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12章 日常に立ちはだかる敵と味方と
144話 先生を泣かせた責任
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「え゙――――ん……」
「先生! 大丈夫です!」
ひより先生が全力で泣いている。
僕にすがりついて――それはもう盛大に。
「大丈夫! 大丈夫ですから!」
「でも゛ぉぉぉー……」
ぐすぐすと泣き続ける彼女。
これはいよいよにまずいことになってきた。
たかが、ちょっとだけセンシティブなイラストのモデルを僕なんかにして描いちゃったのがバレただけで、ここまでに泣きわめいている。
なんならもう声が枯れ始めている。
これは良くない。
なぜかはさっぱりこれっぽっちも分からないけども、先生の心情が非常に不安定になっているんだ。
これはあれだ――やっぱり、僕っていう異分子が先生の部屋に入っているから。
家族が部屋に入ってきたときの僕と同じく、押し殺した不快感が言うはずのない言葉を発し、するはずのない感情を暴発させている。
「……すみません、先生」
「ふぇぇぇ――……!」
――ぎゅっ。
そのそぶりを見せても抵抗がなかったから、僕は意を決して彼女を引き寄せて、抱きしめる。
「よしよし……大丈夫、大丈夫ですから」
「わぁぁぁーん……」
そのとたんに泣き声が上がり、僕の胸元に押しつけられる彼女の顔。
……小さいころの優花を慰めた記憶、あと、つい最近に小さくなった僕が優花にあやされた記憶の結果、僕はひより先生をひと肌で癒やしながら好きなだけ泣かせることにした。
「………………………………」
……うん。
この子は絶対に、守護らないと。
そんな決意をしながら、ひより先生のあまりにも純粋過ぎる心を尊いと思う僕だった。
◇
「死にたいって、こういう気持ちなんですね……」
ひと息ついた先生は――自分の部屋なのに、隅っこに移動した上で体育座りをし、壁と壁の角に頭を突っ込む体勢になっている。
ちなみに、すんっ……と真顔になった先生の瞳は真っ暗になっていて、無表情になっていて、そのままよちよちと四つんばいで移動していた。
「私、すっごく子供だったんです。こんな、取り返しのつかないことをした経験すらない、お子様で……」
「先生はそれが持ち味ですよ」
「これじゃ小学生って言われても文句は言えません……明日からは堂々とみんなのマスコットに甘んじるしかないんです……みんなに子供扱いされても、いつもみたいに怒る筋合いはなくなったんです……」
小学生と言われたらそのまんまな先生は、明るい栗色の髪の毛を壁にぐりぐりと押しつけている。
その上に着けていたカチューシャ――そのせいで余計に小学生に見えるんだ――まで外して。
自己嫌悪。
先生が自己嫌悪をされている。
「……あ、黒歴史……そうなんだぁ、これがあのワードの意味合い……お友達をこそこそとえっちに描いて満足してた、私の罪……」
先生の落ち込みようが半端じゃない。
これはなんとかしてあげたいところだけども……うん。
僕も男だ、そういう気持ちは分かる。
分かるからこそうかつな声をかけられないんだ。
僕自身はそもそも男だし大人だし、先生のささいな好奇心による過ちは本当にこれっぽっちも気にしてなんかいない。
先生のイラストは純粋無垢ってところが良くって――裏を返せばアダルティーな世界を知らなかったがゆえに生み出されていた傑作で。
そんな彼女が――きっと解剖学のために全裸ヌードの資料でも探しちゃったんだろう、それで僕のイラストを描こうとしていたら魔が差しちゃって、つい僕が漏らしているっていう――介護班の人たちが大喜びしそうな作品を生み出してしまって。
そりゃあ落ち込む、しかも当人が1番の鑑賞者だ、落ち込まないわけがない。
……問題は僕がそれをまったく気にしていないのに先生が気にしているってことで。
「うぅ……私はもうダメ……おしまい……みじんこ……ありさん……」
先生がもっと小さくなっていく。
……ああ、小学生みたいな見た目だけど、体の柔らかさも小学生並みなんだ。
僕は小学校の中盤から長座体前屈とかで固かったけどね。
今の女の子になってる体はどうなのか……帰ったら試してみよう。
しかし先生の自己嫌悪が深刻だ。
どうにかして差し上げないと……。
「先生」
「!」
びくっ。
先生の肩が跳ねる。
「僕は、数ヶ月前までは成人男性だった――ご存じですよね?」
「はい……」
――こうなったら僕も男だ、腹をくくるしかない。
「男はですね、生殖本能の都合上、一般的に女性よりも性欲ってものがあるんです。本能的に24時間四六時中に女体を、全裸を妄想する存在なんです」
「そうで……ひゃあ!?」
がばりとこっちを振り返ってくる先生。
……正直僕もすっごく恥ずかしいけども、年下のいたいけな子が――男女関係なく――思春期で最も混乱するだろう性の問題について困っていたら、年上が恥を忍びながら諭すのは義務。
歳は、重ねるごとに恥を上塗りしていくもの――大丈夫だ。
配信で散々やらかした僕は、ある意味無敵なんだ。
「あんなの、今どきは小学生でも無限に……イラストでも写真でも閲覧できる時代です。そのへんの小学生でもなんとも思いません、安心してください」
だから、ひたすらに「なんでもないこと」として言いくるめる。
それが、この場を丸く収める唯一の方程式なんだ。
「先生! 大丈夫です!」
ひより先生が全力で泣いている。
僕にすがりついて――それはもう盛大に。
「大丈夫! 大丈夫ですから!」
「でも゛ぉぉぉー……」
ぐすぐすと泣き続ける彼女。
これはいよいよにまずいことになってきた。
たかが、ちょっとだけセンシティブなイラストのモデルを僕なんかにして描いちゃったのがバレただけで、ここまでに泣きわめいている。
なんならもう声が枯れ始めている。
これは良くない。
なぜかはさっぱりこれっぽっちも分からないけども、先生の心情が非常に不安定になっているんだ。
これはあれだ――やっぱり、僕っていう異分子が先生の部屋に入っているから。
家族が部屋に入ってきたときの僕と同じく、押し殺した不快感が言うはずのない言葉を発し、するはずのない感情を暴発させている。
「……すみません、先生」
「ふぇぇぇ――……!」
――ぎゅっ。
そのそぶりを見せても抵抗がなかったから、僕は意を決して彼女を引き寄せて、抱きしめる。
「よしよし……大丈夫、大丈夫ですから」
「わぁぁぁーん……」
そのとたんに泣き声が上がり、僕の胸元に押しつけられる彼女の顔。
……小さいころの優花を慰めた記憶、あと、つい最近に小さくなった僕が優花にあやされた記憶の結果、僕はひより先生をひと肌で癒やしながら好きなだけ泣かせることにした。
「………………………………」
……うん。
この子は絶対に、守護らないと。
そんな決意をしながら、ひより先生のあまりにも純粋過ぎる心を尊いと思う僕だった。
◇
「死にたいって、こういう気持ちなんですね……」
ひと息ついた先生は――自分の部屋なのに、隅っこに移動した上で体育座りをし、壁と壁の角に頭を突っ込む体勢になっている。
ちなみに、すんっ……と真顔になった先生の瞳は真っ暗になっていて、無表情になっていて、そのままよちよちと四つんばいで移動していた。
「私、すっごく子供だったんです。こんな、取り返しのつかないことをした経験すらない、お子様で……」
「先生はそれが持ち味ですよ」
「これじゃ小学生って言われても文句は言えません……明日からは堂々とみんなのマスコットに甘んじるしかないんです……みんなに子供扱いされても、いつもみたいに怒る筋合いはなくなったんです……」
小学生と言われたらそのまんまな先生は、明るい栗色の髪の毛を壁にぐりぐりと押しつけている。
その上に着けていたカチューシャ――そのせいで余計に小学生に見えるんだ――まで外して。
自己嫌悪。
先生が自己嫌悪をされている。
「……あ、黒歴史……そうなんだぁ、これがあのワードの意味合い……お友達をこそこそとえっちに描いて満足してた、私の罪……」
先生の落ち込みようが半端じゃない。
これはなんとかしてあげたいところだけども……うん。
僕も男だ、そういう気持ちは分かる。
分かるからこそうかつな声をかけられないんだ。
僕自身はそもそも男だし大人だし、先生のささいな好奇心による過ちは本当にこれっぽっちも気にしてなんかいない。
先生のイラストは純粋無垢ってところが良くって――裏を返せばアダルティーな世界を知らなかったがゆえに生み出されていた傑作で。
そんな彼女が――きっと解剖学のために全裸ヌードの資料でも探しちゃったんだろう、それで僕のイラストを描こうとしていたら魔が差しちゃって、つい僕が漏らしているっていう――介護班の人たちが大喜びしそうな作品を生み出してしまって。
そりゃあ落ち込む、しかも当人が1番の鑑賞者だ、落ち込まないわけがない。
……問題は僕がそれをまったく気にしていないのに先生が気にしているってことで。
「うぅ……私はもうダメ……おしまい……みじんこ……ありさん……」
先生がもっと小さくなっていく。
……ああ、小学生みたいな見た目だけど、体の柔らかさも小学生並みなんだ。
僕は小学校の中盤から長座体前屈とかで固かったけどね。
今の女の子になってる体はどうなのか……帰ったら試してみよう。
しかし先生の自己嫌悪が深刻だ。
どうにかして差し上げないと……。
「先生」
「!」
びくっ。
先生の肩が跳ねる。
「僕は、数ヶ月前までは成人男性だった――ご存じですよね?」
「はい……」
――こうなったら僕も男だ、腹をくくるしかない。
「男はですね、生殖本能の都合上、一般的に女性よりも性欲ってものがあるんです。本能的に24時間四六時中に女体を、全裸を妄想する存在なんです」
「そうで……ひゃあ!?」
がばりとこっちを振り返ってくる先生。
……正直僕もすっごく恥ずかしいけども、年下のいたいけな子が――男女関係なく――思春期で最も混乱するだろう性の問題について困っていたら、年上が恥を忍びながら諭すのは義務。
歳は、重ねるごとに恥を上塗りしていくもの――大丈夫だ。
配信で散々やらかした僕は、ある意味無敵なんだ。
「あんなの、今どきは小学生でも無限に……イラストでも写真でも閲覧できる時代です。そのへんの小学生でもなんとも思いません、安心してください」
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それが、この場を丸く収める唯一の方程式なんだ。
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