TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~

あずももも

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7章 半分バレてない、僕の配信

84話 僕は着せ替え人形

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「しゃぶい……」

「最近は朝晩も冷えますね……」
「うん……くちっ」

もぞもぞ。

僕たちは、無意識で奪い合う争いの結果として布団の中で張り付いていた体をほぐしながら起きる。

……こんな体になるまで、優花とまた一緒に寝るだなんて想像もしながったな。
最後に寝てたのは……優花が中学に上がって、すっぱだかに生えてきたのを指摘したとき……あ、5年くらい前か。

そのときから比べて大きくなったなぁ、優花は。
それに比べて僕は……うん、小さくなっちゃったけども。

「春秋用のじゃ、この寒さはムリかぁ」
「そのようですね……パジャマも多少は厚手のものですが」

ぶるっ。

手先も足先も寒い僕は、体を震わせて暖を取る。

「それにしても……やっぱり女の子の方が寒さを感じやすいんだね」
「一般的に筋肉量が少ないですから。あと兄さんは幼くなって」

「や、それだとおかしい。小学生の男子は寒くても平気だし」

「確かに……男子は普段から外で走り回って耐性を……?」
「それもなぁ……僕は別段アウトドアじゃなかったし、でも寒さはたぶん平気だったし……うーん?」

眠い頭でぼそぼそと意味もない会話をしながら、ふたりして洗面所へ。

「…………………………………」

「?」

ふと見上げると、優花が見てきている。

「……お手洗いも一緒に?」

視線を動かすと……なるほど、トイレだ。

「え? いや、今日はまだ大丈夫。先行ってて」
「そうですか……」

しゅんと、心なしか小さくなった彼女が廊下の先へと歩いて行く。

「…………………………………」

……優花も、たいがい妹には弱いんだね。

将来お母さんになったら、絶対甘やかしてべったりなタイプだ。
娘はわがままさんに育つし、息子は反発してえらいことになる。





「やだ」

僕は徹底抗戦をしている。
こういうときの僕は頑固なんだ。

「ということで、暖かい晩秋から冬物を買いに行きましょう」

「やだ」

じりっ。

僕は全力のファイティングポーズで、両手で威嚇しながら優花と距離を取る。
運動の苦手な僕でも、腰を落として膝を曲げてフットワークを軽くするくらいはできるんだ。

「通販は……良いものもありますが、正直兄さんのチョイスはダサいです」
「やだ」

僕は主張する。
やだ、って。

「兄さん」
「や――」

「――かわいく、なりたくはないですか……?」

「む」

ぴたり。
僕の思考が、一瞬だけ止まる。

「ええ、かわいく。ひより先生のイラスト……いろいろな服を着ていますよね……? かわいい、ですよね……?」

かわいくなる。
服で着飾る。

「女の子はですね、重ね着のできる季節こそ本番なんです」

考え込む僕へ、優花が近づいてくる。

「考えてみてください……兄さんの好きなソーシャルゲームのキャラクターたち。その、季節限定期間限定衣装」

期間限定。

そうだ、最近の季節はおおざっぱになってきてはいるものの、ひとまず1年に4つある。

ソーシャルゲーム――ソシャゲーでは、隙あらば期間限定衣装がクエストとかイベント報酬、またはマネーで獲得できて――キャラクターたちを着飾れる。

そういう話も、どこかの配信でした記憶がある。

「兄さん、言っていましたよね? 悔しいけれど、好みのキャラクターならどうしても課金してしまうと」

ぼそぼそ。

「こうとも言っていましたよね? 女子は、小さいころからいろんな服を着られて――ずるい、と」

気がつけば耳元でささやかれている。

「――そんなゲームのキャラクターたちは、ゲームをしているあいだだけですけれども――今、寒い季節のリアル限定衣装を買えば……兄さんが女の子になっているあいだは、毎日でも着て見て見せて楽しめるのですよ……? そのずるい楽しみを、ひとりじめ……ですよ……?」

「ひとりじめ……」

「そうですよ……ほら。今の兄さんは、かわいいでしょう……?」
「僕が……かわいい……」



あれ?

僕、なぜか鏡の前に立たされてる?
いつの間に?

きょとんとして、ほんのりとほっぺたが赤くなっている小さな女の子――かわいい系統の子/僕が、僕を見ている。

「小動物系――幼いかわいさを、こんなにも。このパジャマ姿ももちろんかわいいですけれども……いろいろなかわいい服で着飾りたくは、ありませんか……?」

「着飾る……」

僕はふわふわとしている。

「ネット越しはダメとは言いませんけれど、ある程度経験値がないと選ぶのが難しいんです。流行り物、ランキング上位だからといってその人に似合うとも限りません。ここはひとつ、これでも女歴十数年の私に……任せては、みませんか?」

「まかせる……」

僕は――振り向くと、すぐ目の前にある優花の唇を見上げる。

「ええ。大丈夫、兄さんが苦手な服装は強要しません。あくまで私が提案するだけ……兄さんはただ、それの中から気に入ったものを着るだけ……」

「着るだけ……」

僕はぽわぽわとしている。

「……さらになんと、兄さんが小さくなって着るものにも苦労していると話したところ――両親から、兄さんの服に関しては無制限という快諾を取り付けました」

「快諾……」

「ええ。――いくらでも、好きな服を買ってもらえるそうですよ……? 兄さんが配信で言っていたように、男性用の服はバリエーションもなくてつまらないのにずるかったはずの、女性用の服を――ふぅーっ。いくらでも。兄さんが内心私に嫉妬していた分を、いくらでも無制限に――今のうちに、期間限定で。私ばかりおしゃれしていた分を」

ぼくはもうなにもわからない。

「良いでしょうか?」
「……うん……」

ぼくはうなずいた。

「調子の良い日――なるべく人の少ない日と時間帯を選んで行きましょうね。大丈夫、嫌だったらすぐに帰りますから」

「うん……」

「よしよし、良い子良い子」

なでなで。

…………………………………。

よく分からないんだけども……なんにもわからなくって、ただただ怖くない人からお世話をしてもらえるのって、すごく気持ちが良いんだ。





「お姉様! こちらもいかがでしょう!?」

「あら素敵! こちらのブランドも似合うと思っていたんです……!」

「さすがはお姉様!」
「お姉様、こちらも……」

「…………………………………」

ああ、僕は馬鹿だ。
大馬鹿だ。

あんな口車にひょいひょいっと乗せられた末路が――これだ。

背丈的に頭のてっぺんでもその半分にしか届かない全身鏡、その反対側のカーテン――そして壁で囲まれた、牢獄。

僕はここに――ああ、もう1時間も幽閉されている。

罪。
罰。

そうだ、僕は償っているんだ。
優花を心配させた重罪へのそれを。

「…………………………………」

鏡には、こげ茶とか黒をベースにした服――最初はわりと覚えられてたけども、すでに数十組目、しかも毎回優花と店員さんがぺらぺらぺらぺらとひとつずつの特徴とかをカタカナな外国語でまくしたててくるものだから、今の服がどんなのかなんてのは僕の脳みそが受け付けていないんだ。

とりあえず、かわいい。

かわいいけれども――齢十数歳の小娘がして良いような目つきをしていない。
どこか遠くを、この世界にはない夢想を――現実に絶望し、ただただすがる気持ちで見ているおめめをしているんだ。

「こはねさん? 開けますね? ――あらかわいい! やっぱり秋コーデも……」

「ええ、こちらは季節の変わり目とあって大変にお安く……」

しゃあっと開けられたカーテンの向こうに、それはもう楽しそうに目を輝かせている優花が立ち、何十回めかの身もだえをしながら褒めちぎる。

――かしゃかしゃ……かしゃしゃしゃしゃっ。

呆然としている僕の姿を、優花が何枚かの写真に収める。

そして――僕が人見知りするっていうのは周知で羞恥な結果、この「フロア」の店員さんたちが横一列に――10メートルくらい離れておしくらまんじゅうをしながらキャーッと騒いでいる。

……ああ。

僕は、失敗したんだ。

「こはねさん、そちらはいかがですか!?」
「んー……」

「残念ながらお気に入りではなかったようです」
「それは残念極まりますね……」

「でしたら次はこちらです!」
「きっとお気に召すかと!」

――どさっ。

僕の――ルーチンワークに慣れすぎた結果として無意識で差し出すようになった腕へ、新たな囚人服が載せられる。

「ちょっと早いですけど、冬物のニットにパンツの組み合わせで……」

「ん……」

僕は引き返し、カーテンを閉め――座り込んで、深いため息を何十回目に。

「……優花……こんな地獄を、自分から楽しんで母さんといつもいつも……父さん、僕、もうわからないよ……」

狭い牢屋に閉じ込められ、着飾られ、次の服を足下に座り込んだ僕の姿は――それはそれは哀愁漂う少女のものだった。





「かわ……かわ……っ!」

数時間後。

天野ひよりは――悶絶していた。

「………………………………! ………………………………!!」

ぱたぱたぱた。

枕に顔を埋め、全力で脚をばたつかせ――

「……どうしよう……もう、勉強なんて手に着かない……!」

――その側のタブレットには、すでに数十のラフが描き込まれており。

「……こはねちゃんさん……かわいすぎるぅ……!」

ひよりは、心を完全に奪われていた。





【      】
【      】
【      】
【      】

【いきててよかった】
【かわいすぎ】
【かゆ うま】

後日、優花が厳選した数十枚が上げられ、それを直視してしまった彼らは悶絶を通り越しており。

介護班のサーバーは――飛んでいた。
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