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5章 女装して国の裏を堕とした
73話 あっさり誘拐される僕
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「………………………………」
かつん、かつん。
寂しい通りに、小さな靴の音が響き渡る。
「……う、うぅ……怖いよぉ……」
小さな少女は――町娘の服装に身を包み、腕には頼まれたと見えるおつかいのバスケットを重そうに下げ、きょろきょろと横を後ろを振り返りつつ、小股で家へと急いでいる。
「おかあさぁん……」
かつん、かつん。
日差しを防ぐためだろう、頭に被った頭巾を目深に――かすかに真っ白な髪が覗く彼女は、まだ子供だ。
幸いにしてこの町は、この世界基準では相当に治安が良い。
犯罪者は少なく、居てもすぐに衛兵かギルドの依頼で捕まる。
路地裏の孤児たちも、さすがにおつかいを終えた後だろう同世代の少女から巻き上げるようなことはしない。
だが――それでも、人目の少ない通りでは。
かつん、かつん。
――こつん、こつん。
「ひっ……!」
かつんかつんかつん。
こつんこつんこつん。
後方からの重い足音に怯えた様子の彼女が小走りになると、同じペースになった足音が近づいてくる。
「はっ、はっ……だ、だれか……!」
少女は――恐怖からかバスケットを投げ捨てて必死に大通りへと急ぎ始める。
だが、それは遅かった。
「きゃ――――」
「殺されたくなかったら静かにしろ。……その綺麗な顔が、うっかり台無しになるかもしれないからな」
「っ……!」
がばっ、と後ろから羽交い締めにされた彼女は――頬に当てられた刃物に、体を固くする。
「おとなしく、言うことを聞いていれば痛い目を見ることはない。ただちょっとばかり――『ご奉仕』をしてもらうだけだ」
――夕方。
家路を急ぐ人々が覗くこともない、狭い通り。
そこには――果物の詰まったバスケットと、こぼれ落ちたリンゴが転がっていた。
◇
うわ、本当に誘拐されたよ。
脱力して降参したように見せかけている僕は、男の片腕に……まるで抱っこされる犬みたいな感じでおとなしくぶら下がっている。
というか今の、本当にやり慣れてたよなぁ。
完全に違和感なくさらわれたもん……人攫いって怖い。
――囮捜査。
デイジーさんはなんかよく分からない表現で言ってたけども、簡単に言えばこういうことだ。
魔力の塊であり、その気になれば訓練した衛兵1000人でも傷1つ着けられない戦闘力を備える貴族。
さすがに子供だし、まだGランクだからせいぜいが数人相手でも、身の危険があれば自衛して脱出くらいはできると見込まれた僕は、つまりは悪徳貴族の足元に潜入しろという依頼を受けた。
「嫌ならモブ子ズとルーシーちゃんを呼びだして説得してもらいますけど」とか、わりと容赦の無い美人さんだった。
ちなみに服装はというと、勢いに頷かされた僕を今みたいにひっつかんだデイジーさんによりシュートされた服屋さんでのご提供(レンタル)。
普段着にしてたエミリーちゃんの服は平民基準ではお嬢様な格好だったらしく、ごわごわした厚手の生地で作られた地味なワンピースにお着替えさせられた。
……それを見てデイジーさんがもっとおかしくなってたけど、あの人、もしや相当に残念な人……?
だもんだから、今の僕はどこからどう見ても――砂を刷り込んで銀ではなくなっているにしても真っ白な白髪と、一応でちょっと薄汚れた感じにした顔とで「裕福な平民の娘」って感じになってるらしい。
まぁそれでもよく見られたら紫の毛並みが目立っちゃうけども、そこはほら、こう……父さんとかご先祖の誰かがお手つきしたって証ってことで。
大丈夫、貴族の血を引いてるからといっても全員が全員魔力あるわけじゃないし、魔力だって鍛えないと戦い方すら分からないんだから侮ってくれるはず。
「……首尾はどうだ」
「ダメだ、ユリア様とやらはすでに町を出たらしい」
「その娘は?」
ざっ。
足音と声から察するに――僕は現在ドナドナされる犬っころみたいにしてるから足元しか見えない――3人4人の男たちが合流してきた様子。
仲間か……そりゃあ居るよな、組織的な誘拐だもん。
見た目は――足元だけだけど、ごく普通の町の人。
ああそりゃあ捕まらないわ、普通の人っぽいもん。
「代わりにはならないだろうが、1人だったから捕まえた。同じ白髪だし綺麗な顔だが、ただの小娘のようだ。物わかりが良いようで、この通りだ」
「へぇ……上級市民の娘ってところか」
「護衛も居なかったし、本格的な捜査までには時間がかかるだろう」
慣れてるぅ。
……つまり、初手で王手ってことだな。
「そのおかげでこっちは被害もなく新入りを手に入れられたんだ、これで満足していただこう。目的のお嬢様ほどではないにしろ整っているしな」
「聞いた話だとユリア様とやらは初等ランクでもかなり魔力に自信があるようだったから、正直助かった。まったく、モルテール様も無茶を言う」
――モルテール。
それが名前か。
「だが、スラム街の方でその少女らしき姿があったという報告が」
「何かの間違いだろう。今朝方にパーティーを解散していた様子をギルドハウスで見たやつがいる。なんでも、今日町を出るとか――もう出ているんだろう」
お、今朝のリラちゃんによる急な方針転換のおかげでいい具合に僕の情報がかき乱されている。
……っていうかなんで僕?
そんなに目立ってたかなぁ……今朝まで。
目立ってたか。
そりゃそうだ。
「ならさっさと帰るか。その娘を洗って着飾らないと俺たちが叱られる」
「目的のユリア様を楽しめない分、この子で満足してもらわないとな」
うーん……しかしゲスい会話。
救いがあるとすれば、こいつらは別に幼女趣味とか少女趣味がなさそうってことくらいだし。
さて。
悪の親玉の隠れ家へ案内してもらおうかな……抱えられたままで。
かつん、かつん。
寂しい通りに、小さな靴の音が響き渡る。
「……う、うぅ……怖いよぉ……」
小さな少女は――町娘の服装に身を包み、腕には頼まれたと見えるおつかいのバスケットを重そうに下げ、きょろきょろと横を後ろを振り返りつつ、小股で家へと急いでいる。
「おかあさぁん……」
かつん、かつん。
日差しを防ぐためだろう、頭に被った頭巾を目深に――かすかに真っ白な髪が覗く彼女は、まだ子供だ。
幸いにしてこの町は、この世界基準では相当に治安が良い。
犯罪者は少なく、居てもすぐに衛兵かギルドの依頼で捕まる。
路地裏の孤児たちも、さすがにおつかいを終えた後だろう同世代の少女から巻き上げるようなことはしない。
だが――それでも、人目の少ない通りでは。
かつん、かつん。
――こつん、こつん。
「ひっ……!」
かつんかつんかつん。
こつんこつんこつん。
後方からの重い足音に怯えた様子の彼女が小走りになると、同じペースになった足音が近づいてくる。
「はっ、はっ……だ、だれか……!」
少女は――恐怖からかバスケットを投げ捨てて必死に大通りへと急ぎ始める。
だが、それは遅かった。
「きゃ――――」
「殺されたくなかったら静かにしろ。……その綺麗な顔が、うっかり台無しになるかもしれないからな」
「っ……!」
がばっ、と後ろから羽交い締めにされた彼女は――頬に当てられた刃物に、体を固くする。
「おとなしく、言うことを聞いていれば痛い目を見ることはない。ただちょっとばかり――『ご奉仕』をしてもらうだけだ」
――夕方。
家路を急ぐ人々が覗くこともない、狭い通り。
そこには――果物の詰まったバスケットと、こぼれ落ちたリンゴが転がっていた。
◇
うわ、本当に誘拐されたよ。
脱力して降参したように見せかけている僕は、男の片腕に……まるで抱っこされる犬みたいな感じでおとなしくぶら下がっている。
というか今の、本当にやり慣れてたよなぁ。
完全に違和感なくさらわれたもん……人攫いって怖い。
――囮捜査。
デイジーさんはなんかよく分からない表現で言ってたけども、簡単に言えばこういうことだ。
魔力の塊であり、その気になれば訓練した衛兵1000人でも傷1つ着けられない戦闘力を備える貴族。
さすがに子供だし、まだGランクだからせいぜいが数人相手でも、身の危険があれば自衛して脱出くらいはできると見込まれた僕は、つまりは悪徳貴族の足元に潜入しろという依頼を受けた。
「嫌ならモブ子ズとルーシーちゃんを呼びだして説得してもらいますけど」とか、わりと容赦の無い美人さんだった。
ちなみに服装はというと、勢いに頷かされた僕を今みたいにひっつかんだデイジーさんによりシュートされた服屋さんでのご提供(レンタル)。
普段着にしてたエミリーちゃんの服は平民基準ではお嬢様な格好だったらしく、ごわごわした厚手の生地で作られた地味なワンピースにお着替えさせられた。
……それを見てデイジーさんがもっとおかしくなってたけど、あの人、もしや相当に残念な人……?
だもんだから、今の僕はどこからどう見ても――砂を刷り込んで銀ではなくなっているにしても真っ白な白髪と、一応でちょっと薄汚れた感じにした顔とで「裕福な平民の娘」って感じになってるらしい。
まぁそれでもよく見られたら紫の毛並みが目立っちゃうけども、そこはほら、こう……父さんとかご先祖の誰かがお手つきしたって証ってことで。
大丈夫、貴族の血を引いてるからといっても全員が全員魔力あるわけじゃないし、魔力だって鍛えないと戦い方すら分からないんだから侮ってくれるはず。
「……首尾はどうだ」
「ダメだ、ユリア様とやらはすでに町を出たらしい」
「その娘は?」
ざっ。
足音と声から察するに――僕は現在ドナドナされる犬っころみたいにしてるから足元しか見えない――3人4人の男たちが合流してきた様子。
仲間か……そりゃあ居るよな、組織的な誘拐だもん。
見た目は――足元だけだけど、ごく普通の町の人。
ああそりゃあ捕まらないわ、普通の人っぽいもん。
「代わりにはならないだろうが、1人だったから捕まえた。同じ白髪だし綺麗な顔だが、ただの小娘のようだ。物わかりが良いようで、この通りだ」
「へぇ……上級市民の娘ってところか」
「護衛も居なかったし、本格的な捜査までには時間がかかるだろう」
慣れてるぅ。
……つまり、初手で王手ってことだな。
「そのおかげでこっちは被害もなく新入りを手に入れられたんだ、これで満足していただこう。目的のお嬢様ほどではないにしろ整っているしな」
「聞いた話だとユリア様とやらは初等ランクでもかなり魔力に自信があるようだったから、正直助かった。まったく、モルテール様も無茶を言う」
――モルテール。
それが名前か。
「だが、スラム街の方でその少女らしき姿があったという報告が」
「何かの間違いだろう。今朝方にパーティーを解散していた様子をギルドハウスで見たやつがいる。なんでも、今日町を出るとか――もう出ているんだろう」
お、今朝のリラちゃんによる急な方針転換のおかげでいい具合に僕の情報がかき乱されている。
……っていうかなんで僕?
そんなに目立ってたかなぁ……今朝まで。
目立ってたか。
そりゃそうだ。
「ならさっさと帰るか。その娘を洗って着飾らないと俺たちが叱られる」
「目的のユリア様を楽しめない分、この子で満足してもらわないとな」
うーん……しかしゲスい会話。
救いがあるとすれば、こいつらは別に幼女趣味とか少女趣味がなさそうってことくらいだし。
さて。
悪の親玉の隠れ家へ案内してもらおうかな……抱えられたままで。
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