きつねうどん、たぬきそば

ユカ子

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きつねうどん、たぬきそば

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 それから、正之助の生活は忙しくなった。朝は早くから進也に学校に呼び出され、生徒会の仕事を手伝わされる。昼休みも返上で、勿論放課後も潰れる。昼寝の時間なんて、もっての外だ。それも、進也が生徒会室の奥にこもって勉強している間、進也に変化して生徒会役員の仕事をしていたので、指示を出すのは進也だったが、実質生徒会を動かしているのは正之助だった。
 生徒会長の割りに雑務が多く、生徒と先生の間を行き来する役目を担っていたので、文字通り正之助は毎度あちらこちらへ走り回されていた。生徒会の仕事は面倒だったが、進也に変化して授業を受けさせられる事はなくなったので、その点は幾分気が楽になった。授業中だと、不測の事態に進也のヘルプを得られないし、自分が授業をサボタージュする事になるからだ。
 以前に進也に変化してサボッて以来、英介には目をつけられていて、何かと話しかけられるようになっていた。進也の目的の人物であるから、それ以上の接触は正之助は避けていた。ただ、意識してちらちら彼を見ていると、すぐに視線を返されて、作り物めいた笑みを向けられる。作り笑いだとあえて自ら示しているようで、その笑顔を見せられると正之助は居心地が悪くなるのだった。

 休み時間、正之助は窓側に体を凭れさせ、純の作ってくれた洋菓子を食べていた。ブラウニーと呼ばれるもので、濃縮なチョコレートの味わいが口の中いっぱいに広がって、正之助に幸せをくれる。
「本当にうまそうに食うなぁ」
感心した声を出したのは、茂樹だった。正之助の後ろの席には進也が座っており、その隣に茂樹の席がある。純は正之助の隣だった。席替えをしてから、正之助は彼らと話をする機会が多くなった。従来の言葉で表現するなら、友達になったと言えるのだが、正之助にその意識は全く無かった。
 進也は正之助の行動を静観している。この所、ずっと一緒に居るので、管理が行き届いているのだ。
「羽戸さんの作るお菓子はどれも美味しいからね」
「調子良い奴。いくら純を狙ったって、あいつには昔から決まった相手がいるんだぜ」
そう言って、茂樹はちらりと進也を見た。進也はその話題は好きではないらしく、止めもしないが、そっぽを向いたままだ。その反応はいつもの事なのか、茂樹は気にしたそぶりも見せず、更に喋る。
「胸の大きさで言えば、純よりB組の馬場の方がデカい。この前、体育の時に組んでさ、強烈だったぞ」
 純が席を外していたせいで、話はそのまま進んでいく。正之助はブラウニーを食べながら、聞き役に徹していた。茂樹の話に近くに座っていた男子生徒も近寄ってきて、話の輪に加わった。
「根津っておっぱい星人なん。俺はオシリーナやね。牛尾のあのむっちりしたケツはたまらんわ」
「そりゃ単なるデブ専だろ」
後ろから別の生徒のツッコミが飛んできた。正之助は会話についていけず、ただ黙って聞いているだけだ。進也も同じく、その場にいるが話に加わる気はないようだった。
「ぽっちゃり言うて!俺、森三までなら抜ける」
「ズリネタの範囲広すぎだろ」
けらけら笑っている周りに釣られて、正之助も笑ってみた。実際、笑いどころは分かっていない。
「そういや、多抜とそっちの話はしたこと無かったよな。どんな女がタイプ?」
突然話を振られ、正之助は口篭る。正直、人間の雌に興味なんぞ無い。
どう答えればいいか分からず、助けを求めて進也を見る。進也は知らん振りしている。
 助けを得られないので、仕方なし、適当に正之助は話を合わせた。
「普通の子かな」
「面白くねー返しすんなよ。ズリネタぐらいあんだろ」
そもそもその単語の意味が正之助には分からない。進也は頼れそうに無く、素直にその単語は何か問うてみたいが、それは非常識な質問になりそうだった。
じれて、茂樹が野次った。
「それとも、普段自分でやってねーの?もしかして・・・・誰かに抜いてもらってんのかぁ?」
にやにや周りがいやらしく笑う。ようやく、話の流れを掴んだ正之助は、進也のアドバイスをうっかり忘れて、とんでもない答えを返した。
「そうそう。桔根に抜いてもらってんの。な?」
ガンッ!
進也は思いっきり机に頭をぶつけた。
よりにもよって、この狸は何を抜かすか。
一瞬にして凍り付いてしまった空気に、慌てて進也が正之助の頭をぶん殴った。
「笑えねー冗談かますな!」
「え。でも、オナニーの話だろ?俺が下手だからって、お前がやってくれて・・・」
「あー、もう黙れ!ネタがねぇからって、俺に振るな!この常識知らずの阿呆狸」
狸と呼ばれて、正之助が目を剥く。
「狸って言うんじゃねーよ!お前だって狐の癖に!」
反論しようとした正之助の口の端を、進也はギュッとつねった。
「狐顔の方が狸面よりマシ。モテないからって、俺に当たるな」
狸と言われた事で正体がバレてしまったとひやひやしている正之助だったが、周りはそんな非現実的な想像に至る筈もなく、さっきの正之助の発言に引いてしまっていた。
焦る正之助とは裏腹に、その一連のやり取りで自分達がからかわれたのだと周りは理解すると、クスクス笑い始めた。
「まぁまぁ、低次元な言い争いはやめろよ。醜い」
茂樹が間に入った。
「どっちも全然似てないって。狸や狐に失礼だ」
彼のそんな言葉から、自分の正体に疑問を持たれていないのだと察し、正之助は内心ほっとする。それが顕著に顔に出ていたものだから、進也を余計苛つかせた。
「ホントこいつって、たちの悪ぃ冗談ばっか言うんだよ」
更に冗談と言う言葉を強調して、進也が周りの同意を求める。周りもうんうん頷いた。
「俺もマジでビビッた。ぎりぎりアウトだろ、このネタ」
「いやいや、多抜すげぇよ。あの進也の焦った顔、見たか?めちゃくちゃ面白かった」
「確かに。あんな進也、初めて見た!」
単純に褒められたと勘違いし、にんまり笑う正之助とは反対に、進也は苦笑いを浮かべる。何を言われても動じない、クールなキャラで売っていたのに、正之助のせいでみっともない姿を晒してしまった。
 そんな進也の胸中気づかず、正之助は皆の輪の中でにこにこ笑っている。
「・・・・・・・・・・・」
 少し前までは見ない光景だった。正之助は人間に興味が無いらしく、誰とも一緒に居なかった。寂しい風でもなく、人を寄せ付けないオーラを出しているのでもなく、ただただそこにいるだけで、人間の中に混じるに過ぎず、そこだけ違う色をしていた。
 その姿が自分と重なって見えて、いつも胸が痛かった。所詮、動物と人間とは分かり合えない存在じゃないか、と。
 強張らせた顔を緩め、進也は穏やかに笑った。




 放課後、生徒会室で正之助は進也にこっぴどく叱られた。一度頭の中で整理して、常識に照らして発言しろと口を酸っぱくして言っていたのに、よもやあんな爆弾を落とされるとは、想像に及ばない。
 正之助も負けじと反論した。実際、進也との互いの体を触りあったり舐めあったりする性行為は続行中だ。気持ちいいし、何が問題なのか正之助には分からない。
 常識と言うものは、習慣に近い意味を持つ。人間に混じってたかだか二年の正之助には、その感覚を身につけるのが難しい。一朝一夕で出来るものではなかった。
「普通の人間の男は、男同士でちんこの握り合いはしないんだよ。男が好きなのは女!それは、狸だって一緒だろ」
「男同士だと繁殖出来ねーから、それぐらいわかってるよ。でもさ、俺らがしてるのは本当の事じゃん」
「だから!公然と言っていい事と、秘密にしとかなきゃならねぇ事の区別をつけろ!」
「そんなら、お前こそ狸なんて言うなよ」
「そんなの誰も信じねーから、あの場で言えるんだろうが!化ける瞬間を見せねー限り、狸だ狐だなんて言って信じる人間はいねーの!」
ああ言えばこう言うの典型で、二人はガミガミ言い争っていたが、もともと口論の苦手な正之助は進也の正論に負けて、ガシガシと頭を掻いて、ソファに倒れこんだ。
「あー!面倒臭ぇーー!あれしちゃダメ、これしちゃダメって・・・やっぱり人間なんて嫌だ!」
ソファに顔を埋める正之助の横に、進也が足を組んで座る。
「山にだってルールはあったろ」
「こんなに多くないし。生存本能で、いちいち考えて行動しなかったもん」
山での生活を思い出すように、正之助は顔を上げて、天井を見つめた。一度目を閉じて、すぅと息を吸い込み、もう失われてしまった澄んだ空と緑の匂いを心の中で蘇らせる。
 短絡的な彼には山の方が居心地がいいんだろうなと、進也は思った。
 進也もまた、ぼんやりと遠い記憶の中でしかない山での生活を思い返していると、ぽつりと正之助が呟いた。
「でも、面白いよ。前より人間の事が分かってきて、近くなった気がする。それに今は・・・お前が居るし」
ハッとなって進也は正之助を見た。同じく、正之助も進也を見て、ニッと笑った。狸お得意の、馬鹿面晒した無邪気な笑顔だ。
「狐なんて性格最悪で俺らの天敵だと思ってたけど・・・・昨日の敵は今日のナンチャラってやつかな」
フフフと正之助は笑った。
 言葉を選べと言った端から暴言を吐く正之助に呆れながらも、進也は怒鳴ったりはしなかった。
「友な」
「友達?」
正之助が聞き返した。暑いのか、正之助は服を捲り上げて腹を出している。そのぺたりとした腹に手を這わせ、進也はゆっくり撫でる。正之助がぴくんと揺れた。
「さぁな。少なくとも、友達とは普通こんな事しねーからな。覚えとけ」
正之助の上に乗り上げて、進也が正之助のズボンの中に手を入れた。下着の中の性器を取り出し、ゆるゆると撫で上げていく。ハァと息が荒くなり始めた正之助に、進也が指図する。
「唇を噛んで、声を抑えろ」
言われた通り、正之助は声を殺す。切なげに眉を寄せ、頬を赤らめ、目を潤ませて声を抑えている様子が普段とのギャップも相まって扇情的で、進也は震えている唇に唇を寄せた。絡まってくる舌に正之助からも舌を絡ませ、吸い付く。ぴちゃぴちゃと音を立てて、互いに舌を舐めながら、正之助の手が進也の下腹部へと伸びた。居場所を探して股間の辺りをうろつく正之助の手を進也が掴み、チャックを開いた自分のズボンの中へと導く。目的のものを無事に掴むと、進也が唇から離れ、正之助の耳を甘く噛んだ。そして、囁く。
「俺の動きに合わせて、手を動かせろ。強く掴むなよ」
正之助はこくこく頷いた。既に勃起している正之助の性器を見て、フッと笑ってから、自分もそう変わらない状態である事に気づく。
「・・・ん・・・・」
「・・・まずは・・・ゆっくり・・・」
耳に息を吹き込まれ、正之助はぞくりと体を震わせた。ゆうるり動く、進也の手の動きを感覚で追い、自分も真似をする。進也の性器が、手の中で硬くなっていくのがありありと分かる。
 進也は正之助の耳の中に舌を差し入れ、更に命じる。
「・・・・・次は・・・早くだ・・・・もう少し強く・・・握れ」
「ふ・・・・・・」
ギュッと握りこまれ、進也は眉を寄せる。
「強い。・・・こんなぐらいに・・・」
「あっ・・あ・・」
適度な強さで性器を握りこまれ擦られ、正之助は戦慄いた。ぱくぱく開閉する唇に進也は口付ける。
「出来るか?」
「・・・・でき・・る」
絶え絶えになりそうなセリフをなんとか紡がせ、正之助は進也の性器を擦り始める。唇を合わせているから、進也も呼吸が乱れているのがダイレクトに伝わって、それがまた正之助の胸の奥を震わせる。
「あっ・・もう・・・・い・・く」
「・・・・イけ・・・」
グッと強く握り締めると、正之助が射精した。それに遅れて、進也も自分で性器を握り直して、吐精した。力を失い、くたりと倒れこんで宙を見つめている正之助の上からのくと、進也は近くにあったティッシュで素早く精液を拭き取った。放心状態の正之助にもティッシュを投げ渡す。正之助はぼぅっとしたまま、拭こうとしない。
「さっさと拭け。匂いが残る」
喚起をしなくてはと進也が窓に向かった。
「・・・俺もうまくなった?」
まだ興奮が去っていない体の正之助の頬は赤く、その姿を見ると、また体が疼きそうになる。慌てて進也は視線をそらした。
「・・・・・・・・・・・マシになった程度かな」
「ちぇっ」
不服そうに唇を尖らせ、正之助は床を拭き始めた。
 カラカラカラ・・・
 窓を開けて冷たい風が顔に当たると、進也は少し冷静になれた。この所、阿呆な狸に感化されて気が抜けてしまっている。人間の中に混じって暮らしていくには、常に緊張感が必要で、それにもまして進也には、なすべき目的がある。正之助と居るのはその為だ。それを忘れてはならない。
 床を熱心に拭いて臭いをくんくん嗅いでいる正之助に、進也が言った。
「それが終わったら、俺に変化して職員室に行け。5時から先生の用事を手伝う事になってんの」
「えー!それ、俺がやるわけ?」
「お前以外に誰が変化出来るんだよ!さっさと行ってこい!」
ぶすっと頬を膨らませた正之助の手のひらに、ちょんとお菓子の入った袋を乗せる。
「ほい、お菓子」
「お菓子で釣られる狸じゃない!・・・・と言いたい所だけど、いただきます!!!」
泣いたカラスならぬ狸はもう笑い、もしゃもしゃお菓子を頬張った。
 お菓子を食べ終わる頃には正之助の機嫌は上向き、頭の上に葉っぱを乗せると、ドロンと進也に変化して、意気揚々と出て行った。
 進也がやれやれとソファに座り込むと、また扉が開いて、正之助が顔を出した。
「なんだ?早く行けよ」
「も一つ聞きたいんだけど・・・・どうしてこういう事を教師と生徒はしちゃいけねーの?」
「教師と生徒以前に、男同士だ。交尾しても繁殖出来ない動物同士、する必要はねーだろう?」
女生徒だった場合でも教師の処分は免れない。それが男同士だったら、妊娠問題はなくても、モラルの上でもっと問題になる。それは納得だ。だが、正之助にはまだまだ答えが足りない。
「人間の交尾は愛情の確認って、お爺ちゃんが言ってた」
「だから?」
苛立っている進也に気づかず、扉から体を半分出したまま、正之助は得意そうに話し出した。
「俺、この前調べたんだけど・・・雄の人間が雄の人間を好きになったりする事をホモって言うんだよ」
「んなもん、知ってる!だから何だってんだよ!」
怒られてもめげず、正之助は言ってみた。
「だったら、ホモの人間には繁殖しなくても交尾は必要なんじゃないの?それが・・・二人の愛情を示す方法なんだからさ」
進也は返す言葉がすぐには見つからなかった。珍しく、正之助の理論は正しい。それを認めたくなくて、進也は怒鳴った。
「俺は認めない!」
「そんなムキにならなくても、いーじゃん」
「大体愛情だってんなら、相手の立場を考えるべきだろう!自分の欲望に任せて立場の弱い奴を相手にしてんなら、そんなの愛情でもなんでもない。本当に好きなら、手を出すな!」
「なるほど」
力説すると、正之助はぽんと手を叩いて、やっと納得した。時間をとって悪かったなと軽く謝って、そのまま正之助は扉を閉めた。パタパタと遠ざかる足音に耳を澄まし、いなくなったと分かるや、進也はやれやれと安堵し、ソファに凭れて足を組み直す。
「・・・・あれが愛情なんて、俺は絶対認めねぇ」
ぽつり、進也は呟いたのだった。











3-2



 担任教諭の雑務を手伝った後、ご褒美に学食でソフトクリームを奢ってくれた。労働の後のソフトクリームはうまい。何故かソフトクリームマシンの完備されている学食の食堂には、クラブや委員会が終わった生徒がちらほらいて、くつろいでいた。その中に、純が居た。正之助を見つけ、走り寄って来る。
「ちょうど良かった。誘いに行こうかなって思ってたの」
「どうしたの?」
「今日、家でケーキ焼くの。二つ作るから、一つ持って帰って」
ケーキと言う単語を聞いた途端、正之助の目がキラキラ輝いた。これまで食べた中で極上に甘く、ふわふわ美味しいものだと、体が覚えてしまっている。
「食べる食べる!」
「じゃ、帰ろう」
「うん!」
お菓子で釣れるくらいだから、ケーキに釣られた正之助は、進也の事をすっかり忘れて純と一緒に家路についたのだった。

 純の家に寄ってケーキを作ってもらったら、とっぷり日は暮れていた。にこやかに純と別れてから、正之助は進也の事を思い出した。さすがにもう生徒会室にはいないだろう。どのみち会って怒られるのなら時間を引き延ばした方がいい。そう判断し、正之助はそのまま自分の家に戻ろうとした。その時、後ろから声がかかった。
「何処行くんだ、進也」
低くかすれた声は聞き覚えが無くて、けれど進也と名を呼ばれたのだから振り返らないわけにいかず、正之助は恐る恐る振り返った。
 立っていたのは、見覚えの無い背広姿の中年の男性だった。父親世代には少し若い、30代の担任教諭と同世代ぐらいだろうか。やややつれた顔は夜だから暗く見えるのか、長い前髪が影になっていたせいで、見えている目がやけに大きくぎらついて見えた。そんな風に容貌は武張っているが、不思議と怖くは感じなかった。
「それ、どうしたんだ?」
正之助が持っているケーキを見て、顔を顰める。
「あ、これ?はと・・じゃなかった、純にもらったんだよ」
「羽戸さんに?いつももらってばっかりだな・・・。何かまたお礼しないとな」
ふぅと息を吐き、男は無言で歩き出す。
 正之助はどう対処すればいいか、迷った。進也に親しいであろうこの男に「あなたは誰ですか」と問うのはまずいと、いくら正之助でも分かる。黙って後をついていくべきか、否か。
 迷っていると、男が首だけ振り返り、険しい顔で正之助を見た。
「どうした?帰らないのか?」
「帰ります!」
慌てて正之助は男の後ろにつき従う。
 男はそれきり正之助には目もくれず、ひょこりと足を引き摺りながら、歩いていく。足が悪いのかと、正之助はその足元をじっと見つめて影を追いながら、歩いていったのだった。


 着いたのは、住宅街の中で一際目立つ、大きな家だった。正之助が家族6人で暮らしている小さな家とは違い、新しくて、炭に似た色合いを基調とした和風モダンの洒落た外装をしていた。
 ここが進也の家なのだろうか。もし、先に進也が帰宅していたら鉢合わせる事になったが、幸い、家からは明かりが途絶えていて、不在を示していた。このピンチをどう脱しようかと、正之助は必死に考えながら、男の後をついて大きな家の中へと入っていった。
 玄関も広くて、正之助が足だけで靴を脱いでトンと廊下に出ると、男に咎められた。
「靴は揃えなさい」
「う、うん」
細かいなぁと思いながら靴を揃えていると、更に男の低い声が背中に刺さった。
「『うん』じゃなくて、『はい』」
「はぁい」
「間の抜けた声を出すんじゃない」
「はい!」
正之助は声を上げて返事をし、振り返った。男は厳しい表情で正之助をじっと睨んでいたが、ふいと顔を背けて、奥の部屋へと入っていった。
 正之助は力が抜けてその場に座り込みたくなった。普段、進也は口うるさいと思っていたが、この男に比べればマシだ。
 この男が純の話していた「お兄さん」なのだろうか。身内ならば、彼も狐だろう。だが、彼は家に帰っても変化を解く風でもない。多抜家では、玄関をくぐった途端に皆が狸の姿に戻ってくつろぐのだ。近頃は弟の正平が人間の姿のまま居て、それで祖父に叱られていたくらいだ。
 もしかして、人間の姿を、寝る時までは徹底しているのかもしれない。いや、今頃奥の部屋で狐に戻っているのかも・・・と、正之助が男が入っていった部屋にそろりと入っていくと、着替えの途中だった彼は驚いて正之助を見た。
「どうした?ノックもしないで」
「うん・・・・、はい」
体が半分部屋の中に入っている状態で、トントンと正之助は扉を叩いた。それを見て、男はまた顔を顰めた。その表情が進也そっくりだったので、やっぱり彼は狐かと正之助は判断する。
 着替えているのに正之助が出て行かないので、男は追い払うように手を縦に振った。
「着替えているから、出て行きなさい。晩御飯は出前でいいから」
「え・・・・・」
 正之助は出前の取り方を知らなかった。出前の電話をするのは、人間変化の練習中の妹の仕事だ。出前の取り方を知らない・・・とも、きっと言ってはいけないだろう。
ごくんと正之助は唾を飲み込んだ。
「あ、俺、今から作るよ」
「食材は何も無いぞ」
「蕎麦粉持ってるから、鰹と昆布があれば出汁作れるよ」
「・・・進也が蕎麦?」
不可解そうに眉を寄せる姿に気づかず、正之助はそのまま部屋を出て行った。トトトと足音が廊下に響き、奥の風呂場へ走っていったと思ったら、走って戻ってきた。
「キッチン、何処だっけ?」
「そこの角を左だ」
「そうそう」
ぽんと手を打ち、正之助は台所へと走っていった。

 冷蔵庫にはねぎや蒲鉾があった。鰹節や昆布も揃っている。
 正之助の父親は蕎麦屋で働いている。家でも蕎麦を食べる機会が多く、正之助は蕎麦を食べるのも作るのも大好きだった。学食の蕎麦が旨いので、調理場からこっそり盗んでいた蕎麦粉を鞄に忍ばせていたのは幸運だったと、正之助は蕎麦粉を打ち始める。
 夢中で蕎麦粉を打っている正之助の背後に、いつから居たのか、さっきの男が座って正之助の様子を伺っていた。
 てきぱきと慣れた手つきで蕎麦を打ち、出来上がった生めんを茹で、その間に出し汁を作る。テーブルの上に二つの蕎麦が並んだ。天かすがたっぷり乗った、たぬき蕎麦だ。
「出来たよ。食べよう」
「・・・・天かすまで・・・・あったのか」
「あぁ、これ。学食から取ってきたんだ。お代わり自由だったから」
悪びれずに答えた正之助に、男は顔を曇らせた。
「それはよくない。二度とするな」
さっきまでの口調と違い、明らかに本気で怒っている声色で、正之助はドキッと目を見開いて竦み上がると、しゅんと身を縮ませて、頭を下げた。
「・・ごめんなさい」
すぐに謝った正之助に、男は目を見張った。じっと正之助を凝視し、口を歪める。男の視線に気づき、自分が狸とバレたのかと、どくどくと心臓が早鳴ってくる。お互い狐と狸で人間じゃないんだから、バレても構わないだろうと思う反面、進也が自分の事を教えてないのなら、話はややこしくなってくるだろう。
 黙って男の審判を待っていると、彼はふいとまた視線をそらして、手を合わせ、「いただきます」と呟いて蕎麦を食べ始めた。出汁をすすり、男が一言。
「・・うまいな」
「でしょう!自信あったんだよね」
褒められて、嬉しそうに蕎麦を啜る正之助を男はしばらく眺めてから、また蕎麦を啜り始めた。
 正之助は蕎麦を食べながら、今日学校で起こった事を話した。習った事や起こった事件、これからの学校行事。色々。多抜家では当たり前の光景だったが、その男には珍しい事だったらしく、熱心に聞き入っていた。
 食事が終わると、正之助はもらったケーキを切り分け、男に差し出した。男はそれを正之助に押し返す。
「・・・・私は甘いものは苦手なんだ」
「これ、さっぱりしててあんまり甘くないんだ。すごく美味しいから!食べたら、純に感想言う約束してるんだ」
そう言って、尚も差し出すので、男は苦笑しながら受け取った。
「飲み物は私が入れよう。何を飲む?」
「任せる」
「じゃあ、紅茶にしようか。うまいブレンドの茶葉をもらったんだ」
「はい」
 ケーキセットが出来上がり、二人はリビングへ移動して、ケーキを食べた。ピンク色のゼリーは甘酸っぱく、柔らかなスポンジはふわふわ軽やかに舌で溶けて、タルトの生地はしっとりして懐かしい味がする、チーズケーキだった。
「これは・・・桜?」
「そう!桜の酢漬けを使ったチーズケーキ。この紅茶も、ベリーいっぱい使っててすごく美味しい!このケーキにちょうど合うね」
にこにこ笑って食べる正之助の様子を男は眺め、それからまた視線をそらした。これは男の癖なのだろう。なので、もう正之助は気にならなくなっていた。
「今年の体育祭は一学期にやるから、今から準備で大変なんだ。体育委員長の茂樹が生徒会に注文ばっかりしてきてさ・・・・うちの体育祭って生徒主体だから、本当に仕事が多い」
甘いものを食べて気が抜けたのか、正之助はまたぺらぺら喋る。
「勉強と両立出来てるのか・・・?無理は良くない」
「あぁ、それはバッチリでしょ。なんせ俺に生徒会の仕事をやらせ・・っと」
危うく口を滑らせる所だった。正之助は口元を押さえてちらりと男を見やり、ニッと笑って取り繕う。
「大丈夫!美味しいもの食べたら元気出るし、家に帰ってきたら自分に戻れるから」
その言葉に、男は複雑な表情を浮かべる。表情が複雑なので正之助は男の様子を察せられず、更に喋った。
「帰る場所があるなら、男は何処でも闘える!ってお爺ちゃんが言ってたもん」
「おじいちゃん?」
怪訝な顔で聞き返され、正之助は慌てて言葉を付け加えた。
「・・・・よっ・・・用務員さん!学校の用務員さんの事をおじいちゃんって呼んでんの!」
度重なる失言に、さすがに怪しまれてきたのかと正之助が焦っていると、救いのベルが鳴った。
ピンポーン・・・!
「俺、見てくる」
 正之助は玄関へと飛んでいった。
 扉を開けると、立っていたのは進也だった。進也に化けた正之助の姿を見るや、みるみる進也の顔が青ざめていく。青くなった顔が鬼の形相に変わってきたので、だらだら大量の冷や汗が正之助の背中を伝っていった。
「お・・まえ・・・俺んちで・・・何・・してんの・・」
「これには深いワケが・・・」
「ワケなんか知るか!」
そう言って掴みかかろうとした進也の耳に、馴染み深い男の声とよく知っている引き摺った足音が届いた。
「進也?誰だったんだ??」
「隣の家と間違えたみたいです!!!」
進也はそう叫ぶと、すぐに正之助の耳を掴んで小声で命令した。
「さっさと変化しろ!」
「え?え?何に?」
同じ顔を突き合わせ、正之助はうろたえる。進也は近くにあったごみ箱を指差した。
「えぇ~~!」
「文句言ってる場合か!」
小突かれ、正之助はドロンとゴミ箱に変化した。と、そこに男が顔を出した。
「間違いだったのか?話し声が聞こえたが・・・」
「ここは稲荷ですって言ったら、笑って隣に行きました」
「そうか。ん?ゴミ箱が二つになってる・・・」
「多分、僕の部屋の分です。持っていきます」
進也はそう言って、ゴミ箱を持ち上げて、男の隣を通り過ぎていく。男は名を呼んだ。
「進也」
「はい、稲荷さん」
進也はゴミ箱を置き、稲荷と呼ぶ男に体を向ける。彼はしばらく進也を眺めていたが、首を横に振って額に手をついてから、疲れた風に言った。
「風呂は明日朝入るよ。今晩は疲れているみたいだ。私はもう寝る」
「え!大丈夫ですか?今、ホットワイン作ります」
「いや、さっきケーキをもらったから、遠慮するよ。それより・・・お前も今日は調子が悪いみたいだから、早く寝なさい」
「はい、おやすみなさい」
進也は頷いて就寝の挨拶をしてから、ゴミ箱を抱え直し、自室へ戻ったのだった。


 部屋に入った途端、正之助がドロンと人間の姿に変わった。その正之助の頭を、進也はコツンと小突いた。さっきより、地味に痛い。
「・・・・どうして俺の家にいるんだ?多抜正之助くん?」
正之助は頭を押さえて、進也に説明した。
「えーっと・・・お前が俺にのっかかって・・・」
「そこはいらないから、その次から説明しろ。職員室には勿論行ったよな?」
「行った行った!よく頑張った俺に、ご褒美に先生がソフトクリーム奢ってくれたんだよ!ラッキーだろ?そこで羽戸さんに会ってさ、ケーキくれるって言うから羽戸さんの家についていったんだ!作ってる時に切れ端とかもらって、ホットチョコレートも飲んだんだ!ものすごく甘くて美味しかった!」
「で?」
進也の額に青筋が一つ立つ。
「ケーキもらって家に帰ろうとしたらあの人に声をかけられて・・・お前みてーにあの人迫力あったからさ、ついていかなきゃ狸汁にされそうだったから、ついてったんだ。そしたらこの家に着いて・・・お腹もすいてたし、一緒に俺が作った蕎麦食べて、羽戸さんにもらったケーキ食べた所でお前が来たの。な?俺、悪くないだろ??」
「ほぅ。悪くないとぬかすのか・・・・この狸は」
進也の拳が怒りで震えている事に気づき、正之助は顔を引きつらせた。正之助はじりじりと部屋の奥へと逃げる。
「まっ・・待てよ!説明したら許してくれるんじゃねーの?」
「言い訳無用だ、阿呆狸!!!!お前なんか狸汁にしてやる!!!!」
「ぎゃーーーー!!!狸汁はやだーーー!!!!!」
暴れまわる正之助を蛇に変化して捕らえた進也は、今度は大仏に変化して上から押し潰す。正之助はギブアップだと言わんばかりにバンバン床を叩いた。
「勝手な事しやがって!!!稲荷さんに変な事言わなかったろうな!?」
「言ってない!狐の巣に入って正体バラすほど、俺は馬鹿じゃねー!!!」
そう正之助が叫ぶと、進也は変化を解いて、人間の姿に戻った。正之助の上に乗っかったまま、顔をぶすっとさせた。
「・・・ここは狐の巣じゃねぇ」
「うぇ?」
「稲荷さんは狐じゃない、人間で、俺の養父だ。・・・俺はこの家の養子なんだよ」
「・・・・ようし?なにそれ」
耳慣れない言葉だった。正之助は意味をまだ知らない。彼の名前は稲荷武信と言って、桔根家とは縁もゆかりも無い人間だそうだ。
 進也は眉を寄せ、苦しそうな声を上げた。
「つまり・・・・・あの人は俺の本当の家族じゃなくて、ここは俺の本当の家じゃないって意味だ」
「・・・・・・・・・・・」
もそもそと進也の下から這い出て、正之助は進也の顔を覗き見る。進也は何処か悔しそうな顔をしていた。
 黙り込んでいる進也に何を言えばいいか思い浮かばず、仕方なく、正之助は多抜家流の方法で慰めに出た。
 顔を近づけ、進也の鼻をぺろりと舐める。
「・・・っ・・なんだ?」
「え?いや、弟や妹が泣きそうな時は、いつもこうやって鼻舐めてやると、機嫌が直るからさ・・・」
「俺は泣かねぇよ、阿呆」
「そうか?泣きそうな顔に見えたんだけど。うーん・・・・人間の表情ってやっぱり分かりづらい」
腕を組んで唸る正之助に毒気を抜かれ、進也は体から力を抜いた。ずいぶんこの狸も鋭くなってきたと思う。さっき、確かに自分は今にも泣いてしまいそうだった。これまで抑制出来ていたのに、抑制するようずっと努めてきたのに、この狸のせいでそれが堪えられなくなってきている。苛々してしまうのに、この狸の平和そうな顔を見ていると、気張っている自分が馬鹿馬鹿しくも思えてくる。
 いや、自分はこんな狸と違って、狡猾に生きる狐だ。これ以上感化されてたまるか。
 そう強く思い、進也はギロリと正之助を睨んだ。その顔が稲荷と言う男に似ていたので、正之助は首をかしげる。
「いいか。二度と俺の家に来るな。俺に変化して稲荷さんと会った時は、どんな言い訳してもいいから、関わるな」
「なんで?」
無邪気な質問に、進也の胸の鼓動が早鳴ってくる。
その質問には答えられないのだ。
「お前は黙って俺の言う通りに・・・」
コンコン
進也が叫びかけた時、扉をノックされた。二人は飛び上がって驚く。扉がかちゃりと開いたのを見て、咄嗟に正之助は変化した。
進也は正之助を隠すように扉の前に立った。扉の隙間から、稲荷武信が顔を出した。
「進也?話し声が聞こえたんだが、誰かいるのか?・・・・」
「教材CDです!!」
不審そうに武信が進也の部屋を見回す。
「・・・それは?」
「それ?」
進也が背後を見ると、机の上にデンと大きな茶釜が置かれてあった。進也はそれが何なのか考えるのに、しばし時間を要した。実際は、固まっていたのはたかだか数秒だったのだが、体感的には数時間たっぷり使った気分だった。
この茶釜の正体は、一匹しか思い浮かぶ動物がいない。
「茶釜か?・・・」
「茶釜ですね・・・・・」
「どうして茶釜があるんだ?・・・」
それは進也も問いたい。今すぐ茶釜を振り回して、どうしてだ!と叫びたい。狸の思考回路がさっぱり分からない。
「茶道でもするのか?」
「え?あ、そうです!茶道を始めようと思って、学校で借りてきたんです」
武信は苦笑しながら、肩を竦めた。
「随分、本格的だな」
どう捉えればいいのか分からずに、武信もそれ以上は深くは聞かなかった。
「CDの音はもう少しボリュームを下げなさい。近所迷惑だから」
「はい、分かりました」
「おやすみ」
カチャリと扉が閉まり、足を引き摺って部屋に戻っていく音が遠ざかっていく。耳にはっきりと武信の部屋の扉が閉まった音が聞こえた途端、進也はへなへなとその場に崩れ落ちた。ほぅっと深く息を吐いてから、くるりと顔だけ振り返った。茶釜から、狸が顔を出していた。
「もう行った?」
「・・・・・・・お前・・・・」
震えている進也に気づき、正之助は茶釜から顔を半分引っ込めて、手を合わせる。
「ヒッ・・・怒らないで・・・・・・」
怒るより呆れて、呆れるより笑えてきた。進也はぷるぷる体を震わせて、腹を抱えて笑い始めた。
「なんで茶釜なんだよ!意味わかんねー!!!」
「な・・!笑うなよ!お爺ちゃんは、ピンチになったら茶釜に変身しろっていつも言ってんだもん!茶釜は偉大な狸の味方なんだぞ!!!!」
「昔ばなしか、阿呆」
狐の姿に戻って笑い転げる進也に、正之助はムッとなったが、あんまり進也が楽しそうに笑うので、その怒りは長くは続かなかった。自分でもさすがにおかしかったかと、思い直す。そして、一緒になって笑った。
 二人でひとしきり笑った後、進也は言った。
「お前ん家は面白いな」
「まぁな。今度、お前も蕎麦食べに来いよ」
「蕎麦よりうどんが食べたい。油揚げ付きで」
「分かった。お父さんに作り方聞いとく」
 茶釜から元の人間の姿に戻り、進也は正之助をこっそり家から出した。家までの道順は分かるかと問うと、タクシーを拾って帰るから大丈夫だと答える。
「タクシー代、あんの?」
「葉っぱの予備持ってる」
「・・・それじゃあ、ダメだ。ほら、これ使え」
進也から一万円札を渡され、正之助は困った顔になる。
「これって一番大きなお金だろ。いいの?」
「葉っぱなんか使うんじゃねぇ。いいか、二度とするな」
その口調も武信に似ていて、正之助は礼を言ってお金を受け取った後、ちらりと家を見上げてから、進也に言った。
「今日は本当に悪かったよ。ちゃんと次からは気をつける」
「当然だ」
進也は深く頷いた。正之助は真っ直ぐ進也を見ながら、言葉を続けた。
「・・・ここはお前と稲荷さんの安心出来る家なんだな。よそ者がずかずか入っていい所じゃねーのな」
進也はぱちくり目を開閉させる。正之助はうんうん一人で納得しながら、更に言う。
「お前がどうしてあんなに頑張って人間と共存していこうとしてるか、よく分かったよ。稲荷さんの為なんだろう?」
「・・・・・・・」
「稲荷さんが好きなんだな」
進也は返事が出来なかった。一言一言が、胸に鋭く突き刺さる。的を得た声は突き刺さったまま、ここに居場所を決めてしまって、胸から去らない。
進也の胸が熱くなる。
その思いを冷ます一言を、最後に正之助は言った。
「つまり、お前は羽戸さんが兎なんかを可愛がってたり、近所のおばちゃんが醜い犬連れてるみてーに、人間の家族の一員ってワケだ」
にっこり笑って言われた言葉に、進也は渾身の力を込めて正之助の頭に拳骨を食らわせたのだった。
「いってーー!!!!」
「お前なんか拳骨山に帰れ!!!!!」
ペットも立派な家族の一員だと知っていても、やっぱりペット扱いには寛容になれなかった進也なのだった。


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