神楽坂gimmick

涼寺みすゞ

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ねつこ草

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 桔梗ききょうの言葉には、いくつもの不可解な点があった。聞き覚えがあるのだ、断片的に。
 それでいて確実に、別のひとの唇から放たれた言葉だ。これが心が震えた原因だろう。
 決定付けたのは、ご友人の近衛このえ様――
 惟前たださきは、久我くが侯爵家に少々列なる者、司法省へ出仕している――これだけしか自身の情報は口にしていない。

「桔梗は言ったよ、話を都合の良い方へ解釈することはあると……。君達の色恋の過程を匂わせているのだろう? 」
「辛いなぁ。そうか……桔梗は、僕と関係ないとでも言ったか? 」
「ああ、色恋の関係ではないと」
「成る程、良い方へ……僕が勝手に解釈したのか」
「聞き捨てならないのが、私のことをご友人の近衛様と言った。君との関係など話していないのにだ」
「待て、悪いが引き出しから写真立てを出してくれないか? 」

 言われるままに机の引き出しを開けると、ハンカチーフに包まれた物があった。

「これか?」
「それそれ」

 挙げて見せた物に軽快な返答を得、手渡した。

「惟前君、君は、男女の関係で何をもってして恋仲と言うと思う? 」
「それは、互いに想いが通じた場合だろう? 」
「どうやって通じたとわかる? 」
「え? 」

 渡された物を布団に置き、左手でハンカチーフを払う。小刻みに肩を揺らす光雅てるまさは、悪戯を思いついた子供のようだ。

「ホラ、難しいだろう? 『君を愛しています』『わたくしも』となった翌日、気が変わった場合は? 男は通じたと思い、女は違うとならないか? 」
「適当すぎる。え、まさか……桔梗とそんなことが? 」

 人生を左右する告白を、軽く返されたら堪らない。詰まる言葉の惟前に、目の前の学友は笑うのみで、小さな額をハンカチーフから取り出した。
 二つのうちの一つを付き合わす膝の前に置く。
 
「これは……」
「皆、若いなぁ、ハ年? 九年前か? 」
「……八年だろう」
「そうだった。君が、司法省法学校に入学する辺りのものか。女学生の間で流行っていたんだよなぁ」
「……そうだったな」

 小さな額に入る写真には、記憶の中に棲む女学生が、そのままの姿で収まっていた。
 おっとりとした顔立ちに、上品な微笑みを浮かべるのは、前田衍子まえだ さわこ
 男女の垣根を超えた、かけがえのない友だ。
 魂が消え去っても記憶は消えることなく又、写真に色はないが、姿は鮮明に浮かび上がる。

「白地に小菊をあしらった小振袖に紫袴姿、そして椅子は、真逆の真紅だった」
「惟前君、しっかり覚えているね」

 痛々しい腕を伸ばし、惟前の手に写真を乗せると、微かに喉を鳴らした。

「覚えているか? さわちゃんは、こう言ったんだよ。少しでも美人に撮ってねって……うん、よく撮れている。僕は、いつもそう言うんだ。今だにね 」
「……」
「君は? たまには、さわちゃんの顔を見ているか? 」
「それが無くなったんだ。欧州から帰国したら消えていた」
「捨てられたのか? 」

 意外だと、目を丸くする光雅に首を振る。

「きちんと片付けて出国したんだが、誰も知らないと」
「おかしな事もあるもんだなぁ。まぁ、何処かから出てくるかもな……で、さわちゃんの言葉に店主が何と言ったか覚えてる? 」
「もちろん『お嬢様は、白地小菊が良く映えるお顔立ちでいらっしゃいます、お綺麗に写りますよ。ねぇ、お二方』 」
「さすが司法省の近衛様! 記憶力がよろしくてよ! ……ここにさわちゃんが居たら、きっとこう言うよ。正解だ」

 ケラケラと笑う光雅は、手元に残ったもう一つの額を手にし、懐かしげに目を細める。
 桔梗を追いかけ回して、酷い目にあったというのに、その目は恋しいひとを見つめる眼差しだ。今だに、衍子を忘れられないのだろうか?
 そんな疑問も過ぎるが、知りたいのはそこではない。

「惟前君が、ハッキリ覚えていて助かったよ。もう一枚、さわちゃんは写真を撮った。僕らの後に学友と……覚えているか? 」
「ああ、一緒にいた女学生だな? 」

 答えを聞くと包帯が巻かれた腕は、見事な銀装飾の額を差し出した。受取り眺めると、そこには紫衛門の女学生が二人、向かい合う形で無邪気な笑みを浮かべている。

「これは……」

 マガレイトにリボン。どれを取ってしても若々しいが、面影には見覚えがあった。
 衍子と手を取り合う女学生は、芸者の桔梗、その人だ。
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