている清浦は、叩き上げで登り詰めてきた男だ。アホじゃないというのも、十分理解していた。
 大臣、大輔、少輔、大丞、少丞、六等出仕、七等出仕、大録、八等出仕、権大録、九等出仕……と、この九等出仕からと光留は、聞いていた。

「大したものですね」
「ん?何がだい?」

「いえ、こちらの話」

 清浦は、内務省の重職とされる警保局長を辞任してからの欧州視察だった。
 おそらく、今後は大臣などになっていくのだろう。そんなことを考えていると、黙々と食していた近衛が箸を置いた。

「少々、気になっていたのですが清浦さん、ご挨拶を受けると言われましたが何故、先方が先にいないのです?無礼でしょう」
「言われてみれば……」

 内務省の者に挨拶をしたいのならば、先に待つのが礼儀であると思い至った。

「近君、あらかた食ったから帰ろうと思っているだろう?」
「バレました?その通りです」

「まあ、待て待て。偶然を装いたいんだとさ。あれ、あれ?みたいな感じに」
「……それなら光留さん、紀尾井坂方面の話をして下さい」

「何故、僕が暇潰しを……」
「いいじゃありませんか。汽船で語ったように、1年前の答え合わせですよ」

「答えなんて、まだ早すぎますよ」
「それじゃ、何の話をしたっていうのです。てっきり、結婚してくださいからお断りコースと思っていたのに」

「……ああ、もう。世間話ですよ」
「どんな」

「食い付きますね、近さん。帰り際に昨今話題だという狼藉者の話をしました」
「「狼藉者? 」」

 清浦と近衛の声が揃ったのに、光留は大きく頷いてみせた。

「ほら、駅で清浦さんが仰ってた白袴の男の話です」
「ああ、私は狼藉者と言ったっけ?」

「いえ、車夫がそう言いました」
「白袴って、全員白袴で徒党を組んでいる学生集団のことですか?」

「あれ?近さんも、ご存じで?」
「ええ、新聞でみました。その話を晃子嬢と?」

「ええ、恐ろしい世の中ですねと」

 光留は箸を取り、魚の身をほぐし口元へ運ぶ――と、黙り見つめてくる2人と視線がぶつかった。不思議そうな、いや怪訝な……と、いった方がしっくりくる眼差しに、光留は「何です?」と尋ねようとしたのだが、声を出したのは、清浦が先だった。

「その話、詳しく聞かせてくれないか?」

 何故か、2人して至極真面目な顔つきをしている。先程までの騒々しい声は消え、辺りには微かな三味線の音。
 清浦が、昨年まで警保局長だったことを思えば、狼藉者を捕らえられない警察に何か思うことがあるのかも知れないと
「大したことではないのですが……」と、尾井坂男爵邸での一幕を語りだした。
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