TSよわよわVtuberはバズっても外には出ません ~かわいくなったら余計他人が怖くなったんだけど!~

あずももも

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10章 「綾瀬直羽/こはね」

128話 【速報・こはねちゃん、脱出する】

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【悲報・こはねちゃん、レッサーパンダ】

【速報・こはねちゃん、脱出しつつあり】

【朗報・こはねちゃん、なんかすっごい】

【草】
【草】
【なぁにこれぇ……】
【!!?!?!?!?!】
【おちつけ】
【落ち着けるかこれが】

【けど……あっという間に、もう】

「……あははっ。みんな、びっくりしてる」

――ざっ。

1階。

入り口は――人垣で見えないけども、もう10メートル以内のはず。

【悲報・炎上系配信者、女の子を飛び降りさせる】

【違うって】
【いや、映像があるって】
【フェイクだ!】
【え、何人もの配信で映ってるけど】
【草】

【あーあ、もう――さん引退だね】
【お前ら、人の心ってのがないのか】
【え? なんか顔出ししてないアイドルの凸配信でしょ?】
【てかこれ何凸なんだっけ?】

――そうだ。

「一般人――名もなき人って思い込んでるみんなは、良くも悪くも子供。ただ喜んで怒って……けど、すっごく悪いわけじゃない。流されやすくって騙されやすいだけの、ただの子供。先生たちはよく言ってたもんね。『大人も中身は経験を積んだだけの小学生の君と大差ないんだよ』って」

僕は――かつて、僕たちを取り巻いていたマスコミさんたちと先生たちのやりとりを思い出す。

『国民の税金で生きている気持ちはどうなんですか?』
『子供に対してなんてことを!』
『治らない病気の人に大金を投じてどうするの』
『それでも……生きたい人には、医療を。それが、医師です』

彼らは、悪い人じゃない。
ただ、「僕」っていう「個人」を見ていなかっただけ。

――誰も、悪くなんてなかった。

実際、何回も来て話した人は優しくなって――「ごめんね、ひどいこと言って」って謝ってくれた。

そうだ――しいていえば、病気になった僕が悪かった。

ただ、それだけ。

「――ふぅ」

大きく、息を吐く。

呼吸法。

痛みをなるべく後回しにするために、教わった肉体操作。
呼吸を意識し続けるだけで――意識のある時間、ベッドでごろんとなっている時間は、ひたすらに息を吸って吐いてを……目をつぶって見て、体を見るやり方。

中学までの勉強をしていた僕にとっては、バカらしいオカルトでしかなかった、それ。

けれども――

「……こっちのこはねに、教えてもらった。これは、科学的根拠もある肉体の沈静化と集中の方法――痛みを、苦痛を、肉体から軽減する方法。あのときは理解できなかったけども、インナーマッスルも鍛えられるんだって。……すごいよね、こっちは。僕より10年生きてた分、すっごく賢いんだから」

大きく息を3回。

それで――「こはね」の肉体は、かなり回復した。

「じゃっ……さいごに」

現在地は、ビル1階正面口から15メートル――エスカレーター出口直前から左に飛んで左肩を痛めて、なんとか駆け込んだ香水のショーケースの裏。

「あ、あの、お客様……」

「しーっ」

僕は、こんな状態でも接客をがんばっていたお姉さんへお願いする。

「……かわいぃ……!」

「お姉さんもかわいいよ。……えっと、お仕事のためとはいっても、その厚化粧はマイナスだけど」
「え、やっぱ?」

「うんうん。お姉さんは素材が良いから、もっと薄くて良いと思う。――――とか――――のブランドのやつの方が合ってる気がする。残念だけど売ってるのと致命的に合ってないね」

「……転職するわ、私」
「うん。お姉さんはね、たぶん自然な方がかわいいよ。話し方とかも、きっとモテる」

息を整え、体の状態を把握する。

――すでに体力は危険水域。
乳酸は溜まり、体はまともに動かない。

おまけに4回のダイブで足首はずきずきしてるし、左肩は――左腕は、上がらない。

……こはねに、悪いことしちゃってるね。

「……ね。何か、できること、ある?」

お姉さんがしゃがんできて――両手に持ったコットンでぱふぱふって、僕の汗だくなおでこを拭いてくれる。

「でも、お姉さんに迷惑が」

「――がきんちょが言うセリフじゃない気がするけど?」
「……だね」

にかっと――こんなマジメさんばっかりな場所じゃなく、もうちょっとやんちゃな場所の方が輝ける人が笑う。

「……こっち側から一瞬だけ、入り口でみっちみちな人たちの注意を引いてほしいんだ。上のフロアに、僕のお姉ちゃんと友達が居て……配信者さんたちの凸を受けてる。僕が出口から出さえすれば、みんなは助かる」

「そう。……営業妨害はなはだしいアイツら、こーんないい子を……」

「どうどう。僕たちは、無事に帰れたら気にしないから」

「……キミ、いい子すぎない?」
「やー、どうかなぁ。みんなに迷惑かけてばっかだしなぁ」

こっちもあっちも、「こはね」は仲がいい人ほど困る存在だろうし。

……けども、その人たちはいい人過ぎて、優しいから。

だから、

「お願い」

「うん――どうせ本部のオバハンがうざかったのよ。辞めるにはちょうど良いわ」

――すっくと立ち上がる、お姉さん。

……この人もきっと、毎日言いたいことを我慢してきた人だ。

「ねぇ、お姉さん」
「ん?」

だから僕は――検索して、言う。

「――この後『介護班』さんって人たちから連絡が来ると思う。そこで、どんな働き方したいか言えば、きっと良いとこを紹介してくれるよ」

「……あんた、一体」
「僕?」

息の整え終わって、出口までの逃走経路を計算し直していた僕は、言う。

「――ただの、死にぞこないだよ」





【こはねちゃんは!?】
【わからん】
【1階から見えなくなってる】
【思いっ切り転んでたし……まさか、頭を……】

【救急車】

【もう呼んでる】
【警察に続いて消防救急のサイレンも聞こえるな】
【おお】
【こはねちゃん……】
【大丈夫だ  きっと、大丈夫】

「――ちょっと、あんたたち。は? いやいやあんたたちだって」

駅ビル1階、開けた空間でエスカレーターに乗る順番を怒声を上げながら争っていた男たちの群れへ、美人の販売員が詰め寄っている。

【!?】
【は?】
【なんだこの女】
【おっぱい】
【かわいい】
【キツい美人系】

彼女は動きにくい――足も腰も腹も胸元も肩も締めつけられ、年中凝りと冷えと痛みに苦しめられていた制服を着崩しながら、上をにらみつける。

「おっほ!?」
「な、ななななっ」

【えっち】
【えっち】
【誘ってる?】

「……はー。男って、ほんとバカ」

「!? おい、客に向かって――」

彼女は整えた髪をかきながら――崩していく。

「せっかく獲得した就職先」からの重圧――それから解き放たれた彼女は、無敵だった。

「――あ゛ぁ?」

「ひぃっ!?」

女の本気の怒りに、興味半分で来ていた男たちは縮こまる。

だが、それはもう遅く――

「――キモッ」

「     」

「てかどいて? 早く。……金的されたい?」

「「    」」

――さささっ。

覚悟の決まっている存在と、そうでない存在。
戦場での動きは――圧倒的だ。

「――さっ、さっさと逃げな! 『そっちから』!」

勝ち誇っていたはずの彼女が、先ほどまで居た方向――「フロアの奥」へ向かって叫ぶ。

それに思わずで反応し、意識の集まっている集団。

――その反対側の隅を縫って音を立てずに走ってきた少女が、可能な限りに意識されないように人々の足元を、腰を下ろして走り抜ける。

「ふっ――――――――!」

「姉」から選んでもらった帽子を頭へ押し込み、決して失わないように――ただそれだけを意識し、「彼女」はたぐり寄せる。

10メートル――8メートル――3メートル――1メートル。

そして。

「っ!? な、なんだこの子供――」

「……えへっ」

――0メートル。

【あっ】
【え?】
【かわいい】
【え、超美少女】
【小学生か?】
【え、この子って】

「――おーいっ」

僕は、開きっぱの自動ドアから抜けながら、振り返って呼びかける。

「――『綾咲こはね』は、もう逃げ出してるぞーっ! ……あ、最近の流行りだと、こういうときはこう言うんだよね? ざぁーこ、ざぁーこ! ざこお兄さんたちーっ!」





「……こはねさん、が……」

【うん】
【自力で、抜け出したよ】
【5階下のフロアまで、たったの1人で】
【アクロバティック過ぎる動きでね】

【途中何回か転んだりぶつかってたから心配】
【それな】
【降りるたびにあいつらを挑発してるから、人の流れはもう出口に向かってる】

【介護班より  地下駐車場、クリア】
【介護班より  非常階段、クリア】

【お姉様たちは、至急避難を】

「でも――」

「お姉さん」

ぽつりと――けれども、静かになったファッションフロアに響くのは、幼い声。

「こはねちゃんさんは――ううん。『こはねちゃん』は、私たちのためにがんばってくれています」

泣きながら、止められない涙を拭きながら、「彼」に守られてきた彼女が、言う。

「今は、私たちが避難すべきときです。そうじゃないと、……こはねちゃんが、逃げた意味が、ないんです」

「……そうですね。ありがとうございます、ひよりさん――優花さん、みなさん。私たちは、今から避難します。駐車場から人が動き始めたため、今のうちに当初の通りに車で――こはねさんの勇気を尊重し、まずは私たち全員が確実に」

【女医先生……】
【ひより先生が】
【ないた】
【かっこいい】

少女と女の意思は、「こはね」の意思を汲む。

――このあと再会できるのだと、信じて。
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