TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~

あずももも

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9章 「綾咲こはね」

111話 みんなでおふろ2

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「……がらがらだ」

「そ、そうですね……」

巨大な施設――普通なら、人でごった返して僕を寄せ付けないはずの場所。

僕たちは手を引かれておっかなびっくり、でっかい施設に入ってきたわけども――そこが、完全な無人と化している。

「土曜日でしょ? なんでお客さん、ひとりもいないの?」
「え、えぇーっとぉ……」

「ねー? だから言ったでしょ? こはねちゃん、優花ちゃん!」

怖がる僕たちをあふれる母性でなだめてくれた、はるなお姉ちゃん。
ちょうどみんなで温泉行こっかって話になってすぐ、「今日、この時間にたまたまお客さんの入れ替えがある」って情報を嗅ぎつけてきたんだ。

さすがは社会人。
社会人ってすごいね。

「はるなお姉ちゃん、すごい。こういう情報、どっから仕入れてくるの?」
「企業秘密よ!」

はー。

やっぱ会社ってすごいんだなぁ。
なにしろ僕が入れないくらいだからなぁ。

「す、すごいです……ここ、いつも人でいっぱいだって……最近は順番待ちまであるって、学校に行く前の朝の番組で言ってたのに……しかも、来るって、さっき決めたのに……」

「むふん。ひよりちゃん先生のためでもあるから、介護班の総力を……」

ひよりちゃんもお口を開けてぽかんとしている。
だよね、だってすっごい広い建物なのにお客さんが誰も居ないんだから。

「……介護班で制圧したのよね? これ……他の客を追い出してまで……」
「え、ええ……てっきり裏口から家族風呂へ通してくれるだけと思いましたが、まさかここまでするだなんて……」

振り向くと、はるなお姉ちゃんにひそひそと話しかけている先生。
先生でもびっくりすること、あるんだね。

「うぇへへ……こはねきゅんラブの総力を結集すれば、この程度の娯楽施設を3時間貸し切りも造作も……まぁ手加減して2時間になっちゃったけど、ショタっ子成分がにじみ出るには充分……」

運転手のお姉さんは入らないらしい。
今日のお仕事が運転手さんだからだって。

……この人はちょっと怖い気がするけど、コメント欄での知り合いみたいだからがんばろ……帰りも送ってくれるんだし。
ちょっと怖い視線を感じることもあるから、ちょっと悪い人だけど……取って食べられたりはしないはずだから……ね?





「いらっしゃいませ」
「本日は偶然にも『入れ替え』の後ですので、他のお客様が居ない温泉をお楽しみいただけます」

「……ええと、入館説明は……済みません、何分、私ども、今流行りの人手不足のために臨時で雇われているスタッフでして……」
「2時間後を目安に、夕方から通常営業……こほん、大人数を受け入れられる用意が……」





「あの人たち、みんなコメント欄の人たちだよね? しかも古参の」

「「「!?」」」

最初は隠れながら聞いていた、受付の人たちの話。
でも目が合っても怖くなかったし、それに。

「最初の人は2年前くらい……次の人もそうで、その次の人は半年くらい前から挨拶してくれるようになった人……」

確か2人とも、僕が普段からやってる、今となってはマイナーになってるあのゲームのファンだった気がする。

そんな話をコメント欄にしゃべりかけてた気が――

「……こはねさん? どうしてそこまで分かるんですか?」

ぽつぽつと思い出していたら、如月先生がしゃがみ込んで僕を見てきている。

「?」

「……あの方たちとは、初対面……ですよね?」
「あ、はい。でも初対面じゃないですから」

「――『文字越しの会話』で、見たこともない相手の顔を?」

「や、顔は知らなかったですけど……なんとなく分かりません? けどなんでみんな、ここで働いてるんだろ……副業ってやつかなぁ。まぁ怖くないからなんでも良いや」

「………………………………」

来た直後こそ「よく考えたらここ、みんな知らない人ばっかりじゃん」って、急に怖くなってた。

けども駐車場からして車は1台もなかったし、入り口までも誰ひとりすれ違わなかったし、靴箱もぜーんぶ空っぽだったし。
入れ替えって言ってたし……そうだよね、温泉とかはお掃除とかで定期的に入れ替えするものだから、不思議じゃないんだ。

それでたまたま人手が足りなくなって、たまたまバイトで古参の人たちが来ていたって不思議じゃ……うーん?

「こっ、こはねさんっ! 早く行きましょうっ!」
「あ、うん」

この世界の不思議に想いを馳せていたら、待ちきれなくなったらしいひよりちゃんに催促されて歩き出す。
恥ずかしがり屋さんだけど、来る途中も顔が真っ赤になってたけども、やっぱりひよりちゃんも楽しみなんだね。

「……先生」
「この件は、寝静まったらみなさんと一緒に……」

「そうそう、今は温泉楽しまなくっちゃね!」
「あ゛っ……私、この中で1番胸が貧しい……愛でる対象を除いて……」

みんな1人ずつもらったカゴを片手に、家族風呂のフロアまで。

あー、楽しみだなぁ……みんなでおふろ。

………………………………。

ん?

女の子たちと、おふろ?





「よく考えたら僕、男だったから男湯入ってくるぅ……」

「「「え゛っ」」」

家族風呂の入り口まで来た僕は、すごすごと退散することにした。

「ちょっ……こはねさん!?」

「ごめんねお姉ちゃん……でも僕、男だから女風呂には入れないよ……」

悲しい。

僕は悲しいんだ。
僕は悲しい目をしているんだ。

家族風呂――家族って言うんだから、ぎりぎり優花とならセーフだとしても、それ以外の子たちが入るんならアウトなんだ。

「すんすん……」

「……やはり、少しとはいえ自己の認識は保持……」
「せっ、先生っ! 分析してる場合じゃ……!」

「むぅ、こはね様はひよりちゃん先生を突き放してまで気を遣うタイプ……レッサーパンダから戻っちゃったら……」
「これはまずいわ、なんとか……あら?」

とぼとぼ。

僕は引き返し、下の階にあったはずの男風呂へ、さみしくひとりぼっちで――

「――――わっ、私は大丈夫です!」

――ぎゅっ。

「?」

さっきは握ってたおててを、今は握られる感触。

「こっ、ここここはねさんが男の人だったとしても……私、大丈夫です!」

「「「!?」」」

「え、嫌じゃない……? だって僕、赤の他人の、しかも大人の――」

「――私たち、友達……ですよね?」

ひよりちゃんのためにも泣く泣く離れようとしていたのに。
なぜか泣きそうな顔をして僕を追いかけてきてくれた、ひよりちゃん。

「一緒におふろ、そのあと一緒に寝ようって……言ってくれたじゃないですか」
「それはそうだけど……」

あれ?
僕、なんでそんなことをひより先生に?

「……イヤ、ですか? 私との、おふろ……」

「え、嫌じゃないけど、僕は成人男――」

「! ほら、早く行きますよ! 優花さん、家族風呂、開けてくださいっ」
「は、はいっ! みなさん、入りましょう! できるだけ早く!」

ずりずりずりずり。

謎の葛藤を抱えるものの――普段からは想像もできない力でひよりちゃんに引っ張られ、僕は抵抗することもできずに連れ込まれた。





――しゅるっ。

「うぅぅぅ……やっぱり恥ずかしいですぅ……!」
「が、がんばりましょう! わ、私も、意識したら急に……」

……優花とひよりちゃんの声がする。

ぱさっ。

ばるんっ。

「ふぅ」
「はるなちゃん……大胆……」

はるなお姉ちゃんとみなみちゃんの気配がする。

すさまじい質量が2個動いた気配。
2人から、合わせて2つだ。

ことん。

「あの、やっぱり私は外で待っていたら……ダメですか……」

如月先生が困っている。
偶然だね、僕も「半分くらい」困ってるよ。

更衣室。

家族風呂用だからか、ちょうど僕たちの人数ぴったりの洗濯カゴ。
そこへ、脱いだ服をぺいぺいっと放り込んでいく。

「よく考えて? ――こはねちゃんもレッサーパンダから戻りかけてる……こんな機会、今回を逃したら永遠にないわよ? 『家族』になる以外では」
「そうです、先生……わ、私も死ななかったせいで死ぬほど恥ずかしいけど、ガードが堅すぎる最推しから誘ってくれるだなんて、たぶん一生、ない……」

「そ、それは……」

「ふー」

あー、解放感。
すっぱだかって気持ちいいよね。

「こ、こはねさんっ!? た、タオルは……」

真横に来たのは、バスタオルを肩まですっぽりかぶっている――つまりはプールのときのあれみたいな感じにしている――ひよりちゃん。

「恥ずかしがらなくったって良くない?」

「ま、マナーですから……!」
「あー、確かに。今は人が居なくても、そのうち来るんだもんねぇ」

僕はしぶしぶタオルを体に巻き付けていく。

………………………………。

あれ?

僕、男なのになんで胸元まで隠すんだっけ?

「そ、それでは早く入ってしまいましょう!! 貸し切りは2時間ありますが、せっかくですからたくさん入りたいでしょう? その途中で他の人たちが来てしまったら居心地は良くないはずです!」

「あ、そうだね」

僕はかしこい優花お姉ちゃんに諭され――女湯へ入ってしまった。
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