神楽坂gimmick

涼寺みすゞ

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神楽坂gimmick

perfect

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「近衛さん、柔軟に考えてご覧なさい……ま、独り言と思って」

 惟前の言葉を真似、柔らかい髪を揺らし語る。

「聞いた話です、一人の若様がおりました。大層な名家の流れを汲む人ですが、一番目の若様ではありません。どの家もそうですが、跡取りとして可能性が残るのは 二番目まで。煩く言われることも少なく、伸び伸びと育った三番目の若様は常々、妹が欲しいと考えていたのですが、此ばっかりはね……そんな時、親戚筋に姫様が誕生しました。若様は、大層 喜び可愛がります。姫も懐かないはずもなく、歳月流れて姫が七つになった頃、仲睦まじい二人に意地悪な人が言いました。と。これは、結婚を期に平民となる未来を持つ若様に対しての言葉です。賢い若様が嫌味に気付かないワケありません。そればかりか意地悪な人の言葉は、続きます。姫は、妙なモノを掴まされたと云う意味を込め、と。若様は、姫と合わせていた歩調をズラしてしまいました。平民になっても、一人娘である姫を娶れば 恩恵はあるでしょう。そう思われるのが許せなかったのか? はたまた、別の考えがあったのか……ただ、姫は悲しみました。何度も姿を追い、話しかけますが相手にしてくれません。とうとう、うなだれ若様から距離を置いてしまいました。どう思います? このお話」
「さぁ? どうでも……ただ、話の続きなら知っています。若様は、姫が可愛くて仕方がありませんでした。当然でしょう? 自惚れでもなく姫は、若様が大好きだったんですから。そんな愛しい姫を侮辱する言葉が許せませんでした。上手いことやった――、姫を立身出世の道具のように考えていると 思われたのも許せないことでしたし、貧乏クジを引いたと 自分のせいで姫が笑われる事も辛かった。丁度、帯解きの儀式……ここで離れようと考えるのは、当然でしょう。いっその事、屋敷へ近寄らなければ良かったのです。忙しいと言えば済むものを……若様は、やはり姫が気になったのです。会えば避けるを繰り返す……とうとう、視線が合っても逸らされるようになりました。嫌われたのです、当然ですね」

 聞く者に視線を向けた。
 どうしょうもない吐露を、ダラダラと聞かせる訳にもいかないと思うが、目の前の男は 真っ直ぐな眼差しを向けてくる。

「興味あります? 」

 一応、尋ねた。

of courseもちろん

 光留は、どうぞ――と 手を差しのべた。

「それでは……この頃、法学校へ入学しました。司法省管轄の」

 卒業すれば、官庁へ出仕することが出来るという。その分、大変な所だった。
 御一新から 十数年、赤子のような政府は 全てを一から作ることはない。いち早く諸外国と肩を並べる為に手本とするのは当然で。
 招かれて教壇に立つ外国人が、日本語で授業をするはずもなく少々、語学を学んでいた若様でも大変苦労したという。

「寝る間も惜しみ励んだそうです。何故だかわかります? 」
「箔をつける為ですかね? 若様の学校は、とんでもなく狭き門であったと聞きますので、世話をされるのではなく、官に請われる形が欲しかったのかと……」
perfect完璧

 軽やかな笑い声と共にそう放ち、分厚い洋書をポイっと投げた。板間に叩きつけられた音が虚しく響いたように思えたのは、惟前の表情のせいだろう。

「皮肉なものでこの頃、姫への感情が特別なものだと気付きました。可愛いを馬鹿にされたくない、姫を利用する汚ならしい男と言い放った者を見返したいと、それだけだったのに、実は違ったのです」

 感情とは裏腹に行動は単純で、とても分かり易い。良き家柄の姫様は、十程で嫁ぎ先が決まる場合がある。いざ、話が出た時に待ったをかけることが出来る状況にしておきたいと考えた。それが、八年で卒業の正則科ではなく 三年の速成科を選んだ理由と言う。思い通りに進んだら十八、姫は十一。
 丁度良いと考えていたのだが、誤算があった。一年程で司法省管轄から外れ、帝大に組み込まれたのだ。

 「結局、八年かかりました。いえ……違う、誤算はまだある。すっかり嫌われていたのです、嫌悪感を露にする目付きは、若様には堪えました。ホント……呆れて笑うしかない。そんな時、有難い話が舞い込みました、一年間の欧州視察です。若様は二十三、姫様は十六になっていました。海を渡ってしまえば、誰かのモノになっている可能性があると考えるのは、普通でしょう? 」

 惟前は、意味ありげな眼差しを向け、目の前の男を指差した。同じく欧州視察の一員だった光留が、同様の考えで初恋の令嬢に縁談が舞い込んでも、許可が下りないよう、手を回していたことを指摘しているのだろう。

「若様も考えたんですよ? プライドかなぐり捨て、侯爵の御前で額を畳に擦り付けてでも……しかし、あれだけ嫌われていてはね。縁組を申し出て、気味が悪いと思われでもしたら……無理です」
「それは過去の話ではありませんか姫の本心、知っているんでしょう? 」

 そう言う光留の目は、眇められた。落胆が混ざるのは、ハッキリしない若様への失望だろう。
 それをチラリと視界に収めると、黒髪をかき揚げ夕風に瞼をとじる。微かに漏れたのは後悔の言葉ではなく、失笑だった。
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