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4章 女の子声での配信生活
40話 複雑なモテ具合とユニコーンと
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「………………………………」
あみあみ。
「………………………………」
あみあみあみあみ。
「………………………………」
あみあみあみあみあみあみあみあみ……はっ!?
「……三つ編み……」
イスを回して鏡を見ると、そこにはメデューサみたいになっている僕の姿。
何本もの三つ編みが――手慰みに、動画をぼーっと観てるときとかにお酒を飲む代わりにと動かすようになった手が、無意識で房を量産していた。
みあみあ。
みあみあみあ。
みあみあみあみあ。
それをひとつずつ丁寧にほぐし、元に戻していく不毛な作業。
「……なるほどな……優花とか女の子が髪の毛触るのって、ただ触りやすいからってのがあったのか……」
――考えるだけで恐ろしいけども、この体になったあの日からすでにひと房、横に流れる髪の毛のうちひと房が三つ編みになっていて、房が肩の上で揺れる姿だった。
最初は当然結ったりもしないでほったらかしだったけども、なぜか――怖いから考えない考えない――なんで見知らぬリボンがあるのか、捨てるのもそれはそれで怖いからずっと着けてるのがさらに怖くて――――――――
「くぴっ……!」
ふぅ。
まるで下にぱんつを穿かないでスカート姿で外に出たときのように――そんなことはしてないけども、あくまでたとえだ――落ち着かないんだ。
「だからって何本も量産して……いやまぁ誰に見られるわけでもないし、つい買っちゃったリボンとか髪ゴムとかあるけどさぁ……」
机の上には、通販で買っちゃった系統のいろいろ。
それを無意識で――本当に無意識でつけたり外したり。
最近の僕は、いつもそうだ。
「……ま、まあ、頼るべきものが僕基準での朝はコーヒー、夕方からはお酒だけよりはマシか……」
僕は、まるですだれのようにことごとくの横髪が結ってある、なんとも奇妙な――それでも悔しいことにかわいい女の子の姿を見つめていた。
――こんな、情けない兄だったものの果て。
優花が見たら――なんて言うんだろうか。
◇
「かわいいですよ……? ええ――歯止めが効かなくなるくらいには」
◇
「うぅ……」
僕はつらい思いをしながらも配信を始める。
それしかできないとも言う。
「おはよう……うぅ……」
僕は悲しい存在なんだ。
【おはよう】
【草】
【開幕いつもので草】
【かわいい】
【かわいいけどかわいそうな声】
【興奮する】
【分かる】
【かわいそうだけど興奮する】
【えぇ……】
【本気でつらそうで草】
【のっけから苦しそうで草】
【1回減った同接も、前から比べたら明らかに増えてるしなぁ】
「違うんだ……ぅひゃぁっ!? ……う、ううん……もちろん知らない人が多くて怖いけど、そっちじゃなくって……」
同接って聞いて思わず見ちゃった数字で変な声が出たのは無視。
【は?】
【草】
【かわいいけど変な声で草】
【ボイチェンってすげーな】
【ボイチェンも数ある中から自分に合っているものと設定と声の出し方極めたら実質地声だからね】
【ああ、いくら造った声だと言っても、数ある選択肢の中からたったひとつを選び、設定を決め、それに合った地声を鍛えたらなら、それはもう第2の地声……偉業は誇るべきだ】
【ボイチェンってね、無限の可能性があるんだ そう、PCとスマホとスピーカーとbluetoothに遮音のマスクをを活用すれば――現代では、見事に異性になり切ることが可能だ】
【ああ、いくつか試せば違和感がないのがあるはずだ 設定を細かく調整して出た声を録音し、何度も微調整 そしてボイストレーニングを重ねれば実質地声だ】
【ボイトレはムーチューブにいろいろあるから、自分に合ったものを探すんだ】
【有志が無料で教えてくれることもあるぞ!】
【まずはYに「女声に興味があります」って書き込むことからだ】
【ずっと見てるからね】
【お前も――――――――ネナベやネカマにならないか? 異性に目覚めるというのは……とても気持ちが良いものだぞ?】
【バ美肉はね、バーチャル美少女受肉でもバーチャル美少年受肉でもあるんだよ】
【リアルの年齢も性別も声も顔も体も関係ない かわいいは、作れるんだよ】
【ボイチェンでメス堕ち……しようか 大丈夫大丈夫、VRなChatではいつでも俺たちが純粋無垢なお前たちを手ぐすね引いて待ち構えているよ<URL>】
【やさしくしたげる<URL>】
【<URL>】
【ひぇっ】
【急に湧いてきたやべーやつら】
【唐突な長文はNG】
【一瞬で加速してて草】
【TSネタのせいで定着してしまった界隈民】
【急にメス堕ちさせてこようとするんじゃねぇ!】
【なんだこいつら……やべぇよぉ……】
【ひぇっ】
【こわいよー】
【TSっ子だからもう同位体を受肉してるし必要ないってば】
【まーた言ってる】
【一瞬でコメントが100超えてて草】
【でも、リアルでもこんな声出してるって思うと……】
【それにしても、まーたコミュ障こじらせてる……】
【しゃあない、経緯的にPTSDみたいなものらしいし】
【それでどしたん?】
【話聞こうか?】
【とりあえず……閉じちゃったDM、開放しようか……】
【男ワラワラで草】
【ちょ、この前もだけど勢い速すぎ】
「僕は男だから意味なんてないって……んくっ」
とりあえずのお酒。
困ったらお酒なんだ。
「ぷはっ」
……この体が女の子だって気づかれてるわけはないんだけども、それはそれとして体がこわばったから脱力のためにも必要なんだ。
「……あ、今日は日本酒です。スーパーで売ってる普通のやつ。えっと、銘柄は……」
【はいはい】
【「猪の大脱走」……さては高級スーパーだな?】
【こはねちゃんの実家は太そうだ】
【これならいくらでもニートできるね!】
【草】
【こはねちゃんこはねちゃん、空きっ腹にお酒は良くないぞー】
【メンタルのためだと言われたら強くは言えないけどなぁ】
【まぁ20代までなら治療必要なアル中レベルで飲まなきゃ大丈夫だとは思うが】
【そもそもアル中とか急性アルコール中毒、継続的でも血液検査で異常が出るレベルのそれはよっぽど飲まなきゃならないしな 絶対じゃないけど】
【可能なら減らすのが理想だけど……無理強いはできないか】
【体質にもよるけどな】
【すぐに真っ赤になったら弱い証だからやめとこうね】
【急性のは飲み会とかで無理して飲むのとかフリードリンクでよくばるのとか見栄で一気ってのが原因だしな】
【まぁ毒は毒だから飲まない方がいいけどな】
【大丈夫、今どきの若者はかしこいから酒メーカーが嘆くくらい健康だよ】
【若者っていえば、若さって何よりの武器よね】
【分かる】
【30近くになったある日から急に飲み会が辛くなって】
【うっ……】
【つらい】
「はぁ……実はね」
年齢談義に加わりたいけども、何かでうっかりバレないとも限らないから今回は無視。
そんなことより、このつらさを分かってほしいんだ。
【うんうん】
【なんでも聞くよ】
【言ってみ?】
【だから通話……できないんだったわ、このコミュ障っ子……】
【ならDMだけで満足しておくか……だから開放して♥】
【草】
【出会い厨も諦めるガチっぷり】
「……最近、コラボの誘いとか案件のDMが……うぷっ、……ぷはあっ……! だから閉じたんだけど……うぇっ」
昨日ひと晩の苦労が思い出される。
「げぇっ……くぴくぴくぴくぴ……」
吐きそう。
ちょっと上がってきたのを、アルコールで下す。
「……うげぇ……うぇぇ……え゛ぇ……」
【ふぅ……】
【興奮した】
【お前ら……】
【草】
【あー】
【これはガチで気持ち悪そう】
【アル中の友人と全く同じで草枯れる 離脱症状を抑えるためのがぶ飲みに】
【かわいそう】
【吐き気をお酒で飲み込んでる……】
【マジでストレスになってるっぽいな】
【DM開放とかしてたから……最近閉じたみたいだけど】
「違うんだ……こんなとこになるだなんて。もう閉じたし、全部お断り……できないから無視してるし……」
多大なストレスを受けての無視だけどね。
……寝起きの悪夢は毎回知らない人から追われるのだけどね。
【えぇ……】
【正解ではあるな】
【バズって認知度上がるとそういうのがあるのか】
【数字取れるって分かるといろいろ来るからなぁ】
【こはねちゃんの場合、秘められていたトーク力とかわいさじゃね?】
【確かに】
「トーク力……そんなもの、ある? 僕に。あとかわいさはボイチェンね」
トーク力なんてものがあったなら、僕は高校でも大学でもやらかしてない。
僕には人の心が分からないんだ。
たぶんみんな、僕が女の子だっていう「設定」を楽しんでいるだけなんだろう。
【はいはい】
【分かってる分かってる】
【そうだねだからDMひらいてメシ……はだめだからおしゃべりしよ?】
【投げやりで草】
【だって……】
【いやいや ほぼ毎日数時間、前はぽつぽつとだったけど無難なしゃべりとかリアクション取れて、調子が良いっていうかテンション上がってる日はノリが良くなるじゃん】
【アーカイブ見たけどさ、数分静かになったりしても聞いててはらはらしたりする静寂じゃないから普通に聞けるし】
【それな】
【新人Vとか配信者のは痛々しいことが多いからな】
【それが大好物なんだが?】
【必死なのが良いよね】
【素人感……良いよね】
【それを求めて俺たちは同接0からひとケタへダイブするんだ】
【素人ものを否定する人間だけが石を投げる資格がある】
【ひぇっ】
【ま、まあ、そういう需要は新人さんにはありがたいから……キモいけど……】
【草】
【あと 普通に滑舌いいし】
【それな】
【みんな、ちょっと何かしゃべってみるのをスマホで録音してみよう】
【 】
【 】
【 】
【 】
【即死魔法はNG】
【絶望するよね……】
【最初は誰もが通る道だ 安心しろ、家族と友人にはその声でろろろろろ】
【草】
………………………………。
……完全に視聴者を気にしないでのひとりごとに近いトーク、場合によっては数分に1回しかしゃべらない。
そんな、気楽すぎて真面目にがんばってる配信者さんからは怒られそうなダメなのなら……それくらい、普通じゃない……?
それが顔も合わせなくって良いネット越しなら、なおさらにさ。
ほら、誰だってひとりごとならいくらでも怖じ気づかずにしゃべれるでしょ?
優花からも「兄さんはネットで完結する仕事が良いかもしれませんね」って言ってたし、家から出さえしなければ何も問題はないんだ。
あ、そういえば昨日の彼女はなんか様子が変だった気が。
……後で何かあったか、さりげなく尋ねるチャット投げとこ。
【しかもボイチェンも自然に使いこなしてるし】
【TSっ子って設定もなぜか浸透して、その界隈に知られてきているしな】
【草】
【やった!!!】
【お前……】
「お前……いや、もう良いけどさぁ……『違う』ってはっきり言ってるから大丈夫だろうし……今の悪ノリも、分かっててのだから大丈夫だし……」
――TSとか連呼してる小中学生。
本当にそれしか連呼しないし、それ以上のことは言わないしで、最近はなんだかかわいく思えてきた哀れなやつ。
今の僕でも拒否反応がそこまで出ないってことは、悪意は存在しない。
そういう悲しいセンサーが敏感だからこそ、分かる事実。
普通なら人間は自然発生的に性転換なんてしないんだから、きっと変な性癖を垂れ流してるだけなんだと――同じ男として生暖かい目で見てあげられるんだ。
「ふっ……ボイチェンで実にちょろい視聴者たちだよね」
本当にね。
TSとかいう、きっと夢だろう事象での声に――こんなにも脅されている、哀れな視聴者たちなんだ。
【??】
【そういうことにしておこう】
【そうだね】
【まぁしょせんはネット越しだし、真偽はお互いに分からないままってのも悪くはない】
【そうそう、Vtuberとかそういうものよ】
【分かる】
【演技でも設定でも良いから、夢を見させてくれたら何でもね】
【同意】
【ぜんぶ分かってるより半々くらいが良いよね】
【分かる】
【古来より「アイドル」ってのは大衆に夢を見させるとかなんとか】
【でも肝心なとこでやらかして夢はじけさせそう】
【草】
【急に不安になってきたな……】
【こわいよー】
【こはねちゃん、またドッキリとかはやらないよね……?】
あみあみ。
「………………………………」
あみあみあみあみ。
「………………………………」
あみあみあみあみあみあみあみあみ……はっ!?
「……三つ編み……」
イスを回して鏡を見ると、そこにはメデューサみたいになっている僕の姿。
何本もの三つ編みが――手慰みに、動画をぼーっと観てるときとかにお酒を飲む代わりにと動かすようになった手が、無意識で房を量産していた。
みあみあ。
みあみあみあ。
みあみあみあみあ。
それをひとつずつ丁寧にほぐし、元に戻していく不毛な作業。
「……なるほどな……優花とか女の子が髪の毛触るのって、ただ触りやすいからってのがあったのか……」
――考えるだけで恐ろしいけども、この体になったあの日からすでにひと房、横に流れる髪の毛のうちひと房が三つ編みになっていて、房が肩の上で揺れる姿だった。
最初は当然結ったりもしないでほったらかしだったけども、なぜか――怖いから考えない考えない――なんで見知らぬリボンがあるのか、捨てるのもそれはそれで怖いからずっと着けてるのがさらに怖くて――――――――
「くぴっ……!」
ふぅ。
まるで下にぱんつを穿かないでスカート姿で外に出たときのように――そんなことはしてないけども、あくまでたとえだ――落ち着かないんだ。
「だからって何本も量産して……いやまぁ誰に見られるわけでもないし、つい買っちゃったリボンとか髪ゴムとかあるけどさぁ……」
机の上には、通販で買っちゃった系統のいろいろ。
それを無意識で――本当に無意識でつけたり外したり。
最近の僕は、いつもそうだ。
「……ま、まあ、頼るべきものが僕基準での朝はコーヒー、夕方からはお酒だけよりはマシか……」
僕は、まるですだれのようにことごとくの横髪が結ってある、なんとも奇妙な――それでも悔しいことにかわいい女の子の姿を見つめていた。
――こんな、情けない兄だったものの果て。
優花が見たら――なんて言うんだろうか。
◇
「かわいいですよ……? ええ――歯止めが効かなくなるくらいには」
◇
「うぅ……」
僕はつらい思いをしながらも配信を始める。
それしかできないとも言う。
「おはよう……うぅ……」
僕は悲しい存在なんだ。
【おはよう】
【草】
【開幕いつもので草】
【かわいい】
【かわいいけどかわいそうな声】
【興奮する】
【分かる】
【かわいそうだけど興奮する】
【えぇ……】
【本気でつらそうで草】
【のっけから苦しそうで草】
【1回減った同接も、前から比べたら明らかに増えてるしなぁ】
「違うんだ……ぅひゃぁっ!? ……う、ううん……もちろん知らない人が多くて怖いけど、そっちじゃなくって……」
同接って聞いて思わず見ちゃった数字で変な声が出たのは無視。
【は?】
【草】
【かわいいけど変な声で草】
【ボイチェンってすげーな】
【ボイチェンも数ある中から自分に合っているものと設定と声の出し方極めたら実質地声だからね】
【ああ、いくら造った声だと言っても、数ある選択肢の中からたったひとつを選び、設定を決め、それに合った地声を鍛えたらなら、それはもう第2の地声……偉業は誇るべきだ】
【ボイチェンってね、無限の可能性があるんだ そう、PCとスマホとスピーカーとbluetoothに遮音のマスクをを活用すれば――現代では、見事に異性になり切ることが可能だ】
【ああ、いくつか試せば違和感がないのがあるはずだ 設定を細かく調整して出た声を録音し、何度も微調整 そしてボイストレーニングを重ねれば実質地声だ】
【ボイトレはムーチューブにいろいろあるから、自分に合ったものを探すんだ】
【有志が無料で教えてくれることもあるぞ!】
【まずはYに「女声に興味があります」って書き込むことからだ】
【ずっと見てるからね】
【お前も――――――――ネナベやネカマにならないか? 異性に目覚めるというのは……とても気持ちが良いものだぞ?】
【バ美肉はね、バーチャル美少女受肉でもバーチャル美少年受肉でもあるんだよ】
【リアルの年齢も性別も声も顔も体も関係ない かわいいは、作れるんだよ】
【ボイチェンでメス堕ち……しようか 大丈夫大丈夫、VRなChatではいつでも俺たちが純粋無垢なお前たちを手ぐすね引いて待ち構えているよ<URL>】
【やさしくしたげる<URL>】
【<URL>】
【ひぇっ】
【急に湧いてきたやべーやつら】
【唐突な長文はNG】
【一瞬で加速してて草】
【TSネタのせいで定着してしまった界隈民】
【急にメス堕ちさせてこようとするんじゃねぇ!】
【なんだこいつら……やべぇよぉ……】
【ひぇっ】
【こわいよー】
【TSっ子だからもう同位体を受肉してるし必要ないってば】
【まーた言ってる】
【一瞬でコメントが100超えてて草】
【でも、リアルでもこんな声出してるって思うと……】
【それにしても、まーたコミュ障こじらせてる……】
【しゃあない、経緯的にPTSDみたいなものらしいし】
【それでどしたん?】
【話聞こうか?】
【とりあえず……閉じちゃったDM、開放しようか……】
【男ワラワラで草】
【ちょ、この前もだけど勢い速すぎ】
「僕は男だから意味なんてないって……んくっ」
とりあえずのお酒。
困ったらお酒なんだ。
「ぷはっ」
……この体が女の子だって気づかれてるわけはないんだけども、それはそれとして体がこわばったから脱力のためにも必要なんだ。
「……あ、今日は日本酒です。スーパーで売ってる普通のやつ。えっと、銘柄は……」
【はいはい】
【「猪の大脱走」……さては高級スーパーだな?】
【こはねちゃんの実家は太そうだ】
【これならいくらでもニートできるね!】
【草】
【こはねちゃんこはねちゃん、空きっ腹にお酒は良くないぞー】
【メンタルのためだと言われたら強くは言えないけどなぁ】
【まぁ20代までなら治療必要なアル中レベルで飲まなきゃ大丈夫だとは思うが】
【そもそもアル中とか急性アルコール中毒、継続的でも血液検査で異常が出るレベルのそれはよっぽど飲まなきゃならないしな 絶対じゃないけど】
【可能なら減らすのが理想だけど……無理強いはできないか】
【体質にもよるけどな】
【すぐに真っ赤になったら弱い証だからやめとこうね】
【急性のは飲み会とかで無理して飲むのとかフリードリンクでよくばるのとか見栄で一気ってのが原因だしな】
【まぁ毒は毒だから飲まない方がいいけどな】
【大丈夫、今どきの若者はかしこいから酒メーカーが嘆くくらい健康だよ】
【若者っていえば、若さって何よりの武器よね】
【分かる】
【30近くになったある日から急に飲み会が辛くなって】
【うっ……】
【つらい】
「はぁ……実はね」
年齢談義に加わりたいけども、何かでうっかりバレないとも限らないから今回は無視。
そんなことより、このつらさを分かってほしいんだ。
【うんうん】
【なんでも聞くよ】
【言ってみ?】
【だから通話……できないんだったわ、このコミュ障っ子……】
【ならDMだけで満足しておくか……だから開放して♥】
【草】
【出会い厨も諦めるガチっぷり】
「……最近、コラボの誘いとか案件のDMが……うぷっ、……ぷはあっ……! だから閉じたんだけど……うぇっ」
昨日ひと晩の苦労が思い出される。
「げぇっ……くぴくぴくぴくぴ……」
吐きそう。
ちょっと上がってきたのを、アルコールで下す。
「……うげぇ……うぇぇ……え゛ぇ……」
【ふぅ……】
【興奮した】
【お前ら……】
【草】
【あー】
【これはガチで気持ち悪そう】
【アル中の友人と全く同じで草枯れる 離脱症状を抑えるためのがぶ飲みに】
【かわいそう】
【吐き気をお酒で飲み込んでる……】
【マジでストレスになってるっぽいな】
【DM開放とかしてたから……最近閉じたみたいだけど】
「違うんだ……こんなとこになるだなんて。もう閉じたし、全部お断り……できないから無視してるし……」
多大なストレスを受けての無視だけどね。
……寝起きの悪夢は毎回知らない人から追われるのだけどね。
【えぇ……】
【正解ではあるな】
【バズって認知度上がるとそういうのがあるのか】
【数字取れるって分かるといろいろ来るからなぁ】
【こはねちゃんの場合、秘められていたトーク力とかわいさじゃね?】
【確かに】
「トーク力……そんなもの、ある? 僕に。あとかわいさはボイチェンね」
トーク力なんてものがあったなら、僕は高校でも大学でもやらかしてない。
僕には人の心が分からないんだ。
たぶんみんな、僕が女の子だっていう「設定」を楽しんでいるだけなんだろう。
【はいはい】
【分かってる分かってる】
【そうだねだからDMひらいてメシ……はだめだからおしゃべりしよ?】
【投げやりで草】
【だって……】
【いやいや ほぼ毎日数時間、前はぽつぽつとだったけど無難なしゃべりとかリアクション取れて、調子が良いっていうかテンション上がってる日はノリが良くなるじゃん】
【アーカイブ見たけどさ、数分静かになったりしても聞いててはらはらしたりする静寂じゃないから普通に聞けるし】
【それな】
【新人Vとか配信者のは痛々しいことが多いからな】
【それが大好物なんだが?】
【必死なのが良いよね】
【素人感……良いよね】
【それを求めて俺たちは同接0からひとケタへダイブするんだ】
【素人ものを否定する人間だけが石を投げる資格がある】
【ひぇっ】
【ま、まあ、そういう需要は新人さんにはありがたいから……キモいけど……】
【草】
【あと 普通に滑舌いいし】
【それな】
【みんな、ちょっと何かしゃべってみるのをスマホで録音してみよう】
【 】
【 】
【 】
【 】
【即死魔法はNG】
【絶望するよね……】
【最初は誰もが通る道だ 安心しろ、家族と友人にはその声でろろろろろ】
【草】
………………………………。
……完全に視聴者を気にしないでのひとりごとに近いトーク、場合によっては数分に1回しかしゃべらない。
そんな、気楽すぎて真面目にがんばってる配信者さんからは怒られそうなダメなのなら……それくらい、普通じゃない……?
それが顔も合わせなくって良いネット越しなら、なおさらにさ。
ほら、誰だってひとりごとならいくらでも怖じ気づかずにしゃべれるでしょ?
優花からも「兄さんはネットで完結する仕事が良いかもしれませんね」って言ってたし、家から出さえしなければ何も問題はないんだ。
あ、そういえば昨日の彼女はなんか様子が変だった気が。
……後で何かあったか、さりげなく尋ねるチャット投げとこ。
【しかもボイチェンも自然に使いこなしてるし】
【TSっ子って設定もなぜか浸透して、その界隈に知られてきているしな】
【草】
【やった!!!】
【お前……】
「お前……いや、もう良いけどさぁ……『違う』ってはっきり言ってるから大丈夫だろうし……今の悪ノリも、分かっててのだから大丈夫だし……」
――TSとか連呼してる小中学生。
本当にそれしか連呼しないし、それ以上のことは言わないしで、最近はなんだかかわいく思えてきた哀れなやつ。
今の僕でも拒否反応がそこまで出ないってことは、悪意は存在しない。
そういう悲しいセンサーが敏感だからこそ、分かる事実。
普通なら人間は自然発生的に性転換なんてしないんだから、きっと変な性癖を垂れ流してるだけなんだと――同じ男として生暖かい目で見てあげられるんだ。
「ふっ……ボイチェンで実にちょろい視聴者たちだよね」
本当にね。
TSとかいう、きっと夢だろう事象での声に――こんなにも脅されている、哀れな視聴者たちなんだ。
【??】
【そういうことにしておこう】
【そうだね】
【まぁしょせんはネット越しだし、真偽はお互いに分からないままってのも悪くはない】
【そうそう、Vtuberとかそういうものよ】
【分かる】
【演技でも設定でも良いから、夢を見させてくれたら何でもね】
【同意】
【ぜんぶ分かってるより半々くらいが良いよね】
【分かる】
【古来より「アイドル」ってのは大衆に夢を見させるとかなんとか】
【でも肝心なとこでやらかして夢はじけさせそう】
【草】
【急に不安になってきたな……】
【こわいよー】
【こはねちゃん、またドッキリとかはやらないよね……?】
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そう余裕たっぷりに微笑んだセバスチャン。
けれど、彼の言う「ゆっくり」は、翌朝には早くも崩れ始めていた。
学内の視線、兄の沈黙、そして二人きりのアパート――。
外堀が埋まっていくスピードに戸惑いながらも、ジャスミンは彼が隠し持つ「男」の顔に、抗えない好奇心を抱き始める。
「……どうする? 俺と一緒に、いけないことするか?」
余裕の仮面を被るセバスチャンに、あどけない顔で、けれど大胆に踏み込んでいくジャスミン。
理性を繋ぎ止めようとする彼を、翻弄し、追い詰めていくのは彼女の方で……。
「ゆっくり」なんて、ただの建前。
一度火がついた熱は、誰にも止められない。
兄の親友という境界線を軽々と飛び越え、加速しすぎる二人の溺愛ラブストーリー。
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