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11章 「TSよわよわVtuberこはね」としての人生へ
135話 【「こはね」のレッサーパンダ】2
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「――――――…………!!」
【?】
【どうした】
【いや、なんか遠くから声が】
【病院だからな……そういうことは重なるさ】
【ああ……】
【つらいな】
【いつかは俺たちも……誰かが経験することだ】
【優花お姉ちゃんたちは気丈だし覚悟ができてたけど、そうじゃないご家族の方が多いからな……】
【私より年下の人の最期は……そう経験したくないな】
【こはねちゃんのリスナー……「介護班」のみんな こはねちゃんが言ってたよ どんなにつらくてもがんばって生きて、親御さんや大切な人よりも長生きしようね つらかったらみんなに相談してね】
【こはねちゃんを助けたくって、医学部に入ったよ ……絶対、こはねちゃんみたいな子を助けてみせるよ】
「――――――…………」
「……? 廊下から……」
妙に騒がしい――この場にふさわしくない、「あり得ない声」が響き渡る廊下に、一同は不審がる。
「……ごめんなさいね、今、ドアを閉めます」
「いえ、先生。両親も間もなく、とのことですからそのままで……いえ、そうですね。私たちも、そろそろ行きましょうか」
ひよりの上げた顔の先――廊下に向かい、喪った人々は立ち上がる。
いつまでも、そのままでは居られないから。
だからせめて、せめて。
「優花さん……」
「――せめて、見送りくらいは笑えるように……少し、風に当たりたいので」
「分かりました。……私もご一緒しても?」
「わっ、私も! お姉さんと一緒に!」
優花へ抱きつくひより。
気丈な少女たちが、から元気でも動き出す。
「じゃ、私たちも……ね?」
「視聴者のみんな、この後は式が終わってからでも良い……かな」
アイドル仲間の少女たちは、静かに「配信主の存在しなくなった配信」へ語りかける。
【もちろん】
【みんな、がんばったね】
【俺たちのことは気にしないで】
【親近者の後にしてくれる式には、行くからね】
【バーチャルな式なら、遠慮なく多くの人が行ける 良い時代だよな】
【ミナミちゃんとハルナちゃんのおかげで、みんなが行けるオンラインの場 ありがとう】
【こはねちゃんの遺言通り、最期の日、最期の瞬間まで見届けさせてくれてありがとう】
【私、こはねちゃんのおかげで引きこもりからニートになれた だから、スーツも買って……就職するためので、行くよ こはねちゃんに褒めてもらうために】
【僕、こはねちゃんのおかげで完全に道を見失わずに済んだ 罪を償ってから、お墓に行くよ それでも良いって、あの子が言ってくれたから】
「――――――………………ぁぁぁぁぁあ゛あ゛……」
――悲しみが包む荘厳な空間へ、なにやらの奇声が響き渡る。
【廊下がうるさいな】
【しょうがないさ さっきの俺たちもそうだっただろ?】
【そうだな……誰でも、な】
【変だな……まるでこはねちゃんがレッサーパンダになってるときのギャン泣きな声が聞こえる気がするんだ】
【草を生やしたいけど生やせない】
【良いんだ こはねちゃんなら、きっと笑って許してくれる】
【こはねちゃんの配信は泣きながら笑える配信だったからな】
やはり空気が台無しということで、そっと如月が閉じたドアの中、病室では衣擦れと書類、鞄の留め具の音がやけに耳を突く室内で、それぞれが支度を済ませていく。
「……じゃ、配信はひとまずこれまで。次回は――――――」
たすったすったすったすっ。
廊下を「まるで裸足で疾走する足音」がぐんぐんと近づいてきて――やがてはスライド式のドアをがた、と大きくつかむ音で室内へ緊張が走る。
そのまま勢いよく開かれたドアからは――――――
「――ぁぁぁぁあ゛お姉ち゛ゃ――――――み゛ゃあ゛!? ぞんびぃ!?」
「な――いや゛ぁぁぁぁ!? こはねちゃんのゾンビぃ!?」
――厳かな空間の入り口であるドアを、体重をかけて音を立てた存在に――たまたま最初に支度ができたから前に出た先のドアへ寄りかかってスマホの画面に意識をとられていたみなみが――その衝撃的過ぎる姿と声にスマホをぶん投げ、それにまたその対面の存在も驚き、お互いに奇声を上げる。
しまった――今の月見ミナミは三轍明けだ!
その顔は、まるで「ゾンビ」だ!
「や゛ぁぁぁぁぁぁぞんび! ぞんびぃぃぃぃぴぃぃぃぃ!」
「あ゛ぁぁぁぁぁぁなむあみだぶつなんまんだぶぅぅぅ!!」
「み゛ぃぃぃぃぃぃぃ」
「あっ……徹夜のせいで動悸が……」
【草】
【草】
【草】
【草】
【一体何が】
【おろろろろろ】
【あ、こはねちゃんのベッド……】
【スマホさんは無事か】
【え、けど、この声……?】
【カメラに映ってる、姿……】
「――――――、え」
優花は――「綾咲優花」は、目の前の存在を信じられず、硬直する。
「え」
だが――
「――嘘。そんなこと……奇跡でも、起きない限り……」
「……お姉ち゛ゃぁぁぁぁん! ぞんびに食べられるぅぅぅぅぅ!」
「わ、わっ……!? え、えっ……?」
――ぽすっ。
「存り得ない存在」が自分へ突撃してきて――胸元へダイブしてきて。
――どくっ、どくっ。
確かな、心臓の音が伝わってくる。
「あ゛ぁぁぁぁーん……」
――彼女の「妹/弟」が「レッサーパンダ」になったときに奏でる鳴き声が、響き渡る。
「……あ、あったかい……え、でも……」
「み゛ゃああああ――――――…………」
自分へ力の限りにすがり付き、泣き叫ぶ――「レッサーパンダ」と人気だった鳴き声の少女を、恐る恐るで抱きしめ返す。
確かに看取ったはずの――心臓も止まり、体温がゆっくりと下がっていたはずの体が――動いている。
「……え、そんな……」
「嘘……でも、目の前に」
「……はい、はい。……ふふっ。現代医学なんて、まだまだですね。――みなさんには、まだ信じられないことを伝えなければならないようです。ええ、嘘だと言いたくなるだろう――けれども、嘘だと信じたくなるような事実を」
「………………………………」
その光景を少しずつ受け入れ始めた彼女たちの中で――ふらふらと、「こはね」へ近づく影。
「……こはね、ちゃん……?」
「! ひより゛ち゛ゃぁぁぁん!」
「……ああ、ああっ……! こはねちゃんだぁ……」
予想外の力で抱きつかれたひよりは、勢いのままに床へと転び――その重さと声と、なによりも温かさに、すべてを悟る。
【これが、奇跡か】
【ああ】
【毎日数え切れない悲劇があるんだ たまには良いじゃないか】
【だよな】
【感動した】
【\50000】
【あっちで見たよ、こはねちゃん がんばってたね】
【きっとまた、あんな走りができるよ】
【小6の大逆転のリレーみたいにがんばってたね】
【ああ、レッサーパンダ あっちでも聞いたけど、やっぱり私たちにとっての本物はこっちのこはねちゃんだよ】
【? なんのこと?】
【それは……ひみつ】
【見た人だけの特典……かな】
◇
【……うっかり魂を同化して塗りつぶさせちゃいそうになった「彼だった彼女」な、TSっ子こはねちゃんからの、お願い】
【大変な目に遭わせちゃったお詫びは――ちゃんと、渡したよ】
【あ、でも、こっちのこはねちゃんも精神的なTSっ子ってことで、あと何十年は楽しめそうかな】
【もともと男だった女の子、女の子だったけど男って自覚した子……どっちも楽しめば、良いよね】
【2人とも、これから嬉し恥ずかしなTS生活を大人になって、よぼよぼになるまで過ごして――「TSよわよわVtuberこはねちゃん」としての生活を、そのいろんな気持ちを配信で教えてくれたなら】
◇
「じゃ、またね。……ふぅ」
ぽちっ。
「……ムーチューブの配信画面、オフ……良し。立ち絵ソフトオフ……良し。マイク、引っこ抜いて良し、カメラも上に向けて……良し。……ふぅ」
指差し点呼――うっかりのないようにさらにはパソコンを落としてからのため息。
僕は、久しぶりの疲労感を味わいながらイスにもたれかかる。
……今の僕の体重じゃリクライニングしてくれないから、小さい体を活かしてずるずると滑り落ちながら。
そうだ、僕はなめくじ。
流体だから流れ落ちるんだ。
「……兄さん」
「んぅ?」
僕は、上から降ってくる声を見上げる。
「……先ほどのは……」
「ん。『あっちの僕』のことだけど……やっぱり、信じられないよね」
「いえ」
優花は――最近になって伸ばし始めている艶やかな黒髪を撫でつけながら、言う。
「兄さんの言うことなら、嘘のはずがありませんから」
「……ありがと」
――妄想だとしか思えないだろうし、僕自身も冷静になればそうだとしか思えない光景――記憶。
それがなだれ込んできてちょっとのあいだ僕の記憶も自我も曖昧になったけども――おかげで、僕の知らないもうひとつの人生を知った気がするんだ。
「あ、あと優花」
「? はい」
「――大学の教授。今度、連絡取りたいから……連絡先、教えてくれないかな」
「……兄さん」
「今すぐにってわけには行かないとは思う。けども、ひとまずでお礼を……文章でも伝えたいし、元気だってことも伝えたいし」
僕は、部屋の隅から真ん中近くに出世した全身鏡を眺める。
淡い紫の髪は、肩から先の毛先は桜色に自然に変わる毛質。
それをひと房だけ三つ編みにしたおさげを、胸元に垂らしている。
結った髪を結んでいるのは――「向こうの優花がプレゼントしてくれた」リボンで。
どう見ても小学生女子――その中でもとりわけに幼くて臆病で、そのくせ身内には強気でわがままばっか言ってる、子供の顔つきに背丈。
そんな服装を、今日は着慣れた成人男性サイズでMのぶかぶかなパーカーで隠していて。
けども――如月先生の診察からも、肉体としては小学校高学年から中学生で……未だに来ていなくってほっとしている生理ってのが間近な、第二次性徴を向かえ始めた少女のもので。
僕はきっと、この人生を――やり直す人生を、この小さな体で乗り越えなきゃいけないんだろう。
感覚で、分かる。
僕は、もう男には戻れない。
実質的に「別人に生まれ変わった」から、こそ。
「……そろそろ、僕のペースなもんだから長かった休憩の時間は終わったんだ。まだ先生とか父さんたちとも相談中の今後――『成人男性の僕』のままで行くか、『小中学生女子の僕』で新しく行くかは決めてないけども、そろそろ」
僕は、開いているカーテンの先の窓を、見上げる。
「――これだけみんなに心配してもらったんだ。そろそろ、僕のペースで……外に、出なきゃね」
その空は、雲ひとつない真っ青な光で――子供のころのようにまぶしかった。
◆◆◆
このあともTSよわよわVtuberこはねちゃんの日常や配信はお届けされますが、こはねちゃんがTSするおはなしは、いったんここでおしまい。
すごく小さくなってちょっとだけ成長できたこはねちゃんは、よわよわでも前を見上げて……ときどきレッサーパンダになりつつも、今日も元気です。
【?】
【どうした】
【いや、なんか遠くから声が】
【病院だからな……そういうことは重なるさ】
【ああ……】
【つらいな】
【いつかは俺たちも……誰かが経験することだ】
【優花お姉ちゃんたちは気丈だし覚悟ができてたけど、そうじゃないご家族の方が多いからな……】
【私より年下の人の最期は……そう経験したくないな】
【こはねちゃんのリスナー……「介護班」のみんな こはねちゃんが言ってたよ どんなにつらくてもがんばって生きて、親御さんや大切な人よりも長生きしようね つらかったらみんなに相談してね】
【こはねちゃんを助けたくって、医学部に入ったよ ……絶対、こはねちゃんみたいな子を助けてみせるよ】
「――――――…………」
「……? 廊下から……」
妙に騒がしい――この場にふさわしくない、「あり得ない声」が響き渡る廊下に、一同は不審がる。
「……ごめんなさいね、今、ドアを閉めます」
「いえ、先生。両親も間もなく、とのことですからそのままで……いえ、そうですね。私たちも、そろそろ行きましょうか」
ひよりの上げた顔の先――廊下に向かい、喪った人々は立ち上がる。
いつまでも、そのままでは居られないから。
だからせめて、せめて。
「優花さん……」
「――せめて、見送りくらいは笑えるように……少し、風に当たりたいので」
「分かりました。……私もご一緒しても?」
「わっ、私も! お姉さんと一緒に!」
優花へ抱きつくひより。
気丈な少女たちが、から元気でも動き出す。
「じゃ、私たちも……ね?」
「視聴者のみんな、この後は式が終わってからでも良い……かな」
アイドル仲間の少女たちは、静かに「配信主の存在しなくなった配信」へ語りかける。
【もちろん】
【みんな、がんばったね】
【俺たちのことは気にしないで】
【親近者の後にしてくれる式には、行くからね】
【バーチャルな式なら、遠慮なく多くの人が行ける 良い時代だよな】
【ミナミちゃんとハルナちゃんのおかげで、みんなが行けるオンラインの場 ありがとう】
【こはねちゃんの遺言通り、最期の日、最期の瞬間まで見届けさせてくれてありがとう】
【私、こはねちゃんのおかげで引きこもりからニートになれた だから、スーツも買って……就職するためので、行くよ こはねちゃんに褒めてもらうために】
【僕、こはねちゃんのおかげで完全に道を見失わずに済んだ 罪を償ってから、お墓に行くよ それでも良いって、あの子が言ってくれたから】
「――――――………………ぁぁぁぁぁあ゛あ゛……」
――悲しみが包む荘厳な空間へ、なにやらの奇声が響き渡る。
【廊下がうるさいな】
【しょうがないさ さっきの俺たちもそうだっただろ?】
【そうだな……誰でも、な】
【変だな……まるでこはねちゃんがレッサーパンダになってるときのギャン泣きな声が聞こえる気がするんだ】
【草を生やしたいけど生やせない】
【良いんだ こはねちゃんなら、きっと笑って許してくれる】
【こはねちゃんの配信は泣きながら笑える配信だったからな】
やはり空気が台無しということで、そっと如月が閉じたドアの中、病室では衣擦れと書類、鞄の留め具の音がやけに耳を突く室内で、それぞれが支度を済ませていく。
「……じゃ、配信はひとまずこれまで。次回は――――――」
たすったすったすったすっ。
廊下を「まるで裸足で疾走する足音」がぐんぐんと近づいてきて――やがてはスライド式のドアをがた、と大きくつかむ音で室内へ緊張が走る。
そのまま勢いよく開かれたドアからは――――――
「――ぁぁぁぁあ゛お姉ち゛ゃ――――――み゛ゃあ゛!? ぞんびぃ!?」
「な――いや゛ぁぁぁぁ!? こはねちゃんのゾンビぃ!?」
――厳かな空間の入り口であるドアを、体重をかけて音を立てた存在に――たまたま最初に支度ができたから前に出た先のドアへ寄りかかってスマホの画面に意識をとられていたみなみが――その衝撃的過ぎる姿と声にスマホをぶん投げ、それにまたその対面の存在も驚き、お互いに奇声を上げる。
しまった――今の月見ミナミは三轍明けだ!
その顔は、まるで「ゾンビ」だ!
「や゛ぁぁぁぁぁぁぞんび! ぞんびぃぃぃぃぴぃぃぃぃ!」
「あ゛ぁぁぁぁぁぁなむあみだぶつなんまんだぶぅぅぅ!!」
「み゛ぃぃぃぃぃぃぃ」
「あっ……徹夜のせいで動悸が……」
【草】
【草】
【草】
【草】
【一体何が】
【おろろろろろ】
【あ、こはねちゃんのベッド……】
【スマホさんは無事か】
【え、けど、この声……?】
【カメラに映ってる、姿……】
「――――――、え」
優花は――「綾咲優花」は、目の前の存在を信じられず、硬直する。
「え」
だが――
「――嘘。そんなこと……奇跡でも、起きない限り……」
「……お姉ち゛ゃぁぁぁぁん! ぞんびに食べられるぅぅぅぅぅ!」
「わ、わっ……!? え、えっ……?」
――ぽすっ。
「存り得ない存在」が自分へ突撃してきて――胸元へダイブしてきて。
――どくっ、どくっ。
確かな、心臓の音が伝わってくる。
「あ゛ぁぁぁぁーん……」
――彼女の「妹/弟」が「レッサーパンダ」になったときに奏でる鳴き声が、響き渡る。
「……あ、あったかい……え、でも……」
「み゛ゃああああ――――――…………」
自分へ力の限りにすがり付き、泣き叫ぶ――「レッサーパンダ」と人気だった鳴き声の少女を、恐る恐るで抱きしめ返す。
確かに看取ったはずの――心臓も止まり、体温がゆっくりと下がっていたはずの体が――動いている。
「……え、そんな……」
「嘘……でも、目の前に」
「……はい、はい。……ふふっ。現代医学なんて、まだまだですね。――みなさんには、まだ信じられないことを伝えなければならないようです。ええ、嘘だと言いたくなるだろう――けれども、嘘だと信じたくなるような事実を」
「………………………………」
その光景を少しずつ受け入れ始めた彼女たちの中で――ふらふらと、「こはね」へ近づく影。
「……こはね、ちゃん……?」
「! ひより゛ち゛ゃぁぁぁん!」
「……ああ、ああっ……! こはねちゃんだぁ……」
予想外の力で抱きつかれたひよりは、勢いのままに床へと転び――その重さと声と、なによりも温かさに、すべてを悟る。
【これが、奇跡か】
【ああ】
【毎日数え切れない悲劇があるんだ たまには良いじゃないか】
【だよな】
【感動した】
【\50000】
【あっちで見たよ、こはねちゃん がんばってたね】
【きっとまた、あんな走りができるよ】
【小6の大逆転のリレーみたいにがんばってたね】
【ああ、レッサーパンダ あっちでも聞いたけど、やっぱり私たちにとっての本物はこっちのこはねちゃんだよ】
【? なんのこと?】
【それは……ひみつ】
【見た人だけの特典……かな】
◇
【……うっかり魂を同化して塗りつぶさせちゃいそうになった「彼だった彼女」な、TSっ子こはねちゃんからの、お願い】
【大変な目に遭わせちゃったお詫びは――ちゃんと、渡したよ】
【あ、でも、こっちのこはねちゃんも精神的なTSっ子ってことで、あと何十年は楽しめそうかな】
【もともと男だった女の子、女の子だったけど男って自覚した子……どっちも楽しめば、良いよね】
【2人とも、これから嬉し恥ずかしなTS生活を大人になって、よぼよぼになるまで過ごして――「TSよわよわVtuberこはねちゃん」としての生活を、そのいろんな気持ちを配信で教えてくれたなら】
◇
「じゃ、またね。……ふぅ」
ぽちっ。
「……ムーチューブの配信画面、オフ……良し。立ち絵ソフトオフ……良し。マイク、引っこ抜いて良し、カメラも上に向けて……良し。……ふぅ」
指差し点呼――うっかりのないようにさらにはパソコンを落としてからのため息。
僕は、久しぶりの疲労感を味わいながらイスにもたれかかる。
……今の僕の体重じゃリクライニングしてくれないから、小さい体を活かしてずるずると滑り落ちながら。
そうだ、僕はなめくじ。
流体だから流れ落ちるんだ。
「……兄さん」
「んぅ?」
僕は、上から降ってくる声を見上げる。
「……先ほどのは……」
「ん。『あっちの僕』のことだけど……やっぱり、信じられないよね」
「いえ」
優花は――最近になって伸ばし始めている艶やかな黒髪を撫でつけながら、言う。
「兄さんの言うことなら、嘘のはずがありませんから」
「……ありがと」
――妄想だとしか思えないだろうし、僕自身も冷静になればそうだとしか思えない光景――記憶。
それがなだれ込んできてちょっとのあいだ僕の記憶も自我も曖昧になったけども――おかげで、僕の知らないもうひとつの人生を知った気がするんだ。
「あ、あと優花」
「? はい」
「――大学の教授。今度、連絡取りたいから……連絡先、教えてくれないかな」
「……兄さん」
「今すぐにってわけには行かないとは思う。けども、ひとまずでお礼を……文章でも伝えたいし、元気だってことも伝えたいし」
僕は、部屋の隅から真ん中近くに出世した全身鏡を眺める。
淡い紫の髪は、肩から先の毛先は桜色に自然に変わる毛質。
それをひと房だけ三つ編みにしたおさげを、胸元に垂らしている。
結った髪を結んでいるのは――「向こうの優花がプレゼントしてくれた」リボンで。
どう見ても小学生女子――その中でもとりわけに幼くて臆病で、そのくせ身内には強気でわがままばっか言ってる、子供の顔つきに背丈。
そんな服装を、今日は着慣れた成人男性サイズでMのぶかぶかなパーカーで隠していて。
けども――如月先生の診察からも、肉体としては小学校高学年から中学生で……未だに来ていなくってほっとしている生理ってのが間近な、第二次性徴を向かえ始めた少女のもので。
僕はきっと、この人生を――やり直す人生を、この小さな体で乗り越えなきゃいけないんだろう。
感覚で、分かる。
僕は、もう男には戻れない。
実質的に「別人に生まれ変わった」から、こそ。
「……そろそろ、僕のペースなもんだから長かった休憩の時間は終わったんだ。まだ先生とか父さんたちとも相談中の今後――『成人男性の僕』のままで行くか、『小中学生女子の僕』で新しく行くかは決めてないけども、そろそろ」
僕は、開いているカーテンの先の窓を、見上げる。
「――これだけみんなに心配してもらったんだ。そろそろ、僕のペースで……外に、出なきゃね」
その空は、雲ひとつない真っ青な光で――子供のころのようにまぶしかった。
◆◆◆
このあともTSよわよわVtuberこはねちゃんの日常や配信はお届けされますが、こはねちゃんがTSするおはなしは、いったんここでおしまい。
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