TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~

あずももも

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7章 半分バレてない、僕の配信

90話 すんすんやだやだだってだって

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「死にたい」

「だ、大丈夫です! 視聴者のみなさんも理解してくれています!」
「そうです! 私たち古参の介護班なら……かわいいです!」

「死にたい……」

「ほ、ほら、ひより先生ですよ? お勉強会ですよ?」
「こ、こはねちゃん先生! 分からない問題がたくさんあります!」

「すん……すん……」

ああ。

大したことがあったわけでもないのに、何故か無性に悲しくなってギャン泣きして……まーた視聴者たちに、そしてなにより優花に。

あと、配信からそのまま駆けつけてきてしまったひより先生にも心配をかけて……僕はもうダメだ。

「ほら、ぎゅーっとしてあげますから。ひよりさんも」
「え、え!? じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」

――ぎゅっ。

だきっ。

左右から――ひより先生が来るまでの1時間くらいを抱きしめてあやされて、あとお風呂に入れてくれた優花の柔らかくて、けれどもしっかりと安心感のある体。

ひより先生の、今の僕とそう変わらない身長と体重と儚さのある体。

……年下の女の子2人にあやされるだなんて、なんて情けな――

「……あ゛――……あ゛ーん……」

「!?」
「あ、あらあら……落ち着いたはずなのに……」

――先生の目の前なのに、どうしても泣くのを抑えられない。

「あーん、あーん……」

「……大丈夫。大丈夫……こはねちゃんさんは、かっこいい人なんですから……」

なでなで。

気がつけば僕は、2人から代わる代わるに撫でられていて。
本当に――TSして幼くなって、心まで子供になっちゃったみたいで。





「……こはねちゃんさん。あの、やっぱり配信は……」

「にわかには信じがたいことがありますので、如月先生からの返答待ちですが……こはねさんは、先日の声バレより少し前。とてつもない変化があったんです。外に出たわけではありませんが」

「すぅ……すぅ……」

女子高生2人に――驚くことに、かたや3年生にして学校のアイドルにして「現代のご令嬢」「お嬢様」と尊敬を浴びる優花、かたや1年生にして学校のマスコットにして「守護るべき存在」「男性教師と目を合わせたら倒れる小動物」と庇護欲を浴びるひより。

――どう見ても、たったの2年の差とは思えない身長と顔つきと……なによりも、精神的な差のある少女たち。

彼女たちに囲まれているのは――自称、25歳成人男性「だった」、(こはねの希望により盛って)現中学生相当の「少女」。

だが、トラウマを思い出したか何かで泣きじゃくり……ようやくに眠った、そのあまりの儚さは――幼児のよう。

「幼児退行――これをイメージしてもらえば、と」
「……そう、ですか。ひどいストレスとかで……」

「厳密には実際に起きたわけではない……のですが、ともかくは」

「分かりました。……こんなに小さいのに、あんなにつらそうで」

ひよりの小さな手が、そんなひよりよりも数歳も年下に映るこはねのおでこに掛かった前髪を、たった今まで泣きじゃくっていたためにかいていた汗で張りついたそれを、そっとかき上げる。

「私……本当に。本当に、実際に会うまで……大人の男の人だと、本当に思っていました。いろいろ辛いことがあって、でも、前向きにがんばっていて……中3のときにようやく使わせてもらえるようになったスマホで始めたSNSでのいろいろを、優しく『危ないよ』って教えてくれるような……お父さんみたいな人だって」

「……こはねさんは、優しくて……心は、本来なら強い人です。でも、今は」

ぽつり、ぽつり。

真っ赤になった目じりが痛々しい童女が――淡い紫の毛を、その三つ編みをサイドに垂らした少女が、すやすやと寝入っている。

その顔をずっと見ていたひよりが――顔を上げる。

「……優花、さん」

ずっと『こはねちゃんさんのお姉さん』と、おっかなびっくりで見上げていた彼女が――初めて、真正面から優花を見る。

身長差は歴然としていても、座高だけなら、その半分しか違わないから。

「私……ずっとずっと、こはねちゃんさん……ううん。こはねちゃんの友達になりたいって、思っていました。……男の人だって思っていたから、私の好きな少女漫画みたいな展開を……そう思っていた下心は、ありました」

「……年頃になった女子なら、誰でもそうです。『恋に恋する』のが乙女ですから」
「ありがとうございます。……でも、今は」

ひよりは――こはねと軽く握り合った手を、見つめ。

「友達――少なくとも1年前からは、週に何回も話すような……毎回ちょっとだけでしたけど、でも、遠くに住んでいたとしても、歳も性別も全然違う人だったとしても……友達として。そう、なりたいって。だから、私はこはねさんと……友達に、なりたいです。きっとまだ、こはねさんから見た私は……それですら、ありませんから」

絞り出すような声で、何度もつっかえ――それを受け止める優花。
その顔には、兄に理解者が――友人ができる喜びで、慈しみを込めた笑みが浮かんでいた。

「……こはねさんも、きっと喜びます」

「すぅ……んぅ……」

ぽつり、ぽつり。

少女たちの穏やかな会話は――こはねが起きるまで、何十分も続いた。





「やだ」

じりっ。

「こはねさん」
「やだ」

じりじりっ。

僕は、診察室で――如月先生と対決していた。

優花は居ない。
援軍は居ない。

「ですが、これは――」
「やだ。ぜったいやだ」

先生が言ったんだ。

「よわよわへっぽこへなちょこみじんここはねちゃんにはお薬出しますね」って。

「こはねさん」

「や――」
「……薬は、用法用量を正しく守れば、怖くはありません」

先生は――僕が診察室のドアを背にして威嚇するのも気にせずに、イスに座ったまま語りかける。

腕も上げて、僕の威嚇は完璧なのに。

「……うかがったところによりますと、こはねさんが当初処方されていた系統のお薬は……確かに、依存性が高いものです」

そうだ。

あれはすっごくふわふわなるし、気分が――「楽になりすぎる」んだ。

「きらい」
「ええ。人によってはこはねさんのように拒否反応を示す方もいるお薬です」

「だから――」
「でも、ね?」

先生は……こんなに嫌がっても、怒らない。

こんなにも嫌っても、嫌ってくれない。

「当時から数年――薬の世界も、進化の早い世界。なにより、たった1種類が合わなかったからといって他にたくさんある選択肢の全てを放棄してしまうのは……もったいないんですよ? こはねさんだって、人の好き嫌いはあるでしょう? 乱暴に言ってしまえば、それと同じです」

「………………………………」

「それに、今回はあえて頓服で――必要なとき、必要だと思ったらひとつだけ。そう使えて依存性も薄く、副作用も少ないものを出します。これまで自分で乗り越えることができてきたこはねさんだからこそ、本当に困ったときのために……と」

「む……」

……つまり、飲まなくても怒られない?

「……せんせいは」
「ええ」

僕は、何かを見ながら言う。

「せんせいは、おくすり……のまなくても、ぶたない?」

「――――――……、ええ、もちろん」

「おくすり、すててもおこらない?」
「ええ。合わないのなら、飲みたくないのなら仕方がありませんから」

「ほんと?」
「本当です」

「……うそついたら、ゆうかお姉ちゃんに言いつけるから」

「ええ。私も、怒られるのは怖いです」

「………………………………」
「………………………………」



あれ……なんで僕、こんな子供っぽい怒り方してるんだろ。
あと、優花の呼び方……うーむ、意外と繊細な僕の深層心理。

「分かりました。とりあえず優花に預けておけば良いんでしょうか」

「………………ええ。ですが、配信中や1人で居るときに困った場合へ、1錠だけ手元に」
「そうですね……あれ以上、全世界に向けて醜態を晒したくはないですし。よく考えたら、緊急用として前のも使い切ったんでしたし」

とてとてとて……ぽふっ。

なぜかとっても怖くって離れたかった気がしていた先生にも失礼だし、気恥ずかしさはもう気にしないでイスに座る。

「………………………………」

そんな僕を――ああ、きっといい歳した男がわがまま言ってるのを哀れんだんだろう、なんとも言えない表情で見つめてきている先生。

……元の僕より数歳年上なだけなのに、どうしてここまで全てにおいて優れているんだろうね、如月先生は。

こんなスネかじり中退引きこもりニートと、お医者さんだなんてさ。

「……今日はここまでにしましょう。妹さんへは後ほど」

「子供っぽかったのは内緒にしてください」
「ええ、分かりました」

くすっ。

僕の情けなさを笑ったのか、それとも肉体が幼いんだからしょうがないと思って笑ったのか――如月先生は、僕が普通に社会人をやれていたらきっと心惹かれただろう、できるキャリアウーマン的なスマイルを浮かべていた。
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