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12章 日常に立ちはだかる敵と味方と
143話 まだまだ純粋な先生
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「ちがうんです! ちがうんです!」
「分かってます先生、落ち着きましょう先生」
「これはただの興味本位で! 私、こはねちゃんさんでヘンなコトなんて!」
「落ち着きましょう先生、分かってます先生」
どうしよう。
僕が手に取ってしまったのは、パンドラの箱の中身だったみたいだ。
「うぅ……」
僕が持っている紙に気づいた先生がそれをのぞき込み――ちょっとフリーズしたあとに慌てて奪い取り、几帳面にも丁寧に折りたたんでからゴミ箱にぽいっとしたそのイラストは……その。
TLで視聴者たちと戯れてるときにおすすめで流れてきてしまうような、「Vtuberこはねちゃん」のセンシティブなイラストで。
たぶんデッサンの勉強だからはだかだったんだろうし、たぶん液体の勉強のために汗とか涙とかだったんだろうし――けども、そのイラストの僕は手元から下が別の液体でぐしょぐしょになっていて。
「……先生」
「ひゃいっ!?」
びくんと跳ねる先生は、まるでそのイラストでの僕とそっくりな表情で。
「……これ、ネットには放流していませんよね?」
「し、しししてましぇんっ!!」
「なら大丈夫。先生のブランドイメージは損なわれてません」
「ぶ、ぶらんど……?」
きょとんとしている先生は、実に愛らしい。
だからこそたたみかけて、なんとか収める必要がある。
「はい。先生は、これまで通りに僕好みの癒やしを与えるイラストを描かれる――もう僕の配信経由でバレてしまっていますけど、女子高生イラストレーター。そのイメージが崩壊さえしなければ、問題はなにひとつありません」
「……こ、こはねちゃんさんのえっちな絵、描いちゃったのに……?」
「これ、そういうつもりで描いたんですか?」
「はうぅ!? い、いえ、ちがい……もにょもにょ」
ただでさえ小さい先生――なにしろ小さい僕と同等の存在なんだ――が、さらに縮こまっている。
真っ赤な顔で涙がにじんでいて、ぷるぷると震えていて汗だくで。
……あー。
これが、みんなから見た視点の僕……「守護らねば」とか「よわよわこはねちゃん」とか「レッサーパンダこはねちゃん」とか「なにこのかわいいいきもの」とか「かよわきかわいいいきもの」とかさんざんな言われようの僕のイメージ。
なるほど。
………………………………。
確かに、これが僕じゃなければ優花と同じくらいに守りたい気持ちと衝動が奔出するね。
確かに、こうして見ていると父母会ってのにも入りたくなるね。
確かに、こんな姿を見ていれば――いつ戻れるのかは分からないけども戻ったらどうにかして社会復帰して、どうにか稼ぎと社会的立場を獲得して、どうにか僕なんかでも良いって人を見つけて結婚して子供を育てたくなるね。
ふむ。
……気が乗ったときはがんばろう。
「先生、大丈夫です。誰しも気の迷い、魔の差すことはあります。ましてや先生は健全な思春期です」
「はぅぅぅ……」
「誰だって秘密にしているだけで、小中高と次第にそういうものに興味を持つんです。先生のご学友だって、先生には言わないだけで……今どきはスマホさえあれば望むだけの情報が出てきますし、望まなくてもTLとか検索結果とかで不意打ちで浴びせられることもあるんです。事故です、事故」
まぁ実際男子の8割なんてのは、先生の描いたようなイラストなんて小中学生で見慣れてえっちじゃないって感じるレベルになるんだし、女子は女子でもっと進んだ深い内容を――やめよう、これ以上追求すると僕たち男の女子への理想が破壊される。
ともかく僕は気にしていないアピールのため、先生が取り出していた分厚い解剖学の本を見るともなく眺めている。
そうだ、ここは僕たちの関係性を活用するんだ。
歳の離れた――自覚すると心にぐさりと来るけども、JKなひより先生に比べたら僕はおじさんなんだ。
つまりは親戚のおじさんとして、あるいは新任の教師として。
そういう接し方をすれば、後に引っ張ることもないはずだ。
「それに、イラストレーター、漫画家、あるいは画家になるためには人体のデッサン――ヌードデッサンは、いずれは避けられない道です。いえ、作風によってはそこまで厳密にやる必要はないって聞きますけど、それでもセンシティブな部位のない素体として、いろんな角度からいろんなポーズを描くのは王道だとも聞きます。これは、そのひとつなんです」
忘れるんだ。
敬愛するひより先生が、なぜか僕を全裸に剥いて両腕で胸の先っぽが絶妙に見えないような構図で、両手でおまたもちゃんと隠しているからYでMrokとかいう人工知能がぎりぎりセーフって判定できるかもしれない――あ、いや、漏らしちゃってるからアウトかな――姿を描いていたことなんて。
「…………じゃ……いんですか」
「? ごめんなさい、もう1回」
「こはねちゃんさんは……私から、え、……ぇっ……ちな目で見られてたって知って、き、嫌いになったり……」
顔を上げた先に居た先生は――
「ふぇぇぇぇぇぇぇ――……」
ぼろぼろと泣いていた。
「分かってます先生、落ち着きましょう先生」
「これはただの興味本位で! 私、こはねちゃんさんでヘンなコトなんて!」
「落ち着きましょう先生、分かってます先生」
どうしよう。
僕が手に取ってしまったのは、パンドラの箱の中身だったみたいだ。
「うぅ……」
僕が持っている紙に気づいた先生がそれをのぞき込み――ちょっとフリーズしたあとに慌てて奪い取り、几帳面にも丁寧に折りたたんでからゴミ箱にぽいっとしたそのイラストは……その。
TLで視聴者たちと戯れてるときにおすすめで流れてきてしまうような、「Vtuberこはねちゃん」のセンシティブなイラストで。
たぶんデッサンの勉強だからはだかだったんだろうし、たぶん液体の勉強のために汗とか涙とかだったんだろうし――けども、そのイラストの僕は手元から下が別の液体でぐしょぐしょになっていて。
「……先生」
「ひゃいっ!?」
びくんと跳ねる先生は、まるでそのイラストでの僕とそっくりな表情で。
「……これ、ネットには放流していませんよね?」
「し、しししてましぇんっ!!」
「なら大丈夫。先生のブランドイメージは損なわれてません」
「ぶ、ぶらんど……?」
きょとんとしている先生は、実に愛らしい。
だからこそたたみかけて、なんとか収める必要がある。
「はい。先生は、これまで通りに僕好みの癒やしを与えるイラストを描かれる――もう僕の配信経由でバレてしまっていますけど、女子高生イラストレーター。そのイメージが崩壊さえしなければ、問題はなにひとつありません」
「……こ、こはねちゃんさんのえっちな絵、描いちゃったのに……?」
「これ、そういうつもりで描いたんですか?」
「はうぅ!? い、いえ、ちがい……もにょもにょ」
ただでさえ小さい先生――なにしろ小さい僕と同等の存在なんだ――が、さらに縮こまっている。
真っ赤な顔で涙がにじんでいて、ぷるぷると震えていて汗だくで。
……あー。
これが、みんなから見た視点の僕……「守護らねば」とか「よわよわこはねちゃん」とか「レッサーパンダこはねちゃん」とか「なにこのかわいいいきもの」とか「かよわきかわいいいきもの」とかさんざんな言われようの僕のイメージ。
なるほど。
………………………………。
確かに、これが僕じゃなければ優花と同じくらいに守りたい気持ちと衝動が奔出するね。
確かに、こうして見ていると父母会ってのにも入りたくなるね。
確かに、こんな姿を見ていれば――いつ戻れるのかは分からないけども戻ったらどうにかして社会復帰して、どうにか稼ぎと社会的立場を獲得して、どうにか僕なんかでも良いって人を見つけて結婚して子供を育てたくなるね。
ふむ。
……気が乗ったときはがんばろう。
「先生、大丈夫です。誰しも気の迷い、魔の差すことはあります。ましてや先生は健全な思春期です」
「はぅぅぅ……」
「誰だって秘密にしているだけで、小中高と次第にそういうものに興味を持つんです。先生のご学友だって、先生には言わないだけで……今どきはスマホさえあれば望むだけの情報が出てきますし、望まなくてもTLとか検索結果とかで不意打ちで浴びせられることもあるんです。事故です、事故」
まぁ実際男子の8割なんてのは、先生の描いたようなイラストなんて小中学生で見慣れてえっちじゃないって感じるレベルになるんだし、女子は女子でもっと進んだ深い内容を――やめよう、これ以上追求すると僕たち男の女子への理想が破壊される。
ともかく僕は気にしていないアピールのため、先生が取り出していた分厚い解剖学の本を見るともなく眺めている。
そうだ、ここは僕たちの関係性を活用するんだ。
歳の離れた――自覚すると心にぐさりと来るけども、JKなひより先生に比べたら僕はおじさんなんだ。
つまりは親戚のおじさんとして、あるいは新任の教師として。
そういう接し方をすれば、後に引っ張ることもないはずだ。
「それに、イラストレーター、漫画家、あるいは画家になるためには人体のデッサン――ヌードデッサンは、いずれは避けられない道です。いえ、作風によってはそこまで厳密にやる必要はないって聞きますけど、それでもセンシティブな部位のない素体として、いろんな角度からいろんなポーズを描くのは王道だとも聞きます。これは、そのひとつなんです」
忘れるんだ。
敬愛するひより先生が、なぜか僕を全裸に剥いて両腕で胸の先っぽが絶妙に見えないような構図で、両手でおまたもちゃんと隠しているからYでMrokとかいう人工知能がぎりぎりセーフって判定できるかもしれない――あ、いや、漏らしちゃってるからアウトかな――姿を描いていたことなんて。
「…………じゃ……いんですか」
「? ごめんなさい、もう1回」
「こはねちゃんさんは……私から、え、……ぇっ……ちな目で見られてたって知って、き、嫌いになったり……」
顔を上げた先に居た先生は――
「ふぇぇぇぇぇぇぇ――……」
ぼろぼろと泣いていた。
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