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しおりを挟むそして夕刻、静と飛丸は、灯里の荷物を屋敷に持ち帰る。
荷物の内訳は、灯里の数少ない着替え、生活雑貨、教科書類。それと、白怜と交わした文の束。
二人はそれらを灯里に渡す前に、白怜の部屋へ向かい、まず自らの主人に報告をした。
「……そうか。灯里さんは、ひとまず休学ということになったんだね」
「はい。白怜様の名前を出したところ、学校長さんは白怜様のことをご存じだったようで。最初は警戒されていたのですが、そこからはトントン拍子に話が進みました」
静の言葉に、白怜は意外そうな表情で聞き返す。
「……私のことを、知っていたと? 学校長が?」
「ええ。巽一家の当主としてではなく、表のお仕事の方で。親族の方がお世話になったことがあるそうです。『巽先生のご判断なら、信用します』とのことでした」
「ああ……なるほど。そっちで縁があったのか。やはり、仕事は真面目に取り組んでおくものだね」
白怜は得心いった様子で、フッと笑みをこぼした。
「四条灯里さん……人間の娘さんなんですよね」
飛丸が白怜に問いかける。
「……そうだね。潜在霊力が高くて、そのせいで狙われたのだけど……彼女はれっきとした人間だよ。何か気になることでもあったかい? 飛丸」
「いえ、若が人間を保護するのは……珍しいなと思いまして」
「というか、初めてですよね。お屋敷に人間の方が住むのって」
静も同調し、質問を重ねる。
「悪い養父にさらわれそうになったところを白怜様が助けた、と聞きましたけど……。どこで知り合ったんですか?」
「……」
静の質問に白怜は数秒沈黙する。
彼は少し頬を染め、視線をそらしながら、「……文通」と短く答えた。
「文通、ですか……?」
「それって……手紙を送ったり受け取ったりする……」
「……あ、ああ、その文通だよ」
気恥ずかしげに首肯する白怜に、飛丸は驚いた表情になる。静はどこか興奮した様子で「まぁ……!」と手を合わせた。
特に静は、それまでの大人っぽい女性らしさとは打って変わって、テンション高く子供のように目を輝かせる。
「まぁまぁまぁ、白怜様ったら、いつの間に……! 麗しい見目の割にこれまで浮いたお話がなかったのは、すでにお相手がいたからなのですね……!」
「え、いや、お静さん」
「そういうことなら納得です……! というか、それでしたら灯里様のお部屋も白怜様の隣にすればよかったのに! いいえ、いっそのこと、白怜様のお部屋に入ってもらえば──」
「お、お静さん! 私と灯里さんは、まだそんなんじゃないからっ」
「……『まだ』なんですね、若」
「って、飛丸、お前まで!」
「別にいいじゃないですか。若がその気なら、俺たちは皆、若を応援しますよ」
ほとんど変わらない表情で、けれど穏やかな声音で飛丸は言う。
静も興奮冷めやらぬ様子で、「もちろん、わたくしも全力で応援しますわっ」と、拳を握る所作をした。
「……だとしても、今はそれどころじゃないんだよ。彼女の父親がかなりの曲者のようで、私たちで守ってやる必要があるんだ。まずはそのことを考えないと」
「四条壮馬……でしたか。自分の娘を道具のようにしか考えていない……ろくでもない親もいたもんですね」
「そこの家のせいで、灯里さんも苦労してきたみたいでね……。うちの屋敷が少しでも、彼女の安らげる場所になればと思うんだけど」
「白怜様から見て、灯里様はどんなところが魅力なのですか? 文通を始めたきっかけは?」
「お、お静さん……」
飛丸は白怜に話を合わせようとするが、静は構わず色恋関連の話題にこだわる。
白怜は観念した様子で、ため息を吐きつつ答えた。
「……いい子だと思うよ。顔を合わせたのは昨日が初めてで、ほぼ手紙でしか彼女を知らないんだけど、文章だけでも彼女の人柄はよくわかる。私が男だと知った後も、態度を変えることはなかったし……。私のことは置いても、あの子には幸せになってほしいと思うよ」
「……『男だと知った後』?」
「あ、いや」
白怜は口ごもる。
「とにかく、そういうわけだから。他の同胞たちにするのと同じように、彼女にも接してくれるとありがたいな。人間とあやかしの違いに関係なく、ね」
「承知しました」
「ええ、それはもう。白怜様のことがなくても、そこはわかっていますわ」
二人は白怜の頼みに、ためらいなく首肯する。
「……あ、でも、お二人の関係が進展したら、隠さず教えて下さいね」
しかし、間髪入れずに念を押す静に、白怜は引きながら「ぜ、善処するよ」と答えるのだった。
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