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神楽坂gimmick
貧乏くじ
しおりを挟む「嘘? 」
惟前は、噛み締めるように呟いた。
「嘘でしょう? 想う人がいるって」
「ああ……はい、嘘です」
悪びれもしない男に脱力した。簡単に認めるのなら、何故嘘をついたのか?
疑問が顔に出たのだろう「ダメでしたか? 」窺う声がかけられた。
「呆れた。私、勇気を振り絞ってお手紙を差し上げたのに」
「ご両親から無理強いされたのでしょう?いえ、わかっています。光雅君が、家を飛び出して廃嫡やむなしと。それならば、気心の知れた私を養子として迎え、光雅君への配慮を得たいといった所でしょう。違いますか? 」
淡々とした声に宮津子は、目を瞬かせた。
「え? まあ……お母様は、そう考えておられるかも」
「ご両親の言いなりは良くありません。光雅君が好き勝手やるのに、貴女が貧乏クジを引くなんて許せないのです」
「貧乏クジだなんて! そんなこと思っておりません! 」
「思っていない? 貴女は、養子を貰いたいのですか? 」
「そういうことではなくて……」
話が噛み合わない。
貴方と結婚したいと言えば、解決するのだろうが、恥じらいが勝る。
もっと違う言い回しがないか?
戸惑う宮津子の様子は、焦りを孕むように見えたのだろう。
「ほら、嘘を言っているのは貴女もだ」
失笑を漏らす惟前は、地面を削る車輪の音を追うように目を逸らした。
「嘘なんて言っておりません」
「あの手紙は? 私をずっと慕っていた? それは幼少の頃でしょう。ずっと? 嘘ですね、好きな男を避け回っていたということですか? 」
「それは……」
窓の外を眺める顔が、ぼんやりとガラスに映る。怒っているわけでも、笑ってるわけでもない淡々とした表情が、虚しく思えた。
何を言えば、振り向いてくれるのか?
さすがに女学生との写真を見て、軽蔑したとは言えない。もっと柔らしい表現はないかと目まぐるしく考えるが、浮かぶ言葉は「穢らわしい」「女好き」など、口にしてしまえば激怒しそうなものばかりだ。
光雅含めた写真を穢らわしいと言うならば、兄もである。
女好きというのは、浮いた噂がない惟前にしてみれば、侮辱と受け取るだろう。
悶々と考え込む宮津子に、そっぽを向いていた目が当てられたのは、そんな時だった。
「ほら、答えられない。お顔が赤いのは図星を指されたからでしょう」
「違います!」
「いいんです、いいんです、別に甘い告白など期待しておりません。ただ、私は貴女が意に沿わぬ形で結婚するのは嫌なのです。あ、着いたようですね」
御者が恭しくドアを開けると、ステップから飛び降りる。さっさと帰りたいと思っているのだろう。宮津子は、ギュッと唇を噛んだ。
それでも、礼儀を弁える男だ。そんな考えなど、おくびにも出さない。
「宮津子さん」
低く撫でる声で名を呼び、手を差し伸べる。
「結構よ」
「この辺りは先日の雨で、ぬかるんでいます」
「良いと言っているでしょう!放っておいて!」
無性に腹が立った。
誤解を解けない自分にも、頭ごなしに畳み掛ける惟前にも。
場を仕切り直さなければ今、どんなに話し合っても、互いの言い分が噛み合うことはないだろう。
フイッ――、栗色の巻き髪が不快を表し、横に流れる。
困り顔で差し伸べられた右手を罵りながら、はたき落としたい位だ。
しかし、結果的にこの考えがいけなかった。
やり切れない感情が、踏み出した足に強い力を与えたのだろう。
目測を誤り、叩きつけるように下ろした草履は、ステップから滑り、大きくバランスを崩した。
「きゃぁ‼︎ 」
「宮津子さん……ッ‼︎ 」
甲高い悲鳴に、咄嗟に腕を伸ばしたのだろうが、互いの指先は虚しく空を切る。
支えもない宮津子の身体は、なす術もなく水田のような地面に落ちた。
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