TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~

あずももも

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2章 Q.女の子になったら? A.引きこもる

20話 感じない違和感と感じる違和感と

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増えた視聴者を認識すると、やっぱりお腹が痛くなってくる。

新しい視聴者――新規、つまりは知らない人。
初対面の人とまともにしゃべるだなんて、ネット越しでも……あ、胃液。

「新規の人って……やっぱ認識するだけで気持ち悪くって吐きそうなのでイヤホンとかヘッドホンはやめといた方が良いと思います。コミュ障でリアルで初対面の人、相手にするとパニック起こすレベルなので、いきなり耳元で吐く可能性もあるので。音量も最小限が良いと思います」

僕は、予防線だけは張るのが得意だ。
こう言っておけば、不測の事態にも怒られずに済むはずだから。

【草】
【草】
【そう言われるとヘッドホンにしたくなるな  した】
【スタンバイOK  いつでも良いよ】
【えぇ……】

【こはねちゃんさん、今日もテンション高い?】
【こはねさん、メンタル弱い言うわりには強いな】

【男でも良いし、TSして男ぶってる女の子って想像するだけで興奮するんだ……! そんな子がASMRゲロしてくれると思うと……!】

【えぇ……】
【無敵で草】
【やべーやつでしかなくって草】

【やべぇ、あの大喜利のせいで厄介なのを招き寄せてしまったかもしれん】
【おいTS連呼してたやつ! なんとかしろ】

【え、TSと耳もとで嘔吐ささやかれる趣味って関係ないし責任なくない?】

【草】
【草】

【責任はあるぞ  そのせいで配信の空気がやべーんだよ】

【え、知らないけど】

【草】
【うん、まぁそうねぇ】
【さすがに言いがかりレベルだよね】

【TSはよく知らないけどありがとう  新しい扉を開けたよ】

【ひぇっ】
【こわいよー】
【もう遅かったか……】
【責任取ろうね♥】
【草】

「こわ……」

怖い。

コメント欄の狂気が怖い。
でも僕は他人のパニックを見ると安心するんだ。

なんでだろうね。
おかげで気持ち悪さは引いてくれてるけど。

【ひより「でも、声は大事なので配信とお酒は控えめにして休んでくださいね」】

おや、ひより先生。

「そういう先生は早くお勉強しましょうね。Yで『今は試験期間』だってつぶやいてましたよね? 『勉強が間に合わない疑惑』ってつぶやいていましたよね?」

【ひより「はい……」】

「こうやってリアルをある程度特定されちゃうから、つぶやきとか気をつけましょうね。特に今どきはSNSとかでの発言は可燃性抜群で、しかもその期間が10年とか平気で持続しますからね。今は大丈夫でも有名になってお仕事もらったタイミングで過去の先生が刺してくるんですよ良いんですか先生。試験期間は大体どこも同じですけど科目とかと普段のつぶやきを考察してくる変態がいっぱいいるんですよ先生」

ひより先生の日ごろのムィートはほほえましい。

けどもそれはどう見ても学生さんかつ女子だって誰にでも分かるから、将来が心配なんだ。
あと、うっかりいろいろ漏らしちゃわないかって。

僕みたいにメディアリテラシーってのがしっかりしてれば、あとは実績もないし有名にもならないそのへんの男Bなら別だけど、将来は大成するに違いない大先生(予定)にはぜひともに気をつけてほしいから。

無名ならどれだけやらかしても誰も気にしないけど、有名になったとたんにあら探しされる側に回るんだ。

……かつて、ムーチューブでおすすめ欄に来たからなんとなく見てたVtuberとか配信者が居た。

なんとなくでYでもフォローして密かに応援していた。

けども再生数が跳ねて人気になって「ちょっと遠いところに行っちゃったな」、なんて思ってたら理不尽な言いがかりを浴び続けて辞めちゃったのをこの目で見たし……あ、胃がきゅーってなってる。

【ひより「気をつけます……」】

そう、だから先生にはぜひぜひに気をつけてもらいたい。

「そうです。だから勉強もしましょうね」

ついでにお勉強が苦にならない範囲でがんばってほしい。
先生、なんか勉強がつらくてぴえんとか、たまにつぶやいてるから。

【ひより「はい……」】

「よし。素直なのは良いことです、先生」

こんな引きこもりニートダメ人間が真っ当な学生さんの反面教師になるんなら、嫌われる覚悟でいくらでも言うんだ。

それでひより先生の活動が良いものになったら僕が嬉しいんだ。

【草】
【草】
【なんだこのやりとり草】

【一応個人同士とはいえVTuber、ママと子供だから】
【なるほど、通りでなかよしなわけだ】

【TSっ子疑惑で来ただけだけど、数字のわりにおもろくない? あ、ごめん、あおりじゃなくって普通に】

「普段はテンション低いので、もし見てくれるなら作業用で……その、配信タイトルは過疎ゲーとかなので。いや、僕は好きだから言いたくないけど、知らない人の方が多そうだし。一応知らない人にもなんとなく分かるようには実況しますけど、あ、僕は楽しいけど知らない人が楽しいから保証できないっていうか」

【やさしい】

【※こはねさんはハイとローを繰り返すタイプで、現在ハイの頂点です  落ち込む時期はマジで実況がほとんどない実況になるので今のうちに楽しみましょう】

【登録ももちろんしたな?】
【通知もオンにしたな?】
【SNSもフォローしたな?】

【ひぇっ】

【古参が圧力をかけてくる配信】
【こわいよー】
【草】
【人数が少ないとね……新規を囲めってなるからね……】

「過疎コンテンツは確かに新規さんを囲みたい。僕もそういうゲームをプレイして布教したいってのもある。でも強制はダメだよ」

知らない人に囲まれると怖くて逃げ出しちゃうからね。
人は見知らぬ他人に囲まれると絶望しちゃう存在だからさ。

【草】
【はーい】

【配信主が言ってるんだ、古参はおとなしくしろ】

【チッ……しったかの新参が……】

【えっ】

【草】
【空気悪くて草】

そうして僕は――ボイチェンという新技術のおかげで、まるでおとといまでのように、まるでただの男だったままで、今起きているのはすべて悪夢だったかのような錯覚を覚えながら。

「なぜか」普段よりも上下する感情のおかげで――同接と登録者数が、その日から増え始めた。





「兄さん、喉の風邪みたいですけど……市販薬で治りそうで、良かった」

制服姿で家を出た優花は、安堵していた。

「ええ、」

彼女は――「スマホと無線接続をしているイヤホン」に耳を澄ませながら微笑み。

「――配信でも、こんなにも元気そうだから。……声のかすれが心配ですけど、兄さんには私が配信を見て聞いているだなんてバレてはマズいですし……」

そのスマホの画面で、開いたままの配信。

そこには――「兄の元気な姿」があった。

「………………………………」

「けど」

彼女は、上着のポケットから――「30センチ以上はある薄紫色の毛髪」の入った透明な袋を取り出す。

「……他人が怖い兄さんが、女性とはいえ――いえ、女性だからこそ招き入れるはずが。なら、やはり宅配便に紛れていただけ? ……ひとまず、帰りに鑑定に出さないと……」

その毛髪を見つめる彼女の瞳は――光を受け入れていなかった。





「……? やっぱり、変……なんだろ、うまく言えないんだけど……」

ピンクと白と水色のカーペットやベッドカバー、ぬいぐるみの多い、ファンシーな子供部屋。

友達からは『少女趣味だね』と言われるけど、それが落ち着くのだから仕方がない。

勉強机で問題集を広げつつ、ちらちらと――耳だけで「こはねちゃんさん」の配信を楽しんでいた少女が、首をかしげる。

「こはねちゃんさんの……なんか。声が、ぎざぎざしてる……? それに、しゃべり方とかなんとなく……。……風邪、のせいなのかなぁ……」

天野ひより。

ネットでは「ひより」として――まだまだ駆け出しの、「ちょっと上手」「味のあるウマ下手」「癒やされる」と評される絵師――イラストレーターをほんのりと目指している、高校1年女子。

明るい栗色の髪は肩まで伸ばし、お気に入りのカチューシャを――風呂上がりの今は外していて、パジャマ姿の彼女は、配信主から叱られてから素直に始めていた勉強を手に着けられず、首を右に左に――イヤホンの左右に代わる代わる集中させながら、ペンを置いてかしげていた。

「早く戻ると良いなぁ……落ち着く男の人の声だもん、こはねちゃんさん」

――投稿するイラストの方向性やSNSでのリプやつぶやきから、気がつけば「JCかJKの絵師」としてほぼ特定されてしまい、「そういう目的」なDMなどが頻繁に来るせいで基本的には特定の誰か――ましてや男性と分かっている相手は無視するしかない彼女。

だが、去年の今ごろ。

それ以前から、いつもイラストへ優しいコメントを熱心に書き込んでくれていて――そして下心のないように見えるアカウントから「立ち絵を書いてほしい」と頼まれたのを思い出す。

「どんな人なのかな」――そう思ってSNSのプロフィール欄から配信へ飛んだ彼女は、人も少ないし、彼女自身がよく知らないゲームをぽつぽつと実況しつつ配信している「こはね」を知った。

知って、なんとなくで絵を描くときなどに流しっぱなしにしていて――気がついたら、その、決してイケボではなくても落ち着いていて、力を抜いて普通に話しかけてくる声の虜になっていた。

いや。

イケボだ。

普通の声だったとしても――「イケボ」に「なってしまった」。

まるで、居たら「兄」として安心できるだろう存在の、年上の男性の声。

初恋。

そういうものかもしれなかったが――残念ながら天野ひよりは引っ込み思案、かつほわほわ系小動物として学校で女子に守られる生活をしていたため、自分の気持ちがどのようなものなのかを理解していなかった。

――ちなみに少女マンガに憧れはあるが、ちょっとでもお色気シーンの雰囲気が出てくると顔が真っ赤になって読めないタイプだった。

そのせいで、彼女の絵柄は「小学校前半の女児が楽しめるコンテンツ」に強く影響されている。

「早く、治るといいなぁ……あ、そうだ。今日のイラスト、元気になぁれって……あぅ、勉強しなさいって言われるから、試験終わってからにしよっと……」

そうして問題集と格闘を再開しつつも――彼女のノートは、消しゴムの痕と赤ペンの多い結果になった。





「こはねちゃん、ようやく人気出始めたね」

「う、うん、良かった……のかは分からないけど……」
「あー」

あるムィスコードでの音声通話。

「人見知りはガチだからねぇ」

「ず、ずっと聞いてたから知ってるけど……他人が怖くて引きこもったって話とか、あれ、絶対キャラ作りでやってるレベルじゃなくって」

「――――――――うん。だって――私たちのことを、2人分の人生を救ってくれた人だからね」

「――――――――ん。私たちの、人生を救ってくれた神様だから」

なぜか、声のトーンが一瞬だけ下がる2人。

「………………………………」
「………………………………」

「けど、声が」
「心配だよねー」

「……あの。添付したけど、今日の波形データなんだけど――」

「こはねちゃんさんのリアルがどうだったとしても、私たちはこはねちゃんさんの味方。でしょ?」

「……うん。そう。そうだね」

彼女たちの会話は――「こはね」の配信を実況し、終わってからも続いていた。
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