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神楽坂gimmick
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「若様なんて止めましょう。私は、一縷の望みを持ち、欧州視察の件を報告しました。おめでとう!と 喜ぶ侯爵夫妻の口からは、ついぞ未来に向けた約束事の話は出ませんでした。この時ばかりは、宮津子さんの視線が逸らされることはなかった。お別れを告げる時、私は尋ねました、お土産は何がいい?と」
答えは、単純なものだったという。
「ご無事ならばそれで――、そうですか――。こんな別れでした」
出立の朝、雨占いのように足を振り上げ、下駄を飛ばす。裏なら一年後も侯爵令嬢で、表ならどこかの夫人。
気休めにやってみた占いは、どちらでもなかったと惟前は笑う。
「下駄が立ったんですよ。幸先が良いとモヤモヤが晴れました。これは余計なことを考えず励めと云う天の言葉でしょう。帰国後、官に乞われ出仕する、そんな男になろうと心に誓いました。それが出来ればもう貧乏クジとは言わせないと」
満足げに笑う惟前を横目に、光留は天を仰ぐ。
「馬鹿馬鹿しい」
言い終わるや否や、ケラケラと愉快露な声を響かせた。
「で? 帰国後こんな状況なのは何故でしょう? 司法省の近衛様」
「何でしょうね? さわちゃんが死んだからかな。共に夢を語らい、追いかけた同志でもある衍子様は、何一つ夢を叶えることが出来なかった。薬石効なくと聞かされた時は、ドッと後悔が押し寄せて潰されそうだった。何か出来ることなかったのかなぁと……」
ポツリ、ポツリと語る惟前の唇は、亡き友の名を口にした。
「欧州を見、さわちゃんの考えに共感したのです。しかし、死んでしまった。思えば何の為にさわちゃんは生を受けたのか。学びの意思は確かにあった。しかし、関係なしに嫁がされた。それが幸せだったならまだいい……知ってます? さわちゃんの夫は、結婚するとすぐ留学したのです。婚礼から 1ヶ月ほどで。それがあるから急いで嫁を迎えたのでしょう。数年留守の夫を婚家で一人待つ、やっと帰って来た夫、懐妊、無事に身二つと思いきゃ、さわちゃんは死んでしまいました。夫婦水入らずの時期は、2年足らず……帰国後、線香を上げに行きましたが、すでに新しい奥様がお出迎えですよ」
うなだれた顔に、どんな心情が浮かんでいるのか伺い知ることは出来なかった。
――が、友の死が 宮津子を拒むことになっているのだろうと、光留は感じた。
「あ~、何だろう? 一生、亡き妻を想えとは言いませんが、1年もたたない内に……。さわちゃんの夢を知っていただけに辛かったのです。それと同時に、想わぬ相手に恋心を抱かれ求婚されたら? 断れないとなったら? 宮津子さんが浮かびました。私は、宮津子さんが大事です。だからこそ不味いと思いました」
衍子の死を聞かされた惟前が、宮津子への求婚の意思を投げ捨てるのは当然の流れともいえた。
善き兄であろうと決意し、用意した土産は 引き出しにし舞い込むと、帰国の挨拶に留める。
ドレスへのアドバイスも深入りすることもなく、輝くシャンデリアの下、華やぐ姿を見かけても声はかけない。どこぞの令息と楽しげに話す様子も眺めるだけ。
「そうこうしている内に、光雅君が女を追いかけ出奔してしまいました。ここで婿養子の話です。いえ、これは当然でしょう、他にご兄弟がいませんから。相手は、私と……まさか嫌われているのに? そう思うのは不思議ではないでしょう? ピンときました。私が一番便利なんですよ」
光雅の学友であり、遠縁である惟前は これ以上ない相手だ。迎えた養子が光雅に理解がなかったら、支援などをしない可能性がある。侯爵夫人は、それを心配したのだろう。
そして、気心知れている惟前ならば安心出来ると。
「そこには宮津子さんの意志がない。私は、学友の中から立派な男を探し、それとなく場を設け、宮津子さんが納得する相手を探してあげたかった。目も合わせたくない男と結婚だなんて可哀想だと……そこに、変な手紙が届いたのです」
「変な? 何です? 」
「驚いて捨ててしまったけど、私を想う内容で求婚しろと。両親に書かされたものと考えました……このように数日前まで嫌われていると本気で思っていたのです。しかし、光留さんの仰る通り、今では互いの感情が一致していると理解しています」
「難解な問題は紐解かれた、あとは模範解答をしてあげるべきですね。それにしても羨ましい」
羨む言葉を妙に思い、光留を振り返った。普段と代わりない優美な微笑を浮かべる唇が、羨望の理由を口にする。
「愛しい女が、この世に生を受けた時から ずっと見ていられたなんて。そう考えれば僕は、二十年程 損をしていますね。悔しい」
「はは! もし、貴方が晃子さんと昔馴染みなら逆じゃないですか! お年が上の晃子さんに、抱っこされ、お召し替えをしてもらうなんて、丸見え……歯の浮くような口説き文句なんて言えませんよ! 」
光留は、意味ありげに目を細めた。
「いやらしいな、見たんですか? 」
「失敬な……見えたんです」
答えは、単純なものだったという。
「ご無事ならばそれで――、そうですか――。こんな別れでした」
出立の朝、雨占いのように足を振り上げ、下駄を飛ばす。裏なら一年後も侯爵令嬢で、表ならどこかの夫人。
気休めにやってみた占いは、どちらでもなかったと惟前は笑う。
「下駄が立ったんですよ。幸先が良いとモヤモヤが晴れました。これは余計なことを考えず励めと云う天の言葉でしょう。帰国後、官に乞われ出仕する、そんな男になろうと心に誓いました。それが出来ればもう貧乏クジとは言わせないと」
満足げに笑う惟前を横目に、光留は天を仰ぐ。
「馬鹿馬鹿しい」
言い終わるや否や、ケラケラと愉快露な声を響かせた。
「で? 帰国後こんな状況なのは何故でしょう? 司法省の近衛様」
「何でしょうね? さわちゃんが死んだからかな。共に夢を語らい、追いかけた同志でもある衍子様は、何一つ夢を叶えることが出来なかった。薬石効なくと聞かされた時は、ドッと後悔が押し寄せて潰されそうだった。何か出来ることなかったのかなぁと……」
ポツリ、ポツリと語る惟前の唇は、亡き友の名を口にした。
「欧州を見、さわちゃんの考えに共感したのです。しかし、死んでしまった。思えば何の為にさわちゃんは生を受けたのか。学びの意思は確かにあった。しかし、関係なしに嫁がされた。それが幸せだったならまだいい……知ってます? さわちゃんの夫は、結婚するとすぐ留学したのです。婚礼から 1ヶ月ほどで。それがあるから急いで嫁を迎えたのでしょう。数年留守の夫を婚家で一人待つ、やっと帰って来た夫、懐妊、無事に身二つと思いきゃ、さわちゃんは死んでしまいました。夫婦水入らずの時期は、2年足らず……帰国後、線香を上げに行きましたが、すでに新しい奥様がお出迎えですよ」
うなだれた顔に、どんな心情が浮かんでいるのか伺い知ることは出来なかった。
――が、友の死が 宮津子を拒むことになっているのだろうと、光留は感じた。
「あ~、何だろう? 一生、亡き妻を想えとは言いませんが、1年もたたない内に……。さわちゃんの夢を知っていただけに辛かったのです。それと同時に、想わぬ相手に恋心を抱かれ求婚されたら? 断れないとなったら? 宮津子さんが浮かびました。私は、宮津子さんが大事です。だからこそ不味いと思いました」
衍子の死を聞かされた惟前が、宮津子への求婚の意思を投げ捨てるのは当然の流れともいえた。
善き兄であろうと決意し、用意した土産は 引き出しにし舞い込むと、帰国の挨拶に留める。
ドレスへのアドバイスも深入りすることもなく、輝くシャンデリアの下、華やぐ姿を見かけても声はかけない。どこぞの令息と楽しげに話す様子も眺めるだけ。
「そうこうしている内に、光雅君が女を追いかけ出奔してしまいました。ここで婿養子の話です。いえ、これは当然でしょう、他にご兄弟がいませんから。相手は、私と……まさか嫌われているのに? そう思うのは不思議ではないでしょう? ピンときました。私が一番便利なんですよ」
光雅の学友であり、遠縁である惟前は これ以上ない相手だ。迎えた養子が光雅に理解がなかったら、支援などをしない可能性がある。侯爵夫人は、それを心配したのだろう。
そして、気心知れている惟前ならば安心出来ると。
「そこには宮津子さんの意志がない。私は、学友の中から立派な男を探し、それとなく場を設け、宮津子さんが納得する相手を探してあげたかった。目も合わせたくない男と結婚だなんて可哀想だと……そこに、変な手紙が届いたのです」
「変な? 何です? 」
「驚いて捨ててしまったけど、私を想う内容で求婚しろと。両親に書かされたものと考えました……このように数日前まで嫌われていると本気で思っていたのです。しかし、光留さんの仰る通り、今では互いの感情が一致していると理解しています」
「難解な問題は紐解かれた、あとは模範解答をしてあげるべきですね。それにしても羨ましい」
羨む言葉を妙に思い、光留を振り返った。普段と代わりない優美な微笑を浮かべる唇が、羨望の理由を口にする。
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