TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~

あずももも

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9章 「綾咲こはね」

110話 みんなでおふろ1

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「やっぱりひよりちゃんは、絵、上手だなぁ」

「こはねちゃんさんもかわいく描けてますよ!」
「うーん……絵心がなぁ……」

ひよりちゃんがおえかきしている横で描いていた、絵。

感性したからちょっと話して見るも、やっぱり初心者感は拭えない……っていうか人体として成り立っていない。

具体的には、頭と首がななめにくっついている。
これはキメラとかじゃなきゃ成り立たない気がする。

「それに、首と顔だけしか描いてないのに、福笑いに……」
「私だって最初はそうでしたよ!」

そうだよなぁ……イラストっていうのは「らくがきもしたことない」人間にとっては――

「……あれ? こういうの、ちょろっと描いてみて恥ずかしくなってやめちゃった記憶があるのに、どうして急に描こうと思ったんだろ」

「………………………………」

僕は首をひねってみる。

「……引きこもって何もしてなかった時期、ふと『このまま一生なにもせずに終わるのが確実なのよりは、イラストレーターとか漫画家とか小説家になって一発逆転』って思って……でも1日で『こりゃ無理だ』って……」

うーん?

「……うぇっ」

あ、急に吐き気が。

変なもの食べた?
それともカゼ?

「……描きたい何かがあれば、描いてさえいれば。……うん。私みたいに」

ひよりちゃんが、僕の描いた絵を渡してくれる。

「『世界で、たったひとりでも……誰かに、好きって言ってもらえる』。そういう絵が、描けるようになりますよ」

「そっかぁ。うん、そういうのって良いよね」

「はい……だって、私は……こはねさんに、そう言ってもらえて……」
「え? 僕? そ――むむむむむ」

そんな覚えはない――や、ひよりちゃんのイラストは大好きだけども――って言おうとしたら、優花のおててが口を塞いできた。

「ええ、分かります。私も、勉強を――『世界で、たったひとりのある人のため』に、がんばってきましたから」
「そうですかぁ……!」

へー、優花お姉ちゃんのお勉強も。

「たったひとり」……誰だろ。
やっぱお母さんかな?

「ちょうどおえかきも終わったことですし、そろそろみなさんとお別れしましょうね、こはねさん」

「えー!? もう……あ、こんな時間……」

時計は、もうすぐ夕方を差している。

今日は、休みの日だからって――気がつけばひよりちゃん、はるなちゃんにみなみちゃんが家でくつろいでくれている。

お昼過ぎに遊びに来てくれて、みんなでおやつを食べて……楽しかったのに。

けども確かにしょうがない。

僕と違ってみんなはこれからお家に帰るんだ、そろそろ帰らないと――いくら明日が日曜日でも、遅くなったらお母さんたちが不安に……。

「!!」

――日曜日!

僕は閃いた。
そうだ、僕はかしこいんだ。

アルコールと引きこもりで衰えたとはいえ、人の何倍も努力して人の1倍程度のかしこさを身につけられる程度にはかしこいんだ。

いやいやダメじゃんお酒なんて……だいたい、臭くって飲めないでしょ。
お父さんのビールとか、あわあわの後ににがにがでダメだったんだから。

「ひよりちゃん! 今日、お泊まり会しよ!」
「はい! ………………………………えっ」

「そうだよ、そういえば『最近』はしてなかったもんね、ひよりちゃん!」

がしっ。

僕は、ひよりちゃんのおててをおててで握りしめる。
逃がさないよ、ひよりちゃん!

「!? はわ、はわわわわ……っ」

「……見て、ハルナちゃん。あれが、無敵になったこはね様のお姿……」
「純粋な友情……良いわねぇ……キマシタワーね……」

恥ずかしがり屋さんなひよりちゃんは、いつもこうして顔を真っ赤にする。
けども、嫌なときは嫌って言ってくれるはずだから大丈夫そうだ。

「優花お姉ちゃん! ねぇ、良いでしょ!」

「     」

僕は、久しぶりすぎるお泊まり会に心を躍らせて――なぜかひよりちゃんと同じくらいに真っ赤になってるお姉ちゃんを見上げる。

「? お姉ちゃん?」
「……こほん。客間はありませんけど、余っている布団をこのリビングに敷けば、なんとか……」

「うん! お布団は僕が敷くから!」

体力はないけど、お布団くらいは敷けるもん。

「そ、それなら……」

「え?」
「えっ」

「………………………………?」
「………………………………?」

ひよりちゃんと同じ方向に視界が傾く。

「……リビングで寝てもらうのは、はるなおねえちゃんとみなみちゃんじゃないの?」
「えっ」

「ひよりちゃんは、僕と一緒でしょ?」
「!?!?」

「!!!!! は、はるなちゃん……!」
「……落ち着きましょう……タイミングが大切よ……!」

はるなお姉ちゃんたちがおしゃべりに夢中みたいだけど、今はそんなことより。

「ひよりちゃん……一緒に僕のベッドで寝ないの?」

「   」

だって、そう思ったから。
僕たち、「いつも」そうしてたじゃん?

けども、びくっとして……湯気がおでこからしゅうしゅう出始めた気がするひよりちゃん。

イラストレーターさんだから表現が得意なんだね。
絵、でもそれってなんか変――じゃないよ?

むー。

なんか、変なの。

「一緒におふろも入ろうね。洗いっこしよ」

「       」

「え゛っ……こ、こはねさん……?」
「? 優花お姉ちゃんも入る?」

なぜかみんなが静かだ。
変なの。

「……ねぇ、こはねちゃん? 私たちも良い? お泊まり会」
「う゛ぇ゛っ!? い、いきなりぃ!?」

「うん、良いよー! あ、でも、みんなでおふろは難しいかなぁ」

「……よしっ」
「う゛ぇぁぁー……」

あれ、2人はお泊まりしないつもりだったのかな?
でも乗り気だった気がしたんだけども……うーん?

あ、みなみちゃん、ゾンビの真似が上手になってるね。

「それじゃあ――如月ちゃん?」

ぱちんっ。

はるなちゃんが指を鳴らすと――

「――――――はい、車で30分の場所に大型スパ――温泉があります。そこで家族風呂があります」

「でかした!」

「あ、先生、来てたんだ」
「ええ……たった今」

んー?

ぴんぽん、鳴ってなかった気がするけどなぁ……そもそも優花も外に出てない気がするし。
でも僕の気のせいかもだし、黙っとこーっと。

「紅目さんたちの着替えの服――ナイトウェアについては移動中……あるいは温泉施設で購入可能かと」
「つまり、すぐに行けるってことね!」

「……せんせいは一緒にお風呂入って、泊まらないの?」

「えっ」

なぜかいつも――家に来るときでさえ白衣をびしっと忘れない先生が、珍しくびっくりしている。

「……泊まらないの……?」
「う゛っ」

「如月ちゃん? このつぶらな瞳に……勝てるかしらぁ?」
「む、無理ですぅ……!」

「なら、おとなしく……ね?」
「さ、さすがにげろげろ採取ならともかく、いきなりすぎますぅ……!」

はるなちゃんが、ぎゅむっと先生におっぱいを押しつけながら話しかけている。

……先生はいつも、自分から距離を取るんだ。
今日くらい、一緒でも良いって、そう思ったから。

そうだよ。

みんなが仲良く楽しそうにしているのを――自分から距離を取って、悲しい目をして眺めているなんて、とっても寂しすぎるんだ。

そんな子が居たら、そっと手を引いて――多少強引でも良いから仲間に入れて、一緒に遊んじゃえば良いんだからさ。





「あっ」

「? どうしたんですか?」

家の前に止まっていた黒くてかっこいい車――リムジンって言うんだって、運転してたお姉さんが言ってた――花粉症か何かで息がはぁはぁなってた――あと僕のこと、なぜか「きゅん」とか呼んできた――で、うきうきでやってきたはずの温泉。

広い駐車場に着いたよって聞かされたとき、僕は思い出したんだ。

「困った……」

「!? こはねさん、がんばって漏らさないでください!」
「えっ」

優花が何かを言っているけども、そんなことはどうでも良い。

「……漏らす……つまり、配信でのあの水音は……」
「うん……これはほぼ確定……」

みなみちゃんたちがぼそぼそ言ってるのはいつものことだから、それもまたどうでも良い。

「うへ、うへへ……実質ショタっ子のおもらし……」

運転してたお姉さんが蠢いてるけど、それも本当にどうでも良い。

それよりも、

「僕、人が多いところ、無理だったじゃん……」

そんな当たり前すぎることに、みんなを連れて目の前にまで来てから気づいた。
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