女ばかりの世界に迷い込んだ俺と、そんな世界へ「異世界TS転生」をしていたあいつと

あずももも

文字の大きさ
14 / 40

13話 葛藤

しおりを挟む
榎本直人くん:巻き込まれ主人公。

榎本美奈子ちゃん:直人くんのお母さん……を10歳くらい若くした感じのショートカットで目つきの鋭い先生。

ローズマリー・ジャーヴィスちゃん:きんぱつでボディラインを隠しきれない、おっとりして明るい先生。

須川ひなたちゃん:小……中学生にしか見えないくりくりしたおめめで髪の毛が長い子。

野乃早咲ちゃん:男装している?女?の子。背は男子の平均な直人くんと同じくらい、髪の毛は肩に掛かるくらい。顔つきは中性的で穏やかな子。

綾小路晴代ちゃん ザ・和服美人(普段は制服ですが)でお淑やか。 髪の毛がものすごく長い子。ひとつひとつの動作がていねい。 早咲ちゃんがおっとり系女子なら晴代ちゃんは清楚系女子。

御園沙映ちゃん 活発……過ぎる女の子。いい子なのですが、仲のいいお兄さんがいることもあって遠慮無くぐいぐい来ます。 ある意味気兼ねなく、前の世界のようにおはなしできる子。肩までのふわふわな髪の毛。





………………………………あれからしばらく考えてみた。

幸いに俺がひとりになりたいって言えば放課後は帰宅部ができたし、なんならダラダラ菓子を食べながら適当なドラマでも観てぼーっとする時間も充分にあった。

だから、こうしてだらしない格好でテレビを観ながら菓子を食ってごろごろしている俺だけど、頭の中じゃ理解しているんだ。

ここにいて、俺を好きだって気持ちを隠そうともしない女子たちは、みんなかわいくて、金持ち……名家、それもいろんな国からの、ってやつの子で、優しくて、俺が引かない程度に積極的で、誰かひとりを選ばなきゃならないどころかむしろ気に入ればどんどんハーレムしろってなっているし。

こうして挙げてみるとどんだけ都合がいいんだって思うけど、実際にそうなんだからしょうがないよな。

ああ、しょうがない。

……やはりここは天国。

男の俺にとっての楽園だ。

そのはずなんだ。

………………………………。

だけど。

なんとなく、分かるんだ。

俺はもう、あっちに戻ることはできない。

仮に戻るとしても、それはきっと……ここに来たときのように、気がつかない内に戻っていて。

戻ったらきっと、母さんにどこ行っていたって引っ叩かれる程度。

そうしてここでの全ては夢だったってことで終わって、遅れた勉強やらなんやらで終われる、これまでの日々が続くんだろう。

だから、それまではここを満喫するしかないし、周りのすべての人もそれを望んでいる。

……俺だって健全な男子高校生なんだ、だったらこの妄想みたいな世界、――――――ええと、世界の人口が10億人、その中で男はたったの500万人、そのうち小学生以下と枯れた年寄りを除けば……つまりは生殖可能年齢って部分だけなら、たったの100万だったか? ……多少は間違えて覚えているかもしれないけど、大体そんな感じなんだ。

さらにさらに、この国ではたしか2、3万人しかいないらしい「生殖可能な男」っていう、ただ生きているだけでもありがたがられる存在のうちの新しいひとりとして、夢としか思えない生活が待っているんだ。

そう、俺が望むなら、スマホで連絡を取って……あのふたりと、すぐにでも思い通りのことをさせてもらえるくらいの。

勢いで、あのクラスの8割の女子みんなをこの部屋に呼んで……好きなことをしても、怒られるどころか感謝されるくらいの。

………………………………………………………………………………………………。

最高じゃ、ないか。

だったらもう、ハーレム天国な世界、満喫するしかないじゃないか。

なぁ?

………………………………。

………………………………………………………………………………………………。

………………………………………………………………………………………………。

――――――――――――――――――――なんて思うだなんて、あり得ない。

そんなこと考えてすぐに順応できるヤツは、よっぽどに頭お花畑なヤツか、下半身の欲望に忠実過ぎるヤツか、なにからなにまでお膳立てされてかわいがられても嬉しく感じられるネジの吹っ飛んだヤツか、それとも何か、ヒモになって日がな一日遊ぶ人生でも平気なメンタルを持ったヤツか。

さもなくば、これのぜんぶを兼ね備えた究極のバカしかいない。

そんな完全なるバカじゃなきゃ、こんな状況……手放しに喜べるはずが無いんだ。

できれば俺もそんなバカでありたかった。

こういうときにだけムダに常識が邪魔するんだからな。

……だって、そうだろ?

気分が沈みそうになるときにはあえてさっきみたいに煩悩に頼ってはみるけど、それでもやっぱりキツい。

たぶん頼めば……というか酒が入った冷蔵庫が用意されている時点で、この世界の成人にはとっくになっているわけで、だとするとなんにも考えなくてもよくなるっていうアルコールに頼ることもできる。

そのアルコールの勢いっていうものに頼って、理性を飛ばして……ってことができるはず。

酒池肉林、酒を浴びながら何も考えず、うまい料理を毎日楽しみ、よりどりみどりの女子たちに囲まれて勉強も就職もせずに、俺の「この世界の男としての義務」という理想郷を楽しむことだってできるんだ。

………………………………だけど、それが解決になっていないっていうのにも気がつける程度には、俺は正気だ。

どっかで聞いたことがあるように、周りが女だらけっていう環境は……夢見がちだし実際にこの夢のような世界でもそうだろうけど、キツいらしい。

男の、精神的に。

幸いにして、ここではマイナスの感情に巻き込まれるどころかまぶしすぎるプラスの感情で困っているっていう、きっと贅沢な悩みではあるんだろうけど……それにしたって、周りがほぼ女で男は見かけないっていうのが当たり前な状況がずっと続くっていうのは、つらい。

ニュースで目にしたことがあるような共学になったばっかりの元女子校とかとは違って、ここには……先生ですら男はいない。

もちろん用務員さんたちも全員女。

数少ない男子生徒も、あくまで在籍しているだけという建前だという。

だから当然にして、できるだけ人目を避けるようにとはされているけど、それでも他のクラスの女子と廊下をすれ違ったりすることはあるし……品定めされるように、じっと、立ち止まられて見られるんだ。

それは、このクラスの女子たちも同じ。

控えめか大胆かっていう違いしか無い。

もちろん、俺が恋愛とかに積極的じゃない性格っていうのも、女性に慣れていないっていうのもあるんだろうけど、それにしたって……出会って数日の女子たちから痛いほどの恋愛感情でさえない憧れの気持ちや珍しさ……そして、自分の将来、結婚相手が男だっていうステータスと……こどもが欲しいっていう無言の視線を感じて、嬉しい気持ちになれるはずがないんだ。

俺は、それで喜べるバカじゃないからな。

そんて喜べる大バカだったらどんなによかったか……きっと、今ごろはもう何人も囲って、こうしてひとり寂しく過ごすんじゃなく、なんにも考えずに囲まれているんだろう。

酒池肉林をして。

けど、…………………………あの子たちが見ているのは、「俺自身」じゃないから。

俺っていう、特殊な事情でまだたったふたりのお嫁さん……それもまだ婚約者しかいないっていう男。

男性という生きものの、下半身だけなんだから。





分かってはいる。

何度も何度も考えたんだから。

この状況が正反対になって、男が多くて女が少なく、それで俺はその男の中のひとりで、さらに突然クラスに相手がふたりしかいない女子が入って来たら……俺だって、きっと、同じような視線を向けるだろうってことに。

だからしょうがないことなんだし、美奈子さんたちに守ってもらえているこの状況はずっといいものなんだっていうことにも。

……ああ、うだうだ考える俺自身が情けない。

けど、こういう性格じゃなきゃとっくに元の世界でもいくらかは女慣れしていたわけで。

………………………………品定めされる方っていうのはキツいんだな。

何がキツいって、視線がキツい。

晴代さんと沙映でさえ……美奈子さんが選んだだけあってそういうのはほとんどないけど、それでも俺のことは、きっと「男という生きもの」っていうカテゴリーの中の「相手がいないっていうものすごく珍しい生きもの」でしかないだろう。

ああ、いや、あの沙映はどうか知らないけど、でも、たぶん。

押しが強くない、それだけでもありがたいことではあるし、さりげなく守ってくれているからありがたく思わなきゃなんだろうけど。

……だけど、こういうのを感じて今日みたいに参っているときに癒しになるのが、視線が合う女子のみんながみんなそうだってわけじゃないってことだ。

それだけが、唯一の救いだろう。

――ひとりめは、俺を見つけてくれた恩人……変な輩とやらに連れて行かれる前に起こしてくれて美奈子さんたちを呼んでくれたひなたさん。

あのちびっ子、……いや、背が低いからこそ倒れている俺を見つけられたのかもしれないしな。

ああ、どうしてあの日、あの時間にあの校庭に出てきて俺を見つけられたのか、聞くのを忘れていたな。

とにかく、今でも変わらずに中学生……下手をしたら小学生にしか見えないけど、それが逆に俺を安心させてくれる。

基本的にひとりでいるところを見かけることはなくって、だいたいは早咲さんや他の女子たちと一緒……というか子守をされている感じだ。

で。

もちろん、ものすごくこどもっぽいっていうのもあるんだけど、それ以上に安心できる情報がある。

なんと……あの見た目と中身ですでにお相手がいるらしいって、軽いノリで聞かされたときには本気でびっくりしたし、この世界の常識が違うんだって改めて実感させられた。

ま、まあ、この世界で16にもなれば相手がいるならいる、いないなら恐らくずっと独り身、あるいはそうでなくても女性同士でくっつくっていう流れらしいしな。

女性同士でこどもが産まれる世界なんだ、当然の流れなんだろう。

女性ひとりで産んで育てるっていうのも多いそうだしな。

………………………………ひなたさん、どう見てもこどもなのにな。

っていうのは、俺の世界の価値観のせいなんだろうな。

だって、13とかでもう……その、するっていうのが当たり前の価値観なんだもんな。

それこそ、大昔にタイムスリップしたかのように。

俺にその気は無いけど、男の、俺の世界の男たちの価値観で考えてみると……肉食獣ばかりなところに明らかな子鹿がいれば、そりゃ気にはなるんだろうし、相手にもしたくなる。

だから、女子であってもひなたさんみたいな子は人気があるだろうな。

……こんな憶測はどうでもいいけど、おかげでひなたさんに限っては密室でも襲ってくる心配がゼロってのは何よりも大きい。

そういうわけで、ただでさえ安全だって思えるひなたさんはさらに安全になって……必然として、俺から話しかけられる数少ない人のひとりになっている。

――続いてはひなたさんとセットな早咲さん。

いつも視線はひなたさんに向いているし、それなのに初対面のときからなにかと俺のことを気にかけてくれるいい人だ。

こっちの常識とかはだいたい早咲さんがすりあわせしてくれるし……晴代さんや沙映とは違って、ずれているって気がついてから教えてくれるんじゃなく、ひょっとしたらこれも違っていたりする?って感じで、まるで別の世界を知っているかのように、異文化を察知するって感じなんだろうな、つまりは気配りがものすごく上手な人。

きっと沙映みたいにいろんな国で暮らしたことがあるんだろう。

……なぜか初めから男装、というか男子の制服を着ていたりして最初は驚いたけど、聞けばこっちではよくするものらしい。

…………男女が逆転しているんなら女装って印象なのかと聞いてもみたけど、そうでもないとか……そこのところは説明を上手く飲み込めなくって、正直よく分からなかった。

初めのころ、男子がいると思ったら女子だったとかっていうのがあってどういうことなんだってもやもやしていたのはこれが原因らしい。

俺が勝手に思い込んで、勝手に落ち込んでいただけなんだけどな。

早咲さんと言えど、その辺りは完全に常識が違うから気づけなかったんだろうなぁ……。

学年主席とかスポーツ万能とかとんでもない噂ばかりだけど。

あ、あと、大切なことがひとつ。

……失礼なんだけど、早咲さん、ひなたさんほどじゃないけど胸が控えめだから無意識に目が行かない、男装……男子の制服を着ている姿しか見たことがないから肌や体のラインの露出っていうのがまったくないから……静かな雰囲気も合わさって、他の女子たちに比べると「女」っていう意識が薄くって、女子のクラスメイトっていうよりは女子に囲まれている中性系美男子な距離感なのは、すごく大きい。

大きくないっていうのが、すごく大きいんだ。

………………………………いくらこの世界でも胸の大きさは女性の命だ、さすがに怒られそうだな。

絶対に口にしないでおこう。





 直人くんがナイーブなわけではありません。いきなり似ているのにぜんぜん違う世界に放り出されて、自分が都合のいい話の主人公みたいな環境におかれ、ただひたすらにもてはやされる……それに戸惑い苦しんでいるだけです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

処理中です...