せっかく女の子に生まれ変わったんだから、僕はただ……お嬢さまを僕好みに育てるついでに愛でて撫で回して甘やかして楽しもうって思っただけなのに!

あずももも

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38話 ショタっ子との婚約という絶望(2回目、数ヶ月ぶり)の到来

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南半球がそれはそれはもうお美しいお形をされていらっしゃるシルヴィーさまが、すっと僕の前に来られて覗きあああああどたぷんってしたどたぷんってだけど今はそんな場合じゃない!

「あら。 今日も不摂生そうな目元をしているわねぇリラ」
「………………………………シルヴィー、さま…………」

ジュリーさまから……あなたはもう用済みよ、って感じのおことばをいただいてしまい、魂がすっぽ抜けた感じになっていた僕の上からシルヴィーさまの魔性なお胸とお声が降ってきた。

いつもはとっても嬉しいはずの魅惑の銀髪巨乳シルヴィーさまがお声をかけられて来つつ頭を撫でられつつぎゅっとしてくださるけど、今の僕はそれを楽しんでいる余裕がない。

うへへへへ、なんて思える余裕がないんだ。

柔らかいのに、いい匂いなのに、それを味わうことができないんだ。

なぜなら今の僕の頭の中はただひとつの問題でいっぱいいっぱいで、それ以上の情報を処理できていないからだ。

だって。

ジュリーさまが、なぜか突然に職務復帰宣言をされて、僕は用済みだとおっしゃられた。

お前はゴミだ、産業廃棄物だ、だから廃棄処分だ、とも。

なんで。

どうして。

……まずい。

まずはどうにかして、今すぐにジュリーさまのやる気を……そう、お出かけとかショッピングとかに誘導してお仕事の件を忘れられるようにして差し上げないと。

じゃないと、僕の天国が地獄へと。

ほら、頭を動かして考えるんだ、そしててきとーでもいいからとにかく口を開くんだ、そんで早くにお考えを改めさせるんだ、でないと、………………………………ふみゅ。

「……ほらもうっ。 ちょっとこっちに来て? そ。 んで座って――今からクマ隠すからじっとしていて頂戴? ……まったく、素材はとってもいいのにいつ見ても不健康そうでもったいないこと。 あら、髪の毛もろくに梳かしてないじゃないの」

「いえ、お気づかいなく」
「いつもは及第点だって言うのに、今朝は完全に落第よ。 ジュリーの妹だっていう意識、もっと持ちなさいな」

シルヴィーさまに抱えられていつの間にかお化粧台に乗せられて好き勝手されている僕を……ほんわかしたお顔で眺められているジュリーさまが鏡に映っていてそれはとてもとても嬉しいことなんだけど今はそれどころじゃないのに、絶えず話しかけてきたりするシルヴィーさまへお返事するので精いっぱいで考えがまとまらない。

ああ。

早く……早く。

ジュリーさまが、このお部屋を出て行かれてしまうのがタイムリミットだ。

なんとかして引き留めて、説得して、戻して差し上げないと。

じゃないと、僕は。

「ああそうそうリラ。 伝えたいことがあるのだけれども」
「…………………………あ。 何でしょうシルヴィーさま」

まずはまた例のお薬を今朝のお料理にでも……あ、ダメ、それはダメだ。

あれはあくまで精神的にも肉体的にも過労を越えていらっゃったからこそ緊急処置を施しただけであって、今それをしちゃったら僕の倫理規定を破ることになっちゃう。

人として、越えちゃいけないんだ。

じゃないとあの、……なんとかおっさんたちみたいになっちゃうんだ。

だから医療行為じゃないお薬はダメ、絶対。

あ、なんか前世思い出せそうな感じがいやでも今はそんな状態じゃないから集中集中。

……てなわけで、僕が取れる手段はかなり限られてくる……つまりは説得っていう話術しかないから、僕の限られた口元の表情筋、なんて呼ぶのかは知らないけど話し続けているうちに動かなくなっちゃう僕の口でなんとかしてお止めしなければならないってわけで。

でもでも、大変にやる気になっておられるジュリーさまを、しかもよりにもよって、きっとご相談したお相手でお味方になられてしまわれているシルヴィーさまをも同時に説得しなきゃっていう難事業が控えている。

だけど、ジュリーさまはけっこうに気分屋なところがあって、シルヴィーさまもまた、ノリで生きているギャルギャル成分が含まれておられるから、何かいい話題……ご興味を引くような話題を提供しなければ。

「あのね? ……ほら、でーきたっ。 下ばっかり見ていないで鏡を見て頂戴? リラ」
「はい。 ………………………………。 …………シルヴィーさま、この姿は」

ほんっとうにどうでもいいことだけど、いつの間にか僕はお化粧をされて何歳か年上に見える……JSからJCくらいには進化した顔になっていて、髪の毛は控えめなリボンとかでうまーく整えられて、これまたちょっと都会な感じのJCくらいな見た目になっている。

服装はあいかわらずだけど。例えるなら……お嬢さま学校(ドレスコードはふりふりな)にいそうな感じ?

知らないけど。

知ってたら絶対に行くけど。

これが他人だったら……見た目そのまんまな女の子だったらそりゃーもうなんとかしてお近づきになってひん剥きながら愛でたい姿なんだけど、残念ながらこれは僕ってわけで、完全に対象から除外される。

「いつもながら……お上手です、シルヴィーさま。 それであの」
「あのねリラ。 無断で悪いとは思ったけれど、あなたがいつか教えてくれたように思い立ったらすぐに動かなきゃっていうのを見習ってみたの。 それでさっき家に早馬を送ったから、きっといい返事が返ってくるでしょうけど」

シルヴィーさまに両肩をがっしりと握られて……ときどきここがまだ甘いわねとかおっしゃりながら枝毛を見つけるのに専念していらっしゃる……のに、会話の主導権を握られ続けていて。

だから、僕は耳をふさぐこともできず、シルヴィーさまのお口から飛び出してきたとんでも奇天烈なご提案を聞かざるを得なくって。

「あなたをね? ……ジュリーも賛成してくれたし、きっと行けるわ」
「あの」

「ぜひに。 ――――事情があってまだ相手が決まってない私の弟と。 婚約してみたらどうかって!」





…………………………………………………………………………………………。

へ?

え?

僕の耳がバグった?

それとも、とうとう頭が?

あるいは世界が、……なんてわけがないってのは僕の理性が理解しちゃってる。

ということは、今シルヴィーさまが……そーいや弟さんがいるのに政治的な理由でまだお相手がいないんだけどどうたらいいかしらとかおっしゃっていたのをあああなんでこんなときに思い出しちゃったんだそーいやジュリーさまに妹さまがいらっしゃればおふたりをくっつけられてジュリーさまとシルヴィーさまがもっともっと仲睦まじくなられるぜぐへへって思ってたのなんで今思い出しちゃったの!

どうせならもっと前に思い出して内々にご相談したりあるいはっ。

………………………………………………………………。

と、とにかく。

「………………………………まずはシルヴィーさま。 なに、ゆえに?」

そう。

シルヴィーさまだって、僕がおっさんズによってどんな過去を背負わされたのかっていうのは知っているはずだ。

だから、婚約だなんてそんなのはきっとなにかのまちがいで。

「ね! とても良い縁談でしょう、リラっ!」
「ジュリー……さま? え?」

なんでこんなときにジュリーさまが参戦なさるのか。

しかも、ふんす、って息巻いていらっしゃってああああああああかわいらしい自信満々でやる気に満ちあふれていてそれでそれで魅力が何十倍にもなられているお嬢さまがああああああ!!!

………………………………………………………………ふぅ。

あ、そーいやふたりで相談されたっておっしゃってたな、そーいや。

………………………………。

待て待て。

ってこと、は。

「……リラが辛い思いをしてきたというのは、あの事件を担当した私がよーく知っていますし、それもシルヴィーに伝えてあります。 けれど、……シルヴィーの弟さまはまだ8歳。 実際の婚姻はまだまだ先の話ですので、リラの心の傷が癒えるまでには充分な時間がありますわっ」
「あの、いえ」

すっごくわくわくされている感じのテンションアゲアゲなジュリーさまを昨日今日と拝謁できて大変に嬉しい限りなんですけど、それは。

「……そうですね、リラの歳のことを考えたら3、4年後。 大丈夫です、リラの見た目のおかげで20になっていても陰口はきっと叩かれませんわっ……ですので、リラがもう少しだけ大人びてきて、シルヴィーの弟さまが12ほどになって。 ずいぶんな年の差ではありますけれど、リラと同じように物静かで人が大好きな性格と聞きますし。 ね、ぴったりではありませんかっ!?」

「待ってくださいジュリーさま、僕は」
「それに。 リラが将来遠くのお家にではなく、馬車で数日のシルヴィーのところへ嫁ぐのであれば、王宮からでもやはり数日の距離ですし、会いたいときにはいつでも会えますわっ。 それにそれにっ、それならば、リラがよくお父さまに言っているように、まだ結婚には早すぎる……というのもこれからの成長で解決できて、あの事件の醜聞が、というのもきっと忘れられてきた頃でしょうからこれも問題無くて。 ……ねえ、これはものすごくいい思いつきではないでしょうかっ!?」

「あの、それはまさか」
「ええっ! 私の思いつきですっ!」
「私も一緒だったけれどね――……」

………………………………。

大変にかわいらしい。

かわいらしいのに……今の僕には、そんなジュリーさまを堪能できる余裕が、まったくにない。

「あの、おふたりとも」
「とにかく! ジュリーのこれ、誰にとってもいい考えでしょう? 今ならともかく、……ええ、私の弟の婚約については、あくまで決まっていないけれども内々に正妻は決まりそうだから、それ以後の方は側室で、でごまかしておけるのだし、そのあいだにジュリーとリラが一緒にいる姿を見せ続けていれば、数年あればほんものの姉妹だと認識してくれる人も増えるはずだもの。 あと、隅っことか人の膝の上が好きなリラなら、きっとうちの弟ともお似合いだし」

「おっふ」

まずい。

恋愛スイッチが入ってしまわれている乙女には勝てない。

それも、おふたりともだ。

だからこそこんだけまくし立てるようにしてきゃいきゃいと大変にゆりんゆりんな感じにお手々を握り合ったりしておはなしされているんだけど、だからこそ僕が口を挟み込めないんだ。

だからこうして、気がついたらぼーっとひとりで化粧台の僕の向こうのおふたりを眺めているしかないのを発見した次第だ。

いい回避方法や屁理屈を思いつくヒマもなくって、聞きながら考える逃げ道も息を吸うたびに次々とふさがれていっている。

……なまじ寝坊しちゃったもんだから、あと昨日の疲れも残っているもんだから、今の僕の体も頭は体内時計が文句言ってる感じってわけで、だから頭が回らない。

いつもみたいに、でも、っていいわけが、浮かんでこない。

「…………………………………………………………………………………………」

とうとうにフリーズしちゃった僕を、納得したからとかそんな風に思っておられるのか、お嬢さま方は僕とショタっ子、もといシルヴィーさまの弟さまとの結婚を前提としたおはなしに花を、百合の花を咲かせている。

「……あ、忘れるところでしたわ。 これが本題でしたのに」

本題?

え?

どゆこと?

僕にとってとんでもない難題が積み上がっているっていうのに、これがまだ前哨戦ですと?

………………………………。

なら、本題ってのは、いったい。

「先ほど言ったように、私はもう大丈夫。 そしてリラは、昼間に倒れるほどに疲れきっている生活を、ずっと続けています。 ですから、――――――――――――――リラには。 今度は私の代わりに休養してもらうことに、なったのですわっ。 少なくとも、私がリラにお世話をして貰った以上の期間は、とねっ」

と。

ジュリーさまは、今度こそ。

決定的な……僕を真っ白にするようなことをおっしゃられた。

………………………………。

とうとう。

とうとう、僕はジュリーさまに捨てられるんだと。

ああ。

ああああああ………………………………。

世界が、ぐにゃりと歪んでいく感覚がする。

僕は、とうとうに終わりを迎えるのか。
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