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14話 Turning Point

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榎本直人くん:巻き込まれ主人公。

榎本美奈子ちゃん:直人くんのお母さん……を10歳くらい若くした感じのショートカットで目つきの鋭い先生。

ローズマリー・ジャーヴィスちゃん:きんぱつでボディラインを隠しきれない、おっとりして明るい先生。

須川ひなたちゃん:小……中学生にしか見えないくりくりしたおめめで髪の毛が長い子。

野乃早咲ちゃん:男装している?女?の子。背は男子の平均な直人くんと同じくらい、髪の毛は肩に掛かるくらい。顔つきは中性的で穏やかな子。

綾小路晴代ちゃん ザ・和服美人(普段は制服ですが)でお淑やか。 髪の毛がものすごく長い子。ひとつひとつの動作がていねい。 早咲ちゃんがおっとり系女子なら晴代ちゃんは清楚系女子。

御園沙映ちゃん 活発……過ぎる女の子。いい子なのですが、仲のいいお兄さんがいることもあって遠慮無くぐいぐい来ます。 ある意味気兼ねなく、前の世界のようにおはなしできる子。肩までのふわふわな髪の毛。


※今回は少々ご注意の必要な表現があります。あらかじめご了承ください。





――さて、どう見てもこどもなのに結婚相手……もう結婚しているのか婚約とかなのかは聞き忘れたけど、とにかく決めた相手がいるし、そもそも無垢って印象しかないひなたさんと、いつも落ち着いているし気が回るし……あとは上手くは言えないけどなんだか「女」って感じがしない早咲さん。

――それに加え、俺の母さんの若いころの写真そっくりで……こちらは結婚していて……お子さんはいないらしいけど……そう言っていた美奈子さんに、同じく既婚者らしいローズ先生。

まあ母さん……美奈子さんは、もういない父さんみたいにああいう厳しい感じの女性が好みな男……いや、それ以前に美奈子さんみたいな人は同性に人気があるんだし、ローズ先生に至っては説明する理由もない。

それにここではほとんどの女性は独り身か女性を伴侶にするんだ、いちいち考えても仕方が無いだろう。

そう思っていたからこそ、それを聞いてもそこまで驚かない俺がいた。

で、この4人……この世界に来てからずっとお世話になって今でもなり続けている彼女たちしか、俺にとって気の休まる相手っていうのは、このトンデモな世界には、いない。

晴代さんや沙映は、俺が気に入ればっていう前提ではあるものの結婚相手として選ばれているわけで、隠してはいるけどやっぱりなんとなくそういう雰囲気は感じる子たちだしな。

いや、俺なんかにはもったいなさ過ぎるくらいの見た目と性格と立場の人たちなんだけどな……さすがに完全に警戒を解くっていうのはできないんだ。

俺は据え膳を、っていう性格じゃないんだし……そもそも女子との接し方すらいまいち分かっていないし。

彼女どころか、いい雰囲気まで行った女子さえいないまま高校生になったこの身を舐めないでほしいところだ。

ということで……ちょうど終わった、モブの大半が女性で「ヒロイン役」の何人かが男っていう不思議なキャストのドラマ、ついでに言えば展開もオチもいろいろと感性が違いそうなものから目を離し、レストランとかにある羽が付いてくるくる回っているインテリア付きの高い天井を見上げつつ、思う。

……この世界で、俺が安心できる相手は、あの4人と、滅多に外に出ないという男たちと……既婚者な女性だけなんだな、って。

あ、あとはあの兵士さんたちもだろうか。

……いや、あの人たちのことはよく知らないし、やっぱり安心し切ることはできない。

で、この俺だけど。

――――このまま帰ることができなければ、たぶん、一生……暢気に出歩くことすらできないだろう。

例えばひとりで下校してコンビニで適当なものを食べながら帰ったり、休みの日に適当に駅前をぶらついたり……なんて、な。

どこをどう歩こうとも、治安の悪い国の夜の繁華街をひとりで出歩く女性、っていう状況がぴったりだしな。

笑えもしない。

一夜にしてこんなところに放り込まれて、人前ではなんとか慣れたって顔しているけど……やっぱ、気持ちはムリだよな。

少なくとも、俺にはムリだ。

よっぽどのバカじゃないんだから。

………………………………。

……ふつうの相手と、ふつうに話して、ふつうに生活する。

それが、こんなにも貴重で、あっけなく持って行かれるもんだとは……思ってもみなかったよなぁ……。





「………………………………………………………………………………………………」

ん。

……夜中か。

寝る前までずっと考えていたから眠りが浅かったのかな。

少しばかり……そう。

ちょっと慣れたからこそ、逆に、いろいろと考え込んでいたもんなぁ。

………………………………………………………………………………………………。

ぎし、と、変な音がする。

「………………………………………………………………………………………………」

……あれ?

両手がバンザイしていて両脚は大の字っていう妙な寝相をしていたのに気がついて、肩でも凝ってたのかな、なんて思いながら下げようとしたけど手が動かない。

……動かないんじゃない。

動けないんだ。

軽く動かすと、カチャカチャという金属音が頭の上から聞こえてくる。

………………………………手錠!?

いや、……そんな、まさか。

俺は何も悪いことなんて……じゃない、ここは俺の世界じゃないんだ、だったらどうして。

………………………………………………………………。

軽く手脚を動かす。

頭の上からと同じように、下からもカチャリという金属の音がする。

………………………………足首も、そうらしいな。

カチャカチャガチャガチャとは音を立てるものの、肌に触れている部分はゴムか何かでできているのはまだマシ……だけど、とりあえず身動きが取れないのが不味い。

肩や脚のつけ根から引っ張られているって感じじゃないけど、肘とか膝を曲げられない程度には伸ばされているっていう絶妙な状態。

目が覚めたのも、布団をはぎ取られていたからっていうのと……窓が、開いているのとで、冷たい空気が体を冷やしていたからだろう。

それにしても俺は……どうしてこうなる、いや、こうされるまで起きなかったんだ……?

ぐるぐると頭が回る。

そのついでに……俺がこっちに来たばっかりのことも思い出される。

………………………………………………………………………………………………。

嫌な。

嫌な、考えが昇ってくる。

それを打ち消そうと、どうにかしてこの状態を……暗いからほとんど何も見えない中で、何とか考える。

手脚は、それなりにきつく伸ばされている。

少なくとも姿勢を……仰向けな今のこれを変えられない程度には、拘束されている。

少し力を込めてみたけど、まず肩が痛くなってムリだと分かる。

痛くはないけどすき間がないように止められている4カ所は、手首と足首を回すのも難しい。

すっかり冴えた頭と寝ていたから暗いのに慣れているはずの目で見回してみるけど、分かるのはうっすらとした……寝たときにみていた寝室の景色と、開いたままの窓から入り込んでいるカーテンのすき間からこぼれてくる薄い月明かり。

音も当然にしない。

するのは、カーテンがはためく音だけ………………………………いや。

それだけじゃない。

誰かの……ふたり以上の誰かの声が、聞こえる。

遠いところにいるのか、話しているのが分かるっていう程度のものだけど……最低でもふたりの人、もちろん女の人たち、が、俺に与えられた部屋にいるっていうのは、分かる。

つまりは、侵入者っていうことで。

………………………………………………………………………………………………。

恐怖。

それを、感じる。

――――――――――――こわい。

気がつけば手のひらも足の裏も汗ばんでいて、息も荒くなっていた。

ダメだ、落ちつけ。

ふぅっ、と息を吐き、何回かの深呼吸で心を落ちつけよう。

相手が誰なのか、何をしようとしているのかが分からない以上、そしてなによりも身動きが一切に取れない以上、俺が起きたっていうのがバレたらまずい。

顔を見られたからには……っていうのはよく聞く話だ。

だから、無理やりにでも息を抑え、できるだけ耳を澄ませる。

……とりあえずは寝たふりをしておこう。

俺を起こすわけでもなく、どこへ連れ去るでも危害を加えてくるわけでもなく、こうして縛ったまま放置しているんだ。

まだ、ただの泥棒っていう可能性もないわけじゃない。

………………………………そう、あってほしいんだから。

「………………………………おい」
「………………………………っ!?」

と、足音と共に声が急に近づいてきて……どう考えても俺の方に向けた声が振ってくる。

起きているのが、バレたのか!?

もう!?

息を抑えていてもだめだったのか!?

「……おい、聞いているだろう。 どうするんだ、ここまでやったからにはもう引けねぇぞ」

「………………………………っ!」

「……はぁ――……、分かってるわよ。 覚悟はとっくに決めていたでしょ。 あんたも、あたしも」

………………………………。

知らない声……だと思う。

女……俺と同年代か少し上っていうのが分かる程度だけど、たぶん。

で、………………………………寝室の入り口に入って来た辺りで立ち止まり、ぼそぼそと話し続けている。

……犯人が複数、それも何かの相談をしているだけか。

俺が起きているのは……バレていたら立ち話なんてしないだろうし、大丈夫だろう。

そうなんだけど………………………………ま、当然女、だよな。

でも、俺だって男だ、肉体的には……鍛えている方じゃないけど、このふたり……またはもっと多く、がバラバラに来て、しかもこうしてがんじがらめにされていなきゃなんとかできる、かもしれないのに。

せめて、上下に引っ張られているんじゃなくって、映画みたいに両手両脚が縄や手錠で繋がれている程度なら、隙を見て……っていうのも不可能じゃないのに。

…………………………いや、さすがに作りもんと現実は違うって知っているけどさ。

でも、全く動けないのとちょっとは動けるのとはぜんぜん違うし……それにしてもどうしてこいつらは、俺のことを。

「――――――――――――まーだビビってんのか? そんなんなら私が先にいただいちまうぜ? 保護された身元不明の男ってトクベツもんの最初のをよ? ま、ハジメテなわきゃないから、精々が何日か分の濃い奴ってところだろうが」

「………………………………………………………………別に。 最初と2番目と、たいして違わないでしょ。 量が多いか質が高いかの違いだけだったはずよ」

「……あー、脚震えてんぞ。 普段は威勢が良いのによ――……。 ………………………………あーあー、分かった分かった、私がしてるの見て次を真似しろって。 男と直接にした経験ないと、どーしてもビビるもんだもんなぁ。 分かる、分かるぞぉ? 映像とか紙でしか見たことないもんなぁ?」

「うるさいわね、さっさとしなさいよ。 ……あんまりもたつくと、彼、起きちゃうでしょ」

――――――――――――――――――――――――………………………………。

………………………………………………………………………………………………。

そ、っか。

そう、だよな。

この世界では、金よりも何よりも……自分のこどもを得るための種を持つ、男っていう種族が「高価なモノ」。

そんなのは、こうして目を覚ましてからちょっとしない内に分かっていたはずだもんな。

分かってはいたんだ。

……いずれ、こういう目に遭うからこそ警護をつけてくれたんだし、どこの誰とも知らない年寄りの元へ連れて行かれるからって、だから、って。

………………………………。

「難しいもんじゃないんだけどなー、男相手って。 女相手の方がよっぽどに難しいしなー、雰囲気とかさぁ。 ま、したことないんじゃーしょうがないか。 いつもの自慢はどうしたんだか」

声の大きい方……たぶん年上の方なんだろう女の声が、足音と共に近づいてくる。

「薬さえ……役得だから口移しで飲ませてやりゃ、ほんの2、3分で男の方からがんばってくれるようになっているしなぁ。 意識もちょうどベロベロに酔った具合で、だけど体はゲンキそのものって感じ? あー、お前と組んで正解だったわ。 やりぃ」

……いや、待て。

たしか、警備の人たちはかなりいるって聞いている。

それは当然に……ローズ先生があれだけの人たちの指揮を執ってくれている以上、そうかんたんに破れるものでもないし、たとえ穴があったとしたって、そんなに長い時間じゃないはず。

俺さえ……薬って言っていたからものすごく不安だけど、それに耐えさえすれば、こいつらが不用心なおかげで開きっぱなしの窓にも気がついてくれるはずだ。

それに――――――――――――。

「……声だけは気をつけてよ? い……ただいて、連れ出してからが本番なんだから」

「大丈夫だって! 言ったろ? ………………………………最高責任者とやらのツテで、絶対にバレないんだって、よ」

――――――――――――――――――――――――………………………………。

最高、責任者?

それはつまり、俺は。

この学園そのものから見放された……売られたって言うこと、なのか。
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