39 / 41
39話 僕は、いったい、なにを、どこで、どうして、まちがえたのか
しおりを挟む………………………………。
はっ。
危ない危ない、うっかり川的なところの向こう岸に死んじゃった今世の家族とか周りの人たちがいて、久しぶりーって船で渡りかけたとこで、あ、これ三途の川じゃん、なんでこんなときだけ前世仕様なの?――って思った途端に世界の終わりから帰ってこられた様子。
けども。
ショック死寸前で蘇ったけれども。
……僕が、シルヴィーさまのショタっ子さまもとい弟さまと婚約っていうのはともかく、それはまだぎりぎり決まってはいないみたいだから……両家のお父さま方を巻き込んでいないから、まだ挽回できるとして。
ジュリーさまのお仕事とかお世話の大半を取り上げられちゃうのもまた、なんとかできそうだって思ってたけど。
僕が、お嬢さまの代わりに休養することに…………………………、なっ、た?
………………………………。
え?
なった、って。
え、ちょっと待って。
待ってください。
それが確定事項のようになぜおっしゃるのですかジュリーさま、それはまるで。
「あの、……へ?」
「だって今朝に……お父さまや使用人の方たちから聞いたのですけれども。 リラは、みなさまが。 私にだけは、と、秘密にするようにとあなたが頼んでいたために知ることができなかったのですけれど、あなたが何度も倒れたり、他の方々が心配なさるほどの生活を続けてきたのでしょう? ……ですから、しばらくおやすみ、ですわ。 当然ですよね? それはかつて、リラ……あなたが私をお仕事から引き剥がすために使った文句なのですから。 体に異変が出るほどに働いては、近い内に心と体を壊してしまいます――そう、言ってくれたからこそ。 そして、これだけ休んだからこそ、私は快復したのですから」
………………………………。
ああ。
ああああ……。
お嬢さまが、かつての僕のあのときのを、忘れきってるって思っていたそれを、今度は僕に使ってこられている。
まずい。
ひっじょーにまずい。
なにがまずいかって、それでいちどジュリーさまをおやすみさせた結果としてお嬢さまが健康になられたという前科……じゃない、実績がある。
だから、それをお父さまたちに言われちゃったら、覆すのがとっても難しいんだ。
そりゃーもー、理屈としてはこれ以上なく。
どやんってお顔していらっしゃるジュリーさまの思っていらっしゃるとおりに。
かわいすぎる。
どうしよ。
じゃない。
やばいんだ、この状況。
どうしよ。
………………………………。
……なんで、外堀が。
こんなにも……たかが寝坊しただけでこれだけ一気に埋まっているんだ。
たったいちどの失敗とも言えない過ちで。
しかも、今ので内堀までとか。
やばい。
「そうですわ。 リラも私の妹だと、家の娘だと……公爵令嬢だと、お父さまもお母さまも、使用人の方たちも領の方たちも。 そして、もうリラを知る大半の方たちも承知しているのだから。 ですからリラには執事や使用人ではなく、公爵令嬢たる私の妹として相応しい程度のお仕事に留めてもらって、もっと私と一緒に令嬢として活躍してもらわなければなりませんわっ。 もちろん、当分は体を治すのに専念して、ですけれど、ね? 最低でも……季節が反対になるころまでは、ずっと、です」
「あの」
「……と言うことは、ジュリー? リラにもこれからは……宙ぶらりんだった立場がしっかりしたのだから、正式な世話役を付けて。 もちろん、こうして仕事をし過ぎないようにってお目付役も付けてもらって? んで、お料理も……もうとっくに料理長が献立を覚えているのだから、リラ自身が厨房で毎日指揮を執ることもなくなって? それで、料理は……あなたたちと一緒に、必ず食べなければならないというわけよね?」
あの、ちょっと、シルヴィーさま?
あなたはなぜ次々と僕の退路を断つようなご提案をされるのですか。
やめて。
後ろから追い打ちを……背中を撃たないでください。
僕はもうずたぼろです。
だって僕は、お嬢さまのお世話だけが生きがいで。
「そうですっ! リラは、私のためにと頑なに妹として扱われることを拒んで使用人として扱うようにと言っていましたが、それもはう……私の妹となったからには通用しない言い分ですわっ。 ついつい、私の治療で忘れてしまっていましたけれども、もう、いい加減に妹として扱いますっ。 妹は姉の言うことをきちんと聞くべきなのですよ? たとえそれが同い年の……双子のような存在でも、ですっ」
僕が、あれこれと対策を考えるも……まるで僕の頭の中を覗いているかのように次々と先手を打ってこられるシルヴィーさまによって封じられていって。
ことごとく失敗したもんだから……考えすぎた頭がぼーっとしてきて。
気がついたら、僕は蚊帳の外。
あ、いや、それはいつもどおりのことなんだけど、そうじゃなくて。
計画した仲間はずれじゃなくて、事態が僕の手から離れたゆえののけもの。
百合の園を見るためのREC的な離れ方じゃなくって、僕が完全に主導権を喪失したがゆえのお外で。
………………………………。
一匹狼には、とっくに慣れている。
だって、僕には違う世界の記憶があるんだから。
だって、僕には男だって言う意識があるんだから。
だけど。
……だけど。
せっかく手に入れていたはずの理想郷が、たったのひと晩にして消えるなんて。
そんなの、認められない。
認められるか。
………………………………なんで。
僕は、いったい、なにを、どこで、どうして、まちがえたのか。
僕が眠りこけちゃった夜に、いったいなにが。
僕が昨日寝落ちしちゃって、そんで、今朝に寝坊しちゃったばっかりに。
たった、それだけで。
どうして……早く起きさえしていれば、お嬢さまたちの思いつきをインターセプトできた、はずだったのに。
どうして……こんなにもタイミング悪く、ジュリーさまの覚醒とシルヴィーさまっていうお友だちと、ジュリーさまのお父さまとかの……なんやかんやが。
なんやかんやが、こんなにもぴったりと……僕の寝坊と合っちゃっているのか。
これはよくない。
ものすごく、非常に、このうえなく、よくない。
やばい。
……天使たる女神ジュリーさまを愛でるっていう僕の望んでいたようなすばらしき世界が、マイベストニューライフワークが、みーんな取り上げられて。
ジュリーさまのお父さまからいただいていた権利で、許可さえもらえれば自由にお貴族さまたちの勢力関係とか人間関係を裏から操るっていう楽しみも、公爵家のお金を使ってお金を増やすっていう壮大な楽しみも。
そしてそしてなによりも、ジュリーさまの寝起きのぽやんとされたお顔を眺めつつお召し物をはぎ取りおはだかにして存分に眺めてその日のベストなお召し物をパンツからきっちりフィットするようにってさわさわしつつひとつひとつ大切に着飾っていって、1日中ずぅっと侍らせていただいてもちろんほとんどの時間は体のどっかをくっつけていられるっていうまさに極楽で嬉しくってジュリーさまのお食事の面倒も見て好きなものを出したときのあの嬉しそうなお顔を眺めて過ごして、お昼寝もご一緒してもちろん僕はぜんぜん眠たくならないから存分にジュリーさまの寝息と吐息と寝言と寝顔と上下されるお胸とおなかとそれとなーくさすりさすりする感触と抱きついてそれを全身で感じるしあわせと、夕方になると夏場には2回でふだんは1回だけだからものすごーく悲しいけど至高のおふろタイムで目の保養になってしかもしかもおからだをすみずみまでこの手のひらでくまなく洗うついでにマッサージしてさわさわさわさわしていいお声で耳が嬉しくなって手も嬉しくて僕のすべてが喜びというものを叫んでいて、お夕飯と一緒のお酒で嬉しそうにされて抱きついてこられて甘えんぼになられるジュリーさまがとってもとってもかわいらしくって毎回萌え死にしそうになって、んで寝る前にももっかいひん剥いてお着替えをして、ぐっすりすやすやされるまでしっかりと一緒に布団に入って抱きつかれたままで嬉しくって。
なのに。
だったのに。
そんな生活が、ずっと続いてたのに。
その……ぜーんぶ。
僕がただの妹って身分に落ちちゃったら絶対にできないような、そんな夢幻のような、つい昨日まで堪能していた生活が、ジュリーさまのスレンダーポディっていう女体を存分に味わっていたこの生活が。
奪われて。
それも、たったのいちどの過ちで。
そのうえ、そのうえ……ジュリーさまが、やる気になってしまわれた。
このまま、まだまだ休養が必要だって言っていたからこそだるーんとJKさまらしくきゃっきゃうふふな毎日を堪能されていらっしゃったのに、それが、前みたいにきりっとしてしまわれた。
……これじゃ、僕が女神さまを愛でる機会が減るどころか絶滅しちゃう。
それは僕の精神上、このうえない危機だ。
どんだけかっていうと、家族や周りの人たちが死んじゃったときとか、黒・新おっさんコンビに打ちのめされていたあのときをも上回るやも知れぬレベルだ。
つまりは………………………………今世の僕の人生で、最大の危機ってことだ。
魂が焦げ付く感覚。
………………………………。
しかも、……しかも、だ。
ここにおじゃましてからはおっさんズのおかげで結婚の話は避けられていたのに、よりによって僕とも親しくさせていただいているシルヴィーさまと、そのシルヴィーさまの大親友であらせられるジュリーさまたってのご提案の縁談だ。
僕が、寝過ごしたわずかな時間で、勝手に話が進んでいて。
しかも、シルヴィーさまっていう……お断りする理由が、もーシルヴィーさまの弟さまが、ど――――――――してもムリムリってレベルじゃないと、逃げられないお相手だ。
つまりは、……詰んでいる。
詰んだ。
僕は、もう、終わりなのか。
……いつの間にかへたり込んでいたらしく、そんでもっていつの間にかベッドに座らせられていたらしく、僕はジュリーさまとシルヴィーさまの香りとぬくもりがかすかに残る……けどもそれを堪能する余裕さえない状態で、今世でかわいいって言われるためにクセにした女の子座りをぺたんとしていて、両手はジュリーさまが使っていたと確信できる枕に乗っている。
そのまま、ぱふっとそのお枕に倒れ込んで、顔をうずめ、深呼吸する。
…………………………………………………………………………………………。
…………………………………………………………………………………………。
…………………………………………………………………………………………。
……香しい。
五臓六腑にしみわたる、ジュリーさまの一部だったもの。
それが僕の一部となって、そして………………………………。
よし。
復活。
復活だ。
やっぱり僕は、ジュリーさまを愛でなければならぬ。
それが運命なんだから。
だからこそ、どうにかしてがんばれば……きっと、元に戻るはずだ。
だって、これを取り上げられるなんていうのは理不尽なんだから。
そう、きっと覆すことができる事象のはずだ。
だから、………………………………まだだ。
まだ、僕は終わらせるわけにはいかないんだ。
この状況からでも、探せば方法はきっとあるはず。
だから僕は、早くそれを見つけ出して手を打って。
そして。
僕はジュリーさまを。
女神ジュリーお嬢さまを、これからももっともっと愛でるんだ。
だって、あんまりじゃないか。
だって、せっかくに。
せっかくだ。
同性ゆえに好き放題できる身分になって、理想で至高のお方ジュリーさまがお側にいらっしゃるのに。
こんなのって、あんまりだ。
だって、僕は、大した野望なんて持っていない。
ものすごく個人的な、ささいな願いのために生きたいだけなんだから。
そう………………………………せっかく女の子に生まれ変わったんだから、僕はただ……お嬢さまを僕好みに育てるついでに愛でて撫で回して甘やかして楽しもうって思っただけなんだからっ!
1
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる