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神楽坂gimmick
見惚れる以前に
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「ただ……光雅君が戻らなかったら宮津子さん、養子を迎えることになるんですか? 」
「……さぁ、どうでしょう」
「あれ? 浮かない顔ですね、来てがありませんか? 」
「なんですって⁉︎ 」
怒気を含む声に光留は笑い、義前は「まあ、まあ」と宥める。
「宮ちゃん、矢絣も似合うけど緋色のバッスルとても似合っていたよ。皆が見惚れていたものなぁ。養子を迎えるとなると、求婚状が山のように届くよ」
「……皆が見惚れても嬉しくはありません」
機嫌を戻そうとする義前には悪いが、見惚れて欲しいのは他にいる。
例え、百人に綺麗だと思われても意味がない。
無意識に漏れた言葉に、食いついたのは光留だ。
「あれ? 誰が見惚れたらいいんでしょうかね? もしかして……」
からかう色が滲む声に、そっぽを向いていた白い顔が振り向くのは当然で。
険しい眼差しは、口ほどに物を言うが光留は、従容として動じることもない。
「緋色のドレスは、僕も素敵だと思いましたよ。選んだ者の趣味が大変良いと。それほど良くお似合いでした。ただ貴女、以前から自由結婚など言っていましたが、今も? 」
痛いところを突いてきたと、言葉に詰まる。
跡継ぎがいなくなった久我家は、婿養子を迎える必要があるのだから、自由結婚などと言っている場合ではないし、許されるわけもない。
「……ありがとう。ドレスは、惟前さんです。ご本人を誉めて差し上げて。結婚は……自由と申しましたが、冗談です。あれは兄の口癖でした。自由結婚をすると……私も、そうできれば良いなと思っていただけで、本気ではありません……」
二人が顔を見合わせているのは、言葉を継ぐほど、歯切れが悪くなっているからだろう。
宮津子も自覚していた。
そもそも自由結婚、外国に行ってみたいというのは、光雅が言っていたことだ。惟前と衍子を含めた三人の語らいから飛び出した言葉だろう。
その場に入ることの出来ない宮津子は、自分の言葉として発することで、同等の立場にでもなった気がしていたのかもしれない。
今となっては、どうでもいい話だ。自由結婚も外国も。
「……私、今日は失礼しようかしら。遅くなってしまいますね」
「宮ちゃん。心配事なら、早めに相談するに限るよ? 特に縁談は、相手に話がいってからでは遅い」
「あ! それは確かに! 貴女の場合は、断れないでしょうからね。ほら、意中の君の名前を言ってください。力になりますよ」
「結構よ」
文句を言う気力もなくなったと、席を立つ。
見惚れて欲しくても、見もしないのだから話にならないし、恥を忍んで想いの丈をしたためた手紙には、見え透いた嘘の返答を寄越すのだから、脈などない。
―― ああ、そうだわ。あの返信は、嫌だと言いづらくて、当たり障りのない嘘を……。
結論が出てしまった。怒りに任せて問いただそうとやって来たが、とんだ恥の上塗りだ。
情けなくて涙が滲みそうになるのを堪え、襖を開けると、俯く視界に黒く伸びる足が入り込んだ。
「ごきげんよう、宮津子さん」
「……さぁ、どうでしょう」
「あれ? 浮かない顔ですね、来てがありませんか? 」
「なんですって⁉︎ 」
怒気を含む声に光留は笑い、義前は「まあ、まあ」と宥める。
「宮ちゃん、矢絣も似合うけど緋色のバッスルとても似合っていたよ。皆が見惚れていたものなぁ。養子を迎えるとなると、求婚状が山のように届くよ」
「……皆が見惚れても嬉しくはありません」
機嫌を戻そうとする義前には悪いが、見惚れて欲しいのは他にいる。
例え、百人に綺麗だと思われても意味がない。
無意識に漏れた言葉に、食いついたのは光留だ。
「あれ? 誰が見惚れたらいいんでしょうかね? もしかして……」
からかう色が滲む声に、そっぽを向いていた白い顔が振り向くのは当然で。
険しい眼差しは、口ほどに物を言うが光留は、従容として動じることもない。
「緋色のドレスは、僕も素敵だと思いましたよ。選んだ者の趣味が大変良いと。それほど良くお似合いでした。ただ貴女、以前から自由結婚など言っていましたが、今も? 」
痛いところを突いてきたと、言葉に詰まる。
跡継ぎがいなくなった久我家は、婿養子を迎える必要があるのだから、自由結婚などと言っている場合ではないし、許されるわけもない。
「……ありがとう。ドレスは、惟前さんです。ご本人を誉めて差し上げて。結婚は……自由と申しましたが、冗談です。あれは兄の口癖でした。自由結婚をすると……私も、そうできれば良いなと思っていただけで、本気ではありません……」
二人が顔を見合わせているのは、言葉を継ぐほど、歯切れが悪くなっているからだろう。
宮津子も自覚していた。
そもそも自由結婚、外国に行ってみたいというのは、光雅が言っていたことだ。惟前と衍子を含めた三人の語らいから飛び出した言葉だろう。
その場に入ることの出来ない宮津子は、自分の言葉として発することで、同等の立場にでもなった気がしていたのかもしれない。
今となっては、どうでもいい話だ。自由結婚も外国も。
「……私、今日は失礼しようかしら。遅くなってしまいますね」
「宮ちゃん。心配事なら、早めに相談するに限るよ? 特に縁談は、相手に話がいってからでは遅い」
「あ! それは確かに! 貴女の場合は、断れないでしょうからね。ほら、意中の君の名前を言ってください。力になりますよ」
「結構よ」
文句を言う気力もなくなったと、席を立つ。
見惚れて欲しくても、見もしないのだから話にならないし、恥を忍んで想いの丈をしたためた手紙には、見え透いた嘘の返答を寄越すのだから、脈などない。
―― ああ、そうだわ。あの返信は、嫌だと言いづらくて、当たり障りのない嘘を……。
結論が出てしまった。怒りに任せて問いただそうとやって来たが、とんだ恥の上塗りだ。
情けなくて涙が滲みそうになるのを堪え、襖を開けると、俯く視界に黒く伸びる足が入り込んだ。
「ごきげんよう、宮津子さん」
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