31 / 54
勇者エクスの身に覚えのないやらかし
しおりを挟む
「や、やらかし・・・?」
エクスはシンの言葉を聞いて、一瞬思考が停止するほどに驚いた。
ラバース国には足を踏み入れたことがあるが、特に悪さをした記憶がないからだ。
ラバース国には腕のいい刀鍛冶がいた。
勇者エクスは今、魔王を倒した伝説の名剣エクスカリバーを持っているが、最初にそれを手に入れたとき、エクスカリバーは全身に錆が広がり、到底使えるような状態ではなかった。錆びるはずのない伝説の金属オリハルコンで作られたはずのエクスカリバーを蝕んでいたのは、魔族が放つ瘴気に長年晒されることでこびりついた『魔の錆』。錆びの一つ一つが小さな魔物そのものと言って良い、実に厄介な錆だった。
無論、伝説の剣すら蝕むほど強力な浸食性を持つ錆が通常の手段で祓えるはずはなく、また剣を打ち直す必要があった。だが、この打ち直すということが難しい。なにしろ伝説の金属オリハルコンなのだ。加減が分かる者がいないのである。
だが、オリハルコンすら打ち直せるという技術を持つ、『ゴッドハンド』と呼ばれる匠がラバースにいると聞き、エクスはラバース国へ足を運んだのだ。
そして何とか刀匠ヨシムラに再刃してもらい、エクスカリバーは元の強さを取り戻した。
エクスがラバース国を訪ねたのはそれだけのためだった。特に王族に謁見することもなければ、貴族に会った記憶もない。もちろん悪さなどしていないから、何かをやらかしたと言われても全く心当たりがなかったのだ。
「俺が一体何をしたというのですか?」
何かの間違いに違っている。もし誤解があるのなら、ここで否定してしまえばいい。そう願ってエクスはシンに問う。
シンは懐からスッと一枚の紙のようなものを取り出し、エクスに見えるように掲げてみせた。
それは写真と呼ばれる、非常に高価だが見たままを映し出せる魔法の写し絵であった。
写真には一人の女性が映っていた。顔立ちの綺麗な女性で、人目で高価だとわかるドレスを着ている。王族か高位貴族か、いずれにせよ高貴な身分の女性であることはすぐにわかった。
「この人に覚えはありませんか?」
シンの問いにエクスはまじまじと写真を見つめる。
はて、どこかで見たことがあっただろうか。見たような記憶はあるが誰だったか。記憶に残るような貴族令嬢などいなかった。ましてやラバース国では高位の者にあった記憶はない。刀匠ヨシムラに会うために工房に出向き、三日ほど町に滞在したのみだ。
「・・・え?」
だが、必死に思い出していく中で、エクスは一つの可能性にぶち当たる。
「いや、まさかまさか」
首を振ってそれを否定する。いやでもまさか、そんなはずは・・・
「・・・どうやらお心当たりがおありのようですね」
シンはエクスのそんな様子を見て確信した。
「彼女はジェシカ・カートレット公爵令嬢です。エクス様に会われたときは、町娘に扮していたそうですが」
エクスの顔が一気に青ざめた。
エクスはシンの言葉を聞いて、一瞬思考が停止するほどに驚いた。
ラバース国には足を踏み入れたことがあるが、特に悪さをした記憶がないからだ。
ラバース国には腕のいい刀鍛冶がいた。
勇者エクスは今、魔王を倒した伝説の名剣エクスカリバーを持っているが、最初にそれを手に入れたとき、エクスカリバーは全身に錆が広がり、到底使えるような状態ではなかった。錆びるはずのない伝説の金属オリハルコンで作られたはずのエクスカリバーを蝕んでいたのは、魔族が放つ瘴気に長年晒されることでこびりついた『魔の錆』。錆びの一つ一つが小さな魔物そのものと言って良い、実に厄介な錆だった。
無論、伝説の剣すら蝕むほど強力な浸食性を持つ錆が通常の手段で祓えるはずはなく、また剣を打ち直す必要があった。だが、この打ち直すということが難しい。なにしろ伝説の金属オリハルコンなのだ。加減が分かる者がいないのである。
だが、オリハルコンすら打ち直せるという技術を持つ、『ゴッドハンド』と呼ばれる匠がラバースにいると聞き、エクスはラバース国へ足を運んだのだ。
そして何とか刀匠ヨシムラに再刃してもらい、エクスカリバーは元の強さを取り戻した。
エクスがラバース国を訪ねたのはそれだけのためだった。特に王族に謁見することもなければ、貴族に会った記憶もない。もちろん悪さなどしていないから、何かをやらかしたと言われても全く心当たりがなかったのだ。
「俺が一体何をしたというのですか?」
何かの間違いに違っている。もし誤解があるのなら、ここで否定してしまえばいい。そう願ってエクスはシンに問う。
シンは懐からスッと一枚の紙のようなものを取り出し、エクスに見えるように掲げてみせた。
それは写真と呼ばれる、非常に高価だが見たままを映し出せる魔法の写し絵であった。
写真には一人の女性が映っていた。顔立ちの綺麗な女性で、人目で高価だとわかるドレスを着ている。王族か高位貴族か、いずれにせよ高貴な身分の女性であることはすぐにわかった。
「この人に覚えはありませんか?」
シンの問いにエクスはまじまじと写真を見つめる。
はて、どこかで見たことがあっただろうか。見たような記憶はあるが誰だったか。記憶に残るような貴族令嬢などいなかった。ましてやラバース国では高位の者にあった記憶はない。刀匠ヨシムラに会うために工房に出向き、三日ほど町に滞在したのみだ。
「・・・え?」
だが、必死に思い出していく中で、エクスは一つの可能性にぶち当たる。
「いや、まさかまさか」
首を振ってそれを否定する。いやでもまさか、そんなはずは・・・
「・・・どうやらお心当たりがおありのようですね」
シンはエクスのそんな様子を見て確信した。
「彼女はジェシカ・カートレット公爵令嬢です。エクス様に会われたときは、町娘に扮していたそうですが」
エクスの顔が一気に青ざめた。
0
あなたにおすすめの小説
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。
しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。
彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。
一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
学園長からのお話です
ラララキヲ
ファンタジー
学園長の声が学園に響く。
『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』
昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。
学園長の話はまだまだ続く……
◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない)
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる