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神楽坂gimmick
Stay by my side for the rest of my life
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―― 丸め込まれている気がする……。
宮津子は、込み上げる怒りを抑えられないでいた。目の前で涼しげな顔をした男は、軽々しくお慕いしていると言った。
いや、笑いながら言った、これは由々しき事だ。大事な言葉で揶揄うなど男子に有るまじき振る舞いだと。それも、遊びの席でもなければ色街の女でもない侯爵令嬢に。
持っている頭は、人よりも優れているのに大事な言葉で面白がるなんて許せない――
「私を軽々しく見ておられるのね、何処かの遊び女と同等にお考えですか? 流石にまあ!嬉しいわ、近衛様!とはいかなくてよ! 」
「言葉が足りませんでした。遊び女には、もっと上手い事いいますから、本音です」
「今度は、一言多いです!ああ、もう……本気の割には辻褄が合わないのです! 私を無視して、さわちゃんと遊んでいたのに? 衍子様がお亡くなりになったから……いえ、私が惟前さんが良いと言うから仕方なく――といったところでしょう? 慕うとは、義務のようなものでしよう? 」
早口で捲し立てる宮津子に、サッと手をかざす。
「まず誤解を解きましょう。蚊帳の秘め事の夜、ブツブツと言っていましたね? 私が貴女を無視し、さわちゃんと写真を撮ったことを穢らわしいとか」
「あ! あれは……」
今更、否定しても遅いが、何とか取り繕おうとする宮津子を、又もや制する。
「逐一語ると恥ずかしい限りで……ただ、伝えなければならないことはこの際、全て言います。衍子様とは仲の良い学友でした。互いに懸想するような仲でもなく。それ以前に、私には意中の君がいました」
思わぬ流れに、ギョッと目を見張る。
光留でさえ「近衛さんにそんな暇はなかった」と、断言したのに。誰にも悟られない秘密の恋人がいたとは――。
「睨みつけないで貰えませんか? 」
「……元々、こんな目です! 」
「はいはい。その女が、好きで好きで堪りませんでした。相応しくありたいと、法学校へ進学した程です。しかし色々と難しいことが重なりました。恋心を打ち明ける決心もつかず、あちらの意思を確認することもせず。一度違えた歯車は噛み合わず、長い年月止まったままだったのです。それが最近、ぎこちなくもゆっくりと回り始めました」
法学校への入学といえば、やはり衍子ではないのか?と首を捻る。それとも光雅が追った女か?衍子の学友だから、面識はあるはずだ。
「衍子様の死に気落ちしていた頃、その女から相談を受けました。鹿鳴館の夜会で身につけるドレスは、どのような物が良いかと」
凪いだ波のように、静かな笑みを浮かべる唇が紡いだ言葉は、不信感で凝り固まった宮津子の心を簡単に溶かすことに成功した。
「誰よりも美しいと思いました。あの夜会は表向き、良家の令息令嬢の顔合わせのようなものでした。良い人がいれば、宮内省を通して縁談の打診をする……私は、貴女の幸せを願ってダンスの申し入れも、側に寄りお綺麗ですという一言さえも口にしませんでした」
「惟前さん、貴方は立派な人なのに何故、一歩引かれているのです? 」
昔から、惟前様のお嫁様と呼ばれた宮津子にとって、理解できないことだった。
一言、久我家へ申し入れれば簡単に叶う縁談なのに。そう言いたげな顔に、惟前はクスリと笑う。
「自由結婚。私は、貴女の幸せを願っていたのです。邪魔をするのは違います」
「でも、私は貴方のことを……」
「そう。何事も伝えることが大事だったということです。貴女が、衍子様に嫉妬していたなんて、考えもしませんでした」
口元に拳を寄せ、肩を震わせる惟前だが、聞き入る方は、恥ずかしく縮こまるばかりだ。
それでも伝えることが大事と言われれば、気持ちを打ち明けたい。
膝に重ねた指先をギュッと絡め、一言一言噛み締めながら想いを紡ぐ。
「嫉妬深いのです、私。仲良しのさわちゃんは、穢らわしい。惟前さんと立ち話をする女中は、粗忽者。どんな女が横にいても文句をつけるの」
「それでは、貴女が側にいるしかないじゃないですか」
「ええ、そうね。惟前さんも、私をお好きなのでしょう? 」
「Yes, very 」
「もう! わかるように仰って! 」
「接吻しても良いですか?と、言いました 」
「なんですって⁉︎ 」
仰け反る姿に、高らかな笑い声を上げた。
思い悩んで諦めて、血の滲むような努力も泡と化したと思っていたら、泡ではなく真珠と姿を変えるとは、夢のような話だ。
二人の縁は、切れることがないと指に滑らせた金の指輪ごと、両手で包み込んだ。
「ずっと、この手を引いていました。花を摘み、貴女の髪に差す。アレが欲しいと言われれば、探しまわり買い求めたものです。出来うる限り、この手に望む物をのせてあげたいと。だから、貴女に私をあげます……なので、ひとつ我儘を言っても良いですか? 」
「ええ、仰って」
宮津子の目から、溢れる涙をそっと指で拭う惟前は、流暢な異国の言葉を放った。
「Stay by my side for the rest of my life」
宮津子は、込み上げる怒りを抑えられないでいた。目の前で涼しげな顔をした男は、軽々しくお慕いしていると言った。
いや、笑いながら言った、これは由々しき事だ。大事な言葉で揶揄うなど男子に有るまじき振る舞いだと。それも、遊びの席でもなければ色街の女でもない侯爵令嬢に。
持っている頭は、人よりも優れているのに大事な言葉で面白がるなんて許せない――
「私を軽々しく見ておられるのね、何処かの遊び女と同等にお考えですか? 流石にまあ!嬉しいわ、近衛様!とはいかなくてよ! 」
「言葉が足りませんでした。遊び女には、もっと上手い事いいますから、本音です」
「今度は、一言多いです!ああ、もう……本気の割には辻褄が合わないのです! 私を無視して、さわちゃんと遊んでいたのに? 衍子様がお亡くなりになったから……いえ、私が惟前さんが良いと言うから仕方なく――といったところでしょう? 慕うとは、義務のようなものでしよう? 」
早口で捲し立てる宮津子に、サッと手をかざす。
「まず誤解を解きましょう。蚊帳の秘め事の夜、ブツブツと言っていましたね? 私が貴女を無視し、さわちゃんと写真を撮ったことを穢らわしいとか」
「あ! あれは……」
今更、否定しても遅いが、何とか取り繕おうとする宮津子を、又もや制する。
「逐一語ると恥ずかしい限りで……ただ、伝えなければならないことはこの際、全て言います。衍子様とは仲の良い学友でした。互いに懸想するような仲でもなく。それ以前に、私には意中の君がいました」
思わぬ流れに、ギョッと目を見張る。
光留でさえ「近衛さんにそんな暇はなかった」と、断言したのに。誰にも悟られない秘密の恋人がいたとは――。
「睨みつけないで貰えませんか? 」
「……元々、こんな目です! 」
「はいはい。その女が、好きで好きで堪りませんでした。相応しくありたいと、法学校へ進学した程です。しかし色々と難しいことが重なりました。恋心を打ち明ける決心もつかず、あちらの意思を確認することもせず。一度違えた歯車は噛み合わず、長い年月止まったままだったのです。それが最近、ぎこちなくもゆっくりと回り始めました」
法学校への入学といえば、やはり衍子ではないのか?と首を捻る。それとも光雅が追った女か?衍子の学友だから、面識はあるはずだ。
「衍子様の死に気落ちしていた頃、その女から相談を受けました。鹿鳴館の夜会で身につけるドレスは、どのような物が良いかと」
凪いだ波のように、静かな笑みを浮かべる唇が紡いだ言葉は、不信感で凝り固まった宮津子の心を簡単に溶かすことに成功した。
「誰よりも美しいと思いました。あの夜会は表向き、良家の令息令嬢の顔合わせのようなものでした。良い人がいれば、宮内省を通して縁談の打診をする……私は、貴女の幸せを願ってダンスの申し入れも、側に寄りお綺麗ですという一言さえも口にしませんでした」
「惟前さん、貴方は立派な人なのに何故、一歩引かれているのです? 」
昔から、惟前様のお嫁様と呼ばれた宮津子にとって、理解できないことだった。
一言、久我家へ申し入れれば簡単に叶う縁談なのに。そう言いたげな顔に、惟前はクスリと笑う。
「自由結婚。私は、貴女の幸せを願っていたのです。邪魔をするのは違います」
「でも、私は貴方のことを……」
「そう。何事も伝えることが大事だったということです。貴女が、衍子様に嫉妬していたなんて、考えもしませんでした」
口元に拳を寄せ、肩を震わせる惟前だが、聞き入る方は、恥ずかしく縮こまるばかりだ。
それでも伝えることが大事と言われれば、気持ちを打ち明けたい。
膝に重ねた指先をギュッと絡め、一言一言噛み締めながら想いを紡ぐ。
「嫉妬深いのです、私。仲良しのさわちゃんは、穢らわしい。惟前さんと立ち話をする女中は、粗忽者。どんな女が横にいても文句をつけるの」
「それでは、貴女が側にいるしかないじゃないですか」
「ええ、そうね。惟前さんも、私をお好きなのでしょう? 」
「Yes, very 」
「もう! わかるように仰って! 」
「接吻しても良いですか?と、言いました 」
「なんですって⁉︎ 」
仰け反る姿に、高らかな笑い声を上げた。
思い悩んで諦めて、血の滲むような努力も泡と化したと思っていたら、泡ではなく真珠と姿を変えるとは、夢のような話だ。
二人の縁は、切れることがないと指に滑らせた金の指輪ごと、両手で包み込んだ。
「ずっと、この手を引いていました。花を摘み、貴女の髪に差す。アレが欲しいと言われれば、探しまわり買い求めたものです。出来うる限り、この手に望む物をのせてあげたいと。だから、貴女に私をあげます……なので、ひとつ我儘を言っても良いですか? 」
「ええ、仰って」
宮津子の目から、溢れる涙をそっと指で拭う惟前は、流暢な異国の言葉を放った。
「Stay by my side for the rest of my life」
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