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11章 「TSよわよわVtuberこはね」としての人生へ
134話 【「こはね」のレッサーパンダ】
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「……んぅ……ぷはっ」
僕は、久しぶりに大きく息を吸った。
久しぶりすぎて、喉がすっかりからからだ。
「けほっ、けほっ……むぇ?」
目を開けると、最近には目にすることのなかった、暗い天井。
家に居たころは電気を消して真っ暗になった部屋の中をぼんやり見るのが好きだったのに、途中からは真っ白な部屋でいつも電気が点いてたから、それが新鮮でしばらく見続けて。
「……しゃぶい」
もぞもぞと、僕は起き上がって――
「……? なにこれ……真っ白な服……ぺらぺらじゃん、寒いわけだよ……」
普段とは違って寝心地も悪ければ、もぐっていたのはぺらっぺらの真っ白で薄い布が1枚だけ。
まるで、ふと夜中にもぞもぞする気配に目を覚ましたときの優花お姉ちゃんみたいな格好。
寝ていたベッドは寝心地が良くなくって、枕カバーか何かが顔の上にひっついていて。
それをぺって剥がしても部屋はとっても寒くって、なんだか変な臭いがして。
「すんすん……あんまり好きじゃないにおい」
てしっと降り立った床は冷たい石でできていて、目がはっきりと覚める。
手のひらも足の裏も、とっても冷たい。
だからか、やけに心臓が熱くって――どくっ、どくって、とっても元気だ。
まるで全身の血管という血管が、新しいお仕事に喜んでいるような――そんな、不思議な感覚で。
……「あっちの僕の体」で、体が悪くなる前に公園で駆け回ったみたいな全力疾走したときみたいに、指の1本1本までがうずうずしていて。
「?」
ふと見回すと――どうやら大部屋らしく、何人かの同室の人たちがすやすやと寝ているベッドがあって。
けども、なんだか雰囲気は変で。
「あ、うるさくしてごめんなさい……み゛ゃっ!?」
とんっ、と。
ふらふらしていたもんだからおしりがぶつかっちゃったベッドの人へ謝ろうとしたら、その人の顔の上までかかっていた布がひらりと落ちて――――
「………………………………ぞんびぃ――――!?」
――息もしてない、冷たい、青白い――「意識が伝わってこない」、ただのゾンビだ!
みんなで観た怖ーい映画の、徹夜明けのみなみちゃんみたいな顔だ!
「ぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
僕は悲鳴を上げる。
「あ゛――――――ん!!」
てちてち、てちてち……たったったっ――――――ばんっ。
僕は廊下へ逃げながら、優花お姉ちゃんへ助けを求める。
「だずげでぇぇぇぇぇお姉ち゛ゃああああ――ん!!」
――こうして良くびっくりして泣きじゃくるから、友達からは「まるでレッサーパンダみたいだね、こはねちゃん」って笑われたのを思い出しながら、人の気配の多い方向へと走り出した。
◇
「……気が滅入るわね」
「ええ……お年を召した方も長患いも方も、もう慣れているので覚悟はできていますが」
かつ、かつ。
必要な手続きを踏むため、地下へ降りてきた看護師たちがぼやく。
「あんなに小さい子が……」
「まだ高校生にも……ううん、学校に通えていたのは中学までっていうし」
「病棟の……病院全体のアイドルだったこはねちゃんが……ね」
「ずいぶんがんばっていたのに……神様なんて、居ないのよね」
「子供が、―くなるなんて」
「神様は、ひどいえこひいきをするのよね」
静かな廊下を、陰鬱なため息が木霊する。
「居たら、私たちの仕事はないもの」
「……そうね。私たちは死神だから」
彼女たちは、毎日何十も繰り返される悲しみの中でも――子供のそれに、心を落としている。
「綾咲こはね」――「彼女」は、自分を不治の病と知りながらも最期の日までを健気にも――同じ病の人々へ、その家族へと配信を続けていた「アイドル」――「だった」。
「――――――…………」
「推し……。うん、私の推しって、生涯あの子だわ」
「同じー。お葬式にも……ん? なんか声が」
「――――――…………ぁぁぁぁ……」
ふたりは、聞こえ始めた奇声に耳を澄ませる。
「?」
「?」
「――あ゛あ゛あ゛あ゛――――――ん!!」
「「!?」」
廊下の先から響いてきた、小さな子供の叫び声――それが、2人の心臓が止まるほどの恐怖を包む。
「「………………………………」」
――ぞわっ。
顔を見合わせた彼女たちはその声に心当たりがあり――だからこそ、心の底から震え上がる。
「……き、気のせい……」
「う、うん……きっと上の階の子供さんが」
「――――――――――あ゛あ゛あ゛あ゛ーん!」
――そう言った直後に廊下の先から走り出てきた「生きているはずのない」小さな姿に――
「「……出たぁ――――――――!?」」
「!? み゛ゃあぁ゛ぁぁぁぁぁぁ!?」
一瞬にしてパニックになった廊下は――死者と生者の運動会と化した。
「病院の女神」たちが書類やタブレットを放り投げてまで全力で逃げる後を、両手を上げた「病院のかよわきかわいいいきもの」が追いかけるリレーは――階段を駆け上がった3人が地上階の廊下を疾走してもなお続いた。
◇
「……皆様。これまでのお付き合いを……本当に……っ」
【ゆうかちゃん】
【お疲れ様……って言って良いのか分からないけど】
【がんばったね】
【妹ちゃん、無事に……】
【弟くんだぞ】
【そうだな うん、そうだ 「こはね」ちゃんは、男の子なんだから】
【男の娘だったよな……】
【生やすな】
【生えてないのも良い ……って、最期まで笑ってくれたよな】
【ああ あの子は最期まで男――漢だったんだ】
すすり泣きの広がる個室――数時間前までは「居なくなった彼」の居た場所。
【こはねちゃん、さいごに100万登録者、行ったよ いろんな人たちが応援してくれたよ 今でも、がんばったのが広がっていてもっと増えて……個人として――歴史に、残ったよ 「Vtuberこはねちゃん」として】
「……ええ、ええ……っ! みなさん、ありがとう……っ!」
悲しみに潰れる「彼の姉」を、そっと抱きしめる友人たち。
病室は――「介護班」たちの、最後の時間を映している。
「Vtuberこはね」が病に伏せり、いよいよという段階になってからは「バーチャルなアイドル」としての禁忌を破ってまで姿を遺すようになったついでに映っていた彼女たちは、静かに悲しみへふけっている
病室内での「■」の配信――通常は許されない冒涜の所業。
しかし、それは■者が肯定したことにより、許されている。
「……こはね゛ち゛ゃんは……っ、さいごっ、までぇ……!」
【ひよりちゃん……】
【くるしい】
【ひよりちゃんの方がつらいんだぞ】
【うん……がんばる】
【良いんだ、泣いて ずっと、がんばったんだから】
【こはねちゃん ひよりちゃんね、先生になったよ 漫画賞を取って、担当さんがついて……】
【あと、ちょっとだったのに 最近は意識もほとんどなかったから伝えそびれちゃって】
【でも、しあわせそうだったよ 幸せな寝顔だったよ】
【そうだな 最期は安らかに】
【きっとこはねちゃんも、天国からひよりちゃん……ううん 「ひより先生」の連載を――】
優花にしがみついている小柄な女子――ひよりは、枯れることのない涙を流している。
「……あはは、負けちゃった。こはねちゃんに……配信者として。憧れるお姉ちゃんじゃなく、競い合うライバルになっちゃったよ……ねぇ……っ」
「うん。こはねちゃん、たったの1人で……ううん。介護班さんたちと、楽しんだもんね」
そんな彼女たちのそばで、ただ立ち呆けているVtuber仲間の少女たちは――どこか現実感のない声のまま、つぶやく。
【ハルナちゃん……】
【ハルナお姉ちゃん、なかないで】
【ミナミちゃんも、もう何日も寝てない……】
【ふたりとも、そろそろ休もう お別れは、ちゃんと済ませたんだから】
【そうだよ】
【きっとこはねちゃんも……天国で……】
――がらがら……ばんっ。
「――こはねさんっ! 海外での臨床結果が出た新薬がようやくにっ! り、理由は分かりませんが『特例措置』が下りたので国内の患者さんにも――――――……あ、あぁ……っ」
航空機で帰国した足で駆けつけてきた――病室へ駆け込んできた、白衣姿の女性――如月は、「それ/死」を悟ると、抱えてきた書類と新薬のカプセルを胸に――崩れ落ちる。
【ああ……】
【死に目に……】
【それほどまでにこはねちゃんのことを】
【如月先生 ありがとう】
【きっと、こはねちゃんとおんなじ病気の子が、こはねちゃんとおんなじことにはならないように……】
【リモートで失礼します 優花様……この度は】
【俺たち学友一同、こはねお嬢様の悲しみは、一生忘れません】
【優花様も、どうかご自分をお責めになりませんよう】
【各Vtuber、配信者……こはねちゃんと交流のあったみんなから、哀悼の意が ……愛されていたね、こはねちゃん】
【愛されてるんだよ ずっと】
【うん、そうだよな】
――――――「彼」の存在した病室に、悲しみが広がる。
「綾咲こはね」。
つい今朝までは無菌室にしか居られなかった彼女は、数年ぶりに親しい人々と手を重ね――先ほどに、静かな場所へ送られた。
享年は1ー歳――それは、あまりにも早すぎる終わりで。
「……優花さん。ご両親は」
「……ええ。今、向かっていると」
「分かりました。……葬儀は親近者のみとのことで――――――」
この場の年長者、なによりも主治医としての責任からか如月は毅然と立ち上がり、涙を拭いながら「今後」の予定についてを伝えていく。
「……このお薬は、こはねさんのお友達の――さんへお願いします。私の妹――弟なら、きっと……っ」
「ええ。きっと、こはねさんもそう、言って……っ」
【もう仕事が手に着かない】
【勉強もできないよ……】
【如月先生も、声、枯れてる……】
【今日くらい、こはねちゃんのために泣いたって良いよね】
【誰も怒らないよ 好きな人を看取った日くらい……さ】
人は、いずれ死ぬ。
産まれた以上、死ぬ。
――ただ、それを「親しい子供/アイドルが経験する様」を見つめてきた人々は、そう簡単には立ち直ることはできない。
きっと、この後に控えているさまざまな手続き、忙しい葬儀――その後も何度に渡って繰り返される儀式によって、少しずつその傷が癒えて立ち直っていくのだろう。
「――――――!」
――――――だけども。
◇
『……僕が、だめだめでよわよわだったとき』
『僕を、優花を――みんなを助けてくれた、君』
『もし、なんでもって言うんなら僕じゃなく、あの子のことを――――――』
◇
どこか遠くから――すごくすごく、遠くから。
声が……届いた。
◆◆◆
あけましておめでとうございます。
おめでたい日なのでおめでたいプレゼントです。
僕は、久しぶりに大きく息を吸った。
久しぶりすぎて、喉がすっかりからからだ。
「けほっ、けほっ……むぇ?」
目を開けると、最近には目にすることのなかった、暗い天井。
家に居たころは電気を消して真っ暗になった部屋の中をぼんやり見るのが好きだったのに、途中からは真っ白な部屋でいつも電気が点いてたから、それが新鮮でしばらく見続けて。
「……しゃぶい」
もぞもぞと、僕は起き上がって――
「……? なにこれ……真っ白な服……ぺらぺらじゃん、寒いわけだよ……」
普段とは違って寝心地も悪ければ、もぐっていたのはぺらっぺらの真っ白で薄い布が1枚だけ。
まるで、ふと夜中にもぞもぞする気配に目を覚ましたときの優花お姉ちゃんみたいな格好。
寝ていたベッドは寝心地が良くなくって、枕カバーか何かが顔の上にひっついていて。
それをぺって剥がしても部屋はとっても寒くって、なんだか変な臭いがして。
「すんすん……あんまり好きじゃないにおい」
てしっと降り立った床は冷たい石でできていて、目がはっきりと覚める。
手のひらも足の裏も、とっても冷たい。
だからか、やけに心臓が熱くって――どくっ、どくって、とっても元気だ。
まるで全身の血管という血管が、新しいお仕事に喜んでいるような――そんな、不思議な感覚で。
……「あっちの僕の体」で、体が悪くなる前に公園で駆け回ったみたいな全力疾走したときみたいに、指の1本1本までがうずうずしていて。
「?」
ふと見回すと――どうやら大部屋らしく、何人かの同室の人たちがすやすやと寝ているベッドがあって。
けども、なんだか雰囲気は変で。
「あ、うるさくしてごめんなさい……み゛ゃっ!?」
とんっ、と。
ふらふらしていたもんだからおしりがぶつかっちゃったベッドの人へ謝ろうとしたら、その人の顔の上までかかっていた布がひらりと落ちて――――
「………………………………ぞんびぃ――――!?」
――息もしてない、冷たい、青白い――「意識が伝わってこない」、ただのゾンビだ!
みんなで観た怖ーい映画の、徹夜明けのみなみちゃんみたいな顔だ!
「ぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
僕は悲鳴を上げる。
「あ゛――――――ん!!」
てちてち、てちてち……たったったっ――――――ばんっ。
僕は廊下へ逃げながら、優花お姉ちゃんへ助けを求める。
「だずげでぇぇぇぇぇお姉ち゛ゃああああ――ん!!」
――こうして良くびっくりして泣きじゃくるから、友達からは「まるでレッサーパンダみたいだね、こはねちゃん」って笑われたのを思い出しながら、人の気配の多い方向へと走り出した。
◇
「……気が滅入るわね」
「ええ……お年を召した方も長患いも方も、もう慣れているので覚悟はできていますが」
かつ、かつ。
必要な手続きを踏むため、地下へ降りてきた看護師たちがぼやく。
「あんなに小さい子が……」
「まだ高校生にも……ううん、学校に通えていたのは中学までっていうし」
「病棟の……病院全体のアイドルだったこはねちゃんが……ね」
「ずいぶんがんばっていたのに……神様なんて、居ないのよね」
「子供が、―くなるなんて」
「神様は、ひどいえこひいきをするのよね」
静かな廊下を、陰鬱なため息が木霊する。
「居たら、私たちの仕事はないもの」
「……そうね。私たちは死神だから」
彼女たちは、毎日何十も繰り返される悲しみの中でも――子供のそれに、心を落としている。
「綾咲こはね」――「彼女」は、自分を不治の病と知りながらも最期の日までを健気にも――同じ病の人々へ、その家族へと配信を続けていた「アイドル」――「だった」。
「――――――…………」
「推し……。うん、私の推しって、生涯あの子だわ」
「同じー。お葬式にも……ん? なんか声が」
「――――――…………ぁぁぁぁ……」
ふたりは、聞こえ始めた奇声に耳を澄ませる。
「?」
「?」
「――あ゛あ゛あ゛あ゛――――――ん!!」
「「!?」」
廊下の先から響いてきた、小さな子供の叫び声――それが、2人の心臓が止まるほどの恐怖を包む。
「「………………………………」」
――ぞわっ。
顔を見合わせた彼女たちはその声に心当たりがあり――だからこそ、心の底から震え上がる。
「……き、気のせい……」
「う、うん……きっと上の階の子供さんが」
「――――――――――あ゛あ゛あ゛あ゛ーん!」
――そう言った直後に廊下の先から走り出てきた「生きているはずのない」小さな姿に――
「「……出たぁ――――――――!?」」
「!? み゛ゃあぁ゛ぁぁぁぁぁぁ!?」
一瞬にしてパニックになった廊下は――死者と生者の運動会と化した。
「病院の女神」たちが書類やタブレットを放り投げてまで全力で逃げる後を、両手を上げた「病院のかよわきかわいいいきもの」が追いかけるリレーは――階段を駆け上がった3人が地上階の廊下を疾走してもなお続いた。
◇
「……皆様。これまでのお付き合いを……本当に……っ」
【ゆうかちゃん】
【お疲れ様……って言って良いのか分からないけど】
【がんばったね】
【妹ちゃん、無事に……】
【弟くんだぞ】
【そうだな うん、そうだ 「こはね」ちゃんは、男の子なんだから】
【男の娘だったよな……】
【生やすな】
【生えてないのも良い ……って、最期まで笑ってくれたよな】
【ああ あの子は最期まで男――漢だったんだ】
すすり泣きの広がる個室――数時間前までは「居なくなった彼」の居た場所。
【こはねちゃん、さいごに100万登録者、行ったよ いろんな人たちが応援してくれたよ 今でも、がんばったのが広がっていてもっと増えて……個人として――歴史に、残ったよ 「Vtuberこはねちゃん」として】
「……ええ、ええ……っ! みなさん、ありがとう……っ!」
悲しみに潰れる「彼の姉」を、そっと抱きしめる友人たち。
病室は――「介護班」たちの、最後の時間を映している。
「Vtuberこはね」が病に伏せり、いよいよという段階になってからは「バーチャルなアイドル」としての禁忌を破ってまで姿を遺すようになったついでに映っていた彼女たちは、静かに悲しみへふけっている
病室内での「■」の配信――通常は許されない冒涜の所業。
しかし、それは■者が肯定したことにより、許されている。
「……こはね゛ち゛ゃんは……っ、さいごっ、までぇ……!」
【ひよりちゃん……】
【くるしい】
【ひよりちゃんの方がつらいんだぞ】
【うん……がんばる】
【良いんだ、泣いて ずっと、がんばったんだから】
【こはねちゃん ひよりちゃんね、先生になったよ 漫画賞を取って、担当さんがついて……】
【あと、ちょっとだったのに 最近は意識もほとんどなかったから伝えそびれちゃって】
【でも、しあわせそうだったよ 幸せな寝顔だったよ】
【そうだな 最期は安らかに】
【きっとこはねちゃんも、天国からひよりちゃん……ううん 「ひより先生」の連載を――】
優花にしがみついている小柄な女子――ひよりは、枯れることのない涙を流している。
「……あはは、負けちゃった。こはねちゃんに……配信者として。憧れるお姉ちゃんじゃなく、競い合うライバルになっちゃったよ……ねぇ……っ」
「うん。こはねちゃん、たったの1人で……ううん。介護班さんたちと、楽しんだもんね」
そんな彼女たちのそばで、ただ立ち呆けているVtuber仲間の少女たちは――どこか現実感のない声のまま、つぶやく。
【ハルナちゃん……】
【ハルナお姉ちゃん、なかないで】
【ミナミちゃんも、もう何日も寝てない……】
【ふたりとも、そろそろ休もう お別れは、ちゃんと済ませたんだから】
【そうだよ】
【きっとこはねちゃんも……天国で……】
――がらがら……ばんっ。
「――こはねさんっ! 海外での臨床結果が出た新薬がようやくにっ! り、理由は分かりませんが『特例措置』が下りたので国内の患者さんにも――――――……あ、あぁ……っ」
航空機で帰国した足で駆けつけてきた――病室へ駆け込んできた、白衣姿の女性――如月は、「それ/死」を悟ると、抱えてきた書類と新薬のカプセルを胸に――崩れ落ちる。
【ああ……】
【死に目に……】
【それほどまでにこはねちゃんのことを】
【如月先生 ありがとう】
【きっと、こはねちゃんとおんなじ病気の子が、こはねちゃんとおんなじことにはならないように……】
【リモートで失礼します 優花様……この度は】
【俺たち学友一同、こはねお嬢様の悲しみは、一生忘れません】
【優花様も、どうかご自分をお責めになりませんよう】
【各Vtuber、配信者……こはねちゃんと交流のあったみんなから、哀悼の意が ……愛されていたね、こはねちゃん】
【愛されてるんだよ ずっと】
【うん、そうだよな】
――――――「彼」の存在した病室に、悲しみが広がる。
「綾咲こはね」。
つい今朝までは無菌室にしか居られなかった彼女は、数年ぶりに親しい人々と手を重ね――先ほどに、静かな場所へ送られた。
享年は1ー歳――それは、あまりにも早すぎる終わりで。
「……優花さん。ご両親は」
「……ええ。今、向かっていると」
「分かりました。……葬儀は親近者のみとのことで――――――」
この場の年長者、なによりも主治医としての責任からか如月は毅然と立ち上がり、涙を拭いながら「今後」の予定についてを伝えていく。
「……このお薬は、こはねさんのお友達の――さんへお願いします。私の妹――弟なら、きっと……っ」
「ええ。きっと、こはねさんもそう、言って……っ」
【もう仕事が手に着かない】
【勉強もできないよ……】
【如月先生も、声、枯れてる……】
【今日くらい、こはねちゃんのために泣いたって良いよね】
【誰も怒らないよ 好きな人を看取った日くらい……さ】
人は、いずれ死ぬ。
産まれた以上、死ぬ。
――ただ、それを「親しい子供/アイドルが経験する様」を見つめてきた人々は、そう簡単には立ち直ることはできない。
きっと、この後に控えているさまざまな手続き、忙しい葬儀――その後も何度に渡って繰り返される儀式によって、少しずつその傷が癒えて立ち直っていくのだろう。
「――――――!」
――――――だけども。
◇
『……僕が、だめだめでよわよわだったとき』
『僕を、優花を――みんなを助けてくれた、君』
『もし、なんでもって言うんなら僕じゃなく、あの子のことを――――――』
◇
どこか遠くから――すごくすごく、遠くから。
声が……届いた。
◆◆◆
あけましておめでとうございます。
おめでたい日なのでおめでたいプレゼントです。
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