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7章 半分バレてない、僕の配信
91話 ゾンビみなみさんとエンカウントした
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「ごばね゛ざま゛ー……」
「ぴぃぃぃぃ!?」
診察室に戻った僕は――絶望した。
世界は――ゾンビにあふれていた!
「う゛ぁぁぁぁぁぁ」
「ぴぃぃぃぃぃ!?」
僕の目の前には、ぼさぼさの髪の毛を振りまいてだぼだぼのパーカーの袖を振り回すゾンビの女の子が居る。
顔は真っ白――いや、ゾンビらしく目元は黒くって、よく見たら頬も痩けている……これは死後、あるいは生後数日のゾンビと見た……!
「どう゛どい゛」
「あーん!!!」
僕は逃げた。
この体で、初めて全力を出して。
「せんせぇー! せんせぇー!」
「え゛……あ゛、あしはやい……」
◇
「ダメでしょう、月見さん……あれほど初対面には気をつけなさいと」
「ご、ごめんなさい……つい……」
「がるるるるっ」
「ほら、配信での『幼女モード』になったこはねさんが威嚇して――ヴッ」
「み゜っ」
ゾンビが見上げてきている。
そんなゾンビと話している先生が見上げてきている。
敵だ。
「こ、こほん……りょ、両手を懸命に上げて、少しでも脅威を示しているんです。そんな相手への近づき方……月見さんなら分かるでしょう?」
「ごめんなさい……でもかわいい……」
「がるるるるるっ」
先生は敵だった。
やっぱりおとなはしんようしちゃいけないんだ。
だからぼくは、診察室のすみっこのベッドの上で背を高く見せるんだ。
「僕はすごく強い、大人の男くらい強いんだぞ」って。
「こはねさん」
「ふしゃーっ」
先生のことなんか信じないもん。
「……なにこのかわいいいきもの……」
ほら、また良く分からないことをつぶやいてる。
「せ、先生っ! 今はこはね様の怒りをっ」
「そ、そうでした……こほん。こはねさん?」
2人は、成人を超えた男としての威厳を見せつけた僕に恐れおののいたのか、ドアにへばりつくようにしている。
これなら怖くは……あれ?
逃走経路、ふさがれてない?
「………………………………?」
僕は疑問を覚え、ちょっと考えてみる。
「ヴッ」
「む゜っ」
「………………………………」
何秒か、落ち着いて考えてみると……あれ。
僕、なんで初対面とはいえ、高校生程度の女の子におびえてたんだろ……いや、いきなり大声で奇声上げながら飛びかかってこられたら、たとえ男だったときでもびびりはするよ……なんなのこの子、怖い……。
僕はゆっくりと腰を下ろし、ひとまずベッドに座る。
とりあえず、僕は脅威じゃないって意思表示……あ、今の僕、この子より小さかった。
「 」
「あ、あのっ……!」
先生がなぜか――成人男性としてはあまりにも幼すぎる行動で、きっと呆れているんだろう……心が痛い――診察室の天井を見上げる横で、奇行少女が言語を発する。
「わ、私、古参のひとりで……」
「あ、どおりでそこまで怖くない」
「私、感情の制御が苦手で……数年かけてようやく会えたって思って、それで思わず……」
「あー」
……だぼだぼのパーカーに、下は着心地の良さそうなスウェットというラフすぎるけども、どこかで見た格好に近い姿。
顔は真っ白、目元はよく見たら結構濃い隈ができてるだけで、低血圧なのか外に出ないからか、顔が白すぎて青ざめているからゾンビみたいに見えていただけ。
つまりは――ちょっと前までの僕をそのまま女の子に変換したように、不健康なだけだ。
……同じ不健康だったとしても、男と比べると女の子はそれだけでかわいいって思えるから卑怯だよね……まぁ今は僕も女の子だけども。
「……見られてる……あの御方に……私が死んでいない姿を……」
最初のゾンビっぷりはどこへやら。
そこに居たのはひより先生よりは耐性があっても人との距離が苦手で、そこまで高くない背を丸めて猫背になっていて、ぼさぼさの髪の毛を――光に当たると青く見える――胸元まで垂らしている少女。
「で、今回も先生ですか」
「 ……こほん、ええ。ひよりさんの次に抵抗が薄いかと」
「確かにそうですけど……」
こうして毎回サプライズされるのは、僕の小さくなった心臓がきゅっとなるからあんまり好きじゃないんだけどなぁ……。
「思ったとおりに、こはねさんからは普通に話せていますね」
「最初は心底怖かったですけどね。B級ホラー映画の、音と光だけで無駄にビビらせようとしてくる系統の演出みたいで」
「ごめんなさい……」
しゅんとしている青髪の子。
そんな姿を見たら、こうして顔を合わせるのは初めてでも元から文字では見知ってたのも合わせて、全然怖くなくなってきた。
◇
「月見みなみ……です……ひきこもりV、してます……専業、です……」
「V……あー、同業者さんですか」
「はひ……で、でも、もう登録者とか追い抜かされそうで……」
待合室――今日も、またもや僕たちのためだけに貸切状態だ――で、2メートルくらい離れた遠い席で、僕と目を合わせないでしゃべる、みなみさん。
……遠いけど、この距離だと普段の僕からしても安心できるし、声も聞き取れないわけじゃないし。
「えっと、僕のは水物っていうか、たまたま偶然配信中にパニック起こしたのが物珍しかっただけで、専業っていうからにはちゃんと真面目にこつこつがんばってる人の登録者とは、数字上で近くなってもこれっぽっちも近づいてないっていうか、実力も伴ってないし、本当に一時的なもので……怖くて数字は妹に丸投げですけど」
あとメンバーの人たち――この2人みたいな、前から居る人たちにプラスでちょっとだけ――以外からのコメントすらシャットアウトしてるし。
「VTuber飽和時代に、個人で……どんな理由でもバズを起こせただけですごいのに……」
「僕の感覚としては、ただの趣味勢配信者……アイドル系統じゃない、普通のゲームプレイ兼雑談配信しかしてないので、普通にそのうち身の丈に合った数字に落ちると思いますけどね」
今さらながらにして、僕のアイデンティティーは最初からずっと「顔出し無し・声のみ趣味配信者」だ。
それは当時の視聴者たち――つまりは如月先生と、みなみさん?も含めた古参たちにそそのかされ、ひより先生に頼み込んでイラストを作ってもらって画面の隅に飾っただけのあのときからも変わっていない。
女の子にTSして男声のボイチェンを使っていたときも、うっかり声がバレてからちょっとずつ今の声を使い出したときも――顔バレしてからも、見てた人たちがみんなお口チャックしてくれるのを良いことに、それまでと同じスタイルで続けている今も、なんだ。
「僕、ひより先生にイラストをもらって動かして、一応はVTuberになったじゃないですか。なので、いろいろ調べてみたんです……VTuberについて」
知識は大事。
少なくとも、表面の1枚裏側あたりまでは。
「そのときに通称『V』ってのは、すごく大変らしいって知ったんです。女の子だからといって、最初期のアドバンテージがあるだけで、それ以降は単純にVとしてどんなアイドルとかコンテンツを提供するかっていう戦略とか、トークのスキルとかが大変なのは男女変わらなくって、とか。それ思うと、そんなVを専属でやってるみなみさんは相応の努力をしてる、すごい人だって……って、あれ?」
過去を懐かしがりながら思い出していたら、なんだか静かだ。
「?」
「 」
「……こはねさんは、褒め殺しが得意ですよね」
「? なんのことですか?」
なぜかくたっとなって如月先生に抱えられているみなみさん。
……首が真後ろになってるのは大丈夫なのか心配だけども、お医者さんが見てるんだから大丈夫なんだろう。
「思えば、優花さんやひよりさんのことも……配信中でも、わざとかと思うくらいにベタ褒めで」
「いえ、優花は自慢の妹ですし、ひより先生は大先生なので」
「……そういうところ……これ、引きこもりしていなかったら大学時代に人間関係複雑骨折の原因が女性関係になっていたんじゃ……」
「?」
如月先生も優花も、ときどきぼそぼそ口元で考えをまとめる癖があるらしい。
そういうのは聞かないであげるのが男の嗜み。
だから僕は、診察室の構造を熱心に観察することで沈黙してあげた。
あ、窓の外、今、天使とちょうちょが飛んでた。
一瞬だけど、確かに見たんだ。
これは良いことあるかもね。
「ぴぃぃぃぃ!?」
診察室に戻った僕は――絶望した。
世界は――ゾンビにあふれていた!
「う゛ぁぁぁぁぁぁ」
「ぴぃぃぃぃぃ!?」
僕の目の前には、ぼさぼさの髪の毛を振りまいてだぼだぼのパーカーの袖を振り回すゾンビの女の子が居る。
顔は真っ白――いや、ゾンビらしく目元は黒くって、よく見たら頬も痩けている……これは死後、あるいは生後数日のゾンビと見た……!
「どう゛どい゛」
「あーん!!!」
僕は逃げた。
この体で、初めて全力を出して。
「せんせぇー! せんせぇー!」
「え゛……あ゛、あしはやい……」
◇
「ダメでしょう、月見さん……あれほど初対面には気をつけなさいと」
「ご、ごめんなさい……つい……」
「がるるるるっ」
「ほら、配信での『幼女モード』になったこはねさんが威嚇して――ヴッ」
「み゜っ」
ゾンビが見上げてきている。
そんなゾンビと話している先生が見上げてきている。
敵だ。
「こ、こほん……りょ、両手を懸命に上げて、少しでも脅威を示しているんです。そんな相手への近づき方……月見さんなら分かるでしょう?」
「ごめんなさい……でもかわいい……」
「がるるるるるっ」
先生は敵だった。
やっぱりおとなはしんようしちゃいけないんだ。
だからぼくは、診察室のすみっこのベッドの上で背を高く見せるんだ。
「僕はすごく強い、大人の男くらい強いんだぞ」って。
「こはねさん」
「ふしゃーっ」
先生のことなんか信じないもん。
「……なにこのかわいいいきもの……」
ほら、また良く分からないことをつぶやいてる。
「せ、先生っ! 今はこはね様の怒りをっ」
「そ、そうでした……こほん。こはねさん?」
2人は、成人を超えた男としての威厳を見せつけた僕に恐れおののいたのか、ドアにへばりつくようにしている。
これなら怖くは……あれ?
逃走経路、ふさがれてない?
「………………………………?」
僕は疑問を覚え、ちょっと考えてみる。
「ヴッ」
「む゜っ」
「………………………………」
何秒か、落ち着いて考えてみると……あれ。
僕、なんで初対面とはいえ、高校生程度の女の子におびえてたんだろ……いや、いきなり大声で奇声上げながら飛びかかってこられたら、たとえ男だったときでもびびりはするよ……なんなのこの子、怖い……。
僕はゆっくりと腰を下ろし、ひとまずベッドに座る。
とりあえず、僕は脅威じゃないって意思表示……あ、今の僕、この子より小さかった。
「 」
「あ、あのっ……!」
先生がなぜか――成人男性としてはあまりにも幼すぎる行動で、きっと呆れているんだろう……心が痛い――診察室の天井を見上げる横で、奇行少女が言語を発する。
「わ、私、古参のひとりで……」
「あ、どおりでそこまで怖くない」
「私、感情の制御が苦手で……数年かけてようやく会えたって思って、それで思わず……」
「あー」
……だぼだぼのパーカーに、下は着心地の良さそうなスウェットというラフすぎるけども、どこかで見た格好に近い姿。
顔は真っ白、目元はよく見たら結構濃い隈ができてるだけで、低血圧なのか外に出ないからか、顔が白すぎて青ざめているからゾンビみたいに見えていただけ。
つまりは――ちょっと前までの僕をそのまま女の子に変換したように、不健康なだけだ。
……同じ不健康だったとしても、男と比べると女の子はそれだけでかわいいって思えるから卑怯だよね……まぁ今は僕も女の子だけども。
「……見られてる……あの御方に……私が死んでいない姿を……」
最初のゾンビっぷりはどこへやら。
そこに居たのはひより先生よりは耐性があっても人との距離が苦手で、そこまで高くない背を丸めて猫背になっていて、ぼさぼさの髪の毛を――光に当たると青く見える――胸元まで垂らしている少女。
「で、今回も先生ですか」
「 ……こほん、ええ。ひよりさんの次に抵抗が薄いかと」
「確かにそうですけど……」
こうして毎回サプライズされるのは、僕の小さくなった心臓がきゅっとなるからあんまり好きじゃないんだけどなぁ……。
「思ったとおりに、こはねさんからは普通に話せていますね」
「最初は心底怖かったですけどね。B級ホラー映画の、音と光だけで無駄にビビらせようとしてくる系統の演出みたいで」
「ごめんなさい……」
しゅんとしている青髪の子。
そんな姿を見たら、こうして顔を合わせるのは初めてでも元から文字では見知ってたのも合わせて、全然怖くなくなってきた。
◇
「月見みなみ……です……ひきこもりV、してます……専業、です……」
「V……あー、同業者さんですか」
「はひ……で、でも、もう登録者とか追い抜かされそうで……」
待合室――今日も、またもや僕たちのためだけに貸切状態だ――で、2メートルくらい離れた遠い席で、僕と目を合わせないでしゃべる、みなみさん。
……遠いけど、この距離だと普段の僕からしても安心できるし、声も聞き取れないわけじゃないし。
「えっと、僕のは水物っていうか、たまたま偶然配信中にパニック起こしたのが物珍しかっただけで、専業っていうからにはちゃんと真面目にこつこつがんばってる人の登録者とは、数字上で近くなってもこれっぽっちも近づいてないっていうか、実力も伴ってないし、本当に一時的なもので……怖くて数字は妹に丸投げですけど」
あとメンバーの人たち――この2人みたいな、前から居る人たちにプラスでちょっとだけ――以外からのコメントすらシャットアウトしてるし。
「VTuber飽和時代に、個人で……どんな理由でもバズを起こせただけですごいのに……」
「僕の感覚としては、ただの趣味勢配信者……アイドル系統じゃない、普通のゲームプレイ兼雑談配信しかしてないので、普通にそのうち身の丈に合った数字に落ちると思いますけどね」
今さらながらにして、僕のアイデンティティーは最初からずっと「顔出し無し・声のみ趣味配信者」だ。
それは当時の視聴者たち――つまりは如月先生と、みなみさん?も含めた古参たちにそそのかされ、ひより先生に頼み込んでイラストを作ってもらって画面の隅に飾っただけのあのときからも変わっていない。
女の子にTSして男声のボイチェンを使っていたときも、うっかり声がバレてからちょっとずつ今の声を使い出したときも――顔バレしてからも、見てた人たちがみんなお口チャックしてくれるのを良いことに、それまでと同じスタイルで続けている今も、なんだ。
「僕、ひより先生にイラストをもらって動かして、一応はVTuberになったじゃないですか。なので、いろいろ調べてみたんです……VTuberについて」
知識は大事。
少なくとも、表面の1枚裏側あたりまでは。
「そのときに通称『V』ってのは、すごく大変らしいって知ったんです。女の子だからといって、最初期のアドバンテージがあるだけで、それ以降は単純にVとしてどんなアイドルとかコンテンツを提供するかっていう戦略とか、トークのスキルとかが大変なのは男女変わらなくって、とか。それ思うと、そんなVを専属でやってるみなみさんは相応の努力をしてる、すごい人だって……って、あれ?」
過去を懐かしがりながら思い出していたら、なんだか静かだ。
「?」
「 」
「……こはねさんは、褒め殺しが得意ですよね」
「? なんのことですか?」
なぜかくたっとなって如月先生に抱えられているみなみさん。
……首が真後ろになってるのは大丈夫なのか心配だけども、お医者さんが見てるんだから大丈夫なんだろう。
「思えば、優花さんやひよりさんのことも……配信中でも、わざとかと思うくらいにベタ褒めで」
「いえ、優花は自慢の妹ですし、ひより先生は大先生なので」
「……そういうところ……これ、引きこもりしていなかったら大学時代に人間関係複雑骨折の原因が女性関係になっていたんじゃ……」
「?」
如月先生も優花も、ときどきぼそぼそ口元で考えをまとめる癖があるらしい。
そういうのは聞かないであげるのが男の嗜み。
だから僕は、診察室の構造を熱心に観察することで沈黙してあげた。
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