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9話 肩すかしな黒おっさんとヤバい新おっさん
しおりを挟むさて。
さてさて。
警察なんていなくって、騒ぎが収まったころにようやく領主さまの騎士さまたちが派遣されてくるだけな今世。
……警察というものがない時代で世界な、ザ・中世……自警団で精いっぱいな世の中だし、僕の家族たちを皆殺しにした上で町まで燃やした黒おっさんといえども、こうしていきなり拘束もせずに連れて来てくれてたっていうのは、そして軟禁とはいえ、僕になんにもさせてこないっていうのは、実はわりと穏当な部類だったりする。
いや、マジで。
僕はてっきり、人目のあるとこでサインだけ避けたらお前はもう用済みだって、約束なんかほっといてすぐに売り払われるかなにかするって思っていたんだし。
いやだって、ここ中世だし。
別に偏見とかじゃないし。
だって、今の僕には自衛の手段が一切にないんだし。
……なのに、どーなることかと思っていたら、なんか意外と待遇がよくって。
黒おっさんのしたことを知っていてなのかは分からないし分かりたくもないけれど、黒おっさんの奥さんたちとか娘さんたち……息子さんたちを寄こしてこない時点で、現状僕に手出しはしてこないっていう意思表示なんだろうけど……家族ぐるみで、歓待、されているんだから。
………………………………あーんれぇ――……?
僕、あのとき……いや、あのあと2、3日もしたらいい方で、てっきりそのままやっすい奴隷として売り飛ばされるのかって覚悟してたのに。
まさか僕、あのときは気が動転していてから、黒おっさんが黒幕だって思い込んで、そこを起点にしていろいろ考えてたけど。
……ひょっとして、黒おっさんが言っていたことって、ほんっとのこと?
裏とかなくって、ただ事実を言ってたってこと?
うさんくさい雰囲気と顔のせいで、勝手に決めつけちゃってたってこと?
なんか言いまわしも変だったけど、それだって騒がしかったから聞き違えちゃったりしてたり?
……つまり、この状況は善意で。
家族を失った上に今度は家まで燃えそうだったから、せめて、って、ほんとにたまたま通りかかったから家の物を出してくれていて。
そんであの証文とかも……焦っていたから期日とかにも目を通すヒマがなかったし、もしかしたらほんとに、あの場でしなきゃならないやつだったりしたの?
いや、そうだったら恥ずかしい。
黒おっさんとか心の中で呼び続けちゃって。
あれ?
そーいやあのおっさんの名前って。
………………………………………………………………………………………………。
忘れてら。
☆
なーんてバカなことを、ちょーっと思い始めてた矢先。
そーだよなぁ………………………………………………………………。
小悪党っぽい、いや、やったことは大悪党なんだけど、そんな黒おっさんがあのときに小悪党らしくぺらぺらぺらぺらしゃべってくれたもんだから情報と状況は手元にあったし、なによりもあのときの僕は、動揺はしていたけど動転はしてなかったんだもんな、本質的には。
だから圧迫面接的にサインさせられたけど、それは身の危険を感じての常識的な判断で、さらに言えば………………………………あの黒さんは、まずまちがいなく僕を心底なめてたんだ。
だから……神童、前世で商業チートしてたんだからそのくらいはさっと察せる頭があればよかったのになぁ……な僕に対して、商人がいちばん気をつけなきゃならないこと、つまりは本音を隠すっていうのを忘れて話していたんだから。
あるいはできないのかもしれぬ。
黒おっさんだしな。
それで覚悟したっていうそのときの判断を……たかが数日歓待されたからって、かんたんに捨てちゃあまずいだろう。
僕はそこまでちょろくはないぞ。
ちょろいのはおっぱいとか限定だ。
……なーんてことを考えてるっていうのも、さっきおしっこで目が覚めて……居心地を良くさせるためか、基本家の中は自由に歩いてもオッケーだからってとぼとぼ歩いて、すっきりしてふらついていたら、馬車の音がしていたんだ。
こんな、真夜中に。
………………………………。
悪事とは夜に行われるものだって相場が決まっている。
あのときもそうだったしな。
だから僕は直感が働いて、それに従って黒おっさんのいつもの応接室の音を拾いやすいとこに張り付いて聞き耳立ててたら、秘密のお話が聞こえてきて。
………………………………………………………………。
んで、………………………………まぁ、それよ。
僕を、いくらで買うのかっていうご相談。
値段、つくのかぁ………………………………。
それも、奴隷としては破格のものが。
………………………………あ、これ、話の内容的に、トーン的に………………………………僕、どう考えてもぐへへな目に遭わせられるやつだ、って。
だって前世の資料でイヤというほど見た、あ、いや、好き好んで見たんだろーけど。
覚えてないけど。
ちくしょう。
………………………………じゃない、今は僕の身の安全も貞操も掛かっているんだ、まじめにまじめに。
……実際に、最低でも中学生くらいの肉体年齢なはずなのに一向に成長する気配のない僕の体、凹凸のない僕の体。
この世界は中世なもんだからやっぱり太っていないと性的魅力はなくって、だから僕は鶏ガラもいいとこなんだけど………………………………ロリなコンはどこの世界にもあまねく存在する。
そして、実際に手を出すのを至上とする悪いロリコンを。
眺めるだけで満足できる、良いロリコンとはちがうやつらが。
………………………………………………………………………………………………。
……とりあえず、話をもういちど頭の中で整理し直して、と………………………………。
☆
朝が来ちゃった。
………………………………僕、たぶん、今世で生まれて初めて不安で眠れないっていうのになったかも。
いや、体質的に徹夜しても平気なんだけど……たぶん肉体的な成長がないからだろーな……それでも、ベッドで目をつぶっても眠れないっていうのは、初めてだった。
そんでもって、朝ごはんも早々にふだんの応接室へ連れて行かれ、昨晩聞き慣れちゃった声をしている、新しいおっさんを紹介された。
………………………………………………………………。
その目を、僕は、感覚として知っていた。
それはそれは僕をねーっとりとまとわりつくような、メイドさんたちのグチを聞いていると出てくる、体のあちこちを……触るように、舐めるように見てくる、視線。
それを、僕は今、本気で感じている。
肌がぞわってするっていうか、泡立つってやつで、おなかの中がきゅーってなって、頭からさーって血が引くんだ。
これまた知り合いだったはずの商人さんの、その目線だけで。
………………………………というか、また、知り合いだ。
付き合いの薄い……きっと父さんたちもわざと避けていたんだろうなぁ……そんな、新おっさん。
…………………………見られてさぶいぼがたつなんて、この世界に生まれてから初めて経験した。
これ、あかん。
これはあかん。
まじであかん。
月のものも来ないくらいに発育不良で幼い外見だからのんびりしてたけど、いきなりやばいわこれ。
人の価値の……人権なんて発想のない、よく知っている中世だ。
ぐへへな目にさんざんに遭わせられて……中身男なのに逆らえなくって、好き放題されて、んで、ケガとか病気とかしたりして弱ってきたらショブンされるって流れだ。
……あるいは成長したら別のとこに転売されるのかも。
それがマシだって言うんだから、待遇はお察しの通り。
いやいやたぶん僕はそんなに成長できないから、逆らわなかったら10年くらいは新おっさんのとこでぐへへされて………………………………。
………………………………………………………………………………………………。
うわ、やばい。
語彙力がすり減るほどに身の危険を感じる。
なにかが、がりがり削れる音がする気がする。
前世の資料でそういうの、たっくさん見たみたいな僕の頭の中には、どんどんとやーな光景が、これでもかって広がっている。
なぜにこのタイミングで思い出す。
もはや嫌悪感しか浮かばない、そーゆーシチュの数々。
あかん。
あかん。
あかん。
………………………………あかん。
新おっさんとの顔合わせは、すぐに僕の記憶から抹消するくらいには嫌なものだった。
☆
あれからさらに数日、数週間(今世換算)が経ち。
僕はまだ、なんとか黒おっさんのとこに留まることに成功している。
というのも、売ろうとしている方も買おうとしている方もいちおうは商人ってやつで、うちとも付き合いはすこーしはあって、僕が読み書きと計算ができるっていう……この世界ではホントに少ない価値があるっていうのも知っているから、高く売れちゃうらしいから、機嫌悪くしないようにーって、表面上は猫なで声で優しくしていた。
そして僕が黒おっさんの奥さんや娘さんにものすごく懐いている演技をしているのを見て、安心しきるのを待っているだろうってのもあるだろーな。
で、商品価値……たぶん、僕がもう少し太るのを待ってから……なにせ家族が病死するっていうストレスで痩せたって思い込んでるフシがあったし……そうしていただくつもりだったんだろうなぁ。
……あとは見た目のせいで幼く見られるもんだから、早く寝る演技もしてて、だからあの夜の取引を聞いてないって思い込んでるみたいだし……黒おっさんも新おっさんも、何度も会ううちに僕が新おっさんに懐くとでも思ったんだろーか。
まー、ほんとに僕が懐いて、僕からその商人さんのところに名目上の養子、娘として引き取られて、うまーく騙しながらぐへへな仲になったんだったら、昼はお金を稼ぎ夜はぐへへができるんだから、そりゃー文句はないよな。
たかが何週間か何ヶ月か待つだけで、懐いて合意的に……するわけないけど、そーゆー仲にだまくらかしながらなれるんだもんな。
僕の体と頭の両方をうまく使おうとしたら、ただぐへへするよりも価値があるんだもんな。
………………………………ま、そーゆーのもみーんな、来るたびにこしょこしょ話してるのを聞いて筒抜けなんだけど。
所詮は小悪党よ。
まー、その小悪党においしくぐへへされる寸前なんだけどな、この僕は。
そして、ついでのように値段がつり上がった理由としては、着飾った僕を見た新おっさんがキュンと……おげえぇ……来たらしいってのもある。
なるべくじみーな服にしていたのに、懐いているってことにしている奥さんたちからふりっふりのろりっろりなもんを着させられて、頭にはでっかいリボンとかつけられて、どー見てもあれだ、ロリコンにとっては心臓に悪いかっこをさせられたからだろう。
ハートをさらにキャッチしちゃったらしい。
だってお値段、倍近くになってるもん。
つまりはどーしても……大好きオーラ(女性限定)を出しながら甘えているフリ……フリだ、フリしてる僕を見て倍のお金出すんだから、つまりはいちゃいちゃな感じに僕をぐへへしたいってわけで。
僕としては好みじゃなかったけど……外国の映画の女優さんとかって、どうも綺麗以上の感情を持ったことって終ぞなかったからなぁ、たぶん……決まり文句なお世辞とかを除いても、まぁ、僕の顔は、その人たちと比べても上の中くらい?には整っている方ではあるんだろうけど。
まー、たしかに今世の僕はかわいいとは思うよ?
鏡見るのは嬉しいし。
…………………………………………ちんちくりんだけどな。
せめて凹凸がないとなぁ、女の子というものは。
それが今は逆効果……いや、年相応だったならあのときに黒おっさんか誰かにすぐさまぐへへされてたんだろーから、まだマシなのか、一応は。
………………………………少なくとも前世の僕も、見た目小学生に欲情できる体質じゃなかったらしい。
女の子っていうのは…………もっとこう、少しは知的であって、なによりもおっぱいとおしりがなければ。
あとは肉付きのいいふとももとかいい感じのおなかとか……、おっと、そんな場合じゃないのにな、僕の本能ってもんは、もう。
とにかく、なんとかせにゃあならん。
僕が売られる、その日までに……、なんとか。
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