TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~

あずももも

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4章 女の子声での配信生活

45話 優花に勘づかれそうになった

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【ねぇねぇ、TSした醍醐味の感想は?】

【お前……】
【なんで古参の中にこんな裏切り者が……】
【しかも完璧にこじらせて業の深いことになっている】
【かわいそうに……】

【こいつ、アーカイブ観ると挨拶を普通にするだけのリスナーだったんだよな】
【もしかして:こはねちゃんに脳焼かれた】
【草】
【あー】
【それだ】

【ガチ恋ならまだしも、どうしてTSした妄想とかおかしな方向に……】
【それが、脳を焼かれるということだ】
【草】
【こはねちゃんも軽く流すだけだし、反応しないでやれ】
【だな】

「……TSは創作のスパイスとしては好きだけど、リアルでなったら大変そうだし、僕は良いかなぁ。理想ならともかく、現実としては」

うん。
大変なんだから、本当に。

【それな】
【リアルで考えると戸籍とかな】
【学校とか会社とか……ねぇ?】

【そもそも家族に信じてもらえるか議論からだしな】

【異性の家族が超絶美形で、その家族そっくりになる場合以外は信じてもらえるまでが地獄だわな】
【家族から「お前は誰だ!」って詰められて警察呼ばれるとかになったらもう……】
【その時点でトラウマ必至だよなぁ】

「ねー。僕なら絶対……いや、妹が美人さんだからそういう意味ではチャンスはあるか……? DNA的に、母さんに似たならあるいは……」

優花譲りの美形さんならあるいはね。
もっとも、その実の兄の僕は微妙な顔だったけども。

そういう意味では、父さんはよく美人な母さんをゲットできたよね。

男として尊敬するよ、父さん……スネしかかじってないニートになっちゃったし、なんなら息子どころかDNA的には父さんの子供でもなくなってるけども。

【草】
【出たよお兄ちゃん節】
【そんなに美人さんなのか】
【家族のひいき目もあるだろうけど、ちらちら話す限りだとマジでかわいいらしい】

【おっぱい……お兄様、おっぱいのサイズを……】

「誰が教えるかバカ、そもそも妹はやらん。妹が見定めた人にしかやらないぞ。ていうか引きこもりニートが口出せる話か、それ」

【草】
【草】
【それはそう】
【妹ちゃんとひより先生にだけはガチなのが草】
【こはねちゃんにとって大切な人たちだからね】

そうして僕は今までどおりに、なのに反応のまったく違う配信を楽しむ。

――本当、男と女の価値の差って、この界隈では残酷なまでに違うんだなって思いながら。





「――――――――兄さん。何かありましたか」

「ひゅっ」

僕の心臓はびくっと跳ね、体も危うく爆発四散するところだった。

バレた?

何で?

優花とは直接顔を合わせていない。

廊下でも――トイレは、その、人類の叡智というか……うん、明らかに危険そうなときは漏斗を使っての……うん……で、それ以外は気配を完全に察知し、うっかりトイレへ出て顔を合わせるのも回避している。

それ以外で部屋から出るのは、優花が居ない時間帯。
それはドアを開けたときのセキュリティーの音で完全に把握しているはず。

なら、なんで?

まさか、このボイチェンを使ったスピーカー越しの声とか、あるいは他のなにか――

「あ、ごめんなさい……兄さんを詰問するとかで兄さんのメンタルを危うくすることが目的ではありません。そうではなく、単純に食事の量が多いので……私の作り置きとか、消費するペースが……」

「……あ、ああ……ごめん、優花」

僕は正常に戻った。

TSを、バレていない。
そう分かれば、落ち着けるんだ。

「兄さんは……兄さん自身が拒否したので無かったことにしていますが、歴とした心的外傷後――ごめんなさいっ! 呼吸に異常があったら、すぐに救急車を――」

「え?」
「えっ」

あっ。

………………………………。

そ、そうだよね……?

僕、こういう気まずいことがあるたびに――最低でも過呼吸にはなってたはずで、酸素飽和度次第ではかかりつけの病院に救急車で。

いや、そんなことは後回し。
今は、優花を安心させないと。

――僕を、唯一見捨てていない――優しすぎる妹を、安心させないと。

「……ああ、いや、大丈夫。優花に『そう』言われてもパニックを起こさない程度には健康……だと思う。こう話せている時点でそうだろうし、マップルウォッチも緊急なんとかとか出してないでしょ?」

「……本当ですし、そこまで落ち着いているなら。配慮に欠く物言いでした」
「優花は少し優しすぎるよ……けど、とにかく大丈夫。ちょっと汗がにじんだだけだから」

妹は分かってくれたらしい。

……恐らくは緊急通報しようとしていただろうその手を止めてくれていると信じる。

止めていなかったら?

………………………………。

……いっそのこと別人になったことがバレたら、大変だけど楽になったはずだけども。

それを願っている僕が居る。
それを願っていない僕が居る。

――ああ、いつも僕はこうだ。

部屋の中に1人引きこもり、うじうじしているのを許してもらってそのまま放っておいてほしい僕が居て。
部屋の中に1人引きこもり、うじうじしているのを許さないで引っ張り出してほしい僕が居て。

そうだ。

――――――「僕は、誰かから引っ張り出してほしかったんだ」。

「……この前のカゼで胃の調子が悪いみたいで。大丈夫、いつも僕は春と夏と秋と冬にそこそこ重いカゼを引くけど、なんならインフルとかにもなるけど、運ばれるほどのにはなったことはない。これまでの経験以上のがあったら、ちゃんと知らせるよ。優花の友達みたいにはならないように、でしょ?」

「……分かりました。小学校のころの私の友達のこと、忘れないでくれて――っ、ご、ごめんなさ――」
「大丈夫。流行病でのあの子のことは、忘れてないよ。……安心して、優花。顔は見せられないけど――僕は、元気だよ」

優花の叫び声。

――彼女と仲の良かった友達が、流行病で。
それもあって、彼女は僕の体調に神経質だ。

まぁ致命打は僕がひとりすっ転んで後頭部を酒瓶で強打して伸びてたのを発見されたからなんだろうけども……ごめんね優花、トラウマをしょうもないことでさらにひどいものにしちゃって。

「少しばかり……たぶん、朝の散歩中にすれ違った学生に――咳をしてたから、それに引っかかったんじゃないかな。食欲不振……っていうのかな、それ以外はなんにもない。睡眠も多めに取ってる。なによりも」

僕は、ドア越しの――3センチだけ開けてあるだけで、けどもこんな状態でも開けてこないように自制してくれている身内へ、語りかける。

「優花を、もう、心配させたくはないから。だから、健康にだけは気を付けてる。……悪くなったなら、吐いてでもタクシーを呼んでかかりつけの先生のところに行くよ。もっと悪かったら、救急車も呼ぶ」

「……吐く前に頼ってほしいのが本音ですけど。分かりました、兄さん。安心しました」

ドアの前で、深いため息。

「……でも、何か不安なことがあったら……あのときは役に立てなかった私も、来年には大学生です」

「うん、優花のことは信じてる。……だから、僕みたいにならないように――」

――ばんっ。

僕は僕の顔を思いっ切り殴った。

……あ、「これまで」よりも柔らかい感触。

そっか。

女の子、しかも子供の顔だもんね。

……ごめん。

「――――兄さん!?」

「ごめん、またやっちゃった――けど、大丈夫。それよりも」

――パニック障害からの、「他人」へ迷惑を掛けないための、自傷癖。

僕自身が嫌いだから、感情が昂ぶると制御ができなくなる。

そうして僕の体を引っかき、つねり、刺し――あるいは顔面を何度も思いっ切り殴って鼻血が止まらないほどに出て――脳震盪をやっちゃってる、悪癖。

大半は見られていないところまで我慢できるんだけど、どうしてもダメなときはある。

家族へ――優花へ心配をかける、悪癖。

それ以上のことをしようとしても、その経験のおかげでセーブが掛かってる――悪癖。

幸いなことに、そうなっても他人に――両親や優花へ向いたことは1度たりともないから、それだけでも安心できはするんだけども。

それも、この「小さな女の子の体」を傷つけないようにって、前よりはかなり制御できてるんだ……ほっぺたひりひりしてるけど。

「――優花にとって、優花が最も大切な存在だ。僕たち家族にとっても、優花は――僕たち以外に、世界に2番目に大切な存在なんだ。お願いだから、僕みたいにはならないで。優花は、優花自身の人生を――――――っ……ごめん」

「……いいえ。体調が悪ければ、思ってもいないことを口にしてしまうことはあります」

ドアが、2センチ開いた――けども、それ以上は開かず。

「……兄さんは、私の、大好きな兄さんです。たとえ兄さん自身がどれだけ嫌いでも」

「……うん」

「だから、……いえ。これを聞いてくれているなら、充分です」

ドアから1歩離れる気配。

――引きこもり生活も長ければ、人の気配には敏感になるんだ。

「優花」
「はい」

「高校生活は、楽しい?」
「はい」

「受験勉強は、大変?」
「はい、人並みには」

断言。

妹は、僕へ――嘘は、つかない。

なら。

「――僕が知らなかった、楽しめなかった分まで楽しんでくれ。教えてくれ。わがままだけど、そう、お願いして良い?」

「……はい。……では、兄さん。行ってきます」

「うん。あ、今夜は日本酒が呑みたい……かな」
「……くすっ」

引きこもりでろくでなしでごくつぶしで汚点の兄の、理不尽な要求。

それでも彼女は――楽しそうに。

「……分かりました。いつものお高いスーパーの棚に並んでいたら買ってきますね♪」

「うん。あったらで良いけど――」

僕は、情けない気持ちを覚えつつも――子供のころのかくれんぼをしていたときみたいな感情で、言う。

「あったら、買ってきてくれると嬉しいな。アルコールは――現実を忘れる以外にも、楽しいことを楽しむってことに……楽しいから」

「ふふっ、もうお酒を飲んでいるんですか? ……けど、ええ。あったら、買ってきますね?」

心なしか弾んでいる、優花のハスキーボイス。

それは、まるで――恋する乙女のようだった。
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